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第八話 勇者は神殿に行くようですが


 王都に着いた日、一つの別れを経た俺はこの街の教会へと向かった。


 王との謁見が嫌だったから昼間は飛びだしたが、これでも子守役おもりは引き受けた手前、このまま姿を眩ませてはあまりにも筋が通らないと思ったからだ。


 王侯貴族と顔を合わせるのは嫌だが、レリクスの話し相手ぐらいは務めてしかるべきだろう。


 レリクスは王都に滞在している間、教会の用意した宿に泊まる事になっている。王城では何かと肩が凝るだろうし、何より教会は勇者を選定する神を信奉する宗教団体。勇者の世話役を買って出るのは当然とも言えた。


 で、向かった先の教会はまぁとんでもなくデカかった。村にある教会が『馬小屋?』と思えてしまうほどの大きさだ。王との中央部にある王城も大きいが、こちらも負けず劣らずの規模だ。


 運が良いことに、俺が教会を訪れるのと同時にレリクスを乗せた馬車が敷地内に入ってきた。どうやってレリクスと再会するか迷っていたので、渡りに船だ。


 レリクスと俺は揃って教会内の一室に案内された。レリクスが王都に滞在する間に寝泊まりする場所。


 まぁ、豪華だったね。一庶民では入ることすらないような部屋だった。ベッドに天井が付いてたからな


 とりあえず俺はパスだ。こんな堅苦しい場所に住むくらいなら、街の安宿に泊まるわ。


「良かった。だったらちょうど良いかもしれない」


 その事を伝えたら、レリクスは予想外の反応を見せた。てっきり、昼間に馬車から飛びだしたことを含めて少しくらい咎められると思ってたのだが。


 話を聞くと、レリクスは近いうちに遠征する事となったらしい。遠征と言っても、向かう先は王都から二~三日程度の距離。どうやらそこには勇者に関わる神殿であり、中には勇者の武器である『聖剣』が保管されているとか。


 目的はその『聖剣』を得ること。


「ただ、残念なことに神殿の中には勇者と王族の人しか入れないらしいんだ。だからユキナが来ても──」

「ああ、別にそこら辺は問題ねぇよ。王都で適当に時間を潰すから」


 申し訳なさそうに言うレリクスに俺は軽く答えた。


 神殿には王族の一人も同行するようで、俺としてはそんな堅苦しい空気は御免被りたい。神殿に着いてからも何かとしきたりがあるらしく、向こうで更に数時間を要するとか。だったら、王都に居たほうが暇もつぶせるしな。


「ところで、一緒に行くのって王様なのか?」

「さすがに王様が一緒に行くわけ無いよ。公務とかで忙しいだろうし、万が一のことがあったら大変じゃないか」


 興味本位の質問すると、レリクスが肩を竦めた。


 勇者に万が一のことがあっても良いのかと思わなくもないが、魔王討伐なんていう荒事の極地みたいな仕事をさせるのだ。万が一程度・・・・・でくたばっていたら魔王を倒すなんて夢のまた夢か。


「一緒に行くのは、王様の娘だよ。神殿には王族の血と彼らが保有する鍵が必要らしいからね」

「ってことは、お姫様か。綺麗だったか?」


 お姫様と聞くと、まず最初に可憐な美少女を想像してしまう。


「今日は用事があった・・・・・・みたいで、会うことは出来なかったけれど、凄い綺麗だって評判だよ」

「そりゃ……一国のお姫様の顔が崩壊気味だったとしても、綺麗だって褒めるしかないだろう」


 王都に滞在していれば、お目にかかれる機会もあるかも知れない。その評判が正しい者であると祈ろう。




 ──というわけで、レリクスは神殿へと旅立った。


 俺は俺で教会に用意された部屋ではなく、街の安宿を借りて生活することとなった。あんな装飾過多な部屋に住んでいたら気が滅入ってきてしまう。


 さて、今度こそ綺麗なお姉さんと色々としけ込みたいところではあったが、その前に一つの用事を済ませることにした。


 村人の一人から、頼まれ事を預かっていた。


 王都の武器屋で新しい剣を買ってきてほしいとのことだ。


 そいつが厄獣モンスター駆除に使っていた剣は元々がそれほど質が良いものでは無く、それでも修理に修理を重ねてどうにか誤魔化していたが、遂に限界が来て半ばで折れてしまったのだ。


 どうせ新しい剣を買うなら王都に売っている質の良い剣を、と俺に頼んだ次第だ。


 そんなわけで、早速武器屋に向かった俺なのだが。


「……武器屋、多過ぎだろ」


 宿屋の店員に武器屋の場所を聞いて早速訪れた俺だったが、店の多さに唖然とした。


 武器が所狭しと店に並んでいる以前に、武器屋が一つの通りに所狭しと並んでいるのだ。


「どの店を選べば良いんだっての」


 金槌を振るう音が鳴り響く武器屋の通りを、店頭を物色しながら歩く。


 故郷の村とは比べものにならないほど多くの人間が住んでおり、店の数も相応に多いのはよく考えたら納得できる。だが、対して武器の目利きが出来ない俺にとっては悩ましい問題だ。


 ────ドガッシャァァァンッッッ!


 さてどうするか、と迷っていると何かが破壊されるような大きな音が響いてきた。何事かと音の根源を振りむくと、少し前に通り過ぎた店の前で、誰かが倒れていた。先ほど通り過ぎたときにはあんなの無かったぞ?


 と、首を傾げていると再度破壊音が響いてきて、店の中から男が一人飛びだしてきた。


 いや〝吹き飛ばされた〟の方が正しいか。


 あ、もう一人飛んできた。


 眺めていると、男たちが吹き飛んできた店から、ずんぐりむっくりとした体型のお髭もっさり爺さんが出てきた。


 

「出て行け! 貴様たちのような木っ端に売るような武器はありゃぁせん! これ以上そのつらを見せるようならハンマーでドタマかち割るぞい!!」


 全身から怒気を発する爺さんが叫ぶと、男たちは悲鳴を上げて俺の居る方向へと逃げ出した。すれ違い様にその背中を見送ると、俺はもう一度彼らが吹き飛んできた店を振り返る。


 既に爺さんは店の中に戻っていて通りに姿は無かった。


 怖い物見たさというか、物珍しさというか。


 何を考えたのか、俺の足はその・・店に向かっていた。 



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