第三話
外出中の今の隙に投稿です。
目まぐるしく日々は過ぎた。
教育の賜物で、私もなんとかこちらの文化に馴染めてきた。私にも、勇者ほどではないが、魔力があることも判明し、魔法を習ったりもした。
新鮮さを感じる余裕さえできてきた。
二人がそこにいたから。私の、日常を証明してくれる、姉さんと樹が。
その日は、魔物の残党狩りだった。
戦闘能力は皆無だった私は、後方支援。
おとなしい魔物は放置して、襲ってくるものを排除していた。
生き物を殺す、というのは見るのにも抵抗がある。
しかし、国の庇護のもとにあるなら、国にある程度貢献しなければならない。
実際に手を下す訳ではないが、罪悪感でいっぱいだった。
「二花。」
「?」
回復をしにやってきた樹が、声を潜めて話しかけてきた。
「帰ったら……ちょっといいか?」
帰ったら、って……相当夜中になるけど……
「まぁ、いいよ。」
今日の予定は、この残党狩りくらいだからな。
ーーー
呼び出されたのは、夜景が綺麗なバルコニーだった。都のあちこちで灯りが輝いている。
平和な光景だ。
二人は、これを守ったんだな。
…………?
「二花。」
なんだかよくわからない感覚に襲われたが、樹が話しかけてきたことで、私はそれがなんだったのかわからずじまいだった。
「どしたの?改まって話すようなことなんてあったっけ?」
問いかけて歩み寄ろうとすると、樹がこちらを向いた。その目に気圧されて、私の足はそこで止まった。
「あのさ、」
なんか、ダメだ。
「俺……」
私は、過去のことを思い出す。
樹が男子にからかわれていた。私の名前が出ていた気がした。でも、気のせいだと思った。祭に誘われた。姉さんが樹を好いているのは知っていたから、連れて行くと、なぜか気落ちしていた。
あちこちに変なところがあった。薄々気づいていた。
「ずっと、二花のことが好きでした。」
そんなのダメだ。
私は逃げた。
「二花っ!?」
私が知っている、施錠できる部屋は一つだけ。
簡単にけやぶられるだろうけれど、とにかく誰もいないところで一人になりたかった。
あの日、私がこの世界で初めて目覚めた部屋は、今は誰も使っていない。
だから、灯りがなくて、とても、落ち着く。
「はー……。」
私は扉にもたれながら、息をつく。
樹のせいでわからなかったあの感覚がなんなのかがわかった。
寂しさだ。私が感じていたのは。それから、不安。
目覚めたら、周りの環境は異世界、全て変わっていた。人間、知らないところに来ると、少しでも同じところを見つけて落ち着こうとするものじゃないだろうか。私はそうだ。私にとってそれは、姉さんと樹だった。
心の拠り所だった。
ここに来るより以前のように、過保護で、優しくて、人間できてて、いつも通りだと思っていた。
そして、以前は、姉さんが樹を好きで、樹が私を好きで、私はずっと三人でいたくて、誰も、その思いを外には出さなかった。
けれど、樹は、言った。
二人の様子から、姉さんは、樹に告白でもしたのだろう。少なくとも、その好意は知っていただろう。
それなのに今回このようなことを実行したのは何か心境の変化があったのだろう。
私は、二人の知る『二花』だが、二人は、私の知る二人じゃない。
私は、三人でいたかった。だから、二人の変化を見ないふりをした。でも、ダメだった。
一年は、大きい。私たちは、二人と一人になった。
そんなつもりは毛頭ないが、私が告白を了承してしまえば、姉さんが傷つく。
しかし、姉さんの好意をわかった上で告白したということは、二人は、互いを深く理解している。
拒絶すれば二人は結ばれるだろうし、しなくても、いずれそうなる。
どのみち私は一人になるのだ。
「ずっと、眠っていた方が良かった。」
こんな世界で目覚めてしまうなら。
私は蹲って、自分の膝に顔を押し付けた。
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