表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

十二つ.え? 作戦? 何それ? それよりあたしの話よ

すみません、だいぶ遅くなりました。


最近新しく仕事でやることが増えた為、小説を執筆する時間がなく、遅くなってしまいました。


それにあわせて一つ連絡です。


これから文学賞用に小説を執筆することになり、これから更新は続けますが、もっと遅くなるかもしれません。

「実は……」

 幾らなんでも執行部が見回りをしているから、黒装束の集団も退散下したとは思うけど、僕は僕でまだ何も出来ていない。そのことを簡単に言おうと思った。

「うん、なるほど」

「いや、まだ何も言ってないんだけど」

 三文字しか言ってないのに、朝宮さんは大きく肯いた。何を分かったんだろう?

「みなまで言うな、性少年」

 朝宮さんが手で僕の言葉を遮りつつ、一人で肯いている。青少年が若干ニュアンスがおかしいように聞こえた。

「大丈夫。あたしもそうだから」

「え? 何が?」

 あたしもそう、だなんてどういうこと? 朝宮さんも追っている? そんなことを考えたけど、どう考えても関係ない。

「大体そう言うものなのよ。興味があるのは別にいいと思うわ。でもね、そんなの大半が経験ないの。別にあたしは今はいらないし、もっと自分を磨いてから、経済観念、金銭感覚とか身に付けて、相応の人と出会えればいいわけだし、今のうちからそうなっても、所詮は親のお金がないと何も出来ないんだから、下らない見栄と欲求に左右されてるだけで幸せになれるとか思うほうが頭が幸せよね? そう思わない?」

「え? えっと……?」

 額を指で突きながら僕に同意を求めてくる。何となく聞いていて話の筋は分かった。多分、彼氏彼女が欲しいとかそう言うことだと思う。やっぱり見当違いのことで、そんなことを考えてなかった僕には、どう答えれば良いか分からなかった。

「まさか片桐君、思うわけ?」

 信じられない。と朝宮さんが僕を引いた目で見る。

「大人しそうな人だと思ってたのに、やっぱり一ノ宮とか吾妻に毒されてるのね? ダメよ、片桐君っ。片桐君は絶対にあれに染まっちゃダメ」

「ぅえ? あ、朝宮さん?」

 肩を掴まれ力説される。話を戻したくても、その迫力に勝てない。

「良いわ。この際だから、あたしがびしっと言ってあげる。ううん、言わなくちゃダメなのよ。悪い芽は早いうちに摘んでおかないと、後から大変なことが起きるし」

 あれ? 話の雲行きが何かおかしい。いつの間にか話題がまた変わってる。上条さん並に一つの話が続かない人だ、朝宮さんって。

「さっ、行くわよ、片桐君っ」

 朝宮さんが肩を掴んでいた手を離して、ひらりと半回転する。ホワッとそれについていく髪の良い匂いがして、思わず息を吸い込んでしまった。

「って、朝宮さんっ、行くって、どこに?」

「決まってるでしょっ! あたしの平穏に潜む穀潰しを摘むのよ」

 走り出したら止まらない。朝宮さんがビシッと僕に言ってから、昇降口の方に歩いていく。黒服がいた所だ。いや、今もいる。

「ま、待って、朝宮さん」

 どうしようかと思った僕。でも、朝宮さんはそんな僕のことなんて忘れてしまったように昇降口に歩いていく。僕はそれに着いていくだけだった。

「わぁっ!? 何よ、あんたたちっ」

 でも、朝宮さんの声がすぐに響いた。

「しまった」

「ちょっ、どうするのよっ」

 そして、朝宮さんに気づいた、変な黒ずくめの二人も驚いてこっちを見てる。でも、仮面が変顔だから、驚いているようには見えなかった。

「何してるのよ、あんたたち。どこの部活? 活動申請は受けてないはずよ? はっ! もしかして変質者っ?」

 対峙する僕ら。僕の前にいる朝宮さんは、事情を知らないから、生徒会長としてなのか、二人に距離を取りながらも不審に問う。僕はこの場でどうすればいいのか思いつかなくて、ただ気づけた、この二人は男女なんだってことに一体誰なのか、考えた。

「これはまずい。ここは退却しよう」

「だから言ったじゃないのよ、馬鹿っ」

「あっ……」

 でも黒ずくめの二人は突然外へと走り出した。

「あっ、こらっ! 待ちなさいっ!」

 そして、逃げ出す二人に朝宮さんも走り出そうとした。でも、僕はそれを止めた。

「朝宮さんっ、靴、靴っ」

 二人はよく見れば靴を履いていたけど、朝宮さんはスリッパだった。

「あっ、とと。そうだったそだった」

 僕の声に朝宮さんは昇降口ギリギリのすのこの所で立ち止まった。でも、二人はそのまま走り去って見えなくなった。

「何なの、今の? 不審者も不審者よね。先生に言わないといけないわね。それに念の為にあれも召集かけておいたほうがいいのかも」

 あれって言うのは、多分執行部の中にある学園警備の人たち。僕は何となく想像が出来ているけど、朝宮さんは何も知らないわけだから、さっきまでのことなんて全て忘れて、考えていることが目の前のことになってる。

「朝宮さん、多分大丈夫だから、そんなに大事にしなくても良いんじゃないかな?」

 きっと向こうにしてみれば、僕を待ち伏せして起きた想定外のこと。それは僕にとっては結果的に外に出られるようになったから良かったけど、その状況を作り出したのは朝宮さんだ。そしてそれは例外も例外だった。朝宮さんは生徒会長だったから。

「何言ってるのよっ。学園内にあんなのが入ってきてるのよっ? 生徒に何かあったらどうするの? 敷地内には寮だってあるのよ?」

 何故か僕が責められる。それだけ朝宮さんが真剣に学園のことを考えている。思わずその気迫に呑まれそうになる。でも、僕は朝宮さんと言う人柄を知ってしまった。

「それって、もしかして、やっぱり……」

「当然でしょっ。今日は予約入れてきてるから良いけど、これが常習的だったりしたら、夜見れなくなるでしょ。これ以上問題が大きくならないうちに潰すの」

 あ、やっぱり。ドラマなんだ、この人の原動力って。

「分かったら追うわよっ。守衛さんにも連絡しないと」

「え? あの、僕は……」

 それよりも僕にはやらないといけないことがある。それに朝宮さんがそう思うなら、生徒会が動く。それは僕にも関係ないわけじゃないけど、直接関係はない。

「ここまで来て何言ってるの。沖田がいないんだから、片桐君が代わりやってよ」

「えぇっ!?」

 沖田君は知ってる。生徒会副会長。ほとんど話したことがないから、朝礼とかで見る程度。なのに朝宮さんは僕がここにいるからって余計なことに巻き込もうとしてる。多分、ドラマに間に合わせる為に、人手は多いほうがいいってことなんだろう。でも、僕だって急ぎたい。

「い、いや、僕はちょっと急ぎの用があるから、さ?」

 二人して靴を履き替えながら、寮の方へ行きたいのを堪えて待つ。

「じゃあ、それが終わってからで良いから、早く行くわよ」

「えぇ? ついてくるの?」

 それこそ時間の無駄だと思うんだけど。お互いに関係あることを優先して、ここで別れればお互いに早く終わると思う。

「当たり前でしょ。この時間は、執行部だってみんな帰ってるんだし、片桐君、寮生でしょ? じゃあ遅れても良いじゃない。あたしはね、これからバスに乗って1時間かかるの。分かる? 家に帰りつく頃なんていつも真っ暗なの。帰ってからドラマなんて週一で見れるかどうかなのよ? 少しは手伝うって気くらい湧くでしょ?」

 凄い押し付けだ。朝宮さんは自宅通学だったと思う。だから早く帰りたいんだろうけど、それに人を巻き込むのってどうなんだろう。

「ほら、急いで。ちんたらしてると逃げられるわよ」

 たぶん、その急いでと言う意味は、逃げられるとかじゃなくて、時間が逃げていくと言うことなんだろう。だって、もう目的が変わってる。さっきは譲治と武士に文句を言うつもりだったはずなのに、今度は黒ずくめのことになった。本当に朝宮さんは本能に従う人みたいで、たぶん、上条さんと同じで、僕には止められない人なんだって、腕を掴まれて引張られる中で、反抗する気なんて思い浮かばなかった。

「で、どこ行くの?」

 昇降口を出た瞬間、くるっと半回転して僕を見る朝宮さん。何も言ってなかったせいもあるけど、もう少し行動する前に考えて欲しいかも。

「えっと、寮に戻ってみようかなって思ってるんだけど」

 僕の部屋は何故か鍵が掛かっているから入れない。だから、大和さんがいれば開けてもらおうかと思っている。蛇内と帰ろうにも帰ることも出来ないし。

「寮ね。そこにいるのね? 一ノ宮と吾妻は」

「いや、それが……」

「ん? 何?」

 まだ話してなかったけど、今ユースウォーカーズのメンバーは僕しかいない。校内には誰も見つけられなかったから、寮をもう一度探そうと言うことで行くつもりなだけで、いるかどうかは分からない。朝宮さんにも一応それを伝えた。

「はぁ!? 全員行方不明っ!?」

 話し終えたと同時に耳を劈く驚き。

「じゃあ、何っ? あたしが文句言う前に探さないといけないわけ? すっごい時間の無駄じゃない」

 いや、その無駄をここまで長くしたのは朝宮さん自身なんだけど、多分分かってないんだろうなぁ。

「……はぁ、ますます帰るのが遅くなるわけね……」

 そして驚いたと思えば、落ち込んだ。ほんとに上条さんといい勝負なテンションだ。

「あの、だから、別にいいよ? 譲治たちには僕から言っておくし……」

 人に頼ると皆がどうなるか分からないって脅されたし、朝宮さん自身が早く帰りたいみたいだから、これ以上は迷惑になりそう、二つの意味で。

「何言ってるの」

「え?」

 嫌そうな表情が一変、キッと目が僕を見る。

「馬鹿とは言っても、生徒がいなくなってるんでしょ? これは生徒会長として原因究明が必要なの。ほんとは今すぐにでも帰りたいけど」

 本音が建前より主張しているように聞こえる。でも、さすがというべきなのかも。自分のことがあっても、生徒会長としてちゃんと向き合う姿勢なんて、尊敬するかも。

「……と言うか、このままにして帰ったら、明日問題になって、沖田に口うるさく言われて、しかも先生にまで怒られるし……」

「あはは……」

 前言撤回。本音が建前を超えてた。

「ってことで、探しに行くわよ。神隠しにあった馬鹿たちを」

 あぁ、僕らは一括りに馬鹿なんだ。主に譲治と武士のおかげで。

「神隠しって、そんな大げさなことじゃないと思うんだけど?」

 それに神隠しだなんて。それはまずない。実際に琢磨が連れ去られるのを見てるし、何より僕はさっきまで交信していた。あれ以来呼びかけても応答はないから、今の状況がどうなのか、皆が無事なのかは分からない。

「良いのよ、そう言っておけば。もし見つからなくても学園がそれで動いてくれるんだから」

「そ、そんなので良いの……?」

 探すって言ったのに、最後は学園に任せるつもりだ、朝宮さん。それって、結局は自分で見つける気なんてあまりないんじゃないかな? 口実ってやつかも。

「じゃあ、行きましょうか」

「……大丈夫かなぁ」

 僕らは靴に履き替えて、寮へと向かう。もうすぐ完全に日が暮れる。夕食の時間もあるし、それまでには解決したい。それにさっきの二人もどこへ行ったのか気になった。

「懐かしい〜、寮なんて」

 学園から歩いてすぐそこ。でも通学生はほとんど来ることがないから、一年の時に入寮していた頃を思い出しているみたいで、朝宮さんが玄関で寮を見上げる。もう帰ってきてる生徒に部屋の明かりがちらほら見える。

「朝宮さんって、一年の時だけ?」

「うん。実家からそんなに遠くないし、お金かかるからね。あんまり親には迷惑かけられないし」

 意外な答えだった。僕の方がお金に関してはそう思うことは多いと思う。寮費だけでも結構かかるのは知っているから、一年の時にそこまで考えていたなんて、正直思えなかった。

「そうなんだ? ちょっと意外かも」

「そんなことないって。サラリーマンとパートの中流だし、何より私立だし」

 そう言われると、羨ましいという思いと同時に、そう言うものなのかなって思う。僕にしてみれば、公立に行くべきだったんだろうけれど、譲治たちと離れることを考えると、受かる可能性の高い方を優先した。だから、奨学金で足りないものは、施設から借りている。それは後々仕事をするようになったら、僕一人で返済しないといけない。きっとそれは大変なことだと思う。だから、朝宮さんがそう言うことを言うのは、ちょっとだけ、贅沢にも思えてしまう。

「あ……そっか。片桐君は奨学生なんだっけ? あはは……ごめんっ」

 でも、すぐに朝宮さんは僕に勢いよく謝った。いきなりのことでびっくりした。

「あたしなんて楽なもんだったね。親のお金で通ってるだけだし、中流だからって大変なんかじゃないね、うんっ、そう……」

 元気にそう言う言葉は、きっと僕を気遣ってくれたんだろうけれど、少し、朝宮さんには空元気に笑っているように僕には見えた。

「…………」

 気まずい沈黙に、目があった。僕は何とも言いがたい空気に、苦笑のように顔が崩れると、朝宮さんも同じように小さく笑った。

「あのさ、譲治たちを探そう、か?」

「そうね。何度脱線したことかってね」

 そんな空気を払拭するように、僕らは寮の扉を開けた。

「うわぁ、変わってな〜い」

 つい五秒ほど前のしんみりした表情もどこへやら、朝宮さんは懐かしむように玄関にある、少しごちゃごちゃした靴箱や、学園の精錬された雰囲気とはちょっと違って、生活観がにじみ出ている寮のフロントフロアにテンションが上がってきていた。僕は三年目だから、そう言うことはないんだけど、やっぱり一年の時の全員入寮以来の人には懐かしいんだろうな。少し、朝宮さんを見ていて面白いと思った。

「へぇ、昔のまんまぁ……」

 玄関は学年毎に分かれているから、見かける生徒は多い。でもその先は男子寮、女子寮に分かれる。僕ら男は原則女子寮への入室は禁止だから女子寮の様子は分からないけど、この辺りはそう変わってないのかもしれない。

「あたしの部屋って、今誰が住んでるんだろ? ねぇ、見に行ってみない?」

 目を輝かせて、朝宮さんがそう言った。さっき脱線したから急ごうって言った矢先だ。

「いや、僕はは入れないし。それに譲治たちを探すんでしょ?」

「平気よ。同行の女子がいれば門限までに出れば問題ないわけだし、あたしは生徒会長。見に行くだけだって。ねっ? 片桐君だって女子の秘密の花園、見たいでしょ?」

 朝宮さんは本当に目先のことばかりなんだろうな。僕にきらきらした目で、ちょっといやらしそうに誘う。

「いや、それは……」

 興味がないわけじゃない。僕だって男だ。登校するときに、つい女子寮に干されている洗濯物に目がいかないことがないわけじゃない。でも、今はそんな状況じゃない。理性でそれを留めて、その目に、目で答える。

「じゃあ、決まりね。行きましょ」

「えぇっ!? 伝わってないっ?」

 あれぇっ? 何で? 僕は拒否を訴えたのに、朝宮さんは受諾で受け取ってる。もしかして僕、本当はそんな顔、してたのかな?

 来客用のスリッパに履き替えた朝宮さんが、僕は自分のスリッパに履き替えるのお待って女子寮のガラスドアを開けた。そっちに譲治たちがいるとは思えない。いるならいるで、絶対何かしらの話題が残るはずだから。

 でも、僕のそんな考えも、朝宮さんは全く気づくことなく振り返った。

「ほら、片桐君。外堀からうめるわよ」

「あ、うん……」

 そう言うことにしておくつもりなんだ、朝宮さんって。可能性のない外堀を攻めても、正面が一番怪しいんだから、そっちを責めないと意味がないと思うんだけど……。

 でも、僕は強く言えずに、女子寮へ足を踏み入れた。

「うーん、この匂い。なぁつかし〜」 

 男子寮との違いは、ドアを潜った瞬間に感じられた。

「うわ……」

 男子寮にはない、何だか良い匂いがした。思わず鼻から数回嗅ぐように息をしていた。

「片桐君、露骨すぎ。変態みたいよ?」

「っ!? ち、ちがうよ?」

 顔にまで出ていたみたい。でも、タッタ一枚のドアを挟んだだけで何だか雰囲気が全然違う。男子寮は生活感が普通に溢れていて、たまに洗濯物とかゴミ袋が廊下に置いてあることもある。インテリアなんてないし、あるとしても大和さんの趣味みたいな、ちょっと危険の香りがする変なものが飾ってあったりする。

「まぁ男の子だし、そういうもんかもね。でも、その理想はすぐに現実に変わるわよ」

「え? それってどういうこと?」

 見回す限り、男子寮とは違って壁紙がピンク色をしていて、いい匂いがしていて、所々に花が飾ってある。インテリアも女の子らしいものが並んでいて、ちょっとした寮よりもホテルみたいな感じにも思える。

「公共の場は紗枝さんが管理してるから、綺麗だけど、女は男より色々と汚いものよ?」

 にんまりと悪戯な笑顔が僕を見る。見る限りはそうは見えないんだけど、何かあるのかな? もしかして、いじめとかあるのかな? 湊川さんもそうだったし、やっぱり寮でもある? そんなことを思うと、朝宮さんの不敵な笑みがそう思えてくる。

「それにしても、インテリアはさすがよね。季節感があるし」

 壁には誰が撮影したのか、桜の花が沢山ある。学園内の桜だから、紗枝さんかもしれない。男子寮にはこういうものって全然ないから、廊下を歩くだけでこういうものを見れるのは少し新鮮かも。

「こ、こんばんは」

 僕らが歩いていると、一年生の階だから見慣れない一年生が僕を見て、え? 何で? と言う感じで挨拶をしてくる。当然か。

「ええ、こんばんは」

 でも、朝宮さんはそんなことを気にしないで笑顔で答える。生徒会長らしさが出ているのかもしれないけど、あまり挨拶された子には、そう言うものが見られず、通り過ぎていった。それは、僕らが歩く中でよく見かける光景に変わっていく。

 生徒会長なんだから、もう少し声をかけられたりするのかな、なんて考えていた僕の考えは、あまり意味を成さなかった。

「まぁ、漫画じゃないんだしそう言うものよね、生徒会長なんて」

 朝宮さんはそれが普通の反応だって、気にしてなかった。

「そうなんだ? てっきり朝宮さんのことだから、もっと振りまくかと思ったよ」

「ちょっとぉ、片桐君、あたしが馬鹿な生徒会長とか思ってない?」

 朝宮さんがじろりと僕を見る。そこまでは思ってないけど、朝宮さんの性格なら、もっと人気者路線と言うか、アピールをして、人気を集めそうな気がしたんだけど。

「そりゃぁさ、漫画と噛みたいに人気絶大で盛り上げ役の生徒会長になれれば面白いかもしれないけど、実際はそんなわけにも行かないのよ? ウチは私立だからそれなりに自由なのかもしれないけど、生徒の意見が中心じゃなくて理事会が主立つし、生徒主宰のイベントだって理事長の承認と予算内で収めないといけないし、臨時の予算を組むのだって補助があるわけじゃないから、募金を募ったり、学園への寄付から賄って、スポンサー契約みたいにしないといけないし……」

 あぁ、スイッチが入った。せっかくそう言う雰囲気から脱却できたと思ったのに。こうなったら、切りの良い所まで聞くしかない。

「それに私立ってブッチャケお金のとこがあるでしょ? だから、生徒全員が良い子なんてわけないし、不良って言うか、悪もいるの知ってるでしょ? ああ言うのがいちいち邪魔するし、学祭の時とか特に執行部が中心で警備部と他校生徒のいざこざもあるし、その責任はあたしに降ってくるし、警備部は警備部で面倒な奴が多いし、沖田はうるさいし、知名度だってなかなか上がらないで後半年も活動期間無いし、それに何より馬鹿がいるから悪いのよ。一之宮と吾妻よっ。あいつらがことごとく邪魔なのよ。ちょっとはこっちの事情を考えろってのよ」

「あ〜、うん……そう、だね……」

 女子寮に来てまでこれに付き合うなんて。もしかしたら他の女子もこういうことを溜めてるのかな?

 それはそうと、どこまで僕らは歩くんだろう。一年の女子は二百人もいない。だから部屋もそんなに多いわけじゃないから、そろそろ部屋番号からして最後だ。

「なのに、何なのよ、あいつらは。同好会申請とかしてきてさ。認められるわけ無いじゃないっ。ねぇっ? 同好会にでもなったら、馬鹿に予算が回るのよ? ただでさえ目つけてるのに、何考えてるってのよ、ねぇっ?」

 僕もその中の当事者に当たると思うんだけど、そう言うことに肯いてもいいのかな?

「生徒会の、承認がいるんだっけ?」

「そうよ。って言っても、あたしらより理事会が承認しちゃえば、判を押すだけなのがあたしらの仕事。はぁ〜ぁ」

 盛大に朝宮さんがため息を吐いた。その横を入浴に向かうみたいで、オフルセットを抱えた一年生が数人、怪訝そうに僕らを見て通り過ぎていく。何だか視線が痛かったかも。

「どうせなら、あたしが引退してからして欲しかったわよ、もぉ。これでまた悩みの種が成長したなんて、考えただけでも億劫だわ……」

「え? どういうこと?」

 ただの愚痴かと思ったら、そうじゃないことが聞こえた。それが少しだけ気になった。

「あれ? まだ知らないの? 同好会、承認されたんだけど?」

「……ぇ、えっ? うそっ!?」

 唐突過ぎる答え。さらりと言うから一瞬理解が出来なかった。

「大槻先生が顧問、大和寮監が監督教諭として同好会の発足は承認。三日くらい前に理事会から通達があったら承認したの。まだ聞いてないの?」

 初耳です。そんなこと。

「厄介者だったのに、あの中に妹尾君がいるってのが大きかったわ……さすがは学年トップ組。まさかワースト組の一之宮、吾妻を合格ラインまで持ち上げるとは思わなかったわよ……」

 朝宮さんの落胆が、それが嘘じゃないんだって物語っているようにしか見えなかった。それに、譲治たちを合格まで導いたのは琢磨じゃなくて、多分、湊川さんの家庭教師かもしれない。それはどうでもいいか。でも、本当に譲治たちが合格ラインを超えたのなら、それはびっくりなことだ。

「じゃ、じゃあ、本当に?」

「夢なら覚めて欲しいくらいよ。絶対ろくでもないことを起こすに決まってるじゃない。何だってそういうことを理事会は理解しないのか分かんないわよ」

 落胆していく朝宮さんとは違って、この場には悪いけど、僕は体の中から何かが沸き立ってくる感覚に、顔が緩むのを抑えられなかった。でも、思いっきり喜びはしないけど。恥ずかしいし。

「そうなんだ……ははっ」

 でも、やっぱりちょっとくらいは溢れても仕方が無い。抑えられなかった。

「ま、良かったわね、一応」

 そして意外な言葉だった。

「不思議そうにされても困るんだけど?」

「いや、だって、嫌なんじゃ……?」

 朝宮さんが小さく笑顔を浮かべた。それが意外だった。

「それはそれ。同好会をやりたい人の願いが叶ったことは喜ばしいこと。そうでしょ? それを喜ぶくらいは、あたしだって一生徒でしかないんだから、それくらいは言えるって」

 あはは、変なの、と僕が笑われた。

 屈託のないというか、切り替えが早いというか、朝宮さんはこういう人なんだなって改めてまた認識したかも。本当に上条さんのノリと良く似てる。違うのは多分、上条さんとは違って両方の意見を理解して、中立を取れることかもしれない。

「あれ? 何であたしこんなとこまで来てるの?」

「え?」

 部屋番号を見た朝宮さんが不思議そうに僕を見る。

「おっかしーな。道間違えたっけ? 片桐君、戻ろ」

「え? あ、うん」

 来た道を戻り始める朝宮さん。もしかして、ここまで来てるのに愚痴を言っていて気づいてなかった? これはボケなのか? 天然なのか? 掴み所が良く分からない人だった。

「ここ、ここ。ここよ、あたしがいた部屋」

 そして、戻って来た僕らは、一室を前に立ち止まった。僕は全く知らない部屋番号。ここが一年の時、朝宮さんがいた部屋らしい。

「さ、今は誰がいるのかなぁ?」

「え? 入るの?」

 コンコン、と朝宮さんがノックした。てっきり部屋の所まで来るだけかと思っていたら、ためらいもなくノックした。

「え? だって見たいでしょ? 女の子の部屋」

 え? 何? これって僕が見たいからそうしてるわけ? そんなこと一言も言ってないんだけど。自分が見たいからじゃないのかな?

「はい? ……え?」

 そんなことを聞く前にドアが開いて、一年生の女の子が顔を出した。私服姿だけど、随分とラフと言うか、目のやり場に困るような格好。

「こんにちは。ごめんね、こんな時間に。お風呂後だった?」

「え? は、はい、そうですけど……」

 ホットパンツって言うんだっけ? 短いパンツ姿に大きなTシャツ。胸元が結構出てるから、ちょっと困った。

「あ、あのぉ……何か?」

 明らかに僕を見て不審そう。男子が入っていい条件なんて、普通は無い。ただ、黙認されている条件が、いくつかあって、それを知っているのは一年生でも後半を過ぎないと分からない。だから、何で男がいるの? と言われているような気がして、朝宮さんを見る。

「今生徒会で一年生の部屋を点検してるんだけど、ちょっと覗かせてもらっても良い? 五分くらいで終わるんだけど?」

 その言葉に、僕と部屋から僕らを見る一年生が、え? と小さな声を漏らした。

「あ、ちょっとだけ、待ってもらえませんか? 同室の子が、着替えてるので」

「ああ、うん。良いわよぉ。終わったら呼んでね」

「は、はい」

 そして一旦部屋のドアが閉められた。

「ちょっ、朝宮さん、どういうこと?」

 そして僕は聞いた。そんな話今までしてなかった。

「え? だって、普通に部屋見せてなんて言っても無理でしょ?」

 あっけらかんとした答えだった。悪気を感じられないくらいにあけすけとした答え。これって、職権乱用じゃないかなぁ。

「まぁ、ちょっとだけだから良いじゃない。あたしは部屋が見れるし生徒会をアピールできて、片桐君は憧れの華の女子高生の部屋を気兼ねなく見れる。万々歳じゃない」

 わ、悪い人だ、この人。女の子に向けた笑顔と僕に向ける笑顔が違う。

「いや、だまされるあの子たちは……?」

 見た感じはごく普通と言うか、まだ中学生っぽいあどけなさが残ってる子だった。美紀とは違って、どちらかと言うと疑わない有美香よりの子。生徒会長が欲望で動いているのを気づくことが無いなんて、やっちゃダメじゃないかな?

「嘘は突き通せば本当になるのよ。この世界なんてね、嘘から始まった物語が本当になっていくの。気づかなければ幸せ、何て言葉があるでしょ? 夢を壊すのと夢を守るの、どっちが大事だと思う? 当然後者でしょ? これから楽しい学園生活を送ってもらうためには、ちょっとした先輩との触れ合いがあると、そこから始まる物語ってあると思うのよ」

 何だろう、朝宮さんのこの説得力。人を巻き込む話し方を知ってるみたいに、聞いてるとそうなのかも、なんて思ってくる。

「でも、だからって点検なんて、何するの?」

「ん〜、そうねぇ……」

 人差し指を唇に当て、天井のライトを見上げる。考えてないのに、よくアンナにあっさり嘘がつけるな、朝宮さん。上条さんみたいなテンションと譲治の人を巻き込む力を持ってるっぽい、この人。凄い人なのかもしれない。

「あの、お待たせしました」

「それじゃあ、ちょっとお邪魔するわね」

 答えを得ないまま、女の子がドアを開けて、朝宮さんが部屋に入った。一瞬、僕の足はそこから動かなかった。入ってもいいのだろうか? そんな疑問が僕の自制に働きかける。

「ほら片桐君。早くする、時間ないんだから」

 そんな僕を朝宮さんが呼ぶ。さりげなく忙しそうに見せながら。あぁ、いろいろと人に迷惑をかけることはあったけど、三年になってからは一番申し訳ない気持ちがあることに巻き込まれたのかも。

「お邪魔します」

 心の中で僕らを疑いも無く招いた子に謝罪しながら部屋に入らせてもらった。

「わ、ほんとに生徒会長だ」

 部屋に入ると、寮内で香った香りとは少し違うけど、また良い匂いがした。部屋の作りは男子寮と同じだけど、内装は女の子。ドキドキするくらいに可愛いものや女の子のものが溢れていた。

「へぇ、まださすがに綺麗なものね」

 自分がいた部屋を懐かしそうに見るのではなく、単純に女の子の部屋を楽しんでみているように朝宮さんは上機嫌だった。

「これを維持できるように、ちゃんと掃除洗濯はするのよ。じゃないと、凄いことになるから」

 先輩としての助言かもしれないけど、目がそれとは違うことを言っているように僕には思えた。

「あの、点検って何をするんですか、先輩」

 部屋の中にいた同室の子が尋ねてきた。先輩と呼ばれたはのは初めてで、一瞬誰のこと? と思った。

「片桐君。じゃあ報知器とトイレの点検お願いね。あたしはベランダと全般を見るわ」

「え? あ、うん」

 唐突にいわれても、打ち合わせをしたわけじゃないし、何より点検作業なんて何をすればいいのか分からない。早速天井を見たり、カーテンを開けたりする朝宮さんを横目に、僕もとりあえず、天井についている報知器を見上げる。異常があるのかなんて分からない。こういうものって、消防の人とかじゃないと分からないと思うんだけど、一年生二人は、僕らのことを目で追っているだけで、特に訝しむ様子はない。

 ガラッと窓が開いて、朝宮さんがベランダを見る。

「ふんふん。あなたたち、明日はゴミ出しだから、ちゃんと捨てなさい?」

 と思ったら、ベランダに置かれているゴミ袋を見せる。はい、と素直な返事に肯くと同時に朝宮さんが僕を見る。

「片桐君、トイレのチェック」

「あ、うん」

 自分のかつての部屋を見るだけなのに、やるべきことはやるわけなんだ。僕はそのままトイレへと向かう。トイレは洗面所と一つになっていて、ここも男子寮と同じ作り。でも、僕らの部屋に比べると、小物があったり化粧水とか色々あって、女の子の部屋ってこういうものなんだ、なんてちょっと照れた。一応点検も兼ねているから、水を流してみるけど、異常はなかった。

「あれ?」

 ふと戻ろうとして気づいた曇りガラスのドア。男子寮にはこんなドアはなかった。

 なんだろうと思いながら開けようとした。

「あ、あの、せ、先輩……っ」

 ドアノブに手をかけたら、後ろからこの部屋の子に呼ばれた。

「そ、そこは、その……」

「何かまずかった?」

 赤面して女の子が僕とドアをちらちら見る。何か僕にはあまり見られたくないのがあるみたいで、僕は手を離した。

「片桐君、そっちはどぉ? ……って、何? まだ見てないの? どれどれ、あたしが見てあげるわ」

「あ、朝宮さん」

 僕がドアノブの向こうを診ていないと分かったのか、朝宮さんが女の子の横から僕の前に立ち、ドアノブに手をかけた。

「あっ……」

 不安と言うよりも、恥じらいを伴う女の子の小さな言葉なんて聞く耳持たずに、朝宮さんが扉を開けた。そして飛び込んでくるものに、僕は顔が熱くなってしまった。

「シャワールームは綺麗に使ってる、と。あ、でも、ここに洗濯物は干したらダメよ。乾燥室で乾燥させたほうが綺麗になるんだから。ここに干すと日は当たらないし、湿気が篭るわよ?」

 効果音があるなら、まさしくアッハーンかも。朝宮さんと僕の正面には、物干しがあって、そこには一目で分かる下着がぶら下がっていた。

「〜〜〜〜〜っ」

「理恵、どうかし……って、うわわっ、先輩っ、見ちゃダメですっ!」

「うわっ!?」

 近くにいた女の子が恥ずかしそうに、声にならない高い声を漏らして、それに気づいたもう一人の子が僕らを見て、驚きの声に僕の目を覆い隠した。突然視界がなくなって、後ろから女の子に抱き着かれるみたいに何も見えなくなった。

「か、会長っ」

 大人しい子とは違って、もう一人の子が僕の目を隠して、朝宮さんに声を上げる。

「今の一年生って、結構セクシーなの使ってるんだ」

 朝宮さんだけが呑気にそんなことを言うから、余計にドキッとする。それにその一言に驚いた僕の目を抑える力が余計に強くなって痛かった。

「片桐君もセクシーなのが好きなわけ?」

「ぶっ!」

「せ、先輩っ! ってか、理恵っ! 早く向こう持ってって」

 唐突な聞き方に、心臓が悪く跳ねる。慌てて理恵と言う子が僕の横を走っていった。その時身体に布が擦れて、たぶん、それが下着なのかもとか思った瞬間、恥ずかしさが余計に強くなった。

「あははっ、ウブねぇ、あんたたちって」

 何も見えない中で朝宮さんの高らかな笑い声だけが響き、その中にきっと僕も含まれていた。

「まぁ、異常はないようだし、片桐君、失礼しよっか」

 そんな騒動を自らが引き起こしたと言うのに、朝宮さんはそれから二分もしないうちに僕にそう声をかけた。僕は少しずつ落ち着いてきたのに、女の子二人は、何故か僕から少しだけ離れて、僕らを見ていた。

「じゃあ、こんな時間にごめんね」

「は、はい」

「あ、ありがとうございました……」

 困惑そうな一人と、恥ずかしそうな言葉に送られて、僕は軽く頭を下げて、部屋を出た。

《うぅ〜……恥ずかしかったぁ》

《う、うん……》 

 僕らがドアを閉めた瞬間、そんな声が薄く漏れて、朝宮さんが再びドアノブに手をかけた。

「あっ、そうそう」

「うわぁっ!」

「きゃっ」

 そして躊躇いもなくドアを開けた。その向こうから、またびっくりした声が上がって、僕は呆気に取られた。

「乾燥室の乾燥機はタダだから自由に使っていいから」

「は、はぁ」

 呆気に取られたのは僕だけじゃなく、部屋の中にいた二人もそうで、朝宮さんはそれだけを言うとドアを閉めた。

「あ、朝宮さん?」

「うん? どうかしたの?」

「え? あ、いや……なんでもない」

 てっきり後輩の子たちが安堵したのを見計らったようなタイミングだったから、わざとかと思ったんだけど、声をかけて振り向いた朝宮さんはとぼけている様子も、わざとらしい様子もなかったから、多分普通にアドバイスしたみたいで、この人はどうやら天然らしかった。おかげで今のわざと? と聞こうと思ったことも喉の中へ落ちていった。上条さんと違うのは、この人は素で行い、上条さんは分かっていてやっていることなのかもしれない。

「朝宮さん、もう良かったの? あんまり見てなかったみたいだけど?」

 つっこんでも仕方が無い。だから、話題を変えることにした。

 部屋の点検だなんて言いながら、その時間は五分ほどだった。本当に点検しただけ。そんな印象が僕にはあって、自分がかつて過ごした部屋を感慨深げに見る、なんてことは見てる限りはなかった。

「ん。良いの。今はあの子たちの部屋だし、それが普通でしょ?」

 違う? と首を傾げられると、呆気にとられるというか、拍子抜けしそうになる。特に懐かしさや思い出に馳せるようなこともなく、朝宮さんは涼しげな顔で僕を見てくる。

「そう、なのかな?」

 朝宮さんが自分のすごした部屋を見てみたいと言って、実際に見て、僕は一年の時に過ごした部屋を、今は誰が使っているんだろう? なんて疑問を思ったけど、確かめたいとまでは考えなかった。それはつまり、それほど思い入れはないのかな。

「名残なんて残ってないし、内装はどの部屋も同じ。ぶっちゃけさ、あたし、ちょっとくらいは思い出あるかな、なんて思ってたけど、実際に新入生が生活してるとそんなものなんてないし、逆に今時の子ってこういうインテリアなんだって思ったくらいだったしね」

 それを今時の子が言う台詞には思えない。達観してるのかもしれない。

「だからあんなにあっさりだったの?」

 落ち込んだ様子もなければ、嬉しそうと言うわけでもなく、普通。そう思える表情だけを朝宮さんは浮かべていた。

「あたしがすごした日々なんて、思い出に消えていくのよ」

 来た道を戻る朝宮さんの横顔は、正直よく分からなかった。でも、寂しさや悲しみなんてものはない。むしろ新しく入居した子たちに馴染んでいく様子に、ちょっと笑顔が浮かんでいた。

「部屋が大事じゃないってことよね、所詮は」

「ん? どういうこと?」

 戻る道でもすれ違う一年生に、おかしな目で見られるけど、そんなものを気にすることもなく朝宮さんは歩き、僕はそれに続いた。

「そこですごした始めてのルームメイトとか部屋に呼んだ友達とどんなことをして過ごしたか、がやっぱり大事じゃない? だから部屋を見た時は、自分でも拍子抜けしちゃった」

 その言葉に一瞬、返す言葉が浮かばなかった。部屋が大事じゃなく、そこで過ごした人の営み、とでも言うのかな。ものじゃなくて生活観に溢れた人との触れ合いが、朝宮さんには思い出として残っているみたいだった。

「それに部屋なんて、一つの道具でしょ? 部屋があるから思い出が出来て、その部屋が今もあるから、思い出せることだっていっぱいあるけど、やっぱり誰かと過ごした思い出がないと、部屋だけがあってもつまらないだけじゃない? ね?」

「あ、うん……」

 笑顔でそう言われると、反射的にそう答えるしかなかった。朝宮さんの考えていることが何となく分かったけど、いまいち掴めないことでもあった。

「でも、良かったね。一年生が同じように生活してて」

「うん。だから、あの子たちもきっと思い出に残る一年間を過ごすわね、きっと」

 寮生活三年目の僕には実感ないことだけど、そう感じる朝宮さんには、不思議と賛同出来た。良いことも悪いこともあったけど、思い出になる時が必ず来る。朝宮さんにとってはそれがこの寮で過ごした一年間にも凝縮されているのかもしれない。

「さぁて、次は男子寮ね」

 女子寮のドアを再び潜ると、玄関を素通りしてそのまま男子寮の開けっ放しのドアの奥へと進んでいく。ここからは見慣れた光景が続いていく。

「ほんとに女子寮は見るだけだったね?」

 てっきり女子寮も調べるかと思ったのに、何もしないで男子寮へ入る。譲治たちを連れ去った首謀者は女の子なんだから、女子寮も気にするべきじゃないだろうか? と思った僕のことを、朝宮さんは悪戯な笑みで答えた。

「一之宮と吾妻がいない時点で女子寮はないに決まってるでしょ。あいつらが女子寮にいたら、今頃警察が飛んでくるわよ、きっと」

「あはは……どうだろ?」

 その言葉は、苦笑で賛同した。確かにそうなりそうな気がする。武士が女子寮にいたら、間違いなく大騒ぎになるだろうし。

と、言うわけで片桐君の知り合いの部屋を全部当たるわよ」

「えぇ? 全部?」

 やる気に満ちた声を出す朝宮さんに、僕は目を大きく開いた。

「当然でしょ? どこにいるかも分からないんだったら、徹底的にしらみ潰しでしょ? で、片桐君、知り合いの部屋に案内して」

 当然のように言われると、従うしかない空気になる。そうは言っても、僕の知り合いなんて普段から譲治たちとしかつるんでないから、部屋を行き来するような仲のいい友達はほとんどいないんだけど、それもあたるのかな、もしかして。そう思うと、少し気が重くなった。


閲覧ありがとうございました。


この度は申し訳ありませんでした。


次回更新予定作はココクラですが、予定日は今月中〜来月上旬になります。


 曖昧ですみません・・・。

 本当に予定が立てられないくらいに忙しいので(^^;)


 それから、本作に関してですが、あと二回更新くらいで今の現状を終わらせます。


 本作次回は那美たちの話に戻り、最後にして、次の章へ入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ