十一つ.あれ? これ何の作戦だっけ?
予定よりなんとか一日で更新できました。
ついでに新キャラ登場です。メンバーじゃありませんが。
とは言ったものの、何をどうするべきなのか、さっそく立ち止まる。もうそろそろ完全下校時刻だ。校舎に残っていいのは許可を取っているか、用務員さんに言わないと残ることが出来なくなる。もし、相手も同じ生徒……いや、生徒だと思う。だとしたら、無許可で校内に残れないはず。
「聞いてみようかな……」
あまり職員室は好きじゃないけど、校舎内で活動するグループなのか調べておいたほうがいいかもしれない。そう思って僕は職員室に向かう。ほとんど生徒のいない静かな廊下。僕の足音だけが響く。
「え? あれ?」
でも、その中で異分子を目視した。突き当たりの角の所に、見覚えがある黒い布が窓からの風に、ちらちら見え隠れしてる。
「もしかして、もうここまで来てるの?」
さっきの女の人は言ってた。刺客を放ったって。琢磨をさらった黒装束の一員かもしれない。階段を下りないと職員室に行けないのに、待ち伏せだなんて……。
「あっちから行くしかないよね」
背中を向けて来た道を戻ることにする。それにしても一つ疑問があった。相手は僕の居場所を知っているのかどうか。
「あの、聞こえてる?」
通信を開いてみる。暫く無音の後、返事が返ってきた。
《はいはい? 呼んだカナ? え? あぁ、それ? うーん、そっちがグーッ! いやいやいや、そっちじゃダメだってばぁ》
物凄く陽気な声が返ってきた。
「……何か、楽しそうだね?」
《え? うんっ、そりゃぁねっ! だって……あぁっ!?》
楽しそうに答えていた時、突然悲鳴が響く。
《……んっんっ〜。何か? 早速ヒントを尋ねたいのかい、坊や?》
と思ったらいきなり取り繕ってきた。いや、もう遅いと思うんだけど。
「そうじゃないんだけど……どうして僕の居場所を知ってるの?」
何かフリートーカーの向こうで賑やかな声が時々混じる。こっちは深刻なのに、ものすごく馬鹿にされていると言うか、相手にされてないみたいで、少し複雑な気分だった。
《居場所? あぁ、そんなことかい? それは簡単なことだよ。私の部下が先ほど姿を見かけたそうだ。だからこそ、この時間、君を捉えるなど、出入り口を押さえておけば捕まるってわけ? オーケー?》
じゃあ、さっき琢磨を連れ去った二人かな? となると、まともに校舎からすら僕は出られないってことになるんじゃ……。
《ギブアップかい? それは認めないよ》
考えていたことを見透かされた。
《そんなことをしてごらん。せっかく準備……イヤイヤ、君たちの仲間が大変なことになるんだよ?》
準備? 何を準備しているんだろう。と言うよりも、この人、やっぱり嘘が下手?
《とにかくだよっ。諦めたら君は大きな失望を味わう。それが嫌ならここまで来ることだ。……そだっ、君に一つ声を聞かせてあげよう。……ほら、ゆみっち》
声? もしかしてみんなの声?
《……ふぇ? わた、わたしですですか?》
《……ほらほら、大樹君にエール送って》
《……え、えと、あの、そ、それじゃあ……》
電波が悪くなったのか、良く聞こえなくて腕を振ってみた。
《大樹しゃんっ! ふぁいと、なのですですよっ!》
「え? 有美香?」
そうしたら有美香の声が聞こえた。
「有美香? 大丈夫なの?」
《はいっ。と言うかですですね、私たちは今、大樹……ふぁあああっ!?》
プツ。その叫びを残して通信を切られた。何かあまりひっ迫とかしてそうな有美香の声じゃなかったと思う。やっぱり何か変だ。何かおかしい。
《……まったくもぉー。……さて、ご覧の通り、君の仲間は嘆き、叫び、悲しみ、祈っている。早く助けなければ、仲間の命は、こうなるのだよ。……はい、叫んで》
《ふぇ? ……ふぁあああっ!? あの、あのあのあの、そこは、だめで……ふぁうぅんっ、あっ……ぁあ……ひゃんっ》
プツ。そしてまた通信が切られた。
「今の、叫び?」
どちらかと言うと、叫びよりびっくりした後に妙に色っぽい有美香の声だったと思うんだけど。
《叫びだよ。叫び。んもぉーきゃああああって感じだったでしょ? ってことで、また会おう》
それっきり、通話は呼びかけても応じてはもらえなかった。一人で呼びかけている姿が窓に映って、一体自分が何をしていたのか疑問だけが残った。通信もなく、事態がそれほど危険じゃないということだけは感じ取れたと思う。いつまでもここにいても仕方が無いから、反対側の階段を下りて、一応職員室に入った。
放課後の職員室は先生たちが沢山いて、緊張する。教室三つ分くらいの広さに百人近くの先生たちがいて、生徒の姿もある。こんな時間でも見覚えのある生徒たちが勉強を聞きに来ている姿が目に入って、僕が今しようとしていることが、どれほど大事なことで、将来的なことなのか、みんなの現状と僕らの現状のギャップに複雑な気分が強くなった。
「先生」
「ん? 片桐か? どうしたんだ?」
先生たちは、窓側から三年、二年、一年を受け持つようにデスクがある。一番奥まで行くと色々な先生たちの視線が通り抜けて、緊張が高くなる。教室なら先生に対して畏まるようなことはないのに、職員室はやっぱり大人の空気ばかりで、慣れない。
「確かまだ、あの時期じゃないよな?」
「はい。少し聞きたいことがあったので……」
先生と僕には、時期と言う言葉で通じることがある。それは、きっとこの学園を卒業するまではずっと続くもの。簡単に言えば、聖正学園に通う以上、僕は奨学金の補助を受けている。施設には他の子供がいるから、学費なんて小さい子たちに回される。だから、僕みたいに高校生にもなれば、新聞奨学金として新聞配達のアルバイトをしたり、就職してから返還する奨励金の補助なしじゃ、学校には通えない。だから、基本的に春に奨学金の申請を行って、学費としている。もうそろそろ僕にも通達が来るはずだから、去年から僕のことを知っている―――たぶん、学園の先生たちの半分くらいは知ってると思うけど、この時期は奨学金の手続きに書類を貰う。そう思われたみたいだけど、今は違う。先生はデスクの上にあった明日の授業のノートと、何か僕らの内申書関連のファイルをさりげなくしまう。それを待ってから事情を話した。
「今日の閉門時刻まで活動する部活動を教えてもらえませんか?」
は? と、先生が僕を見る。完全下校時間の後、春夏場は二時間、秋冬は一時間、校内に残って活動することが申請すれば許可されている。この学園には下校時間が二回設定されていて、部活動生以外が下校するのが、完全下校時間。僕らは今のところはこの時間までしか学園に入られない。と言っても、いつも寮だから、あんまり意味はないんだけど。
それから、部活動は大会前になると、まだ明るいうちに練習したいからって、完全に学園と外が閉鎖される、閉門時間までの活動が申請で許可される。閉門時間を過ぎると学園と外の出入りも禁止されるから、寮生にとってはこれが門限。寮生は他にも寮規則で色々決められてるけど、譲治や武士はあまり守ってない。大和さんに連れ戻されて、お説教をよくされてるし。
「お前たち、まだ同好会が発足したわけじゃないんだから、関係ないんじゃないのか?」
先生が不思議そうに理由を聞いてくる。答える理由に一瞬悩む。正直に話そうにも、きっと珈琲を啜る先生は、また一ノ宮か……って呆れるだけだろうし、信じてもらえないと思う。じゃあ、他の回答は? と考えてみるけど、うまい答えが見つからなくて、近くで勉強を教えてもらっている顔見知りのクラスメイトと、目を合わせてから、苦笑いしかでなかった。
「まぁ、お前たちも最上級生なんだから、ほどほどにしておくんだぞ?」
「はい」
見透かされたみたいに先生が、鼻からため息を漏らしながら、三段目の引き出しからプリントを取り出した。コピーされたその書類には申請部の活動時間が書いてあるのが見えた。
「今日は……野球部と生徒会だけだな」
「そう、ですか……」
何かぼくらに関係がありそうな部活動か同好会があると思ったけど、どちらも僕らにはあまり面識がない。僕らはそうだけど、生徒会は譲治と武士をマークしているんだけど、今回はそう言うことじゃないと思う。一応プリントを見せてもらって確認したけど、それらしいものはなくて、先生に返すとまた引き出しの中にそれは仕舞われた。
「何だ? 何かあったのか?」
近くで何か書類にペンを走らせていた先生がこっちを見てきた。
「いえ、なんでもなかったです。ありがとうございました」
確認だけだったから、それが終わったら一礼をしてそそくさと職員室から出る。先生が怪訝そうに僕を見ていたけど、僕は次の事を考えていた。
「野球部は関係ないし、生徒会も……」
考えてみるけど、やっぱりどっちもユースウォーカーズとは関係ないと思う。でも、そうなると、相手は校舎にはいないかもしれない。さっきの通信から聞こえてくる感じは外じゃないと思う。今の時間帯なら、外であんなに騒いでいたら絶対分かる。
「もしかして、寮?」
ひとつだけ、条件に当てはまっても疑問のない場所が浮かんだ。
《聖生学園放送部です。完全下校時刻となりました。閉門時刻までの申請をしていない生徒は、速やかに下校して下さい》
考えていたら、いつの間にか時間になってた。教室にも入れなくなる。
「僕も出ないと」
残っていた生徒たちが皆昇降口へ歩いていく。大体が寮生だから、皆慌てて帰る姿はない。僕もその中に混じって昇降口に向か―――。
「うわぁ、どうしよう……」
昇降口のドアの向こうに、怪しげな人影があった。
「何だ? また生徒会か?」
「うわっ、何あれ?」
「先生に言った方が良くないかな?」
近くでひそひそ話が聞こえる。みんなの視線の先、僕の視線の先には、黒ずくめの、変な仮面を付けた二人がいた。ここでも待ち伏せしてたなんて。
「やっぱり、不審じゃないかしら、これって」
「何言ってるのさ。生徒には誰かなんて気づかれないんだから、隠し通せば良いだけじゃないか」
でも、変だった。いや、格好は変だけど、その格好をしている人の一人がもじもじと周囲の人の目をやけに気にしているみたいで、そわそわと落ち着きがない。
「だ、だからって、何で私がこんな格好しないといけないのよっ」
「仕方が無いじゃないか。あっちは手先が器用じゃないと時間がないんだから無理だからね」
「うっ……だからって、こんな格好、知り合いに見られたらどうしてくれるのよ……」
「それは僕も同じだよ。だから、隠し通せば良い。気づかれなければバレることはないんだしね」
「……あなた、随分落ち着いてるわね」
「まぁ、今に始まったことじゃないってだけだよ」
何か、待ち伏せしているんだろうけど、様子からしてイヤイヤそうしているみたいに見えてくる。一人は平然と帰ろうとする生徒たちに、変な顔を向けている。でも、もう一人は顔なんて見えないのに、体を小さくして、時々近くを通りぬけようと目を逸らす生徒にさえ、壁を向いて顔を合わせようとしない。
「はぁ〜……なんでこんなことになるのよ……」
「これも活動の一つだよ。結果の為にも基礎から固めておかないと」
「こんな基礎なんてない方が絶対にましだと思うわよ……」
それにしても困った。きっとあの二人も僕を待っているんだ。ここにいれば、必ず僕は来る。靴を履き替えないといけないんだ。でも、ここで捕まったらそれで終わりだ。予想はしていたけど、あの指揮官? の女の人もちゃんと指揮してたんだ。
「どうしようかな……」
靴を取りにいけない。このまま寮に行ったら、絶対に大和さんか紗枝さんに見つかって怒られる。それは嫌だし、捕まるのも嫌だ。時間もないし、僕、追い込まれた?
「どうしたのかな? 片桐君」
「うわぁっ」
「ひゃっ、な、何っ!?」
肩に手を置かれて、思わずびっくりした。そうしたら、背中から声を掛けてきた人までびっくりしてた。まさか背後から追いつかれた? そう思って一歩前に出て振り返る。体勢はいつでも逃げられるようにしながら。
「あっ……なんだ……」
でも、それはすぐに無駄だと力が抜けた。
「むっ。な、何だとは失礼でしょ。こっちまでびっくりしたのに」
「あ、ごめん。人違いだったから、つい……」
そこにいたのは生徒だった。女の子で、僕も一応面識はある人だった。
「つい、で驚かれるのって、ちょっとショックかも」
僕が力を抜くと、仏頂面に僕を見てくる。
「ごめん。そう言うわけじゃないんだよ。今は、その、色々あって緊張してたんだ」
「ま、いいけど。それで何かお困り? お困りなら、生徒の悩みは生徒会の悩み。聞いて解決、話して解決の生徒会長、朝宮七美が解決してあげるわよ?」
僕の目の前にいたのは……。自分で名乗ったから割愛して、生徒会長でクラスメイトだった。去年の後期に生徒会長選挙で当選した朝宮さん。特に親しいわけじゃないけど、クラスメイトとして話したことはある人。
「え、いや、いいよ。大したことじゃないから」
大げさなことじゃない。何となくこの事態もいつものお遊びみたいな感じだと思うから。でも、そこで一人だけ逃げ出すのは、僕らの中ではルールー違反。だから、やるしかない。もちろん、関係ない人を巻き込むのも良くないけど、迷惑は掛けることもある。だけど、今は生徒会長がお出ましするようなことじゃないと思った。
「むぅ。何よ、片桐君。生徒会を信用してないの?」
朝宮さんがふてくされたように頬を膨らませた。誰もそこまでは言ってない。
「いや、生徒会とかじゃないんだけど……」
「え? じゃあ……はっ! も、もしかして、あたしっ!? う、そ……あたし、信用されてないんだ……」
「え? あ、朝宮さ、ん?」
急に朝宮さんがあぁっ、と嘆くように体を揺らせて、顔を背けた。
「そう、なんだ……皆が楽しめる学園の為に、朝の挨拶活動もセンサー付の自動音声に変えて、二度寝出来るようにしたのに……」
あ、やっぱりそうだったんだ。昔は生徒会の人たちが校門前で挨拶活動をしてたけど、最近はどこからともなく声だけが聞こえていたことがあったから気になってたけど、寮生だからやっぱり気にしないことにしてた。簡略化されたかと思えば、自分が早起きしたくないからだったんだ。それって生徒の為?
「昼間の放送だって、クラシックしか流れなかったから、放送部解体してラジオ声楽部に変更して楽しい放送したのに。……まぁクラシックはつまんなかったし」
聞こえてる。聞こえているよ、心の声が。
「放課後だって、早く帰りたいから部活動だけ延長して、さっさと戸締りできるように完全下校時間作って、皆を追い出して早く帰りたいのに、生徒会が最後まで残らないといけないなんて聞いてなかったのよ……。別に生徒会だって、毎日毎日何かするわけじゃないのよ。月始末に帳簿付けて、集会の打ち合わせさえしとけばそれで良いのに、だれも相談に来ないくせして、相談がある可能性が在るから残れとか、副会長が煩いんだもん……」
「えっと……」
どうしたら良いんだろう? 朝宮さん、話が少しずつずれてる。最後の方は活動云々より愚痴だ。僕はこの愚痴に付き合わないといけないのかな?
「あたしだって、普通の女の子なのよ? 好きな人作って、一緒に放課後デートとか、お昼休みに一緒にお弁当食べたりとか、たまには寮を抜け出して、二人っきりで学園探検とかしてみたいのに……」
ああ、もう愚痴だ、これ。僕関係ないし。
「え、えっと、色々あるんだね、生徒会も」
とりあえず、何とかしてこの状況を脱して、靴を履きかえる策を考えないと。
「そうっ! 色々あるのっ! それなのに、一ノ宮とか吾妻とか一ノ宮とか吾妻とか一ノ宮とか吾妻とか一ノ……」
「あぁっ、うん。ごめんっ」
朝宮さんが壊れたCDみたいに譲治と武士のことを呟く。分かっていた。いつもいつも先生たちに叱られた後、生徒会からも毎度のことに忠告を受けていたから。
「おかげで今までに何本の夕方のドラマ見逃したと思う?」
「え?」
あれ? それとこれとは違うんじゃ……。
「それなのに聞いてよっ、片桐君っ! あいつら、意味分かんないけど同好会の発足申請してきたのっ! しかも、一ノ宮が兄のあの礼儀正しいのに可哀想な妹さん名義でっ」
いや、まぁ確かに事実だけど、それを僕に言われても……。
「絶対に何か面倒を企んでる。そして、その処理にまたあたしはドラマを見逃すの。あぁっもぉっ! どうしてことごとくあたしのささやかな夢をぶち壊すのっ! ねぇっ!?」
朝宮さんが、ずいっと僕の方へ寄る。その目は、怒っているのか悲しんでいるのか、色々な感情が混ざって、嘆き救いを求めるようにも見えた。責め立てる気持ちは分かるけど、でもその根底に有る想いが、どことなくおばさんくさいというか、たかがドラマを見れないからって理由だと、素直に受け入れがたい。
「あのさ、朝宮さん」
「何よぉ? と言うか、片桐君からも言ってやってよ。あたしはね、別に騒ぐなとかいわないわけ。楽しいならそれで良いじゃない? でも、だからって、事後処理を被るのがごめんなの。同好会なんて発足したら、臨時予算やら活動報告書、活動経過記録、諸々の申告書の整理をウチがするの。分かる? ただでさえ部活が多いのに、面倒なことをこれ以上増やされたくないの。あたしは別に事務をやりたくて生徒会長になったわけじゃないんだから……」
生徒会長の仕事は、そう言うものじゃないのかな? 後は司会とか。そのくらいだと思うんだけど、迷惑を掛けている以上、これ以上の刺激は避けたほうがいい。ただでさえ、一言喋れば長々と愚痴を言われている。もう下校する生徒までいなくなってきた。生徒に混じってこっそり靴を履き替えようと考え付いた作戦が、生徒の立場で学校を運営する生徒会の長によって、無意識に泡に消えていく。
「う、うん。僕から譲治たちに言ってみるよ。だから、今日はもう、ね?」
完全下校時刻を過ぎると、申請のない生徒は生徒会執行部から追い出される。言わば、この人の部下なんだけど、ウチの執行部は結構恐い。僕一人だとさすがに抵抗出来ないし。
「ほんとに?」
「うん。ほんとほんと」
「嘘」
「……え?」
この場だけでも脱したい。そう思って肯いていたら、朝宮さんの一言に打ち消された。
「人間ね、その場限りの約束とかするとき、同じ事を二回繰り返すのよ。今すぐこの場から逃れたいからって、簡単にへこへこ頭下げて。そこで笑うとか言語道断なのっ。良い? あたしはね……」
「はい……」
それからのことは、あまり思い出したくないけど、一つ分かったこともあった。聖生学園生徒会の現生徒会長は、ネガティブなことに関しては人の話を聞かず、絡み酒のように延々とお説教なのか、愚痴なのか、聞くだけで疲れるお話をする。朝宮さんに捕まって、僕はとなりを通り過ぎていく生徒たちと、未だに昇降口できっと僕を待つ黒装束の二人を見ながら、ただひたすらに、朝宮さんにありがたいお説教を頂いた。
「だからね、あたしは生徒会長として……」
「うん、うん……」
クラスメイトで生徒会長の朝宮七美。僕は今日、初めてこの人の本性を見せられた。やっぱり、僕らも少し行動に関しては気をつけたほうが良いかもしれない。僕が得た、唯一の反省だった。
「遅いわね」
「確かに。もう下校する生徒は申請している部活生だけじゃないかい?」
「何してるのかしら」
「多分、大樹のことだから、徹底的に探しているか、彼女に振り回されているかじゃないかな?」
「はぁ……もう、良いんじゃない? これとって姿見せても」
「熱がこもるからね、この生地。でも、一応こうしておかないと、バレたら終わりだよ」
「分かっているけれど、もう戻っても良いんじゃないの?」
「まぁ、もう終わっている頃だろうからね……」
「この時間があれば、一つや二つ、買いに行けるじゃないのよ……」
「あはは……確かに、ね」
昇降口に西日が差し込む。少しずつ春の夜の冷たい空気が温もりを奪おうとしていく。その中で影を生む黒い影のような装束の二人は、いつまでも現れる気配のない大樹に、自分たちのしている事に対して、馬鹿馬鹿しさを感じ始めていた。
「他はどうしているのかしらね?」
「さぁ、きっと、僕らと同じだと思うけど」
「……早く、来ないかしら」
「そんなに会いたいのかい?」
「なっ!? ち、違うわよっ!」
目と鼻の先、角の向こう同士で待つ者と待つしか選択肢のない者とが、たった一人の少女の手によって、その出会う時をいつまでも迎えることが出来ないままでいた。
「……というわけなのよ。どお? 少しは分かってもらえた?」
「……え? あぁ……うん。……よぉく分かったと思うよ……」
ごめん、もう何の話をしていたのか全然覚えてないよ。確か最初は僕が困ってるといるとかだったと思うのに、どうして夕方のドラマは夜に見るドラマとは違うように見えるのか、その重要性について何か聞かされたと思うけど、もう後半からはさっぱりだった。さっきまで夕方の明るさがあったはずなんだけど、いつの間にか蛍光灯の明かりの方が僕らを強く照らし始めてる。
「まぁ、そう言うわけなの。だから……ってあら? そう言えば何の話しをしてたんだっけ?」
……あぁ、やっと話が元に戻った。話を脱線させる人はよくいるけど、話を脱線させて、そこからさらに新しくレールを引いて、そっちに走っていく人は、そうはいない。本線に戻るのに、一体僕はどれくらいの時間を失ったんだろう。
「あ、えっと、もう良いんだ。多分、解決したから」
これ以上の関わりは避けるべく、何も事情は変わらないけど、きっと例の相手もこの時間まで遊んでいる気はないと思うから、一度部屋に戻りたかった。
「だめよ。片桐君には色々と、よく覚えてないけど話をしたわけだから、今度はあたしが聞いてあげる」
何て、図々し―――良い人なんだろう。義理堅いのはいいことだと思うけど、そう思ってくれるなら、早く解放して下さい。それしか今は思えなかった。
それでもきっと、話さないと放してくれないような気がして、仕方が無いから僕は事情を話すことにした。
ココクラは明日か明後日に更新します。
時間的にこの作品の更新でアルファポリス青春大賞に関する更新は終了します。
ココクラ更新後は、sai,ライブラリアンと通常更新を再開していきます。
ただ、とある文学賞用に作品を執筆中につき、多少更新が遅くなります。