第五十六章「イツキVSハツガ」
ツユ「頑張ってね、お姉ちゃん。」
ハツガ「……そっちも。」
ツユ「うん。」
ハツガ「……ツユ、一つお願いがある。」
ツユ「……?」
・・・・・・・・・
まぐろ「霧雨先輩、その服……。」
イツキ「いや……何でがっかりしてるんだ……。それよりまぐろ、一つお願いがあるんだが……。」
まぐろ「はい?」
黒い雪原編
第五十六章「イツキVSハツガ」
『やって来たぜ二回戦!!初日に勝ち上がった16人が集結!次に進むのは果たしてどいつだぁ~!?』
黒の闘技大会、二回戦。
今日は八試合目まであるのだが……一試合目から波瀾を呼ぶ組み合わせだ。
『早速始めていこうか。』
『スギネさんも待ち遠しいみたいだぜ!!』
実況席には、実況のムサシと解説のスギネが座っている。
ちなみにスギネは、黒の国傭兵育成機関「闇夜の一星」の長だ。
『第一試合!!ハツガVS霧雨イツキ!!』
向かい合った入場口から出てきたのは、女と男。
女は肩までの灰色の髪に、口元を隠すスカーフ。
マントに機動性の高い黒い服を着ている。
名をハツガ。
『ハツガは、白の国では灰色の死神と呼ばれていたらしいよ。一回戦ではダガーナイフで見事に勝利を収めたね。』
一方、男。
名をイツキ。
緑色の髪で、中性的な顔をした男。格好は紺色のTシャツに黄土色のズボン。
こちらも機動性に長けた服装だ。腰にポーチを身に付けている。
『イツキは一回戦、奇抜な格好で出ていたね。……確か、メイドだったような。肝心の戦いは、素手で勝利していたね。今回は刺突剣を使うのかな。』
『そして!二回戦からはステージが変わるぜ!!平たいだけじゃつまらないから、ギミックとして瓦礫を置きまくったぜ!!』
『地形を利用した戦いも見てみたいからね。』
『それでは両者!ステージへどうぞ!!』
そう言われて、二人はステージへと上がった。
周りには瓦礫が積まれている。
ビルの残骸のような大きな瓦礫もあり、戦略性が高まりそうだ。
「よろしくな、ハツガ。」
「……うん。」
「ハツガとは一回、戦ってみたかったんだ。」
「…………私も。」
そう。
この二人は知り合い……というだけではない。
霧雨一行として共に旅する仲間である。
お互いの事は大体知っている。
鍵になるのは……2ヶ月、互いを見ていなかった期間。
その間にどれだけ実力を上げたのかが勝負の分かれ目だ。
「……私は負けない。」
「俺も、負けるつもりはない。」
……そもそもの目的は、青と紫に反抗するため黒と同盟を組むこと。
……同盟条件は霧雨一行の誰かが優勝すること。
と、イツキは言った。
しかしそれは嘘である。
本当は、イツキ又はカサが優勝すること。
それを知れば仲間が手を抜くかもしれない。スギネに力を見せつけられない。
だからこそ、イツキは嘘をついたのだ。
「盗る。勝利を。」
「……え。何それ初めて聞いた!!決め台詞!?」
「昨日考えた。」
「お、俺も何か考えようかな……。」
「必要無い。イツキはここで負けるから。」
「……言うじゃねえか。でもたまには格好つけさせてもらうよ。」
イツキはレイピアを抜いて、地面と水平に構えた。
左手は右の二の腕を掴む。
「霧雨の奥へ……誘う。いくよ、十六夜。」
たった今、レイピアに名付けた。
この瞬間からお前は十六夜だ。
『霧雨イツキ!!開始前に武器を構えるのはNGだぜ!!』
「…………すいません。」
……恥ずかしい。
イツキはレイピアを納めた。
『それじゃあ!試合開始だぜぇ!!!』
試合開始のゴングが鳴った。
……あれ?ゴングが鳴った?一回戦では鳴らなかったのに……。
イツキはレイピアを構える。
ハツガは動かない。
それならば……いや、最初から決まっている。
『両者、睨みあったまま動かねぇな!!』
「…………。」
「…………。」
イツキの専売特許「受け流し」。
ハツガだって勿論知っている。迂闊には攻撃出来ないのだろう。
攻撃をすれば、受け流され、体勢を崩され、反撃を受ける。
『二人とも黙ってるな!!』
喋れない。
ハツガは軽い身のこなしを武器に攻めてくるはずだ。
しかし……彼女の性格からすると、静かに狩りにくる。
口に何かを投げ込まれるかもしれない。
暫くはどちらも様子見といったところだ。
「…………。」
「…………。」
やがて静けさに包まれる会場。
観客も息を呑むほど、イツキらは集中している。
喋ってはまずい。彼らの邪魔になる……と、観客達も思っていた。
「……。」
「……イツキ。」
……ハツガが口を開いた。
返事をするべきか?
罠かもしれないが……。
「…………なんだ。」
「…………動かないの?」
「ハツガが動いたら動くんじゃないか。」
その瞬間、ハツガは一歩踏み出した。
「っ……!!」
頬に一滴の汗を垂らすイツキ。
顔が強張る。
構えは崩さない……いや、崩せない。
「動かないの?」
「俺は動くとは言ってない。」
「…………そう。」
「逆に……ハツガから仕掛けてくれたら助かるんだけど。」
かまをかけてみる。
……ハツガは何も言わない。
「俺が十六夜を置いたりしたら……。来てくれるのかな?」
試しに置いてみるか。
イツキはゆっくりと地面に十六夜を置き…………ゆっくりと手を離した。
……それでもハツガは動かない。この行動に警戒しているのか?
イツキはまたしてもゆっくり、上半身から立ち上がった。
すると。
ハツガが懐から光線銃を取りだした。
「動いたっ……!!」
十六夜を手に取ろうとするが間に合わない。ハツガが発砲した。
仕方無くイツキは横へ転がる。
「危なっ……!!ちょっ、うわっと……!!!」
光線の連射。
十六夜は諦める。
イツキは、一先ず瓦礫に身を潜めた。
急いでハツガを確認する。
だが……。
「いない……!?」
ハツガもどこかに身を潜めたのだろう。目視出来ない。
……いきなり不利だ。
こちらはハツガの位置は分からないが、あちらはイツキの位置が分かっている。
……流石ハツガだ。一筋縄ではいかない。
「飛び出すのは愚策だな……さて……どうするか……。」
十六夜を回収したいが、それを狙われる可能性だって十分にある。
「……仕方無いか。まだ出したくなかったが……。」
イツキはポケットからあるものを取り出した。
そのあるものをステージ中央へ投げると、それは白い煙を噴出し始めた。
『これはぁ!!!』
『煙幕だね。』
あっという間に白い煙に包まれるステージ。
これなら目視は出来ない。今のうちに十六夜を回収しよう。
瓦礫から身を出し、走って向かう。
その時だった。
緑色の軌跡が、イツキの頬を掠めた。
「……っ!?」
思わず息を呑んだ。
分かるのか……!?
もう一発。
次は目の前に軌跡が。
イツキは慌てて避けた。軌跡が背後の瓦礫に当たる。
やばいやばいやばい!!
何故かは分からないが、居場所が割れている……!!
十六夜は回収出来ない。
一目散に近くの瓦礫に身を潜めた。
「はぁ……はぁ……!」
危なかった……!
しかし何故ハツガは分かっていたのだろうか……。
十六夜の場所は判明していた。それならその近くにイツキが来るのは分かっているから……当てずっぽう?
「…………待てよ……まさか……。」
……これは予想でしかないが……ハツガなら出来そうな事。
それは「音」。
盗賊であるハツガは静寂は味方につける。それならば……視覚に頼らず聴覚で攻めてきた。
改めて、とんでもない奴と対峙していることが分かる。
「…………。」
何か言葉を口にするのは駄目だ。息づかいですら荒れることは許されない。
落ち着け。それならば煙が晴れるまで待てばよい。
自分の策のせいで機を失うなんて……まだまだだとハツガに笑われそうだ。
「……だからって、本当に笑うなよ?」
イツキは手元の小さな瓦礫を前に投げた。
「……っ!?」
何かに当たったと同時に、それは声を出したのだ。
「やっぱりな!!」
イツキは全力でそれに体当たりをかました。
「ぐっ……!!」
それはハツガだった。
イツキが思案しているときに迫ってきていたのだ。
後ろに重心が偏り、ハツガは背中から倒れた。
「っ……。」
すかさず光線銃を蹴りとばす。
とりあえず攻撃手段を一つ封じた。
イツキは十六夜の回収に向い、手に取ると、まだ倒れていたハツガを斬りつけようとした。
「甘い。」
「……だろうな。」
隙をみせた……と思ったが……ハツガの本来の武器。ダガーナイフがレイピアを止めた。
競り合いになる。
「ぐっ……!!」
「…………!!」
……競り合いが続く。
有利な立ち位置にいるはずだ……ここで攻撃をやめるわけには……!!
イツキは一度競り合いをやめ、ハツガに最後までナイフを振らせた。
今度こそ、隙が出来……。
「ほっ。」
「がっ……!?くそっ……!!」
蹴りだ。突きを避け、両足でイツキの胸を蹴りあげたのだ。
体が宙に浮くが、すぐに地面に足がつく。
くらっとした。
片手をつきながらも、イツキはレイピアをハツガに向けた。
ハツガは……迫ってきている。
ダガーナイフの細かい動きで翻弄するも、イツキも負けていない。
全ての攻撃をいなしている。
後退しつつも、いなしているイツキ。
このままでは防戦一方だ……今はなんとかなっているが……。
何かないのだろうか。
起点は。
・・・・・・・・・
「日光先生、こちらツユ。異常無しです、何もありません。」
「OK。紅はどうだ?」
「特に怪しいやつはいないわね……。」
「それにしても……紫が侵入しているかもしれないって……大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫にするのが俺達、隠密部隊だ。さっさと探すぞ。」
「「了解。」」
遂に始まったぜ!イツキVSハツガ!!
実力者同士の戦いに、筆が進むぜひゃっはー!!
萌葱色の変奏曲を読んでいただき大変恐縮だぜ!
いかがでした?
ありそうでなかったイツキVSハツガですが、ここで実現しちゃったね!
ハツガ相手にどう立ち回っていくのか、乞うご期待ください!
最後に、後書きまで読んでくださった読者の皆様に感謝を込めまして……またお会いしましょう。
Thank You。




