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萌葱色の変奏曲  作者: アフロペンギン
深淵の箱庭編
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第六章「氷結」

どうも、アフロ月です。

イツキは着々とツッコミキャラになっていってます。

…………よし。

 第六章「氷結」




 朝日も昇り、明るくなった午前9時。シンリン村のはずれにある一軒家。


「まぐろー……起きてるかー……?」


 静かに扉を開き、イツキは女の子の名前を呼んだ。

 女の子、まぐろは……どうやら眠っているようだ。しかし昨日のような息の乱れは無く、呼吸は安定しているようで規則的なリズムで寝息を立てていた。

 その傍らの椅子に座っていた女性、ハツガもイツキに気付き朝の挨拶をした。


「お早う。」

「ああ……お早う。まぐろはどうだ?」

「良好。」


 軽く挨拶を交わすと、イツキはまぐろへと歩み寄った。

 腰を屈めて膝をつく。顔を覗きこんでみると、落ち着いた表情だった。


「ふぅ……よかった。これなら、数日後にはここを出れそうだな。」


 トーンを落としてハツガに言う。するとハツガは、コクンと頷いてくれた。


「ハツガもありがとう。ずっとまぐろについててくれて。」


 するとハツガは、今度は横に首を降った。


「役に立てて嬉しい。」


 表情を変えず(と言っても、マフラーで口元が見えないだけなのだが)、言葉を発するハツガ。

 ……う、うん。見えないけど嬉しいのだろう。イツキは苦笑して腰を上げた。


「それじゃあ、俺は下に行ってくる。ハツガは?」

「シャワー浴びたい。」

「ああ……それじゃあハツガも行こうか。」

「イツキ。」

「ん?どうした、ハツガ?」


 呼び止められたイツキ。

 問うも、ハツガは口を開かなかった。

 その妙な間に首を傾げる。


「……えっとー……ハツガ?」

「イツキ。言いたいことがあ……。」

「霧雨くん!!ちょっと来てくれ!!」


 と、ハツガが言いかけたところで。一階からイツキを呼ぶ声が聞こえた。


「なんだ……?ハツガ、後でもいいか?」

「…………うん。」


 少し考えてから、返事をしたハツガ。ごめんなと一言言ってイツキは階段を下りていった。


「……まぐろには話そう。」


 ぽつりと呟くと、ハツガは椅子に座りなおした。



 ・・・・・・・・・



「扉が開かない?」


 一階に戻ったイツキは、先程イツキを呼んだ男性に問う。……いや、問うというより、言葉をそのままに聞き返したと言った方が正しいだろう。

 男性が言うには、外へ出ようとしたところ扉が開かなくなっているらしい。


「……。」


 イツキは黙って扉を押してみた。

 …………確かに開かない。


「……あれ……?本当ですね。」


 そう言いつつ、イツキは扉を引いてみた。押してもダメなら引いてみなという言葉がある。しかし引いてもダメだった。


「それは押す扉だよ。」

「わ、分かってます。しかし……確かに開きませんね。」


 昨晩の間に何か起きたのだろうか。向こう側に重い物

 を運んだとか。それにしては怪しい物音はしなかったが……。

 イツキが考えこんでいると老人、柿山がある提案をしてきた。


「強行手段に出るしかないんじゃないか?」


 それは扉に突っ込めということだろうか?確かに、それしか方法はなさそうだが……。


「でも、大きな音を立てたら青に気付かれる可能性があります。あまり得策ではないかと。」

「……。」


 ふむぅと、柿山は唸った。

 イツキも唸ろうとしたが、埒があかないと考えてもう一度扉を押してみた。


「ふぐぐぐぐおぉぉぉ……!!」


 それでも扉はピクリとも動かない。力んだせいなのか、鼻水も出てきた。


「ぐおぉぉぉうぅぅ……!!!!!ずあぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!!」


 動かねぇ。なんだこの扉。

 イツキはがくりと膝を突いた。


「なんなんだよ……はぁ……はぁ……おかしいだろ……。」


 イツキはそう言うと、もたれかかるようにして扉に背中を預けた。

 見かねた柿山が歩みよってきた。


「やっぱり開かないのか?」

「はい……。」

「それならやはり、ここは強行手段じゃよ。」


 何でこの人、強行手段を推してくるの!?強行手段覚えたての子どもかよ!?


「いやいや。だからそれは」


 ぱき。


「…………。え?」


 今。何か音がした。


「どうしたんじゃ?」

「いや、今何か音が。」


 そっと扉に耳をつけてみる。少しひんやりしていて気持ちいい……じゃなくて。イツキは聞き耳を立ててみた。


「…………。」


 30秒ほど経っただろうか。待つも、先程の音はしなかった。

 気のせいだったのだろうか?


「……。」


 イツキは立ちあがり、扉に力を加えてみた。

 ぱきぱきっと。

 同じ音が続けて耳に入ってきた。すると徐々に扉が奥へと進んでいく。

 これは……開く。

 家の中の人々の目線は、扉に集中していた。ゆっくりと。音を立て開かれようとしている扉に。

 そして…………。

 何かが外れたように、勢いよく扉は開かれた。力を加えていたイツキはそのまま流れるように、前に倒れた。


「ぎゃああああ!!」


 受け身に失敗し、思いきり顔を打ち付け悶えるイツキ。顔を抑えて足をバタバタさせていた。


「だ、大丈夫かい?」


 駆け寄ってくる数人の男女。しかし、その時に聞こえた彼らの足音は異質だった。土を踏む音ではない。聞こえたのは、「氷」を踏む音。


「え……氷……?」

「な、なんだよこれ……。」


 予想外のことに、狼狽える人々。だがイツキにはそんな余裕は無い。


「青……!!」


 視界の端に青い影が見えたのだ。確認すると、見回りしているのであろう数人の青が歩いてきていた。

 こちらにはまだ気付いていないようだが……時間はない。


「皆さん、早く家の中に!!!」

「……っ!!」


 何人かは気付いていたのだろう。一人の女性を筆頭に、次々に家の中へ入っていった。

 だがイツキは寝そべったまま動こうとしない。いや……動けないのだ。目眩がして上手く立てそうにない。


「扉を閉めて!!!」

「えっ……でも君がまだ……!」

「俺はいいから……早くっ……!!!」

「……分かった。」


 扉が閉まると、イツキは青を一瞥してみた。

 気付かれては……いない。

 よかった……。

 唇にキュッと力を入れると、イツキはゆっくりと立ち上がった。

 それにはさすがに気付いたのか、数人の青い影は足取りの間隔を早めてきた。

 苦笑して、一筋の汗を垂らすと、その場を離れるように逃走を図ることにした。



 ・・・・・・・・・



「ここまでくれば大丈夫だろ。」


 追われていたイツキは、寒さに耐えつつ、追っ手をどうにか撒くことが出来た。ホッと胸を撫で下ろすと、姿勢を低くして足下の氷に触れてみた。


「……にしても、何で氷が張ってあるんだよ……。」


 昨日は肌寒かったが、氷が張るほど冷え込んでいた記憶は無い。一体何が起きて、辺り一面氷に包まれているなんてことになるのだろうか。


「何をしているんだ?」


 不意に声をかけられる。

 顔を上げると、一人の男が腕を組んで立っていた。

 黒髪のスラッとした青年。年は、イツキよりか年上だろう。

 紺色のロングコートを身に纏い、手袋をしている。下は黒いズボンに、黒のブーツ。しかし……、どんな服を着ていようがイツキには関係ない。そこは好みの問題だ。それでも、コートの右腕の部分に見えたのは、間違いなく青。青の国の傭兵育成学校「海底の古城」のエンブレムだったのだ。


「……。」


 実はイツキは、この男を、数ヶ月前にテレビで見たことがある。

 それは、とある番組のコーナー。海底の古城特集を見たときだ。

 その番組内で、この男はこう呼ばれていた。


「確か……氷上の魔法使い……でしたっけ。」

「僕を知ってるのか?いやはや、嬉しいものだなぁ。それで?」

「天才とも呼ばれてたような……。」

「うんうん、そうだね。さらに?」

「カ、カッコいいとかなんとか。」

「少し言葉が詰まったけど、まあいい。正解だよ。」


 なんなんだこいつ。謙遜しないのかよ……。

 イツキがそう思い、レイピアに手をかけた。


「……ん?まさか、抜くつもりかい?やめておきなよ。僕には敵わない。それに……。」

「……?」


 顔をうつむかせて、視線だけをイツキへ向ける。その目は冷たく深い闇を携えていた。

 悪寒がして、唾を飲む。

 体が震えて、レイピアを握る手の力が無意識に強くなった。


「手荒な真似はしたくないのだけどね。」


 引き抜くしかない。そう思ったのだが……。


「なっ……!?」


 レイピアを抜くことが出来ない。慌てて見やると、持ち手の部分を含めて右手が氷に包まれていた。

 目線を下にやったから気付いた。さらに足元も凍っている……!


「くっそ……動けねぇ……!!」

「当たり前だろう。僕の力なんだから。」


 そう言って、男は段々と近付いてくる。

 その手に氷刀を「造って」。


「魔法か……だから氷上の魔法使いなんて呼ばれてるんですね。」

「おや、魔法の存在を知っているのか。知り合いに魔法使いでも……。」


 ピタッと。口と足を止める男。不審に感じたイツキは眉を寄せた。


「お前……まさか、深淵の……?」

「……え?」


 歯ぎしりをして落ち着かない様子で、言葉を放つ。


「その左腕のところのエンブレム!どうなんだ!?答えろ!!!」


 ああ……なるほど。何故箱庭の人物だと分かったのか、納得できた。これからはエンブレムは隠しておかなきゃいけないな。その前に、この男をどうにかしなければいけないが。


「……そうですね。あなたの言う通り、深淵の箱庭の生徒です。」

 すると、男は口角を上げた。てっきり怒号を飛ばしてくると思ったのだが。


「ふふ……そうか。となれば、大鷲さんは、しくじったってことかな。」

「……大鷲?誰かは知りませんけど、箱庭を襲撃したのは、やはり青でしたか。」

「そうだよ。あれ?青だって分かってたの?」

「服装やエンブレムで大体は。にしても海底の古城は何故こんなことを?」


 それは、イツキが一番知りたかった理由。何故。法を破ってまでも仕掛けてきたのか。


「ふむ……理由ねぇ。知りたいのかい?」

「当たり前でしょう。」


 ピシッと言い放つ。

 理由も知らずに友を亡くすなんて、吐き気がするほど嫌な気分になる。


「知ってどうする?」

「理由次第ですけど、それ相応の処罰を望みますかね。」

「へぇ。」

「教えてくれますか?」

「断る。」

「残念です。」

「でも……。」


 と、男はまたもや口角を上げて話し始めた。


「今、君は望むと言った。それは無意識に、自分にはどうすることもできないと、悟っているんじゃないのかい?」

「……そうかもしれませんね。」

「まあいいや。それじゃあそろそろいいかな?こっちにも、色々都合があるんだからさ。」


 そのときだった。

 イツキの両足の氷めがけて、小さな緑色の光線が放たれた。光線は見事に氷に命中。氷が削れてイツキは足に力を込めた。


「よっ……と!!」


 足元の氷が無くなり、自由に動けるようになったイツキは、男と距離をとった。


「くそっ……一体なんなんだ……?」

「私。」


 そこに現れたのは、馬に乗った金髪の少女と、灰色の髪の女性ハツガだった。


「ハツガ!!」

「はっ。」


 馬から飛び降りると、ハツガは転がりながら男の前に立ちふさがった。


「なんだい……君は。」

「ハツガ。」

「さ、さすがハツガ。ヒヤヒヤしたぜ。」

「氷だけに?」

「まあ……ハツガ風に言うなら、そうだな。氷だけにヒヤヒヤしたぜ。」

「20点。」

「……ハツガが言ったんだよな?」


 頬に汗をたらすイツキ。

 そんな二人を見て、男は目付きを鋭くした。


「ふざけるなよ。全く……折角の時間を邪魔してくれたね。今すぐ葬ってもいいかい。」


 氷刀を構える男。

 ハツガは短剣を抜いて構える。


「と、思ったけど。失礼、自己紹介がまだだったね?海底の古城所属、夜咫乃やたの カラスだ。」


 夜咫乃 カラス……ああ。確かにそんな名前だったな。珍しい苗字だとは思ったけど。


「イツキ、平気?大丈夫?」


 語呂が良いからなのか、気のせいか、ハツガが少しリズムを刻んできた。


「ああ。」

「平気で安心、しちゃだめ慢心、へいゆーチェケラ。」


 ……チェケラ……?

 これは誘っているのだろうか。


「……相手はあいつ、倒せばナイス、武器はアイス、へいyouチェケラ?」

「うん。なんとなく理解した。」

「……ハツガ。君は自由すぎるよ。」

「ここは任せて。これからのことはヒラメに聞いて。」

「ヒラメ……って、あの女の子のことか?っていうか、ハツガを置いていくわけにはいかないよ。」

「足手まとい。」

「ハッキリと言うね。」


 確かに実力差はあるだろうが……仲間を置いていくことなんて出来ない。

 自分も戦おうと思ったイツキだが、急に体がふわりと軽くなった。


「って、ヒラメ!?何するんだ!!!」

「自己紹介した覚えはないのですけど……。まあいいです。」


 そう言うとヒラメは、馬を走らせた。どうやらこの場を離れるようだ。しかし、イツキにはそれが解せない行動だった。


「離せっ、離せって!!ハツガは……これからのために必要な存在なんだよ!!」

「分かってますわ。だけど、それ以上に貴方は必要な方なのです。」

「どういうことだ……。それで、ハツガにもしものことがあったらどうするんだよ。」

「……それは……。」


 口ごもるヒラメ。やはり戻るべきだ。


「無理矢理にでも戻らせてもらうぞ。」

「へぇ、出来ますの?」

「そりゃあね。実力で言ったらお前より俺の方が上だろ。」

「あらま、心外ですわね。その手のままそんなことが言えるなんて……。」


 イツキの手……そう。先程のいざこざで、イツキの手はレイピアの持ち手とともに凍ったままだ。

 確かに両手が使えない今の状態では、圧倒的不利だろう。戦わずして戻る方法は、馬から転げ落ちるしかなさそうだ。


「貴方が戻ったところで、彼女の言う通り足手まといにしかなりませんわよ。」


 ヒラメの言う通りだ。何も反論はできない。

 黙りこんでしまったのを確認したのか、ヒラメはさらに言葉を続けた。


「一先ず私の住む城へと案内します。この村には派遣隊を寄越しますわ。」


 成程。それならば、幾ばくかは安心だ。それまでハツガが堪えることが出来たらの話だが。

 こういうときは、どう動くのが正しいのだろう。

 複雑な想いを抱えつつ、イツキは馬に揺られていた。

こんにちは。そしてはじめまして。

アフロ月です。

萌葱色変奏曲、読んでいただき大変恐縮です。

稚拙な文章で理解しがたいところがあれば、それは私の勉強不足です。申し訳ありません。

さて第六章……ついに青と対峙しました。

対戦相手をイツキからハツガに代えて、いざ戦闘開始です。

そして名前が分かりました、ヒラメちゃん。

彼女もまた、魚の名前です。

一応国ごとにイメージがあって、それに沿うように名前を付けています。

それにしてもヒラメちゃん。彼女はイツキをどこへ連れていくのか。

もしかして愛の逃避行かも!?きゃっ♪

続く第七章はハツガとカラスが激突。激しい戦いを見逃すな!

最後に、後書きまで読んでくださった読者の皆様に感謝を込めまして……またお会いしましょう。

Thank You。

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