第四章「戦法」
どうも。
肌寒い季節は苦手です。
第四章「戦法」
「それで、私達はどこに向かってるんですか?」
「上。」
あれからどれくらい歩いただろうか。距離にしても時間にしてもどれくらいあそこから離れて、経過したのかが全く分からない。
ついでにイツキの返答も全くもって意味が分からない。
「上って何なんですか?」
まぐろは再び問う。するとすぐにイツキから答えが返ってきた。
「下水道の上の方。簡単に言うと、この下水が流れ出しているところ。前、そこに出口を作ったんだ。」
なるほど、そこに向かっているのか。とまぐろは思い手をポンと打った。
しかしイツキの言葉に、ある疑問が出てきた。
「……作った?」
「俺がまだ1年生だった頃、レイさんとタッグを組んでたっていうのは言ったよな?」
「初耳です。」
「あれ。そうだっけ?と、とりあえず、そのときにつきっきりで修行をしてもらってたんだけどさ。厳しくて厳しくて……逃げた時期がありまして。」
「あー、そういうことでしたか。」
まぐろの位置から顔は見えなかったが、恐らくイツキは苦笑しているはずだ。肩を落として足取りが重くなった気がするから。
「まあ、その出口は俺とレイさんしか知らないはずだから、他よりかは安全に出られる。」
「おー。」
「本当?」
「ああ、本当だ。場所だってまず分からないしなんせ下水道だしな。人なんてそんなに来ない。」
「あはは……確かに、下水道に人はいませんよね。」
「私も見たことはない。」
「俺もないなー。」
「……。」
ん?今、何か違和感があった。確か会話に……?
「まぐろ?」
「はい?」
「お前、二重人格だったりする?」
「いきなりなんですか!?そんなことありませんけど……?」
「俺も違う……はず。」
「私も。」
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イツキはそっと顔を後ろに向けた。暗くてよく見えないが手前にはまぐろ。不審に思ったのかまぐろも見返してくる。
いや、違うって。まぐろじゃなくて。その後ろにいる背の高い……。
「だ、だだだだだだだだ誰だぁぁぁ!!!!!」
「きゃあああああ!!!??」
イツキがいきなり大声を出したので、まぐろは驚いて、叫びながらしゃがんだ。
「早かった……私もまだまだ……。」
そう言って、その背の高い……声からして女性は視線を落とした……ように見えた。
「まぐろ、離れろ!!」
新手の敵と思い、イツキはまぐろを横へ飛ばした。
すぐあとに水音が聞こえるが今はそんなことは御構い無しだ。すぐに腰に差していたレイピアを抜き、構える。
「何者だ……?」
「こっちの台詞。あなたこそ何者?」
「自己紹介したら、そっちも名乗ってくれるのか?」
「……。」
頷いているように見えた。
「霧雨イツキ。17歳、男。」
「……。」
「お前は?」
「名乗るほどの者ではない。」
「なっ、ず、ずるいなオイ!!使いどころもちょっと違うし!!」
ペースを崩され、少し動揺してしまった。それでも構えは崩さない。
「さっきの女の子は?」
「まずお前の番だろ。」
「さっきの。」
「いやだから……。」
「女の子。」
「……神崎まぐろ。15歳……だったはず。女。」
「そう……。」
女性はそのまま黙ってしまった。
下水道には沈黙が流れ、水の音のみが鼓膜を震わせる。
その沈黙を破ったのはその女性だった。
「ハツガ。」
「え?」
何を言っているのか分からずキョトンとしてしまうイツキ。訳が分からず聞き返してみる。
「何が?」
「私の名前。ハツガ。」
「発芽?」
「今、イラッときた。」
短剣を取りだし構えるハツガ。
「ごめんなさい、ふざけました許してください。」
イツキは構えを解かずに必死に許しを請う。なんとなくだが実力はあちらの方が上の気がした。
「分かってます。ハツガですね!ハにアクセントを置けばいいんですね!!うん!!」
「……。」
そう言うと、ハツガは黙ったままこくんと頷いた。
そのまま短剣を背中のカバーに収めてこちらをじっと見つめてきた。
「敵意はない。そう言いたいのか?」
イツキが問うと、ハツガは頷く。……少々無口な人のようだ。
この際だ、少し観察してみよう。
髪は灰色。軽くウェーブがかかっており肩までかかっている。ジトっとした少し気だるそうな目だ。
左の耳元にはイヤホンのようなものをはめている。
口元をスカーフのようなもので隠しており、マントを羽織り、黒を基調とした露出の少ない動きやすそうな服装だ。
「マントねぇ……レイさんが着そうだなぁ。」
「……?」
「ああすまん、こっちの話だ。それでハツガ。何でこんなところに?」
「……こっちの台詞。……同業者?」
と言われても……イツキは苦笑した。箱庭の制服を着た自分と同業者なわけがないだろう、と。
「ハツガは何者だ?」
「それは言えない。盗賊なんて。」
「……盗賊なんだな。」
「……。」
眉をひそめるハツガ。
釣られてイツキも笑ってしまった。
「あっはは……素性が知れたんだ。とりあえず、何もしないっていうならこちらにも敵意はない。」
レイピアを収めて手を前に出す。
「……?」
「深淵の箱庭所属の、霧雨イツキだ。よろしく、ハツガ。」
「……。」
再び眉をひそめるハツガ。
握手はまずかったのだろうか。
「あ、ごめん。握手はダメか?」
手をひっこめるイツキだったが、ハツガは左右に首をふる。
「……もしかして、今回の仕事先が箱庭だったとか?」
頷くハツガ。……つまりここから学校に入ろうとしたのか。
「こんな状況でよく行こうと思ったな。いや、こんな状況だからこそか。」
「状況?」
「え?まさか知らない?」
「何のこと。」
どういうことだ?
確かに襲撃からあまり時間は経っていない。学校にいたのだって、1,2時間程度だ。
それでも爆発が起きたりしているんだ。騒ぎくらいにはなっているはずだが。
「……下水道にはどれくらい前からいた?」
「10分。」
「は!?それなら、爆発があったことくらい知ってるだろ!?」
「……?」
首を傾げるハツガ。
待て。爆発も知らないってどういうことだ?
「……本当に……知らない?」
「少なくともラジオにはそんな情報は入ってない。」
左耳にはめていたイヤホンをつつきハツガは答える。
「貸してくれ!!」
飛びかかるようにハツガに詰め寄るイツキ。
気圧されるような素振りもせずに、ハツガはイヤホンを渡した。
お礼を言うとすぐさま耳にはめる。
「………………。」
聞こえてくるのはあっけらかんとしたパーソナリティーの声だ。
「チャンネル、等間隔で変えてくれ。」
イツキは目線だけをハツガに向ける。頷いて返すハツガ。
どの番組も、学校のことは何も報じていなかった。
どう考えても世界的な問題のはずだが。
「…………ありがとう、ハツガ。」
イヤホンを手渡すと、イツキは深呼吸をした。
まだ伝わっていないのか、電波自体がジャックされてるのか……そんなことを考えながら。
「それじゃあ、ハツガ。機会があったらまた会おうな。仕事をするなら、今は行かない方がいいぞ。」
「……。」
ハツガが首肯したのを確認するとイツキは「じゃ。」と手を振り駆け出そうとした。だが……。
「待って。」
「うわっとっ!?」
突然ハツガに袖を掴まれてよろけてしまう。
「……どうした?」
「一緒に行く。」
「なんで!?」
「迷惑?」
「いや迷惑ではないけど……。」
「困ってる。助けたい。」
助けてくれるのは有難いのだが……。
先程知り合ったばかりの自分を……イツキには訳が分からなかった。
「お前には関係ないだろ?」
「助け、必要ない?」
「それは……。」
「遠慮してるならそんなのいらない。素直になっていい。」
「ハツガを巻き込みたくない。関係ないんだから。」
「ないとダメなの?困ってる人は見過ごしちゃダメだって、教えてもらった。」
「来るな。付きまとうな。いいな?」
「なんで?」
中々引き下がらないハツガに、タガが外れたようにイツキは怒鳴った。
「だから関係ないって言ってるだろ!?俺はなぁ!!もう!!!知り合いに!!!」
ハツガの胸ぐらを掴み叫ぶ。
「死んでほしくないんだよ!!!嫌なんだよ!!!!お願いだから!!!付いて来ないでくれ!!!!!」
「……。」
なんだこいつ……そう言いたげな目をして見下すハツガ。
「……何かいいたげだな?ハツガ。」
「言っていいの?」
「勝手にどうぞ。」
胸ぐらから手を離して顔を背ける。少しよれた服を整えて、ハツガは口を開いた。
「調子に乗るな。」
「……はあ……?」
「死んでほしくない?私の何を知ってそんなことを言ってるの?黙れ餓鬼。」
「はあ!?」
驚きと怒りが入り交じり思わず声をあげたイツキ。
「イツキは何も出来ずに逃げてきたんでしょ?」
「……!!」
それには何も反論できなかった。それはそうだイツキには何も出来なかった。友達も守れず、まぐろには怪我をさせ、弱いからこそレイを置いていくようなことをしてしまったのだ。
「何かしたいでしょ。」
「……え?」
「仲間のために何かしたいでしょ?イツキがするべきことは何?こうやって言い争うこと?違う。」
今度はイツキの胸ぐらを掴む。
「イツキには今するべきことがあるでしょ。それが、助けを求めること。」
「……。」
「武器を振るい傷付けるだけが戦いじゃない。今、起こっていることを第三者に伝える。それが今のイツキの戦い方だと思う。」
「俺の……戦い方?」
「うん。ここで会ったのも何かの縁。そう考えて一期一会を大事にしよう。」
そう言われると、イツキは黙ってしまった。するとハツガは、「関係ないけど」と続ける。
「深淵の箱庭には、私の妹がいるの。」
「……えっ?」
箱庭に……?
「そんなとき、イツキなら助けてくれる?」
「それは勿論。」
「そう。でもそれはイツキには関係無い。それと同じこと。」
「ハツガ……。」
「お願いだから助けさせて。イツキ。」
「………………。」
どこか悲しげな表情を浮かべるハツガ。イツキは唾を飲み、目を合わせ続ける。いや、背けることが出来なかった。
何とか声を出す。
「……それなら、こっちからもお願いしていいか?頼む、俺達にも、お前を助けさせてくれ。」
「……。」
ハツガはこくんと頷いた。
いきなりあんなに喋るから驚いたが……やはり無口な方が似合うな。
微笑するイツキだった。
何はさておき、これで共闘する理由が出来た。
「霧雨先輩。」
「うわっ!?まぐろ!?」
横から急に声がして、驚いてしまう。
「……私のこと、忘れてましたよね?」
「え。あ、いや……ごめん。その、突き飛ばして……。」
そういえば、ハツガがいきなり現れたためまぐろを突き飛ばしていたのだった。
下水に。そう、下水に。
慌てて弁明するも、まぐろは顔をしかめている。怒っているのだろう。いや、これは間違いなく怒っている。
「仕様がないですけどね……それでも、やっと上がってこれたんですから。」
「ああ……すまん。それで、話は?」
「聞いてましたよ……。よろしくお願いします、ハツガさん。」
「よろしく。」
和解……出来たのだろうか?
こうしてイツキは、新たにハツガを加え……まぐろ、ハツガと共に、下水道の出口を目指すことになったのだった。
・・・・・・・・・
「全身びしょびしょですよ……どうしてくれるんですか、霧雨先輩。」
「……落ち着いたら服買ってやるよ。」
「お願いしますよ?もう……髪の毛に臭いが…………髪……髪の毛に……あれ?」
「ん?どうした?」
様子がおかしいまぐろ。
イツキはそれを不思議に思った。
「わ、私の髪の毛……切れてる……?」
「え。今まで気付いてなかったのか?」
「え。え。一体いつからですか!?」
「ほら……渡り廊下でまぐろが髪の毛掴まれて……で、俺が助けたときに……。」
「あ、あのときですか……!?うわああん、何か変な感じ……。」
まぐろの髪は、左目が隠れた前髪、後ろはポニーテールだったはずが……今は後ろ髪が、ぱっつんになっていた。
「それはそれで似合ってるからいいと思うけど?」
「私も。」
「まあ……それならいいですけど。」
「あと少しで出口だ。確か……シンリンっていう村の近くに出る。」
「シンリンですか!?」
「なんだ、まぐろ。知ってるのか?」
「知ってるも何も……私が住んでる村です。」
「…………はい?」
こんにちは。そしてはじめまして。
アフロ月です。
萌葱色変奏曲第四章、読んでいただき大変恐縮です。
いかがでしたでしょうか?
稚拙な文章で理解しがたいところがあれば、それは私の勉強不足です。申し訳ありません。
さあ、第四章ですが……新キャラと、物語が少しずつ動いています。
ハツガはあまり喋ることがない設定のはずが……途中ベラベラ喋ってましたね。最初で最後かもしれませんので、ハツガファンの方は覚えておきましょう。
そして、箱庭襲撃が知れ渡っていないという事実が浮かんできました。その部分は勿論理由はあるので、お楽しみに。
続く第五章では…………新たに仲間を加えたイツキ達、それでも問題は起きちゃうわけです。
最後に、後書きまで読んでくださった読者の皆様に感謝を込めまして……またお会いしましょう。
Thank You。




