第十章「ハロープリンセス」
アフロ月です。初投稿から一週間程経つのですが、たくさんの方に読んで頂いているようです。
貴重なご意見も頂けて嬉しいですよ!
感謝感激です!
第十章「ハロープリンセス」
「俺の闇に喰われろ!!」
「おじさん変なのー!」
「エトさん、連携!!」
「分かってるよ。」
「まだまだなのだよ!」
深淵の箱庭にある寮は凄まじく荒れていた。
5人の実力者達が、ところ狭しと戦闘を繰り広げていたからだ。
「海岐華、後ろ!!」
「っ!!」
「うわわわ、つばめ、どいてぇぇ!!」
「きゃっ、ちょっ、ヒナさん……!ぐふっ!」
「りゃあぁぁ!」
ヒナと呼ばれた少女は双剣で攻撃を仕掛けるが、海岐華と呼ばれた女性に側転で避けられ、別の女と接触を起こしていた。
「痛いよ、つばめ!どいてよ!」
「すみません……、しかし今はヒナさんがどいてほしいと言うか何と言うか……。」
「りゃあ……。」
「お前ら伏せろ。」
すると二人の後方から、低い男の声が聞こえた。
男が腕を振ると、腕全体に付けられた機械の拳型武器から巨大な高エネルギーの光が射出された。
周りの壁を吹き飛ばしながら、刀を持ったおじさんに向かっていく。
「フッ、こいつぁ強いなぁ……!!!」
いい顔をしながら、おじさんが必死に避けると後方には大きな穴が空いた。
おじさんはその穴を一瞥すると、
「待て……まだ封印を解くべきじゃない。落ち着け、シャドウウルフ……!!」
と、左手に呟いていた。なんてことない中二病である。
「大丈夫ですか、日光先生!!」
「ああ。なんとかな。」
「今のを避けるのか、あんた。やるじゃねぇか。」
……海岐華 レイ&日光 群彰の箱庭ペア。
対するは、大柄な男・エト&キャスケット少女・ヒナ&着物女・雨燕の、古城の三人組だ。
かれこれ30分以上戦っているのだが、決着が着かずにここまでもつれている。かすり傷程度はあるものの、致命的なダメージを、どちらも与えることができていないのだ。
「立てるか?」
大柄な男エトは、接触事故を起こしていたヒナと雨燕に手を差し出した。
雨燕が手を握ると、エトは力を入れて引っ張り雨燕を立たせた。
「すみません。」
「怪我は?」
「していません。」
「ならよし。」
雨燕の全身を一瞥したエトは、レイ達がいる方へ向きを変えた。そしてこう言う。
「埒が明かねぇな。どうだ?一つ提案なんだが……。」
「なんだね?」
「なんだ?」
「捕虜になれよ。悪いようにはしない。」
「「断る。」」
二人同時に言う。
これにはさすがに驚いたのか、エトは言葉を少し詰まらせた。
「……ま、まあ、それなら仕方無ェな。二人とも実力があるだけに残念だ。」
「「い、いやぁ、それほどでもあるっすよ。」」
二人同時に言う。
これにはさすがに引いたのか、エトは言葉を詰まらせた。
「…………。」
「エトの顔、変。」
「うるせぇよヒナ。」
不機嫌そうに口を尖らせるヒナ。事実、「ぶぅー」と言っているので不機嫌なのだが。
「でもヒナね、ヒナね、もったいないと思うの。せっかく強いのに、ほりょにしたらつまんないよ。」
「……いや、俺は寧ろありがたいけどな。」
「りゃあ……。」
……時々、ヒナが言う「りゃあ」ってなんなんだ……。エトがそんなことを思っていると、じれったい様子の雨燕が口を開いた。
「戦闘中に、何をしているのですか!ヒナさん、エトさん!!来ますよ!」
雨燕の言葉に、ハッとなる二人。
見たときには、レイは巨大な炎の拳で。日光は居合いの構えでこちらに向かってきていた。
「海岐華、タイミング合わせろよ。」
「そちらもなのだよ。」
三人へと接近し、せーのっ、と言った瞬間。
レイにはエトが。日光にはヒナが向かい合った。合図も何も無かったところをみると、まさしく阿吽の呼吸といったところだ。
レイはそのまま拳を前に出し、炎の拳撃を与えようとしたのだが……。
「あ。」
突如、纏わせていた炎が消えて見事に空振ったのだ。
魔力切れ……ということだろう。血液の循環に比べて、血液中の魔力の循環はとても遅いものなのだ。それに加えて、連戦や長期戦。レイの魔力は0に近かった。
「海岐華!!!」
すると日光は進路を変えてレイとエトの間に割って入った。
レイに対抗しようとしたエトが、高エネルギーの光拳を放とうとしていたため、レイを庇う形でダメージを喰らってしまった。
「がっ……!!!」
「日光先……ぐっ……!!」
「隙ありー!」
日光に対抗しようとしたヒナも、対象を失ったことからレイへと攻撃を仕掛けていた。
度重なる双剣での攻撃に、レイは深手を負いながらも日光を連れてなんとか距離をとった。
「日光先生……はぁ……大丈夫ですか……?」
返事は無い。呼吸はしているものの、抉られたような傷が痛々しい。
「ふふ、大ピンチ……ということだね。」
力無く笑うレイ。というかこれはもう、笑うしかなさそうだ。
「ふふ……あはは……!あっはっはっはっ……!!はっはっはっはっはっはっ!!!!!」
「な、なんだ……。」
笑い始めたレイに、不審な目を向けるエト。込み上げてくる笑いが収まりつつあるとき、レイはこんな言葉を言った。
「ふふ……やるではないか諸君。さすがは海底の古城だ、強いのなんの。でも……こんなものじゃあ、まだまだなのだよ。私を倒したいのなら、この世から消すつもりで来たまえ。抹消だよ抹消。」
不敵に笑い、手を曲げて挑発する。しかも抹消コールでさらに煽る。
「抹消、抹消!!」
「うがー!エトさん、ヒナさん、やっちゃいましょう!!」
「挑発もしくは鼓舞。魔力切れなんだろうが、どちらにしろ近付く必要は無い。いいな雨燕、ヒナもだ。」
「わ、分かりました……。」
「うん!」
「うーん、来てくれないとは……。それならクイズでもどうだい?」
「わー!ヒナね、ヒナね、クイズ大好きなの!」
「ふふ、お姉さん嬉しいねー。それでは問題なのだよ!チャーラン!」
するとレイは、握っていた右手を顔の横に持ってきた。
「先程の戦闘で、私の炎が消えたのは知っているね。では、それが消えたのではなかったら?」
「……どういう意味だ。」
「もう少し考えてほしいなー……。簡単なことなのだよ。私は炎の造形が得意なのさ、先程の炎は消えたのではなくてただ小さくしただけさ。」
「……へえ。だから?」
「ふふ、答えはこちら!」
レイは一瞬だけ拳を開いてまたすぐに閉じる。
その瞬間に、レイの左前方で小規模な爆発が起きた。
「!?」
反射的に三人は身構える。それを見たレイはにこりと笑った。
「ふふ、いい顔をするではないか♪これは縮小した炎を包む圧力を解放して、爆発を生み出しているのだよ。」
「……ガスなら発生中だが、穴だらけで空気の通りはいいと思うが。爆発の条件が揃ってねぇ。」
「私の造形は圧力を使っている。包む圧力を、シャボン玉みたいなものと考えてほしいのだよ。気体……この場合だとガスを閉じ込めて膨張させて、中の圧力を高めたのさ。」
「……なるほどな。それで包む圧力を解放すれば、高圧のガスが噴出されて爆発を起こすと。」
「どうだい?その見えないくらい縮小した炎を散りばめているのだよ?…………動けるものなら動いてみたまえ。」
これは……動きづらい。
三人はそう思った。何故なら対処法が思い浮かばないのだ。見えないものを避けるなんて、まず不可能であるし、爆発を一瞬で起こせるのだ。今の装備じゃ防御のしようが無い。
踏ん切りがつかないでいると、またもやレイが口を開いてきた。
「それじゃあ、もうひとつクイズでも出そうか。」
「でもお姉さん、ヒナむずかしいのはいやだよ。」
「次は簡単なのだよ。先程から私はこうやって喋っているけど……種明かしが目的なのでしょうか?○か×か!」
「んーと、んーと……。」
「ヒナさん……これ、一応戦いですからね。」
「うるさいよー!考えてるんだから!」
「す、すみません。でも種明かしが目的ではないとしたら……?」
「……まさか!?」
「えっ、気付いたのかね。そのまさかだと思うのだよ。」
エトは後ろに振り向く。
そこには、2メートル付近まで、ある男が近付いていた。
「あっ、バレた?」
すぐさま雨燕が襲いかかる。左肩から右脇腹を斬る袈裟切りだ。
しかし男はその刀を……「受け流した」。
「なっ……!?」
思わず声が出る雨燕。
走りを止めない男は、そのまま突っ切るようだ。
「させねぇよ。」
「させないよ。」
エトとヒナが、各々攻撃を繰り出す……のだが。
「うわっと……!」
「りゃーー!?」
その男の技に、ダメージすら与えられなかった。
男はレイの前に来ると、走りを止めて敵の方へ振り返った。
向きは敵の方だが、この言葉を紡ぐのはレイに対して。
「ハロー、プリンセス。ご機嫌いかが?」
その男は緑髪で、黒いレイピアを持っていた。レイピアの鍔は、深紅色の花を模している。
そう。深淵の箱庭第26期生所属、霧雨イツキだ。
「久し振りだね、イツキ君。全て受け流すなんて、やるではないか。それに来てくれたのだね。」
「どうも。そういうレイさんこそ、よく生き残ってましたね。見るからに強そうな人達ですけど。」
「当たり前ではないか。」
「そうですか、でも俺だって来るのは当たり前ですよ。」
「「約束したから。」」
二人はニッと口角を上げると、イツキは構え、レイもイツキの横に並び構えた。
「レイさん。最初に言っておきますが、ここは逃げ一択です。」
「え、な、何故なのだ。」
「俺が来たと言っても、不利な状況に変わりはありません。それに……。」
「それに?」
一瞬の躊躇いを見せた後、イツキはこう言った。
「不変迷彩が使われているんです。」
「……なるほど。それは厄介であると言わざるをえないね。」
「敵は俺がなんとかします。その間にレイさんは、日光先生を運んでください。外にメイドがいるのでそこまでお願いします。」
「……イツキ君。きみはいつの間にそのような趣味を……?」
「違いますよ!?とにかく頼みました!!」
「了解なのだよ!」
するとレイは早速、日光を担いで駆け出した。
「行かせねぇ!」
「それは此方の台詞です。」
「くっ……!!」
追いかけようとしたエトの足が止まる。迂闊に攻撃は出来ないし、かといって何もしなければやられる。一体どうしたら……?
「はあっ!!」
なりふり構わず、雨燕が攻め立てる。袈裟切り、逆袈裟、薙ぎ、刺突。様々な切り方をしているが全てイツキに流される。しかも、後方に避けさせるように巧くカウンターを仕掛けてくるため、退がるしかなく奥に抜けることが出来ない。
「くぅ……やりますね。」
「受け流しは俺の専売特許ですから。」
それを聞いたエトが、何かに気付いたようで声をかけてきた。
「じゃあ、レイピアの代名詞、突きの方はどうなんだ?」
ギクッ。
図らずも動揺をしてしまうイツキ。
「体は正直だな 。」
「誤解を生みそうな発言、やめた方がいいですよ!?」
……まさか敵にツッコミをかますとは……余裕だなぁ。いや、でもこれは、あっちが悪いし……。
イツキが唸っていると、エトはお構い無しに駆けてくる。我に返ったイツキが受け流そうとするのだが……。
「三葉崩し……って、ちょっ!?」
「やっぱりな。」
エトは攻撃をせずに、横を素通りしようとした。三葉崩しは受け流しの技。つまり、相手が攻撃をしないと成り立たない技なのだ。反応に遅れて、エトを通してしまいそうになる。
「させないっての!」
エトの右袖を掴み、進行を妨げる。
「ヒナ。」
「うん!」
エトに呼ばれたヒナが、イツキの右腕めがけて剣を振り下ろす。それはエトの袖を掴んだ方の腕だ。切り落とす気だろう。
「やべっ……!」
急いで手を引っ込めるイツキ。腕は無事だったものの、エトはそのまま走り去ってしまった。
「ヒナもー!」
「失礼します。」
「あっ!?」
エトに気をとられてしまったせいか、ヒナと雨燕の進行も許してしまう。
「…………。」
……顔がひきつってしまう……。そんなイツキの後ろには……。
「お待たせしました、イツキ様。」
「あ……うん。ありがとうございます、ミノリさん。」
そう。
ヒラメに仕えているメイド、ミノリが馬に乗ってそこにいた。
いや、いたと言うより今しがた来たと言った方が正しいだろう。
馬の背中には、ミノリ、レイ、そして気を失った日光、一人の女性が跨っていた。
「ブルルルル……。」
「ごめんな。もう少し頑張ってくれ。」
イツキはぎゅうぎゅうに詰まった馬の背中に跨ると、ミノリに頷いた。
ミノリが頷き返し、馬を走らせる。
「行きますよ、エクステンドウルティマロングロングアゴーパフェ。」
「長っ。」
「ヒヒイィィィィィン!!!!!」
駆けるとすぐにスピードにのる、エクステンドウルティマロングロングアゴーパフェ。
「目指すは校門です。」
「ブルルルルヒヒヒヒヒイィィィィィン!!!!」
「テンションが高ぇ!!」
エクステンドウルティマロングロングアゴーパフェは、荒れてしまった箱庭を駆ける。途中、青を見かけることはあっても、箱庭所属の者を見ることはなかった。……否、正確に言うと生きている箱庭所属の者を見ることはなかった。
気持ちを暗くしていると、
あっという間に校門前に差し掛かる。
「なんだ!?」
「さっきの馬だ!!!絶対に通すんじゃねえぞ!!」
校門を担当していた青が、イツキ達に気付いて立ち塞がる。
「いや、危ないって!!馬だからな!?しかもテンション高いし!!」
イツキの警告も構わずに、青は武器を取り出すのだが。
「ブルルブルルルルヒヒヒヒヒヒイィィィィィンヒヒヒヒイィィィィィン!!!!!」
「うわあっ!!」
テンションの高いエクステンドウルティマロングロングアゴーパフェに為す術もなく吹き飛ばされるのだった。
「……だから言ったのに……。」
頬に汗を垂らして言うイツキ。
斯くして。霧雨イツキは、レイや他の仲間を救出し、箱庭脱出を成功させたのだった。
……そして内に秘める。いつの日か箱庭を取り戻すと誓ったことを。
「エトさーーん!ヒナさーーん!…………もう、二人ともどこへ行ったのですか…………ん?」
「こっちから……ですね。ピアノの音がするのは……。」
「音楽室……白い髪の女の子?」
「……だれ?」
「あ、すみません。私は雨燕と言います。」
「……。」
「こ、こんにちは。えっと、貴女は?」
「……わたし?」
「キョロキョロする必要ありました?貴女以外、ここにはいないでしょ?」
「……。」
「いや、誰も貴女が持っているぬいぐるみに話しかけていません。格好を見る限り、古城所属では無さそうですが……。」
「……。」
「まあ、いいです。ここで何を?」
「ぴあのひいてた。」
「先程のピアノは、やはり貴女でしたか。……よくこんなところで弾けますね。」
「……こんなところにしたのはあなたたちでしょう?」
「うっ……。返す言葉がありません。」
「なんで?」
「え?」
「なんでこんなことしたの?」
「……指示ですよ。海底の古城の長からの。」
「あなたはこんなことがしたいの?」
「…………正直、私にはまだ迷いがあります。間違ったことじゃないのか、って。」
「……。」
「でも、これはやらなければいけないことなのです。」
「……。」
「先程言いましたが、私には迷いがあります。ですから、まだ、人を殺めるようなことはしていません。」
「でもきずつけた。」
「……はい。」
「ぴあの、ひこう?」
「えっ……。」
「いっしょに、ひこう。」
「はあ……まあ、エトさん達は後にしましょう。いいですよ、何を弾きましょうか?」
「……。」
「そうですね……。私が来る前に、貴女が弾いてたのは何と言う曲なのですか?」
「……げっこう。」
「へぇ……古い曲を御存知なのですね。それでは、私にその月光を教えてくださいますか?」
「……うん。」
「ありがとうございます。まずはどの音を?」
「……。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
「…………うん。」
「……うん。うん。」
「…………ううん。」
「…………おいしい。」
こんにちは。そしてはじめまして。
アフロ月です。
萌葱色変奏曲を読んでいただき大変恐縮です。
いかがでしたか?
稚拙な文章で理解しがたいところがあれば、私の勉強不足です。申し訳ありません。
遂に第十章!萌葱色変奏曲!
イツキは無事にレイ達を助けることができました。
では何故助けることができたのか。
それは偶然です。偶然が重なったからこそできた作戦だと思っています。
もしもレイに助けてもらっていなかったら。
もしもハツガに出会わなかったら。
もしもヒラメがいた家に入っていなかったら。
もしもカサやサゴと共闘していなかったら。
イツキだけでも、「もしも」の数は沢山あります。
だからこそ。それは運命なのかもしれませんね。
……これ、日常で使っていいですよ。
そして始まるは新編!「白桃編」!
イツキ達が目的とする事とは……?乞うご期待!
最後に……後書きまで読んでくださった読者の皆様に感謝を込めまして……またお会いしましょう。
Thank You!!




