第四章「わだかまり」
紅「今回は私ね。」
イツキ「あれ?主旨が分かっているんですか?」
紅「犬槇に聞いたからね。イントネーションを言えばいいのよね。」
イツキ「はい。お願いします。」
紅「いや、イントネーションもなにも、一般的な『紅』と同じでいいけど。」
イツキ「……あー……まあそうですね。はい。ありがとうございました。」
紅「扱いが雑!!」
深淵の箱庭奪還編
第四章「わだかまり」
まわりはすっかり暗くなり、そよ風が吹く。
木々が揺れる音が聞こえて、座っていたイツキは一つ溜め息を吐いた。
「…………はぁ……。」
空には無数の星々。明日は晴れそうだ。
「……霧雨先輩……!」
後方から声がした。
「……まぐろ……。」
黒髪をなびかせていたのは、神崎まぐろ。
イツキのタッグ兼後輩である。
「もう少しでご飯です。戻りませんか?」
「ん……ああ、そうか……。うん、すぐ行く。」
笑顔で返すつもりが、少しひきつってしまった。
「…………。」
まぐろが黙ってしまったのは、それが原因だろう。
「隣。」
「え?」
「隣、いいですか?」
イツキと打って変わり、屈託の無い笑みを浮かべるまぐろ。
この笑顔で、今まで何人の人を安らげてきたのか。
「楽しくないぞ。」
「構いませんよ。」
まぐろはイツキの横に腰かけた。
「地面、冷たいです。」
「まあ……夜だし。」
「少しひんやりした感じがいいですよね。もう7月ですから。」
「そうだな…………もう、7月なんだな。」
4月が襲撃された日だから……3ヶ月経つのか。
その3ヶ月で環境は変わった。変わりすぎなくらいだ。
「本当なら。」
まぐろが呟くと、イツキは「おう。」と聞き手になった。
「箱庭で、授業を受けて、友達と話して、お弁当食べたり、訓練したりしたんでしょうね。」
「おう。」
「それで寮での共同生活が始まって、レイ先輩が遊びに来て、仲良くなって、授業は日光先生やツユ先生がやって…………ああ、そういったことをやっていたのかもしれません。」
「おう。」
「平和って言葉が似合う、そんな生活があって……。」
「おう。」
「でも霧雨先輩。親父さんとの関係は変わらないと思います。」
「…………。」
「親父さんと一緒に居れる今だからこそ、何かが変わると思います。」
「……なあ……まぐろ。」
「はい。」
「……飯、食おう。」
「…………はい。」
物憂げな表情を浮かべて、まぐろは立ち上がった。
「私……まだまだ……。」
・・・・・・・・・
「うおおおおおお!!!」
「だあああああああ!!!!!」
「何やってんだお前ら……。」
今日の晩御飯はカレーライスだった。
だったのだが……。
カサと犬槇がなにやらカレーライスをかきこんでいた。
「……カサはまだしも、犬槇までボケキャラになるなよ……。」
「うおおおおおお!!!」
「誰もボケてねえ!俺は今、こいつと勝負してるんだ!」
「勝負……?」
…………まあ、聞かなくても分かるが。
「うおおおおおお!!!」
「大食いだ!これに勝てば、明日のおかずを一つ奪えるんだよ!!」
「くだらねっ。」
心底くだらないと初めて思った。
なんて平和な仲間たちなのだろう……。
「……はぁ……いいよ、好きにやってろ。」
「言われなくてもな!」
そう言うと犬槇は、大食い勝負へと戻った。
「俺も食うかな。」
苦笑して、カレーの入った鍋へ歩み寄る。
……思ったのだが、もしかしたらここに居る人全員、会ってないかもしれないのだ。
犬槇は赤の国で傭兵育成機関長の補佐をしていたと言っていた。
カサは二重薔薇ノ園という都市で、親衛隊の隊長だった。
この事件がなかったら、この二人とは会っていないのかもしれない。
「……。」
襲撃に感謝することは出来ない。
だが、悪いように狂ったこともあれば、良いように狂ったこともある……ということだ。
「…………美味そうだな……。」
……でも。
……でもごめん。
まぐろ。まだ俺は変われない。
親父を好きになることは、今の俺には無理だ。
萌葱色の変奏曲を読んでいただき大変恐縮です。
いかがでしたか?
お腹痛い。
深淵の箱庭に着く前に、挿し絵が欲しいところです。
じゃ、後書きまで読んでくれてありがとう!
Thank You。




