第八十九章「先程からずっと、何かが無いのだ」
親父「…………ん?どこだここ?」
イツキ「げっ。もう親父の出番なのかよ……。」
親父「親にむかって、『げっ』ってなんだ。で、これはなんだ。イントネーションコーナー?」
イツキ「ああ、名前のイントネーションを教えてくれっていうコーナーだよ。折角だし頼むよ。頼みたくねぇけど。」
親父「おい。……つってもイントネーション?親父にイントネーションの問題なんてあるのか?」
イツキ「……そう言われたら無いわ!!くそっ、頼んで損した……!!」
親父「お前どんだけ俺のこと嫌いなの!?」
黒い雪原編
第八十九章「先程からずっと、何かが無いのだ」
「……ふぅ……。」
一つ息を吐き、まぐろは腰に剣を収めた。
黒の闘技大会決勝戦。
24人から6人まで減り、その6人も遂に……。
「これは……どうしたらいいんでしょう。」
「ワシに聞かれても分からんよ。」
白髪で巨体の男、シンゲンは、うつ伏せで倒れたまま答える。
「犬槇さん。」
「俺も分からねぇよ。」
仰向けで倒れている茶髪のイケメンは犬槇。自滅に近い形で、空を仰いでいた。
「き、霧雨先輩!」
「そうだな……。」
フラフラと立ち上がるのは、霧雨 イツキ。
まぐろの先輩で、タッグを組んだ相手である。
シンゲンとの戦いで、負けてはいないがボロボロになっていた。
「まずシンゲンと犬槇は、痺れ毒で動けないだろ?」
「じゃなぁ。」
「おう。」
「日光先生と南鞠は気絶してるし……。」
「それじゃあ、あとは……。」
「俺とまぐろだけだな。」
イツキはレイピアを片手で持ち、構える。
「やっぱり、戦うことになるんですね。」
「当たり前だ。タッグとして、一行として、俺達は仲間だけど……今は優勝を争う敵だからな。」
「……はい。」
まぐろは剣を抜いて、構えた。
……イツキの専売特許は受け流し。それは分かっている。
攻めるのは愚策。
だが、攻めなければ勝てない。
「何か仕掛けるか?」
イツキがそう言った。
まぐろが、日光やシンゲンとの戦いを、罠で切り抜けているのは見てきた。
イツキも思うように攻めることが出来ないのだ。
「…………。」
「………………。」
お互いが黙ったまま静止している。
仕方無い、当たり前だ。
「まぐろ……。」
「はい……?」
「これ終わるのか?」
「どうでしょう……。霧雨先輩に対して攻められないのは大きいです。」
「違う、そうじゃないんだ……。」
「え?」
「ずっと気になってるんだけどさ……実況が無い気がする。」
「実況……ですか?」
そう。
これは大会なのだ。
ムサシによる実況。
スギネによる解説が、いつからかぱったりと途絶えているのだ。
「そういえば、勝ち負けの判定だったりが無かったですよね。……何かあったんでしょうか。」
「……とりあえず戦うか。」
「えっ、いいんですか!?」
「仕方無いだろ。ほら来いよ。」
「は、はあ……。それじゃあ。」
まぐろは剣を振り、3本の糸を仕掛けた。
「見え見えだよ。」
イツキはレイピアでその糸を切る。
「まだ……!」
まぐろが、勇気を出して打ち込む。
「愚策だろ。」
「何か掴めると思いました!!」
案の定、受け流されて体勢を崩される。
前のめりになった体はいうことを聞かず、首根っこを掴まれ、柄を額に当てられた。
「まだまだ。」
「…………残念です。けど、次は負けませんから。」
「おう。」
「…………。」
「…………。」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「……本当に、実況が無いけど。」
「耳が痛いくらいの大声で実況してくれていたのに……いざ無いと寂しいものですね……。」
「ああ……。いやいや!どう考えてもおかしいだろ!?」
「マイクの故障とか……。」
「うーん……。」
納得のいく答えではないが……分からないものは分からない。
「とりあえず、会場の方に戻ってみるか。」
「そうですね……それなら、日光先生や南鞠ちゃんを起こさないと。」
「ああ。南鞠を頼む。俺は日光先生を起こしてくるよ。」
「はい!」
イツキとまぐろが、二人のもとへ歩み寄ろうとした、そのときだった。
「…………イツキーーーー!!!!!」
「……ん……?」
名前を呼ばれたので、そちらの方へ顔を向けた。
そこには金髪とアホ毛をなびかせながら駆ける、少女の姿があった。
「ヒラメ!?」
その少女はイツキ達の仲間のヒラメだった。
乱入枠として今大会に出場しており、すでに会場へ帰ったと思われたのだが……。
「はぁ……はぁ……!!イツキ!聞いてくださいまし!」
「どうしたんだ?急ぎなのか?」
「早くっ、早く会場にっ……!!」
「え?」
近くに来るにつれて、よく分かった。
……彼女は泣いていたのだ。
「皆がっ……早く会場に戻ってくださいまし……!!」
萌葱色の変奏曲を読んでいただき大変恐縮です。
いかがでしたか?
なんだか不穏な空気が漂い始めた黒の闘技大会です。
後書きまで読んでくださってありがとうございます!
Thank You。




