続・親友(男)が女だったという漫画でよくある話
海斗がたった今、言い訳しながら部屋を出て行った。
俺が黙ったままだったから、きっと気まずかったんだろうと思う。
海斗の部屋なのに追い出したようで申し訳ないけど、でも、でも、覚えてないなんて酷いじゃないかぁ!
昨日は俺をあんなに有頂天にしておいて、地獄に突き落としたんだ。
反省してしかるべきだと思う。
進退窮まって、今までの俺の居場所はもうどこにもない状況に陥った。
これからは遠いところで一人ぼっちで生きていくしかないと思った時、最後に想いを遂げたくて、そして一夜の思い出を今後の生きていく糧にしようと、海斗のもとへ向かった。
いつもの居酒屋で待ち合わせをして、そこで飲んで食べた。
俺が相談があるんだって言うと、じゃあ、家で飲みながら話そうってことになって、海斗の部屋に行った。
居酒屋ではビールや焼酎を飲んでたけど、海斗はウイスキーを出してきて、とっておきのヤツなんだぞって、お前だから特別だって言って、開けてくれた。
俺の顔がきっと追いつめられた表情をしてたんだろうな。
海斗の包むような優しい気持ちに後押ししてもらって、俺は話した。
女なんだと言った時も仰天していたけど、俺がこれから出奔することや海斗の事をずっと好きだったと告白したり、一夜の思い出に抱いて欲しいと伝えた時には、身も蓋もないほど狼狽していた。
しばらく黙考していた海斗は、自分のウイスキーをグッと飲み干すと言った。
「じゃあ、脱いで見せてくれ」
おそらく海斗は半信半疑だったのだろう。
俺は、すごく恥ずかしかったが、どうせ抱かれるなら裸にならなければならないのだし、今ここで躊躇すれば海斗は俺の言うことを信用しなくなると思った。だから承知した。
「分かった。でも、明かりをちょっとだけ落としてもいいか? ちゃんとお前が見えるくらいにはするから。えっと、その、やっぱり恥ずかしいんだ」
緊張したけど、なんとか脱ぐことが出来た。
胸のさらしを解いていく時、海斗は目を皿のようにして見開き、瞬きもせず凝視していた。
俺の真剣さが伝わるように、全部脱いだ。
海斗に見られて恥ずかしいし、何て言われるのか怖くて、俺は俯いてしまう。
とても海斗の方なんて見れない。
そしたら海斗が信じられない事を言ってくれた。
俺の身体を夢みたいにすごく綺麗だって。
「あー、コレは夢なのかな? それとも飲み過ぎて幻覚を見てるとか? マジ俺が妄想してたのよりずっといい。おっぱいが、でかいおっぱいが!・・・ついてるっ! これで朝目が覚めて、光が男で、おっぱいがなかったら、ショックでマジ立ち直れない。でも、こんなに素晴らしいチャンスの夢をトーゼン逃す手はないから、愉しませてもらおう」
なんかブツブツ言うと抱きついてきて、俺は押し倒された。
海斗はずっと、綺麗だ!スッゴく綺麗だ!お前が好きだ!愛してる!ずっとこうしたかった!夢みたいだ!みたいな言葉を連呼して、俺に何度も何度も唇にほっぺに首筋に顎に、いろんなところにキスをした。
拒絶されても仕方がないと思っていたのに、本当に愛されているような錯覚を起こすほどに、優しく情熱的にキスしてくれて、とても嬉しかった。
海斗のことを好きになった高2の時の頃を思い出すと、今こうしているのが信じられない。
海斗に抱きしめられていると思うと悦びが体中に満ちる。
深くキスされれば、頭が痺れた。脳みそや身体が蕩けて、とけてしまいそうだった。
男だったんだから当たり前だけど、初めて女として求められる幸せを感じた。
場所を寝室に移して、海斗も全部服を脱ぎ、二人でベッドに横たわった。
海斗が胸に顔を埋めて、ほおずりして言う。
「光、お前、柔らかくて、いい匂いがして、すべすべで、ふわふわでスッゲー気持ちいい。俺気持ち良すぎて、さっきからすごく眠くて、あー、もう我慢ができない。眠いー! したいのに!! したいのに眠いー、くそっ、光、5分だけ、5分だけ寝て、続きをするから! 5分たったら起こして! あー、もうだめだー。ゼッタイ逃げたら嫌だからね。ダメだからね。続きをする約束だからね、あーもう、くそっ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「おい、海斗、5分たったよ?」
「・・・・・・」
「海斗、約束・・・・・・」
「・・・・・・」
「海斗? 起きないの?・・・・・・」
「・・・・・・」
「海斗ぉー!!」
海斗は揺すろうが蹴飛ばそうが何をしても結局起きなかった。
仕方がないから、大の字になった海斗の腕の中にすっぽりと収まり、海斗の胸に頬をのせて、自分の腕を海斗に巻きつけて、海斗を感じながら眠った。
明日の朝はきっと続きをしてくれると期待して。
なのに、俺は決死の告白をもう一度するはめになった。
さすがに、こんな朝っぱらから、しかも素面で、好きだ、抱いてくれとはとても言えなかった。
悲しくて、だんまりを決め込んでしまったけれども、仕方がないと思う。
なんで、お前は覚えていないんだ!
いや、ちょっと待てよ。
アイツは、本当に覚えていないのか?!
俺だって昨日は、とても素面で話せる内容じゃなかったから、結構飲んだけど、ちゃんと覚えているぞ。
も、もしかして、覚えてないって言ったのは、昨日の事を無かったことにしたいとか?
酒の勢いで言ってしまった事を後悔しているから?
性転換手術云々の話を出したのは、それをごまかすためか? 俺を傷付けないように。
そうだとしたら、もうここには居られない。アイツが帰って来る前に出て行かないと。
そう思って立ち上がった時、ピロンとメールの着信音がした。
開けてみると、海斗からだった。
「部屋に居るか? さっきはすまなかった。本当にごめん。光がこんな重大な告白をしてくれたのに、俺、何にも覚えてなくて。お願いだ。どこにも行かないで、そこに居てくれ。頼む」
このメールでは、本当に覚えているのか、いないのかの判断はつかなかった。
俺を心配してくれている気持ちは真実なのだと思う。だから、居るとだけ返信した。
昨日は自分も少し飲み過ぎたから、食欲はあまり湧かない。
かといって何も胃に入れないのも、気持ちが悪くなりそうで、キッチンを勝手に物色したが、俺の望みの品は無かった。
買い物に行かなきゃいけないなと思って、ふとこの姿でウロウロするのはマズイのではないかと気付いた。
そうだ! そもそも女になればわざわざ一人遠くに行かなくても、バレないんじゃないか?
その思いつきはとても良い案に思えた。
もう、無理をして男でいる必要はないのだし、何より海斗と離れたくない。
それに女の格好をしていた方が、海斗も手を出し易いのではないだろうか。
また、抱きしめられたいし、キスだってして欲しい。
デパートのコンシェルジュの女性には、正直に相談した。
これまで男性として生きて来たから、女性用の物は下着すら持っていないと話すととても驚かれた。
コンシェルジュの女性はとても張り切って、俺をデパート中ひっぱり回した。
髪もエクステをつけて長くして、化粧を施したら、自分じゃないみたいだった。
へとへとになったけど、収穫物は大きかった。
それに、お客さんだからだろうけど、デパートのお姉さん達が俺の体型をすごく褒めてくれた。
身体の事ではけなされてばかりで、コンプレックスだったから、とても嬉しかった。
最後にコンシェルジュの女性が、
「とっても、綺麗よ。これで格好はなんとかなったし、後は、言葉使いと振る舞いね」
と言った。
デパート中を駆け回る間に、俺はその女性と仲良くなっていた。
上品で優しげなのに、自分というものを持っていて、ハッキリと物を言う優秀な女性で、美しかった。
俺もこんなふうになりたいと憧れる。
これまで流されてきた人生だったけど、これからは自分の意志で生きていきたい。
海斗が帰って来たら、ここで女性として生きていく新しい生活を始めたいと頼んでみよう。
あれから一ヶ月が経った。
海斗との新婚さんみたいなママゴト生活は、夢のように幸せだ。
これまで生きてきた人生の中で、一番今が幸せだと言える。
一度は諦めた恋だった。
それがこうして、奇跡のようなチャンスが巡って来たのだ。
こうして一緒に暮らしてみて分かった。
私はやっぱり海斗が大好きだ。
男の戸籍を持つややこしい女だけど、出来ることなら海斗の恋人になりたい。
勝算だってないわけじゃない!
本に載ってた男の捕まえ方。
男は胃袋と金〇袋で捕まえるべしって。
一応ずっと一人暮らしをしていたから、料理はまあ出来るし、長年の付き合いから好みだって熟知しているから、胃袋の方は問題ナシ。
それから、学生時代は隠すのがほんとに大変で、かなりやっかいなものだったけど、もう一つの袋の方には、結構役に立つんじゃないかなと思う。
初めてここに泊まった時には普通にDVDラックにあったエッチビデオ。
翌日にはいつの間にか隠されてたけど。
でも、私は知ってる。
海斗はアレをコレクションしている。
アレを見れば一目瞭然!
海斗はたぶんだけど、巨乳が大好きだ!!