一の風 〜協力者なのか恋敵なのか…〜
「シュークリーム二つ下さい!」
店内に透き通った元気な声が響いた。
何事か?と思って声の発声源を見やる他の客。
―少し、はりきりすぎたかな?
そう思い、声の声量を少し絞る。
「はい。シュークリーム二つ。」
店員のおじさんがシュークリームを渡してくれた。
「ありがとうございます。…はい、三百円。」
お代を渡す。
「ちょうどね。…いやぁ、いつもいつもありがとね。…彼氏に渡すのかい?」
結構フレンドリィである。
「いや、か、かか、彼氏だなんて、灯也はそんな…。」
―そんなに顔真っ赤にして個人名出した時点でバレバレだよ。
「そ、そそ、それじゃ!またね、おじさん!」
少女が店を出た後…
「ふぅ…。しっかし、その灯也君とやらも幸せ者だなぁ。あんな可愛い子にあれだけ好かれてるんだから…。羨ましい限りだね。」
…あ、そうそう、紹介が遅れたね。
この歌姫なのか元気っ子なのかよくわからない長髪の少女。
名前は水無月 神流という。
灯也の幼なじみで、…見ての通り、彼にベタ惚れである。
部活の無い日はいつもお菓子を持って彼の居る神社に足を運ぶのである。
…がしかし、ここまでされても灯也は彼女が自分に惚れていると気付いていない。
…いわゆる鈍いというやつである。(それも半端なく。)
そして彼女は今日も桜朧神社に足を運ぶのである。
…また二人で縁側で座ってお菓子を食べながら手を繋ぐため。
…がしかし大半の人が想像している通り、今回はそうはいかなかった。
神社の鳥居を潜る。
灯也を呼ぼうと声を出す。
「お〜い、灯〜也〜!き〜た〜よ〜!!」
…と、いつもならここで灯也が返事をするのである。
…がしかし、今日はかわりにこんな〈音〉が聞こえてきた。
―ズンガラガッッシャーーン…パリン…コロコロ…
「……………は?」
今のは明らかに何かを落として盛大に割った音である…しかも、この音の大きさから考えて半端な量ではないはず。
―まさか、灯也に何かあったのでは!?
そう思った瞬間には足がもう駆け出していた。
…そして、音のしていたと思われる部屋につく。
「あぁ…あぁあぁあぁ…!!」
顔が青くなる。
人一人簡単に埋まってしまう程の量の皿の山が崩れ落ちていた。
「灯也!!」
皿を退かそうとして皿に手をかけたその時。
「彩!どうした!!…ん?やぁ、神流。来てたのか…ってなんだその皿の山は!!」
「ふぇぇぇ…すいませ〜ん。皿を洗った後山にして積み上げていたら、ぐらぐらしていたのに気付かなくて…で、こうなっちゃいましたぁ…。」
「そんなことはどうでもいいんだ!!怪我は無いか!…あっ!腕切ってるじゃないか!!待ってろ、包帯持ってくるからな!!」
ドタドタと音をたて、灯也が包帯を取りに走ってゆく。
…そして残った二人。
「………誰?」
「………ふぇ?」
…自分が来なかった一週間の間に何があったのだろう?
自分の想い人が、いつのまにか自分より可愛い女の子と同居(同棲?)している。
…何度首を傾げてもわからない。
いや、その子(彩と言うらしい)が〈空から落ちてきた〉という話は聞いたが、どうも怪しい。
…けれど、その子の背中の小さい翼を見る限り、とても作り物とは思えない。
…でも、納得いかない。
でもだからってその子をどこかにやる宛も無い。
ましてや、自分の家に見知らぬ他人を住まわすなどと、馬鹿なこともできない。
…こういうのを八方塞がりというのかな?
「あの…どうかしましたか?」
「え?……いや、別に。何でもないわよ?」
「………そうですか?何か、俯いていたので…。」
「俺もそう思ったぞ。どうした?腹が痛いのか?」
―灯也のことでなやんでるんでしょうが!!
…いけない、怒ると灯也に嫌われる…。
「ううん、大丈夫。ありがと灯也。」
「………そうか?いや、別に大丈夫ならいいんだが…。」
―三分後―
「…で、今は服で翼を隠して人界の常識を灯也習ってるってわけ?」
「はい。そうです。…でも、毎回灯也さんに迷惑をかけてしまって…。」
彩が萎みながら答える。
「別に気にしてないよ。」
それを、灯也がフォローする。
「…ただ、さっきみたいに彩が怪我したりしなければいいんだけどね…。」
…突き落としたいのか?あんたは?
「ふぇぇぇ…すいません…。」
「まぁ、とにかく。ちゃんとこっちの常識を覚えたら、今度は参拝客集めするってこと?」
「そうなんだよ。常識が云々より、参拝客集めがうまくいくかどうかがわからないんだよなぁ…。」
まぁ、たまに抜けた行動をする彩にとって、常識も案外重要なのだが。
そんな事を考えていた灯也に返ってきた言葉は意外なものだった。
「なら、私も手伝うわ。」
「!…いいのか?」
「本当ですか!?」
彩の顔が一瞬にして明るくなる。
「まぁ…ね、いつもここに来てるし、部活無い日は来れるから。(それに、ここに来る口実も増えるし。)」
「そうか、ありがとう。」
灯也が微笑むと神流の顔が瞬く間に赤く染まった。
「べ、べべべ、別にあんたのためじゃないからね!?彩のためなんだから!!」
「神流さん…ありがとうございます。」
〈彩を早く空に返してまた灯也と二人きりになる〉という下心があった神流にとって、素直に感謝する彩の言葉は微妙に耳に痛かった。
〜一の風・了〜
どんなラブコメでも必ずでてくるタイプの奴がきましたよ…。(作者風邪気味)