新究極の宝くじ
宝くじ、ロト、サッカーくじ、地震くじ。
野球くじも始まるのは確定的だ。
野球くじは『野球九時』とゴロを引っ掛け、
プロ野球の試合が終わる午後9時に結果を知らせるのも、
広報戦略で決定している、と言われる。
2025年、さらに新たな宝くじの発売が国会で採決された。
野党は大反対だったが、政府与党は強引に押し切った。
財政再建という名目だったが、他の意図が明白だった。
日本国民はもはや受け入れざる得ないと感じ、
野党の抗議に冷ややかな眼差しを向けていた。
「やばかったよ、今回」
Aは同僚のBに言った。
Bはビールジョッキを置き、Aに視線を合わせた。
「何がやばかったんだ?」
Bはどちらの『やばかった』のか判断できなかった。
本当にやばかったのか、いい意味でやばかったのか。
「前後4賞が当たった」
Aは携帯端末をBに見せた。
Bはモニタを見てから、Aを見た。
「1000円か~」
Bは真剣な顔をした。
「やばかったな~。
でもお前、新しい宝くじやってんだ?」
「お前はやってないのか?
俺の所は必須だ」
「そうか、お前は役所務めだから強制か?」
Aは首を振る。
「そうでもないけど、職場の雰囲気で、
やらざるえないんだ」
「でも良かったな、前後4賞で。
それなら警察は来ないだろう」
「たぶん大丈夫だ。
でも、お前もやった方がいいぞ。
どうせタダだし。
1回登録すれば、ずっと有効だ。
それに俺みたいに1000円当たるかもしれない」
AはまたBに携帯端末を見せた。
「確かにそうだな。
1等はないけど、いきなり前後賞や前後2賞が当たったら最悪だからな。
さっそく登録するとしよう。
DNA宝くじに」
Bは大きく一つ頷いた。
2026年、政府はDNA宝くじを開始した。
DNA型が当選番号になるのだ。
当選番号は年4回、警察庁から発表される。
1等は1億円、
前後賞、2000万円、
前後2賞、3000万円、
前後3賞、100万円
前後4賞、1000円。
当選金はすべて税金から賄われるが、国民の文句はない。
基本的に1等は出ないし、前後賞、前後2賞を受け取る人もほとんどいない。
前後2賞が前後賞より金額が高いのは、分配者数が多いからで、
実質受け取る金額は低くなる。
つい先日、第三回目の当選発表があった。
Aが前後4賞1000円当てた回だ。
その当選番号は半年前に起きた殺人犯のDNA型だった。
その犯人は子供2人を含む一家4人を殺害して逃亡し、
犯人の特定に至ってなかった。
もちろん、1等は該当者なし。
DNA登録をした人物だったら、すぐに警察が犯人を特定していた。
前後賞も無かった。
まだDNA登録者は国民の1%未満の100万程度だった。
前後2賞、1、
前後3賞、2人、
前後4賞、21人、という結果だった。
この前後というのは血縁の濃さである。
一親等、二親等、三親等というように。
警察はこれらの血縁に犯人がいると推定し、犯人を絞り込むのだった。
まさに前後賞で犯人を探し当てるのが、このくじの狙いなのだ。
だが、プライバシーを犠牲にする。
それでも治安の安定を求める日本国民の苦肉の策だった。
しかし、犯人を特定するとともに、もう一つの効果もあった。
被害者への補償だ。
血縁が濃い当選者は当選金を受け取ることなく、被害者遺族に寄付をする。
これにより加害者家族への風当たりも少し弱まったようだ。
国民は一つの保険と考え、登録者が急増している。
しかし、真の狙いは移民者の犯罪抑止だった。
TPP導入により、移民が急増し、凶悪事件が増加したからだった。