SS-04 モーリーにお任せ
最近、ヨシタツさんが訪ねてくると、鼓動が高鳴るようになった。
彼の来訪を心待ちにしながら、神殿を掃き清めている自分。
だけどいざその姿を目にすると、恐れに似た感情が胸を締め付けてしまう。
「やあ、モーリー、こんにちは」
五日ぶりぐらいに、ヨシタツさんが訪れてきた。
いつものようにお茶の支度をして、神殿の軒先に並んで腰掛ける。
香茶の湯気を顎に当て、気持ちを静めてから覚悟を決める。
「それで、今日はどうしました?」
「…………モーリー、助けてください」
どうやらまた、問題が発生したようだ。私はこっそりと、ため息をついた。
最近、ヨシタツさんから困り事の相談をされる機会が増えた、主に女性関係で。
以前、彼の悩みを解決してから、女性心理の専門家だと思われてしまったらしい。
世間知らずの私には、荷が勝ちすぎる信頼だ。だけど彼の期待に応えたい。
上手く助言できるか、不安で心臓がドキドキする。
「クリスの装備を、新調しようって提案したんだ」
そう語るヨシタツさんの表情は、困惑気味だった。
「ちょっとキツそうだから、もっと動きやすい装備に変えようって言ったら」
本人がひどく不機嫌になってしまったらしい。
良かった! そういう話なら、私にも経験がある。
以前侍女に、着ているお仕着せを取り換えましょうと言ったら、必要ないと断られたのだ。
「その装備に、きっと愛着があるんですよ。知り合いにもいました、そういう人」
侍女はそれに加え、そもそも太ってなどいませんと笑顔で謝絶された。
腰回りが苦しそうだと指摘しても、そんなことはないと言い張っていた。
「でも、装備は命に係わることですから、ちゃんと説得しなくてはなりませんね」
なるほどと、ヨシタツさんが納得した。やれやれと思っていたら、
「先日、ギルドに用事があったんだ。セレスが忙しそうだったんで、気を利かせて他の娘の受付に行ったら、すごく叱られて」
すぐに別の相談事が始まった。しばし首をひねってから、答えをまとめる。
「その方がヨシタツさんの担当なのでしょう? なら当然です、自らの仕事に誇りを持っている人物なら、それは余計な気遣いというものです」
なるほどと、ヨシタツさんが納得した。やれやれと思っていたら、
「リリちゃんの友達のことを可愛いって言ったら、リリちゃんに睨まれて」
「それは口をつつしんでください」
そんなやり取りをしている内に、日もだいぶ傾いてきた。
時間になって家路についた彼の背を見送りながら、とても心配になる。
不器用な人だから、女性との付き合いが上手くいかないのだろう。
だから友達として、出来るかぎり力になってあげようと、心に決めた。




