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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
王都からきた監察官
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SS-01 リックの冒険者登録

「以上で、冒険者登録の手続きは完了です」

「は、はい! ありがとうございました!」

 リックは思わず、うわずった声で返事をした。

 彼の緊張振りを揶揄することなく、ギルド職員のデインは穏やかに笑った。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。当ギルドは、あなたの活躍を期待します」


 スキルを得たことで、リックには将来の選択肢が大きく広がった。

 だが、彼の耳に残った言葉が、不安を掻き立てた。

『スキルを得たからと言って、強くなったわけじゃない』

 確かにその通りだった。

 あれほど待ち望んでいたスキルを得たのに、あの男に軽くあしらわれてしまった。

 スキル無しでは自分の方が強いのに、スキルを使えば負けてしまう。

 強さとはなんなのか、リックは分からなくなってしまった。

 だからまず、彼は冒険者になることにした。

 あの男と同じ冒険者になって魔物を討伐していけば、答えが見つかるかもしれない。

 そうリックは考えたのだ。

「なんだ、はなたれ小僧がこんなところでなにやってるんだ?」

「剣なんかぶら下げて、もしかして冒険者のつもりか?」

「冒険者は遊びじゃねえんだ、ガキは家に帰ってミルクでも飲んでな」

 リックは身を硬くした。冒険者はガラが悪いと聞いたが、自分はさっそく絡まれたのだろうか。

 気が付けば、三人の冒険者に取り囲まれていた。

「…………あんたらには関係ないだろ」

「へっ! いっちょまえな口を利きやがって」

「口先がいくら達者でも、腕前がなきゃ魔物は討伐できねえぜ?」

「あんたらよりは腕が立つさ、なんなら試してみるか!」

「へえ、どうやってだ?」

 挑発に乗ってリックが叫ぶと、冒険者の一人がせせら笑う。

「裏には訓練場があるんだろ? 模擬剣で相手をしてやるさ!」

「いや、なんでそれが腕前の証明になるんだ?」

「――――へ?」

 いきなり素の表情になった別の冒険者に言われ、リックは戸惑う。

「い、いや、だから、模擬剣で戦えば俺の強さが」

「冒険者が人間相手に剣で勝っても、自慢にもならねえし」

 リックは二の句も継げなかった。

「魔物と人間じゃ全然別物だからな?」

「やつらは牙や爪、その他の身体能力で襲ってくるから」

「剣で打ち合うのとはまるで勝手が違うぞ?」

 リックは愕然とした。彼は道場で一番の腕前だった誇りがあった。

 だから目の前の冒険者達が強くても、剣で戦えば負けるつもりは――――

 そうか、冒険者になったら、戦う相手は魔物になるのだと、ようやく自覚した。

「ま、魔物だって負けたりは」

 しないのか? 本当に? 負けたらどうなる? 死ぬのか、自分は。

 彼の脳裏を、嫌な想像がぐるぐると駆け巡る。

「そんなに自信があるのなら、見せてもらおうじゃないか」

「そうだな、おい、仮パーティーの申請を出すぞ」

「おい、リック。一緒について行ってやるから、テメエの腕前とやらを見せてみやがれ」

 あれよあれよと言う間に話は進み、四人連れ立って魔物討伐にすることになった。

 あまりの急な展開に頭が追い付かず、リックは呆然と従った。

 だから、名乗ってもいないのに名前を呼ばれたことを、不思議に思う余裕もなかった。


      ◆


 三人組が振り返り、親指を立ててニカッと笑うと、リックを引き連れて扉から出て行った。

 カウンターの陰からこっそり見守っていた二人の男は、フーと安堵のため息を漏らす。

「…………隠れてないで、ちゃんと見送ってあげればよろしいのに」

 セレスが呆れたように言うと、彼らはバツが悪そうにのそのそと這い出てきた。

「いや、だって、なあ?」

「うむ、なんと言うか、あれだからな?」

 ヨシタツとガーブは、照れ臭そうに頷き合う。

 リックが冒険者になると告げた時、ガーブは師匠として信頼のおけるパーティーを探し、彼を預けるつもりだった。しかしリックは、パーティーは自分の力で探したいと断った。

 口下手なガーブは、困り果てた。パーティー探しはそんなに簡単なものではないと知っていたが、どう説得すればいいのか分からなかった。

 ガーブに相談されたヨシタツは、下っ端三人組――――フレデリック、ライオネス、グレンフォードに話を持ち掛けた。

 三人は即断しなかった。パーティーに新人を入れるかどうかは、自分達の命に関わる問題なのだ。

 とにかく本人に会ってからと、返事は保留された。

 しかし、あの様子なら上手くいきそうだ。

 リックがヘマをしてもフォローしてくれるだろうし、実際に魔物を目の当たりにすれば、リックも冒険者の現実を悟るだろう。

 それで冒険者になることを諦めるのなら、また別の道を考えればいい、

 ギルドを後にしたヨシタツとガーブは、酒場に入った。


 リックの無事を祈って、二人で乾杯した。

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