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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
さだめに抗う冒険者
66/163

幕間

「なんだこれ?」

 看破スキルの表示を確認していたら、つい独り言が出た。


 街の南の丘陵地帯で、俺達はいつもの訓練中だった。

 クリスはチャンバラブレードを振り回している。

 本人曰く、空想上の相手と戦っているらしい。

 イメージトレーニングというやつだろうか?

 迫真の訓練で、仮想の敵との剣戟が脳裏に映るほどだ。

 剣と剣が交わって火花が散り、技を駆使してせめぎ合う。

 次第に追いつめられる仮想の敵。

 往生際の悪い敵は、最後のあがきに出たようだ。

 クリスが卑怯な!とか、タツを離せ!とか叫んでいる。

 どうやら俺が、まんまと人質にとられたらしい。

 敵に剣を突きつけられた俺(仮)が、助けを求めて悲鳴をあげる。

 絶体絶命の窮地に陥るが、彼女の機転で一発逆転。

 俺(仮)が感謝しまくり、クリスは得意げだ。


 まじめにやれ


 フィーは魔術スキルの発動訓練である。

 大きな岩に向かって、拳大の火の玉を次々と投げつけている。

 彼女達の様子を横目に観察しながら、視界に投影される情報を確認する。

 岩を背に座っているが、サボっているわけではない。

 体力と気力とダメージの回復中である。

 隷属スキルは暴力と訓練をきちんと識別しているようだ。

 おかげさまで容赦なく叩きのめされた。

 回復時間を有意義に使うため、スキルの変動がないか確認してみた。

 久しぶりに看破を掛けたが、最初の方は特に問題なかった。


名称:タヂカ・ヨシタツ

年齢:三十歳

スキル:看破2、探査3

 射撃管制1、射撃2

 隠蔽2、剣術2、回避2

 並列起動2、投擲2

 治癒術3

固有スキル:免罪符

 白紙委任状、スキル駆除

 *****、*****

履歴:渡界

ポイント:882


 ここまでは良い。スキルの獲得も成長もなく、予想通りである。

 問題は、さらに続けて情報が表示されたことだ。


名称:クリサリス

年齢:19歳

スキル:剣術2、隷属1、不妊

固有スキル:獅子王

履歴:殺人×2、終身奴隷

名称:フィフィア

年齢:18歳

スキル:魔術1、隷属1、不妊

固有スキル:スキル制御

履歴:殺人×1、終身奴隷


 俺は自分自身にだけ、看破スキルを掛けたはずだ。

 なのになぜ、クリスとフィーの情報まで一緒に表示されるのか?

 首をひねってから、ふと思い出す。これと同じような現象を体験したことがある。

 あれは鎧蟻の女王に看破を掛けた時だ。

 あの時も王の情報が付随して表示された。つまりこれは――――


 どういうことだ?


 もの思いから醒めると、周囲が静かになっていた。

 いつのまにか魔術スキルの破裂音が止んでいた。

 少し離れた場所で、フィーがこちらをじっと見詰めている。

「どうした?」

「……別に?」

 俺が声を掛けると、フィーはついっと目を逸らす。

 なんとなく気まずい空気が流れる。

 最近、彼女達とこんな雰囲気になることが、たまにある。

 偶然目が合うと、何故か不自然に視線を外されてしまうのだ。


 クリスとフィーは、俺の奴隷になった。


 だからと言って日常に変化はなく、食事をして、討伐に赴き、訓練に励む。

 以前と変わらぬ、ごく普通の日常を過ごしている。

 彼女達を奴隷扱いすることも、俺が主人扱いされることもない。

 だけどお互い、どこか距離を測りかねているところがある。

「調子はどうだ?」

 そんな平凡な言葉しか出てこない。

 もし彼女達との間に溝が出来たのなら、年上の俺の方から歩み寄るべきだ。

 だけど以前とは違い、どう接したらいいのか戸惑う時がある。


 これが年頃の娘を持つ、父親の気分なのだろうか?


「悪くはないけど」

 目を合わせず、フィーは呟くように答える。

 フィーの訓練は、集束率・速射性・威力の向上を目的としている。

 訓練初期よりは、ずいぶん上達しているのは間違いない。

 狙いも定まり、無駄に範囲を広げることもない。発動間隔も短縮してきた。

 だが、攻撃手段としてはいまひとつだ。

 命中すれば敵をひるませ、火傷ぐらいは負わせるだろう。

 だが、その程度では牽制にしかならない。

 いや、俺とクリスで連携すれば、戦闘パターンのバリエーションは増える。

 それでも十分な成果なのだが、フィー本人が納得しないのだ。

 もっと強く、さらに強く。

 訓練に集中している時の彼女は鬼気迫るものがあった。

「コツ、みたいなのは掴んではいるんだけど」

 彼女は曖昧に手のひらを上にむけ、指先を動かす。

 空中にある何かを、指で絡めとるように。

 俺は立ち上がり、彼女のそばに近づく。

「焦っても仕方がないよ。ここは」

 肩に手を伸ばそうとすると、フィーはびくんと身体を強張らせた。

「時間をかけて気長に取り組むべきだ」

 伸ばした手をさりげなく戻し、髪を掻く。

 別に傷ついてなんかいないよ?

「でも、もうちょっと頑張ってみる」

 上目づかいに俺の顔色をうかがってから、フィーは標的に向かって腕を伸ばす。

 そうすると集中力が増すらしい。指向性をイメージしやすくなるのかもしれない。

 彼女の気が散らないように、俺は距離を置いて見守った。


 脚をやや開いてすっくと立ち、肩の位置まで上げた手は指の先まで緩みはない。

 風にそよぐ金色の前髪の下で、双眸はひたりと標的を見据えている。

 その姿は、神話に登場する狩猟の女神を彷彿とさせた。


 集中力みなぎるその姿を見守りながら、俺は密かに後悔していた。

 以前、魔術スキルの上達について、彼女に安易なアドバイスをしてしまった。

 成果が上がらないのは、スキルの効果が限界に達しているせいかもしれない。

 だとすれば俺には、ただ彼女のスキルが成長するように願うしか



 唐突に、オレンジ色の光が周囲を照らした。

 フィーの前方向に、一抱えもある炎の渦が出現する。

 炎は火花を滴らせながら、細長い円錐状へと集束される。

 竜巻が、まっすぐ真横に伸びたイメージに近いだろうか。

 やがて限界まで捩じられた炎が、一条の槍と化した。


 ヒュオンッ! 甲高い異音を発し、炎の槍が放たれた。


 らせん状の炎は、大気をえぐりながら直進する。

 そして標的の岩に突き刺さり、炎をまき散らした。



 はっと我に返った俺は、フィーに駆け寄った。

 尻もちをついているフィーを一瞥し、外傷の有無を確認する。

 火傷等は見当たらないが、彼女の顔は蒼白だ。

 ショックを受けたのかぼう然として、身体が震えている。

「すごいなフィー! やったじゃないか!」

 俺は膝をつき、大声で絶賛する。

 意識的に満面の笑顔を作り、盛んにほめたたえる。

 段々と彼女の顔に血の気が戻り、緊張が解けてきたようだ。

 もう大丈夫だろう。

 クリスにフィーを任せると、俺は標的となった岩に近づく。

 岩の表面に手のひらをかざすと、放射される熱気を感じた。

 先ほどの魔術スキルは、かなりの高出力だったようだ。

 しかも速度があり、収束率も申し分ない。

 これで狙いが定かなら、強力な武器となるだろう。

 俺はフィーに手を振ってアピールする。

 笑みが広がるフィーに、クリスが抱き着いてはしゃいだ。


 一方の俺は、動揺を抑えきれなくなった。


名称:フィフィア

年齢:18歳

スキル:魔術2、隷属1、不妊


 フィーの魔術スキルが上がっている。

 だから、高い威力でスキルが発動できたのだろう。

 理屈は分かる。スキルの成長度と威力が比例するのは納得のいく説明だ。


 だが、タイミングがあまりにも良すぎる。

 これではまるで


「今日はもうあがろう」

 彼女達の元に戻って提案すると、フィーは不満顔になった。

「もっと試そうよ!」

「いや、あれだけの威力だ。身体に負担が掛かっているかもしれない」

「だいじょうぶだって!」

「頼む、心配なんだ!」

 彼女の両肩に手をおき、必死に説得する。

 様々な想念が頭の中でぐるぐる周る。地面が揺れるような錯覚を覚える。

「う、うん……」

「それにお祝いをしなくちゃね!」

 クリスも自分のことのように嬉しそうだ。

 もしも、もしも、俺の予想が正しいとしたら。

「クリス?」

「なんですか、タツ?」

「君も、強くなりたいか?」

「あたりまえです!」

 彼女は胸に手を当てる。

「わたしもフィーも、もっと強くなりたい」

 静かな決意が込められた宣言だ。

 俺も、彼女達には強くなってほしい。

 理不尽な運命に負けず、いつか幸せをつかむ為に。

 だけど迷う。リスクと不安が錯綜して堂々巡りとなる。

 だから行動した。いまやらねば、二度と挑めなくなる。

 彼女達の援けとなるチカラを、乞い願う。


 白紙委任状 発動


名称:クリサリス

年齢:19歳

スキル:剣術2、隷属1、不妊、並列起動1



 ポイントが33、減っていた。

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