おまけ タヂカさんちの家計簿
目が覚めると、クリスとフィーが俺の顔をのぞきこんでいた。
「おはよう」
「おはようございます」「おはよう!」
いま寝ている場所は、宿の離れらしい。
現在のクリスとフィーの住居である。
昨夜の飲み会のあと、ここに運ばれてきたのだろう。
ふたつあるベッドの片方を占領してしまったようだ。
起き上がろうとしたとき、クリスが言った。
「昨日のこと、覚えていますか?」
問われたはずみで、頭がふたたび枕に落ちる。
「…………確か飲み屋に行って」
みんなで飲んで騒いだが、途中から記憶がない。
「けっこう飲んだらしいね」
楽しかったという漠然とした感覚は残っているのだが。
「これがその時の請求書」
ぴらっとフィーがメモを目の前にかざした。
看破看破
「なにこれ!?」
ベッドから跳ね起きた。
さらに驚いたことに、上半身裸だった。
しかも
「タツの故郷の民族舞踊、とても面白かったです」
俺の腹と胸には、炭でデカデカと顔が書かれていた。
いったいなにがあった!?
「腹踊り、だっけ? 大ウケだったよ」
上着を着た後、俺はベッドに座らされた。
俺の前に、腕を組んで立つクリスとフィー。
「タツは少々、金銭感覚に問題があると思います」
「……はい」
クリスは請求書を見ながら、ため息をつく。
「今後は生計を一緒にするのです。家計のことも頭において頂かないと」
そうだった。これからはクリスとフィーの扶養義務があるのだ。
「もうちょっと、お金の使い方を考えてほしいな」
フィーも困り顔だ。面目ない。
「わたし達のこと、養ってくれるんでしょ?」
「もちろんだ」
とは言っても、三人で一緒に稼ぐのだ。
養う、というのはちょっと違うかもしれない。
「頼りにしてます」
クリスにそう言われると、ちょっと誇らしくなる。
なんだか一家の長になった気分だ。
「そうだ、いい考えがある!」
フィーがぽんと手を打つ。
「わたしがパーティーのお金を管理しようか?」
「それはいいわね!」
クリスが即座に手を振って賛成する。
「フィーはお金の計算とか得意よね?」
言われてみれば確かにいい考えだ。
将来的には二人のために、この国を出る必要があるのだ。
その資金を貯めるには、収支を一括管理した方が合理的だ。
「タツのお小遣いも、ちゃんと月々用意するから」
「ああ、それはありがたい」
男同士の付き合いもあるからな。
「もちろん、必要な分があったら申告してね」
なんだかフィーが、良妻のような気遣いをみせる。
面倒事を任せてしまい、つい恐縮してしまう。
「よろしく、二人とも」
『まかせて!』
二人とも、実に頼もしいなあ。
…………なんかこう、ちょっと引っかかるものを感じるが。
彼女達の満足そうな笑顔を眺めたら、どうでもよくなった。




