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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
さだめに抗う冒険者
54/163

査問会

名称:タヂカ・ヨシタツ

年齢:三十歳

スキル:看破2、探査3

 射撃管制1、射撃2

 隠蔽2、剣術2、回避2

 並列起動2、投擲2

固有スキル:免罪符

 白紙委任状、スキル駆除

 *****、*****

履歴:渡界

ポイント:96


 隠蔽、回避、並列起動、投擲が軒並み2になっていた。

 新規スキルの取得は無しである。


 めざましい成長なのか、死ぬような目にあってこれだけかと考えるべきか。

 そんな物思いに耽りながら、自分の情報を再確認している。

 監禁状態で。

 見知らぬ廃屋に連行された俺は、その一室に閉じ込められた。

 ギリアムさんは騎士なのだから、詰め所に連行されると思ったのに。

 どうも妙な具合だ。だいたい何の容疑で逮捕されたのだ。

 

 部屋の外には兵士が二人、監視にあたっている。

 残り一人は別室で仮眠をとっているようだ。

 ギリアムさんは屋内にはいない。

 探査を広げてみれば、ここが街の南側区域だと分かる。


 そこまで確認して、やることがなくなった。

 暇になったので久しぶりに看破を自分に掛け、時間を潰した。

 食事は出なかったが、水差しは渡された。

 やることがないので、部屋の隅のベッドで寝た。

 リリちゃんの泣き顔がまぶたに浮かび、眠りに落ちた。


 翌日は変化なし。パンと干し肉をもらう。トイレがひどい。


 三日目、箱馬車で外に連れ出された。

 監禁したまま衰弱死させられるのかと思い、気力が落ちてしまった。

 たぶんそれが狙いなのだろう。


「あの~?」

 正面に座るギリアムさんに、そっと尋ねる。

 本当は話しかけたくない。賞金稼ぎだった俺を思い出してほしくない。

 あの当時は顔を隠していたので大丈夫なはずだが。

「わたしは何の容疑で逮捕されたのでしょう?」

 腕を組んで窓の外を眺めていたギリアムさんが、ゆっくりとこちらを向く。

「逮捕ではない」

 半ば予想通りの答えだ。

「査問会への召喚だ」

 さらに疑問は増えたが、尋ね返したりはしない。

 ただ不審げな眼差しを向ける。

 騎士は領主の直轄だ。だとしたら彼の行動は領主の意向を反映している。

 彼は査問会の召喚だと言った。たぶん査問会とやらが領主を動かしたのだろう。

「商業組合、及び街の自治会が、お前を反逆罪で訴えた」

 ほら、必要ならいやでも教えてくれるのだ。



 俺が連行されたのは商業組合の建物だ。

 兵士に取り囲まれながら会議室とおぼしき一室に到着した。

 重厚な扉をくぐると、二十人ほどの男達が長机に並んで座っていた。

 俺は彼らの前に置かれた椅子に座らされた。


「ご苦労様でした、ギリアム殿」

 中央に座った男が労うと、ギリアムさんは部屋の片隅に移動した。

 兵士達は入り口をかためている。逃げないよ、いまはまだ。

「あなたが冒険者ギルド所属のヨシタツ・タヂカですね」

「はい、そうです」

 一応殊勝な態度を取り繕う。相手の意図が見えない以上、まずは様子見だ。

「私は街の自治会の長です。この査問会で議長を務めます」

 それから彼は査問会のメンバーを紹介する。

 彼の隣に座っているのは商業組合の長だった。

 あとは自治会と商業組合の役職持ち、人数はそれぞれ十名ずつ。

「あなたは当査問会に召喚された訳を理解していますか」

「騎士ギリアムから、反逆容疑だとうかがいました」

 俺が冷静に答えると、査問会のメンバー達が身じろぎをした。

「あなたは容疑を認めますか?」

「容疑内容を知らないのでお答えしかねます」

 商業組合の長が不機嫌そうに顔をしかめた。

「なにを白々しいことを―――」

「組合長殿」

 自治会長が組合長を抑える。

「容疑内容は、あなたがこの街を危険にさらし、甚大な損害を与えたというものです」

「具体的には、どのようなことでしょう」

「先日の鎧蟻の侵攻において、意図的に討伐隊を危地に追いやり、鎧蟻の素材を回収不可能になるまで焼却した件です」

 自治会長は手元の資料に目をやりながら説明する。

「冒険者の損耗は安全保障上、街全体の問題です。もし悪意をもって討伐隊を陥れたのであれば、ゆゆしき事です。また鎧蟻を焼却したことは、街の経済に深刻な影響を与えています。これらの行為は、街に対する反逆だという意見が出ているのです」

 ようやく事の輪郭がおぼろげに見えてきた。

 考えられるケースとしては、ごく単純に彼らがスケープゴートを求めている場合だ。

 これだとこの査問会自体が茶番となり、俺の罪は確定済みとなる。

 一番の難点は、容疑内容が全て事実である点だろう。

「以上が訴えの全てだとしたら、私は容疑を否認します」

 もちろん、容疑を認めたりはしないが。

 商業組合側がいきり立った。机を叩き、俺に向かって罵詈雑言を投げかける。

 本気で怒っているのだろうか、それとも演技か?

 後の半分、自治会側の反応はない。俺の態度を観察しているようだ。

「ではまず、鎧蟻の焼却をしたという点について」

 自治会長は騒ぎを無視して淡々と事を進める。

「これについて反論はありますか?」

「作戦上、必要でした」

「と言うと?」

「鎧蟻が街に向かって侵攻した場合、これを防ぐには戦力が足りませんでした。その戦力不足を補うための最善の方法が、火攻めによる鎧蟻の殲滅でした」

「大げさだ!」「もっと他に方法があったはずだ!」「街に攻めてきたとは限らないではないか!」

 商業組合側が口々に反論を述べる。どれも一理ある意見だ。

 火攻めが過剰な作戦だったかどうか。鎧蟻の素材も回収可能な妙案があったのは間違いない。

 ただし俺には思いつかなかった。

 街に絶対侵攻したかと問われれば、断言はできない。確定した時点では手遅れだろうし。

 だから俺は、彼らの糾弾を聞き流した。

「鎧蟻は焼却したのではなく、作戦の過程で焼けてしまった、ということですね」

 自治会長の言葉を、俺はちょっと意外に感じた。これは茶番劇ではないのか?

「はい、仰るとおりです」

「なるほど」

 彼は自治会のメンバーに目配せをする。メンバー達も頷く。

「では次に、討伐隊を意図的に危地に追いやったという点です」

 自治会長は、またちらりと資料に目をやる。

「あなたは鎧蟻が侵攻した場合、戦力不足であることを認識していましたね」

 まずい、そう思った。仕方なしに頷く。

「はい、そうです」

「いささか強引な資材調達を命じたのも、かならず必要だと確信したからですね」

「はい、そうです」

「では、もし鎧蟻の侵攻があった場合、討伐隊はどうなると思いましたか?」

「壊滅的被害をこうむると予想しました」

 それぐらいの予想でなければ、大規模な防衛準備と話が嚙みあわない。

「あなたはそれを」

 自治会長が、じっとこちらを見詰める。

「討伐隊に警告しましたか」


 探査―並列起動―看破


 ……なるほどなるほど。

「いいえ、警告しませんでした」

 査問会が静まり返った。

 俺の答えが予想外だったのか、しわぶき一つない静寂が満ちる。

 それを自治会長が破る。

「あなたは討伐隊が全滅する危険性があると知って、あえてそれを警告しなかったのですね」

「その通りです」

「し、証人! 証人を呼べ!」

 商業組合長がわめく。段取りが狂って、慌てているのだろう。

 ここは俺が見苦しく虚言を弄したところで、颯爽と証人が登場!

 真実が明らかになり、俺がおそれ入るはずだった。悪いね、様式美の邪魔をして。


 背後で扉が開く。コツコツと靴音が背後から近づく。

 首筋がひやりとした。これが殺気というやつか?

 靴音が脇を通り過ぎるとき、俺は視線をちらりと上げた。


 サイラスだった。


 彼は査問会の前に立つと、こちらを見た。

 憎悪のこもった視線を静かに受け止め、ある種の満足感に浸る。

 これで完璧だ。俺のペテンで死亡した者は皆無だった。


「あなたは冒険者ギルド所属のサイラス殿ですね?」

「はい、自治会長」

「あなたは討伐隊の指揮官でしたね?」

「その通りです。指揮官を務め、鎧蟻討伐に従事しておりました」

「あなたはタヂカ殿から、鎧蟻の侵攻があることを事前に知らされていましたか?」

「いいえ、自治会長」

 そう言ってサイラスは、俺を憎々しげに睨む。

「あいまいな警告しか受け取っておりません」

「どのような内容ですか?」

「はい、巣別れの兆候があるとしか。まして街への侵攻などとは聞いていません」

「事前に警告がなくて、よく討伐隊に死者が出ませんでしたね」

「私がいち早く危険を察知し、撤退を指示したからです。でなければ今頃、どうなっていたことか」

 サイラスが大げさに首を振る。

「さすがサイラス殿!」

 組合長が大声でほめそやす。

 うん、指示はしていないけど、真っ先に逃げてくれたおかげで人死にはでなかった。

 その点に限れば、討伐隊の連中は彼に感謝すべきだ。


 さて、これで俺の有罪は確定した。

 反逆罪という言葉から察するに死罪は間違いないだろう。

 するとどの時点で逃げ出すという話になるが。


 リリちゃんの泣き顔が目に浮かんだ。

 なんとか彼女にお別れを言うチャンスがあればいいのだが。

 結局俺は、根無し草にしかなれないのかも知れない。

 ちょっと風が吹けば、ゆらゆらと水上をただよい流れてしまう。



 後ろの扉から、がやがやと騒ぎが聞こえてくる。

 お待ち下さいとかなんとか、声高な叫び。

 複数の足音が大きく響き、どんどん迫ってくる。


 バンッと扉が開け放たれた。

 扉の前にいた兵士達が吹きとばされた。

「な、何事だ!!」

 商業組合長が立ち上がって叫ぶ。


 どかどかと乱入してくる無法者達!

 その先頭にいるのは、カティアだ。

「カティア殿、何の真似だ!」

 ギリアムさんが剣を抜き、カティアに詰め寄る。

 すごいぞギリアムさん!

 彼の勇気に思わず心の中で声援を送ってしまう。

 傍若無人な八高弟達に取り囲まれてもひるまない。

 絶対の絶命のピンチにも関わらず、ギリアムさんは敢然と立ち向かう。

 さすが騎士の鑑、その勇姿に惚れ惚れする。

「カッコいいギリアムさん!!」

 あ

 

 師匠と、兄弟子達の視線がこちらに向いた。

 思わず立ち上がった俺は、すごすごと席に座る。

 背後から聞こえる声に耳をそばだてる。

「騎士殿、貴方には帰還命令が出ている」

「何を馬鹿なことを!」

「これが命令書だ」

 がさごそと音が聞こえる。きっとその命令書とやらを確認しているのだろう。

「……確かに」

 その声を最後に、ギリアムさんと兵士三人が立ち去る気配がした。

 こつこつと靴音がまたもや近づいてくる。

 俺は冷や汗を流しながら、正面を見据える。

 居並ぶ査問会の人々も顔色が悪い。

 俺達は互いに視線を交わしあい、何かを共感した。

 靴音は俺の横で止まった。


「……どけ」


 俺はパッと立ち上がり、手のひらで席を払う。

 そのまま離れようとして

「そこにいろ」

 カティアが席につくと、俺はその横にしゃちほこばって直立した。

 背後には八高弟達が勢ぞろいして並ぶ。


「さて、商業組合、及び自治会のお歴々方」

 彼女は優雅に脚を組み、彼らを見据える。

「説明して頂けるかな」

 説明するのはお前だ! と思ったのは俺だけではないようだ。

「か、カティア殿! いかに冒険者筆頭と言えど、このような無礼」

 組合長の言葉が途切れる。

 そのまま崩れるように席に戻った。

 カティアが彼を見たようだ。

 それだけで、ただそれだけで彼の意気地は折れてしまった。

 この場の主客が完全に逆転していた。

 いま俺の隣にある席が玉座で、そこに座るのが女王。

 眼前の査問会のメンバーが、引き据えられた罪人達。

 一瞬にして劇の構成を変えてしまうカリスマ。

 それが冒険者筆頭、カティアだった。

「カティア殿」

 蛇に睨まれたように萎縮する査問会の中で、ひとり自治会長が対峙する。

 もっともその顔色はかなり悪い。

「そちらのタヂカ殿について、反逆罪の訴えがありましたので、審議していました」

「ほう、反逆罪?」

 カティアが面白そうな顔でこちらを見上げる。

「それで?」

「容疑は街の戦力を危機にさらしたこと、そして街の経済に打撃を与えたことです」

「資料があるようですね、拝見できますか?」

 カティアが俺を小突いた。

 その意を察して自治会長に走り寄る。

 困惑した彼に目線でサインを送る。

 ここは言う通りにした方がいい。

 俺は資料を受け取ると、小走りに戻って彼女にうやうやしく差し出す。

「話になりませんね」

 彼女はつまらなそうに資料に目を通し、ぽいっと投げ捨てたってオイッ!

「まず街の経済に打撃を与えたとありますが」

 優雅に脚を組み替え、膝に手を乗せる。

「それは街の防衛上、止むを得ない処置でした。そもそも指揮官は」

 ぴしっと指を鳴らす。

 一瞬にして彼女の隣にラウロスが控える。

「こちらのラウロスでした。作戦に問題があったとするなら、彼の責任を問うべきでしょう」

「その通りだ。文句があるなら聞こう」

 ラウロスが腕を組んで睥睨すると、査問会のメンバーは首をすくめた。

 あれ、俺の時と態度が違うよ、言ってやれよみんな!

 ……いいんだ、分かっているよ。八高弟の長兄に文句を言う命知らずなんていないよな。

「さて次に、討伐隊を危機にさらしたと言う容疑ですが」

 査問会から異議が出ないことを見計らうと、次の話題に移る。

「こちらは当時のギルド連絡役からの証言があります。監査役だったタヂカは、指揮官であるサイラスに対して危険を訴え、撤退を進言しました。しかしながら指揮官は」

 ここでカティアは言葉を止め、組合長を見やる。

「経済的利益を理由にこれを拒絶しました」

 商業組合のメンバーがうつむく。

 特に視線を集めた組合長は、すごく居心地が悪そうだ。

「冒険者ギルドも遺憾ですが、責任はすべて指揮官であるサイラスに帰すと判断しました」

 カティアは容赦なく続ける。

「さらにサイラスは、鎧蟻が侵攻するや否や、配下を置き捨てて逃亡しました。この現場放棄の罪により彼は冒険者資格を剥奪し、この決定は各地の冒険者ギルドに通達されます」

 そこまで淡々と語っていた彼女の口調が、厳しさを帯びる。

「そもそも、序列持ちの冒険者を、ギルドの承諾なく引き立てるとはいかなる所存か!」

 序列持ち、というところで査問会のメンバーが反応する。どうやら驚いたようだ。

「じょ、序列持ち!?」「聞いてないぞ!」

「なぜギルドに確認されなかった? サイラスの言葉でも鵜呑みにされたか?」

「しかし領主様の許可は得ている!」

 カティアの言葉に、組合長が反駁する。

「そうですか?」

 カティアはちらりと、ギリアムの消えた扉を見る。

「騎士が立ち会わない以上、これはあくまでも非公式な査問会。当然法的効力はありません」

 組合長は今度こそへたり込む。

「それでは、これで失礼してよろしいか」


 サイラスの姿は、いつの間にか消えていた。



 どうやら彼は、カティア達が乱入する前に奥のドアから逃げ出したようだ。

 実に素早い。俺も見習いたいものだと思いながら、兄弟子達に囲まれて歩く。

「カティア、助かったよ」

 俺は先頭を歩く彼女に礼を言う。

「ふーん?」

「一時はどうなるかと」

「あ、そう」

「ひょっとして怒っている?」

「別に」

 俺は兄弟子達を見回す。

 どの顔も実に爽やかだ。

「あの、兄者達もありがとう、助かったよ」

『カッコいいギリアムさん!!』

「……すみませんでした」


 建物の外に出ると、そこには

『ヨシタツさん!』

 クリサリスとフィフィアが声をあげる。

 俺が手を上げて応えようとしたら

「グフッ!」

 突進してきたリリちゃんの頭突きが腹にめり込む。

 ちょうど良い場所に当たり、すっぱいものを飲み下した。

「タヂカさんタヂカさんタヂカさん!!」

 彼女は何度も俺の名前を呼び、頭をぐりぐりと腹にめり込ませる。

「ぐっリリちゃん!?」

 助けを求めようとしたクリサリス達は、片手を出した格好で固まっている。

 非難がましい目だ。違う、なんか知らないが俺のせいじゃない!

「ちょっ、ちょっと落ち着いて」

 俺は肩をつかんで彼女を向き直らせる。

 涙でぐしゃぐしゃになった顔に、胸を締め付けられた。

「ごめんね、リリちゃん。約束、守れなくて」

 彼女はイヤイヤするように頭を振る。

「お姉ちゃん達に聞いたの! タヂカさん、わたしとお母さんを守るために戦ったんだって!」

 また彼女の目から涙がふきこぼれ、抱きついてきた。

「何度も危ない目にあったって! それでも一生懸命頑張ったって! それなのにわたし!!」

 ひどいことしてごめんなさいと幼子のように泣き喚く。

 ……よかった、どうやらクリサリス達がフォローしてくれたようだ。

 俺は壊れ物を抱くように背中に手をまわす。

「言っただろ? 大切な人の笑顔を守りたいって」

 ぽんぽんと背中を叩いてあやす。

「だから笑って、ね?」

 彼女はおずおずと顔をあげた。

 泣きはらした顔のまま、はにかむ様に笑ってくれた。

 その笑顔を見て、俺は腹の底に溜まっていた澱が晴れた気がした。


 俺が殺した鎧蟻や女王達の冥福を、いまようやく祈ることが出来た。

 戦争が終わり、日常が戻ってきた実感がわいた。


 俺はリリちゃんの頭を撫でる。

 ちょっぴり鼻水が出ているのはご愛嬌だ。


「き、強敵だわ!」

「こりゃ姐御に勝ち目なんて」

 ドゴス、ドゴス


 異音に驚き、振り返ると、ベイルとラヴィが腹を抱えていた。

「ど、どうした!?」

「さあ? 悪いものでも食ったらしいよ?」

「すごい腹の音だな!」

 などと驚いたら、俺の腹までぐううっと腹が鳴った。

「そう言えば腹が減った」

 昨日、一昨日とろくなものを食べていない。

「リリちゃんの手料理が食べたいな」

「うん! 家に戻ろう! タヂカさんの好きなもの、いっぱい作るから!」

「ああ、美味しいものを頼むよ」

 リリちゃんに手を引っ張られ、たたらを踏む。

「り、料理上手だと!」

「うぬ勝負にならん」

「ひひ」

 ドゴス、ドゴス、ドゴス

 今度はラウロスとガーブとフルがしゃがみ込んでいた。

「こいつらも腹の調子が悪いらしい」

「お大事に? 礼は今度あらためて」

「いいから行ってやれ」

「タヂカさん、早く!」

「ちょっと待て」

 俺は反対側の手を差し出す。

「ほら、二人とも帰ろう」

 一瞬、きょとんとした顔のクリサリスとフィフィアが、満面の笑顔を浮かべる。

 差し出した手に二人の手が重なった。ちょっと痛いぐらいに力がこめられる。


 よし、これで大丈夫だ。俺は根無し草ではない。

 ちゃんといるべき場所にとどめてくれる手があるのだ。



 俺達は宿への道を急いだ。

 もう腹ペコだ。

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