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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
三十路から始める冒険者
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新人さん、ご案内

 翌日、朝食を摂ってから宿を出た俺は、街の中をぶらぶらと歩き回った。

 繁華街や市場、川沿いの港など、人がたくさん群れている場所を見て歩く。

 人ごみの中を通り過ぎながら、次の標的を探す。

 今のところ、けっこう金貨を貯めているが、まだ目標金額には達していない。

 俺の目的は、冒険者になることだ。

 冒険者はこの世界独特の職業で、いわゆる何でも屋である。

 人探しから商隊の護衛まで何でも行うが、そのもっとも特徴的な仕事は魔物狩りであろう。

 この世界には、魔物と呼ばれる存在がいる。獣の姿をしたものや人型の魔物など、その姿は千差万別である。

 冒険者は、それら魔物を狩って金を稼いでいる。その額は、ピンきりであるが、上位の冒険者の収入は、賞金稼ぎなど足元にも及ばない。

 もちろんリスクが大きい。当然だ。だからこそ、高額の収入を得ることが出来る。

 カティアから聞いた話を総合して、俺なりに立てた目標がある。

 まず装備を整えること。冒険者としての装備は、上を見たらキリがないらしい。

 だが、魔物を狩るためには、高品質な武器、防具は必須らしい。装備した武器、防具の性能によって、稼ぎがだいぶ違うのだ。

 金を稼いでは装備につぎ込んで困難な仕事に挑み、さらに高品質な装備を得てさらに困難な仕事を挑むという冒険者もいるらしい。

 俺からすると、なんのために稼いでいるのか、理解できない話だ。

 いや、理解できないというより、そこまでの向上心はもてない。

 次に拠点の確保だ。いまはシルビアさんの宿で世話になっているが、自分の家がほしい。それはまあ、後回しでもいいのだが。

 あとは奴隷の入手だ。この世界では、奴隷が公然と売買されている。

 倫理的な問題はともかく、ある程度の社会的地位を得た人間には、奴隷が必須らしい。

 さらには、冒険者として活動する上で、奴隷を使役するケースもある。


 冒険者は普通、数人で徒党を組む。この徒党をパーティーという。

 魔物を狩るという仕事は、報酬が高いものほど、一人では難易度が高い。

 中には一人で活動する冒険者もいるが、少数派だ。

 だから人数を集めて仕事をこなすというのは合理的なのだが、そこで問題が生じる。

 報酬の分け前だ。当然だが、人数が多ければ多いほど、一人頭の分け前が減る。

 それでもリスクの低減という面では意味があるが、人数を増やすメリットはそれぞれの役割の分担による効率化があげられる。

 つまり、直接魔物と対峙する者と、後方で支援する者との危険度の違いから、単純に山分けにすると、だんだんと不満が生じるそうだ。

 そして最後には報酬の分配で揉め事になり、良くてパーティー解散、悪くすると流血沙汰も珍しくないらしい。

 そういうトラブルを回避する約束事があるが省略する。

 報酬の分配諸々のトラブルを嫌う冒険者は、奴隷を購入する。奴隷には給金を支払う必要がないからだ。

 だが、こちらの方法も、報酬丸儲け、とはいかない。

 奴隷といえども人間だ。生物だと言い換えてもいい。

 要するに、衣食住の面倒を見なければならないのだ。

 その経費だけでも馬鹿にならないうえに、そもそも奴隷を購入するのは魔物を狩るためだ。

 当然、それなりの装備が必要だ。仮に装備の費用をケチったために、購入した奴隷が死んだとする。

 法的には魔物狩りによる死亡は事故にあたり、奴隷の主人は罪に問われない。

 しかし、奴隷は安価なものではないので、損害は大きい。それを避けるためには、品質の良い装備を購う必要がある。

 その上、奴隷はスキルを取得することができない。

 奴隷は、スキルの取得を封じる処置が施される。

 奴隷になる前に取得したスキルは機能するので、冒険者が購入する奴隷となると、最初から高い能力を持った奴隷となる。

 当然、価格も高いものになるので、新人冒険者が入手できるはずがない。

 結論から言うと、パーティーを奴隷で構成するというのは、上手くやらないと利益が少ないということなのだ。

 以上を踏まえて、俺の出した結論は、奴隷によるパーティーの編成だ。

 決定事項ではないが、とりあえずの目標である。

 そのためにはまず、資金を稼ぐことだ。


 俺はめぼしい人間に看破を使いながら歩く。

 ちなみに、この看破の使用回数には限界がある。

 あまり何回も使用すると、だんだんと倦怠感が増してくるのだ。

 一度、実験で自分に看破を掛けまくった結果、気絶したことがある。

 その次に実験をしたときは回数を数えたのだが、三十回目で気絶した。

 だから、獲物を探すにしても誰彼かまわず看破しまくるわけにはいかないので、それっぽい人物を見定めてから看破をすることになる。

 だが、いかにも人を殺したことがある、という外見の人間は少ない。

 というか、そんなやつは普通いない。

 一昨日のゲインだって、それなりの強面の人だったが、その程度の風貌の人間はごまんといる。

 ある程度、経験を積めば判断できるようになるのかもしれないが、そんなに経験を積む前に、冒険者になりたいと思う。

 そうこうしているうちに、街を取り囲む城壁の東門までたどり着いてしまった。

 この街は、大陸を横断する街道の途中にあるため、人の出入りが多い。

 こちらの東門から入って街で数日過ごし、反対側の西門から出て行く。

 逆もまた同じだ。どちらの往来が多いかは季節にもよる。

 そう言えば、街の外から標的が来ることもあるだろう。

 俺は門の脇にある詰め所の近くにある木の根元に座り込んだ。

 そしてぼうっと人の流れを見やる。

 門の外には、人がたくさん並んでいるのだろう。

 詰め所の兵士が検問して、なかなか列は進まないようだ。

 ここでは、鑑定石は使われていない。最初は不思議に思ったが、鑑定石の乱用による弊害の話を聞いて納得したことがある。

 ピンと閃いた。

 検問している兵士は、いわば人物鑑定のプロだ。

 彼らが怪しいと思った人物に狙いを定めれば、高確率で獲物が見つかるかもしれない。

 俺は人々の流れよりも、兵士たちの動きに注目した。

 集中、し過ぎていたのだろう。

 声を掛けられるまで、そのふたりの気配に、まったく気が付かなかった。

「あのお?」

「うひゃああああああああ!」

 思わず、叫んでしまった。

「ご、ごめんなさい!!」

「い、いや、す、すまない、ちょっとビックリして・・・」

 バクバクと、早鐘を打つ胸を押さえる。

 最近、こういうことが多くなった。いきなり声を掛けられたり、背後から近づかれると、過剰に反応してしまう。

 いろいろと疲れているのだろうか。

「ごめんなさい、休んでいるところ・・・」

 二人組の女性だ。二十歳前後、だろうか?

 申し訳なさそうに頭を下げている、金髪のショートヘアの女性。

 彼女の隣で笑いをこらえている女性は、濃い栗毛の髪を後ろに束ねている。

 ただし、二人とも街娘の格好ではない。

 軽装の革鎧に身を包み、金髪さんは背丈ほどもある木の棍棒を、栗毛さんは腰に長剣を帯びている。

「・・・冒険者?」

「冒険者志望、ですね、まだ」

 思わず呟いた言葉に、朗らかに答える栗毛さん。

 つまり、この街の冒険者ギルドに登録しにきたのだろう。

「なにか俺に用事ですか?」

「すみません、いまこの街に着いたばかりなのですが、冒険者ギルドの場所を、教えてもらえませんか」

 金髪さんが尋ねる。小づくりな顔をして、快活な印象だ。

「ああ、いいですよ。でも、北門寄りだから、ちょっと遠いね」

「北門、ですか?」

「この町は東西南北の門から伸びた大通りで、四つに区切られているんですよ。冒険者ギルドは北門からの大通りを横に入った道にあるんだけど・・・」

「あるけど?」

「遠回りになるなあ」

 この東門からなら、斜めに横切っていったほうが近いのだ。

 俺は首を傾げた。どうせ看破は、体調を崩さずに使えるのは四回ほどだろう。そろそろ昼頃だし、お腹も空いてきた。

「よし、案内しよう」

「え、そんな、悪いですよ」

「いいって」

 俺は照れて頭をかいた。

「俺もはじめてこの街に来たときに、案内してもらったからね。あのときの親切の、おすそ分けだよ」

 そう言って立ち上がり、腰を伸ばして歩き出した。

 彼女たちはちょっと迷ったようだが、すぐに追いかけてきた。

「お手数をおかけします」

「ありがとうございます」

「二人とも、大きな街は初めてだろう?」

「わ、わかりますか?」

 金髪さんが恥ずかしそうに答える。

「田舎者だと言いたいのですか?」

 栗毛さんはむっと唇を引き締める。生真面目な印象で、ちょっと気が強いのだろう。

 俺は振り返り、ニッと笑った。

「知らない男に、簡単についてきちゃだめだよ」

 彼女たちはぎょっとした顔で立ち止まる。

「特に、親切めいた顔で近寄ってくるやつには気をつけなきゃ」

 そう言って歩き出す。

 今度のためらいは長かったようだが、それでも小走りに追いかけてきた。

「なんだ、せっかく忠告したのに?」

「あなたは、悪い人には見えませんから」

 栗毛さんがのたまう。

「うん、君のきれいな瞳は節穴だね」

「ひ、ひどい!」

 ちょっと赤くなりながら抗議する栗毛さん。

 このぐらいの軽口に反応するなんて、よほど純朴な育ちなんだろう。ただし、ぜんぜん人を見る目がないのは確かだ。

 君たちの前を歩いているのは、人殺しだよ?

「実際のところ、他人はまず疑ってかかったほうが間違いないよ。特に若い女性はね」

「大丈夫です、腕にはそこそこ自信がありますから」

「わたしもよ?」

「へえ、そうなんだ?」

 だったら本当かどうか、見せてもらおうか?

 まず栗毛さんはと


名称:クリサリス

年齢:19歳

スキル:剣術1

履歴:


 ・・・金髪さんは?


名称:フィフィア

年齢:18歳

スキル:魔術1

履歴:


 ・・・・・ぉおおおおおおおおお! 魔術!?

 魔術ってなに!? どういうこと!? 手品、てことはないよね!!

「ふ、ふーん、とってもそうは見えないけどなあ?」

「ほんとうよ?!」

「女だと思って侮りますか!」

 くっ! 俺が必死に身に着けようとしている剣術スキルを、こんな小娘が!!

 などと、ひがんだり妬んでみたりするが、もちろん顔には出さない。

「はいはい、すごいねえ」

「わたしは剣術スキルを持っています!」

「わたしは魔術が使えるわ!」

「ちょっと待て!!」

 さすがに流すことが出来ず、俺は怒鳴った。しまった、煽りすぎてしまった。

 俺は周囲を見回した。幸い、わき道に入ったので人通りはない。

 彼女たちを睨みつける。

「いいか! 二度と、自分のスキルを人前で口にするなよ!」

 俺の剣幕に、彼女たちは戸惑ったように顔を見合わせる。

「田舎じゃどうか知らないが、冒険者になろうというやつが、軽々しく自分のスキルを口にするな。冒険者同士で足の引っ張り合いなんてのは、日常茶飯事だ。有用なスキル持ちだと知られたら、食い物にしようとか蹴落してやろうとか、そんな下衆な連中が群がってくるぞ!」

 しゅん、と彼女たちはうなだれた。

「今の話は、聞かなかったことにする」

 そう言い捨てて歩き出す。彼女たちもあわてて付いてくる。

「ご、ごめんなさい」

「申し訳ありませんでした」

「・・・いや、俺も言い過ぎた」

 そもそも俺に、説教する資格などない。

 先ほどのセリフは以前、人ひとり、殺す羽目になった後で、カティアに言われたことだ。

 相手は殺人の履歴持ちだったが、望んで殺したわけではなかった。

 気まずい雰囲気が、しばらく続いた。

「あなたは、良い人ですね」

 栗毛の剣術スキルが呟く。

「・・・まだ言うか」

「いいえ、とても優しい人ね」

 金髪の魔術さんまでもが言う。

 俺は呆れかえり、匙を投げた。

 一度、痛い目にあわないと駄目らしい。


「こんにちはデインさん」

「こんにちはタヂカさん、今日はどういったご用件で?」

「冒険者志望の二人組を連れてきました、ほら?」

「は、はい、クリサリスです!」

「ふぃ、フィフィアです」

 俺たち一行は、冒険者ギルドに到着した。

 冒険者ギルドは木造三階建ての立派なつくりで、一階が受付ロビーになっている。

 彼女たちを連れた俺は、顔なじみの男性職員に引き合わせた。

「ようこそいらっしゃいました。それでは当ギルドのご説明と、登録手続きをさせて頂きますが、よろしいでしょうか?」

「は、はい!」「お願いします!」

「それじゃあ、後を頼みます」

 俺がデインさんに任せて立ち去ろうとすると、彼女たちがすがるような目を向けてきた。

「デインさんはベテラン職員だから安心だよ。分からないことや相談があれば、何でも言ってごらん?」

「おまかせください」

「しばらくここをうろついているから、終わったら食事に行こう」

 その場を離れると、ロビーの中をうろついた。

「あ、いたいた」

「なんだ、ヨシタツか。どうした?」

「なんだはないだろ、カティア」

 剣術の師匠を見つけたので、ロビーの隅にある喫茶室に誘ってお茶を頼んだ。

 十五分ほど雑談をしてから、思いついた。

「さっき、冒険者志望の二人組を拾ったんだ」

「あそこの彼女たちか?」

 カティアが俺の背後に目を向けた。たぶん受付でデインさんと話し込んでいるだろう。

「栗毛で長剣を下げているのがクリサリス、金髪で棍棒を抱えているのがフィフィア」

「ふむ、どちらが好みだ?」

「髪の色ならフィフィア、髪型ならクリサリス、スタイルならカティアだね。」

「・・・口説いているのか?」

「ちょっとでいいんだけど、彼女たちの事、気に掛けてあげてくれないか」

「分った、目配りしておこう、あとさらっと流すな」

 なぜカティアにそんなことを頼んだかと言えば、フィフィアの魔術スキルが気になったせいだ。

 俺がこの世界に来て、初めて視たスキルだ。おそらくだが、希少なスキルなのではないか。

 だとしたら、余計なトラブルを招くおそれがあるかもしれない。

「だが、なぜそんなに肩入れをする? 一目ぼれか?」

「なんだかあか抜けなくて、人に騙されやすそうで放っておけない感じがする」

「そんなにか?」

「うむ、なにせ俺のことを良い人とか優しいとか言うぐらいだから」

「それはひどいな。熱でもあるんじゃないか?」

「俺にも美徳があると思うのは、病気レベルの錯覚か? しかし、大きな街は初めてと言っていたから、よほどの田舎からきた、世間知らずじゃないのかな。このままだと、あと三日で男に騙されて売り飛ばされそうな気がするよ」


 それからクリサリスとフィフィアを彼女に引き合わせ、四人で昼食を摂った。

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