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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
仲間とがんばる冒険者
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カエルなネックレス

 独りよがりだったのかもしれない。


 毎日が大変だったが、それでも久方ぶりの充実感だった。

 仲間と何かを成し遂げ、達成感を覚えたのは遠い過去の出来事だ。

「その、何と言うか」

 何と言えばいいのか、分からない。

 昨日が契約の期日だった。

 だから今日、改めて契約を更新して討伐に出かけるつもりだった。

 そのことは俺の中で既定の事実だった。

 まさか彼女達に拒絶されるとは思わなかった。

 いつの間にか、俺は彼女達をないがしろにしていたらしい。

「すまない、君たちの意思も確認しないでこんな」

 恥ずかしい。とても恥ずかしい。

 いつから俺は、これほど傲慢な人間になっていたのだろう。

「あ、あの」

「皆様のパーティー期間中の報酬は金貨五枚、銀貨二百十枚、お一人様一金貨と銀貨三百三十六枚ぐらいになります」

 何事か言いかけたクリサリスを遮るようにセレスが淡々と述べる。

「これは新人冒険者のパーティーとしては破格の収入でしょう」

「けっこう稼いだな」

 賞金稼ぎのときと比べてどうだろう。そんなどうでもいいことが頭をよぎる。

「素晴らしいですね。どうしてこんなに稼ぐことが出来たのでしょう」

「三人で力をあわせて頑張ったからな」

「そうでしょうか?」

「・・・どういう意味だ」

「いえ。ただ彼女達は仲間としてどれだけ稼ぎに貢献できたのかと」

「彼女達がいなければそんなには稼げなかった」

「そういう意味ではなく、パーティーの仲間が彼女達である必要があったのかどうかと」

 最初、セレスの言葉の意味が分からなかった。

 次第にその意味が頭に浸透してくると、腹の底に不快感がわいてきた。

「俺には彼女達が必要だ」

「ええ、確かに当初はそうだったのでしょう」

 尖った俺の口調にもセレスは穏やかに笑う。

「ですが今はどうですか。七日が過ぎ、ご自分の力を把握した上で、まだ彼女達が必要だと言えますか?」

「ああ、必要だ」

「本当に?」

 俺はクリサリス達に視線を向ける。相変わらずうつむいている。

「セレス、言いたいことがあるのならはっきり言ってくれ」

「ヨシタツさんに新たなパーティーを紹介できます」

「新しいパーティー?」

「はい、腕の立つ経験豊富なメンバーを揃え、ギルドの支援も充実したパーティです」

 俺は声もなくわらった。

「年のいった新人相手にずいぶんと大仰だな」

「ちょっと前なら笑い話でしたでしょうが」

 セレスは真顔だった。

「序列入りされたヨシタツさんなら当然の待遇です」

「ちょっと待ってくれ」

 俺は慌てた。買い被りにもほどがある。

「何か勘違いしているぞ。俺は小細工ぐらいしか能のない男だ。討伐のときだってクリサリス達の足手まといになる実力だぞ?」

「そんなことありません」

 唐突にクリサリスが会話に割り込んだ。

「ヨシタツさんは優れた冒険者です。足手まといなんかではありません!」

「そうよ、自分を見くびらないで!」

 勢い込んで否定する二人。だが

「よく、分からないな」

 彼女達が評価してくれるのは嬉しいが。

「だったらなぜ、契約更新が嫌なんだ」

「い、嫌だなんて」

「そんなこと」

 またもや顔を下に向けてしまう。

 彼女達のそんな態度が不愉快になってきた。

「彼女達にはわかっているのです。今回の稼ぎが自分達の力でないことを。ヨシタツさんなら優秀なパーティを率いればさらに稼げることを」

 セレスの言葉もうっとおしくなってきた。

「それに本来、ヨシタツさんの希望は奴隷を入手してパーティーを組むことだったのでは?」

「・・・誰に聞いた?」

「カティアさんから。それにお二人からも」

 昨日の話し合いだろう。

「・・・どれだけ俺の情報を漏らしたんだ?」

 つい呟いてしまった。

 クリサリス達の反応は激しかった。

「大事なことは何も言っていません!」

「本当よ!ヨシタツさんの秘密はバラしてないわ」

 俺は頭をかかえた。

「このように素直なお二人ですから」

 セレスの声は朗らかだ。

「セレス、おまえねえ」

「まあ、おまえだなんて」

「いや、まあ、もういいやどうでも」

「あの、どういうことでしょうか?」

 クリサリスとフィフィアが首を傾げる。

「うん、気にするな」

「ヨシタツさんに隠し事があるなら、何も喋らないほうがいいですよ?」

 せっかく流そうとしたのに、セレスが余計なおせっかいを焼く。

「秘密だと言うのは秘密があると暴露しているようなものです」

「セレスなら大丈夫だ。多少知られたところで問題はない」

「信用して頂いてなによりです」

 クリサリスとフィフィアの顔色が段々と悪くなってくる。色々と思い当たることがあるのだろうか。

 本当に大丈夫だよな?

「まあ、話は脱線しましたが。奴隷パーティを希望しているなら優秀なパーティーを組んだほうが近道ですし。いずれはお二人を捨てることになるのですから早い方がよろしいかと」

「捨てるとか言うな」

 まあだいたい分かった。

「ぜんぶセレスの仕込みだな?」

「あら」

「あらじゃねえ!」

 俺はクリサリスとフィフィアに向き直った。

「彼女に何を言われたのか知らないが」

 どうしてこう、嬉しくなっているのか。

「俺を見捨てるわけじゃないんだな?」

「ち、ちがいます!」

「私たちはヨシタツさんのためを思って!」

 利用すればいいのに。

 まだそこまでスレていない彼女達が好ましい。

「俺は君たちがいい」

 だからはっきりと言う。

 誤魔化さず、こちらの意志を示す。

「君たちはどうだ?」

 彼女達は嬉しさと困惑のない交ぜになった顔で見合わせた。

 まだ迷いが見られる。

「要するに、彼女達はヨシタツさんに頼りきるのが後ろめたいんです」

 またもやセレスがとりなすように口をはさむ。

「ですからここはヨシタツさんが譲歩されては?」

「どういうことだ」

「報酬の配分です。通常の契約パーティーでは個々の経験や能力によって報酬の分け前がちがいます。ですから彼女達が本当に自分達が稼ぎに貢献していると確信できるまで、報酬の配分に格差をつけたらいかがでしょうか?」

 クリサリスとフィフィアが表情を明るくしてウンウン頷いている。

「だがそれでは」

 俺が難色を示すと、セレスはしたり顔で説く。

「報酬の取り分を多くするのはそれだけ責任が伴うと言うことです。年長の男性としてそれぐらいの器量を見せて頂きたいですね?」

 ぐう。こいつ、嫌な言い方をする。

 その責任が嫌だから奴隷パーティーだというのに。

「ぐ、具体的には」

「報酬の半分はヨシタツさんに。残り半分をクリサリスさんとフィフィアさんで等分にしては?」

「賛成です」

「それでいいと思う」

 自分の分け前が減ると言うのになぜこいつらはこんなに積極的なんだ?

 なんだかおかしい。

 罠にはまった気がする。

 グルじゃないコイツら?

 それが分かっているのに逃げられない気がする。

 だが、ぜんぶ思い通りになどさせん。

「俺の取り分が八分の三、二人が四分の一ずつだ」

「・・・残りの分は?」

「パーティー費用としてギルドに預かってもらう」

「それはどのようなものでしょうか」

 セレスが困惑した顔で問い返してくる。その顔を見て多少溜飲が下がる。

「パーティー費用はメンバーの共有財産だ。報酬からあらかじめ差し引いてもらう。主に怪我や病気の治療費に当てる。パーティー契約解消の際は生き残ったメンバーで等分に分ける」

「そ、そのようなことはギルドでは請け負いかね」

「やってくれるだろう?これだけ引っ掻き回してくれたんだ、ちょっとぐらい根回ししてくれや」

 俺が脅すと、セレスの顔色が悪くなる。

 新たな業務を増やすとなれば、あちこちに許可を取り担当を決めなくてはならないだろう。それもひとつのパーティのためにだ。

 それぐらいの苦労をしてもらわなくては。

「分かりました」

 セレスはうなだれた。



 新たな条件で契約を終えた俺たちは、いつもの食堂に入った。

 もう昼過ぎだ。いろいろ細かい条件を考えたらけっこう時間が掛かった。

「さて」

 注文をとってから、俺は正面に座るクリサリス達に切り出した。

「何か言うことはあるか」

 ふたりはきょとんとした顔だ。こいつら、もう終わった気でいやがる。

「ああいうことは、事前にお互いで話し合うべきだと思うんだが」

 なるべく穏やかに話しているつもりだが、彼女達は身を縮こまらせる。

「あの、怒ってる?」

「怒ってやいないさ。ただちょっと」

「ちょっと?」

「悲しかっただけさ」

 罪悪感にまみれた顔でこちらを見詰めるふたり。

「他人からあんな話を切り出されて」

 ちょっと考えて言葉をまとめる。

「身内のことを当人同士で話し合う前に他人に口出しされて」

 ちがうな。

「まだちょっと信頼されていないのかなって」

『ごめんなさい』

 彼女達は泣きそうな顔で頭を下げた。

「たぶん俺も普段からきちんと話す機会を作るべきだったんだ。だから謝らないでくれ」

 俺はポケットから目的のものを出す。

「これは?」

 テーブルの上にネックレスをふたつ置いた。

「初パーティーの記念だ」

「カエル?」

 コドクガエルをモデルにした銀のネックレスだ。

「後で説明するけど、俺たちはこのカエルに命を救われたんだ」

 こいつの麻痺毒のおかげで、鎧蟻から逃げる時間が稼げたのだ。

 石像を作ると祈ったが、これでも構わないだろう。

「可愛いですね」

 ネックレスを手に取り、クリサリスが呟く。

 知り合いの工房に突貫で作らせた品だ。

 愚痴を言っていたが金を握らせたら黙った。

 悪くない出来だと思う。

 小さな銀のカエルが光を反射してクルクルと回っている。

「これからも二人が無事でいられるようにお守り代わりにと・・・まあデザインはアレだけど」

 カエルはなかったか?

 そんな心配は無用だったらしい。


 二人は輝くような笑顔を浮かべていた。

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