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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
仲間とがんばる冒険者
32/163

パーティー契約更新?

「問題は何をもって中級魔物と判断するかなんだ」

 俺は解体作業を続けながら説明する。

「ギルドは危険度、戦闘力で評価している。でも魔物同士は?」

 そして俺の探査は?

 いや、探査スキルが魔物の等級を判断しているわけではない。

 俺が他の魔物と比較して感覚的に評価しているだけだ。

 だがそれは何を根拠に?

「答えは、これだ」

 俺は長耳イタチからえぐり取った霊礫を見せた。

 下級魔物のグルガイルの二十倍以上はあるだろう。

 いや、もっとか?

「気配を察知する能力のある魔物は、こいつで判断しているんだ」



 長耳イタチはウサギのように長い耳を持った小型の魔物だ。

 鋭い牙と、長い胴体に短い四本の脚の生き物だ。

 まるっきりイタチだ。

 推測だが、非常に高い生存能力の種族だろう。

 迷彩スキルのおかげだ。全身を陽炎のような揺らぎが包み、姿を隠す。

 光線を透過しているのか幻影の類か、原理は不明だ。

 彼らを視覚で捕捉するのは困難だ。

 ではスキルで獲物を見つける魔物が相手ではどうか。

 霊礫の大小で判断しているとすれば長耳イタチは中級クラスだ。

 下級の魔物なら襲うより逃げるだろう。

 視覚でもスキルでも正体不明な幻の魔物。

 それが長耳イタチだ。

 セレスは言っていた。

 長耳イタチは希少だと。

 それはたぶん間違いだ。長耳イタチの数はそれなりにいるのだろう。

 ただ誰も見つけられないだけだ。

 俺のような探査に類似したスキルを持つ冒険者以外には。

 そしてこの発見をした者はきっと誰にも話さないだろう。

 俺だって秘密にする。

「疑問なのは、どうしてこれほどの大きさの霊礫を持っているのでしょう」

「たぶんだが、長生きをすれば魔物はどの種類でもそれなりに大きくなるんじゃないか?」

 看破で読み取った魔物の年齢はたいてい一年から三年ぐらいだ。

 もちろん種族的な特徴もあるだろうが。

「長耳イタチは寿命が長く敵に見つからず、さらに霊礫が育ちやすい魔物なのかもな?」

 もしかすると長耳イタチだけではなく、この条件にあう他の魔物の霊礫も、大きいのかもしれない。

「これ、いくら位するのかしら?」

 フィフィアが目をキラキラさせながら長耳イタチの霊礫を見詰める。

「さあ、けっこうすると思うよ?」

 金貨一枚の長耳イタチの記録は内緒だ。

 あとでびっくりさせてやろう。

「でも、ちょっと可哀想ですね」

 クリサリスは長耳イタチの死体を見下ろす。

「それは言わないでくれ」

 俺は内心でしょげる。

 魔物はたいてい強面だから、あまり罪悪感を抱かないのだが。

「見かけは可愛いものね」

 クリッとした目。愛嬌のある長い耳。艶やかな茶色の毛並み。

 魔物でなければペットとして人気が出そうだ。

「こんなに可愛いのに中級魔物と間違えられたんだ」

「それも言わないでくれ」

 本当に言わないでくれ。

 あの時の恐怖とか悲壮な決意とかが、ぜんぶ台無しになってしまった。

「・・・俺が、守る」

 クリサリスが、ぽつりと呟いた。

「・・・・」

「・・・・」

「フィフィア、君のことは俺が命にかえても守るさ!」

「言ってねえよ!!」

「そうよ、そんな大げさな物言いではかえって軽い感じがする」

「そうかな?」

「俺が、守る。たった二言に込められた想いは万言に勝る」

「なるほど」

「やめて、それ以上はやめて、お願いだから!!」

 恥ずかしさのあまり、俺は頭をかかえてしゃがみ込んだ。

 しばらくしてからおそるおそる顔を上げる。

 彼女達は、じっとこちらを見ていた。

『俺が、守る』

 声を揃えて放たれた言葉が致命傷となり、俺はのたうち回った。




「説明して頂きます」

「なんでそんなに凄むんだよ!?」

 俺はセレスに訴えた。

「ここは驚愕しつつも絶賛してくれるところじゃないの?」

「何の冗談ですか?」

「え? ええとですね?」

「中級魔物の霊礫を四つ、新人冒険者達が持ち込んだんですよ?」

 指先でカウンターをコツコツ叩きながら問い詰めてくるセレス。

 受付嬢の態度ではない。警官の尋問みたいだ。

「しかも監督処置中です。監督役として問いただすのは当然では?」

 誰だ!彼女が担当だと都合がいいと言ったバカは!


 長耳イタチを四匹仕留めた俺達は街に戻った。

 すぐにギルドへ向かったが、冒険者の大半が鎧蟻の討伐に出払って閑散としていた。

 余計な注目を浴びずに都合が良いとほくそ笑んだ俺達は、セレスの元に霊礫を持ち込んだのだ。

 懐から霊礫を取り出し、カウンターに並べた途端、セレスが豹変したのだ。


「素材はどうしました?」

「・・・ありません」

 目を逸らして答える。

 セレスの片眉がピクリと上がる。うわ、器用だな。美人がやると様になる。

 振り向けば、クリサリスとフィフィアが震え上がって立ちすくんでいる。

 助けは諦めた方がよさそうだ。

「霊礫だけをもって来たのですか?素材を放置して?それとも例によって料理に使うおつもりですか?」

「いえ、そういう訳では」

 長耳イタチの死体は埋めてきた。

 なんとなく哀れだったのと、他の冒険者に見つからないようにだ。

 あの区画はいま、討伐隊の連中がいるのだ。距離は離れているが万が一と言うことがある。

 長耳イタチの件は秘密にするつもりだ。だから死体はもって帰らなかった。

 何の魔物か聞かれたら窮地に陥りそうだと、内心で苦々しく思う。

「不満そうですね?」

「い、いえそんなことは」

「いいでしょう、ちょっと例え話をしてみましょうか?」

「・・・どうぞ」

「ご飯を作っていたお母さんを、ちいさい息子が呼びました」

「いや俺、いい年だからそんな子供相手みたいに」

「お黙りください」

「はい」

「息子はお母さんに小さな手のひら一杯の金貨を差し出しました」

「なるほど?」

「息子は言いました。このお金で好きな物を買ってね、と」

「ほうほう」

「さて、母親はどうするでしょう?」

「・・・どうやって金貨を手に入れたのか、問いただしますね?」

「それだけですか」

 セレスは不満そうだ。

「とても心配するかと?」

「他には?」

「え! えーとですね」

「自分の息子です。信じたいでしょう。ですが子供が手に入れるには大金過ぎます」

「・・・あの、先日のお話で報告義務は免除ということになったのでは」

「だから?」

 一言で切って捨てられたよ!

 ぜんぜん意味がなかったね交換条件!

 彼女の冷ややかな眼差しを見て思い出す。

 慈悲なき断罪者

 彼女の噂を耳にしたとき不思議に思ったが。

 こういう意味か!

 セレスはふうっとため息をついた。

「まあ、いいでしょう」

「・・・いいのか?」

「ええ、不正というわけではないようですし」

「そんなことを疑ってたのか!?」

「ヨシタツさんでなければ疑っていましたね」

 彼女は平然とうそぶく。

「他の冒険者を襲ったとか押し込み強盗とか」

「さっきの悩む母親の例え話はなんだったの!」

「累が及ぶのを恐れた母親は息子を詰め所に突き出しました」

「なにその悲惨な展開!」

「お金は女と逃げた父親が息子の養育費にとこっそり渡したもの」

「やめてよほんと!!」

「母親に裏切られた息子は人生の裏街道をまっしぐら」

「たすけて!誰か息子さんを助けてあげて!」

「助けてくださいます?」

「・・・え?」

「実はこの話、わたしの実体験にもとづいた」

「ひいい!!」

「というと皆さん本気にされるんですが、そんな風に見えますか、わたし?」

「ほんとだね!?後でこっそり寂しげにため息をついたりしないよね!!」

「こんな作り話に騙されてたら娼婦に尻の毛までむしられますよ?」

「いいよ騙されても作り話なら!!」

「だめです。こんど娼婦の手管を仕込んでくれた先輩を紹介しますから勉強してください」

「いらないよ!そんな生々しい人生勉強なん―――――え?」

「・・・おっと」

 セレスが手のひらで口をおさえた。

「冗談がすぎましたね」

「・・・・・・」

「押し込み強盗云々も冗談ですから。ヨシタツさんなら足がつくようなヘマはしないって信じてます」

「嫌な信用だな!」

「冗談ですよ?」

 だから冗談には聞こえないんだって!

「ちなみに疑いが晴れないときはどうするんだ?」

「武装解除の上に拘束監禁尋問ですかね」

「・・・おい」

「うふふ冗談です」

 いや冗談じゃないね。

 いま天井裏に、ここから離れる人間が探査に反応しているよ?

 あ、床下にもいた。

 ・・・すげえ疲れた。

 これからもこんなに疲れるんだったら、監督役を交代してもらいたい。

 いや、だからこそ監督役に相応しいのか。

「金貨五枚です」

「なにが?」

「霊礫の買取価格です」

「ああ、そう」

「驚かないんですね?」

「君のほうがよっぽど驚きに満ちた女性だからね」

 最初の楚々とした美人という印象とは違いすぎる、ほとんど詐欺だ。

「まあ!」

 頬を染めるセレス。

「おだててないから!」

「またそんなこと」

「だから違うって!」

 なんだこれ!?いま気が付いたけど俺の言葉って彼女にちゃんと伝わっているのか!?



 一人でギルドを出た。

 セレスがクリサリス達を引きとめたのだ。用件があるらしい。

 時間が掛かるから先に戻って欲しいと言われた。

 都合が良いので寄り道をしてから宿に戻った。

 それからしばらくしてクリサリス達が戻ってきた。

 何の用件だったと聞くと大した話じゃないと言葉を濁された。

 二人とも考え込んでいる表情だった。

 微妙な雰囲気のまま食事を一緒に摂り、それぞれ部屋に戻って寝た。


 翌日、宿を出て三人でギルドに向かった。

 こうして彼女達と一緒に連れ立つのも今日で八日目だ。

 なんとなく会話がないまま、ギルドに到着する。

 ギルドはまだ閑散としている。セレスのいる受付に向かう。

「おはようセレス」

「おはようございますヨシタツさん。良い天気ですね」

「ああまったく。討伐隊から連絡は?」

「ええ、まだ犠牲者もなく順調に進行中のようです」

 まだと、さらりと言えるセレスも、冒険者ギルドの一員なのだろう。

 受付嬢達は何人もの犠牲者を見てきたのだ。

「今日のご用件は?」

「ああ、パーティーの契約更新にきた」

 セレスが目配せをした。

 俺にではない。背後の二人、クリサリスとフィフィアに向かってだ。

 彼女達の表情が強張っていた。

 なんだこの雰囲気。

「ヨシタツさん、個室を用意いたしますので少々お時間を頂けますか?」

 セレスがそう告げた。



「どうぞ」

 セレスがお茶の入ったカップを差し出すと、自分の席に座った。

 テーブルがひとつあるだけの、装飾のない簡素な部屋だ。

「ヨシタツさんは初めてのパーティー契約でしたが、いかがでしたか?」

 俺の正面にはセレスが、右手にクリサリスとフィフィアが二人並んで座っている。

 気にしすぎかもしれないが、微妙な距離感を覚える。

「ああ、いい経験になった。厄介な出来事もあったが」

「ふふ、そうですね。こんな波乱に満ちた新人パーティーはわたしも初めてです」

「迷惑を掛けて申し訳ない」

「いえいえ、これも仕事ですから」

 和やかに進む談笑の裏で、静かに緊張感が高まっている気がする。

「それで今日はパーティー契約の更新を希望とか」

「ああ、手続きを頼みたい」

「それはよろしいのですが、お二人の意志は確認されていますか?」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 視線をクリサリス達に向ける。

 彼女達は、うつむいていた。

「・・・・クリサリス? フィフィア?」

 喉がからむようにうまく声が出ない。

「・・・その、私たちは」

「更新は考え直そうと」


 ・・・なんで?

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