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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
仲間とがんばる冒険者
31/163

大規模討伐をサボろう

 今日はパーティー契約の最終七日目だ。

 昨日はギルドの斥候を鎧蟻の巣へ案内して一日が潰れた。



 クリサリス達と一緒にギルドへ赴くと、朝からごった返していた。

 武装した冒険者達がグループごとに分かれ、浮かれた調子で声高に騒いでいる。

 どの顔も興奮しており、ちょっとした祭りさわぎである。


 今日から鎧蟻討伐がはじまる。

 その熱気に当てられてギルドの入り口で呆然としていると、例の三人組が駆け寄ってきた。

「おやっさん!」

 その声に何人かが俺に気が付き、歓声があがった。

「タヂカ!」

「よくやったぞ!」

「稼がせてもらうぜ!」

「いかすぜ悪魔ヤロウ!」

「でかした悪魔!」

 ・・・どうやら褒められているらしい。

 冒険者が相手を悪魔や鬼と呼ぶのは一種の賞賛である。力強いイメージだからだろう。

 だから怒るわけにもいかず、俺はへらへら笑いながら三人組を迎えた。

「えらい騒ぎだな!」

「へい、みんな朝から気張っておりやす!」

 周りがうるさいので、怒鳴るように会話をする。

「おやっさん、ありがとうございやした!」

「「あざっス!!」」

「気にするな!この前の礼だよ!」

 俺は鷹揚に頷いた。


 今日の鎧蟻の討伐は先陣だ。

 ギルドに指名された者と、くじ引きで選ばれた者たちだけで編成された部隊である。

 まず先陣部隊が様子見をかねた討伐を行う。

 鎧蟻の巣を中心に包囲網を敷き、数日を掛けて侵攻する作戦だ。

 長期になれば残留組と人員を入れ替え、間隙なく討伐を繰り返す。

 相手の戦力を徐々に削って殲滅するのだ。

 鎧蟻の数は脅威だが、この方法をとれば比較的安全に討伐が行える。

 しかも数が多いから冒険者にとって実入りがいい。

 だから鎧蟻の討伐は希望者が殺到するが、人数枠がある。

 俺やクリサリス達にも発見者として参加の権利があったが、それをこの三人組に譲ったのだ。

 三人のリーダー格が俺にそっとすり寄り、耳元でささやいた。

「で、どうでした?」

 意味ありげな視線をクリサリス達に向ける。

 俺はニヤリと笑い、拳で彼の肩を叩いた。

「野暮なことを言うなよ」

「へへ、これは失礼しやした!」

 俺たちは下卑た笑い声をあげた。

「ヘマをするなよ!」

「合点でさ!!」

 立ち去る彼の背中に、怪我をしませんようにとこっそり祈っておく。

「何の話なの?」

 フィフィアが不審げに聞く。クリサリスの視線は冷たい。

 そんな目で見るなよ。

 俺にだって見栄とかあるんだよ。


 騒々しい集団を押しのけるようにセレスの受付に到着した。

「みんな張りきってるね」

「それはもう!きっと街中でヨシタツさんには感謝するでしょうね!」

 輝くような笑みを浮かべたセレスの言葉に、俺は首を傾げる。

「まあこれでも冒険者の端くれだから?街の安全に寄与できてうれしいけど」

「それだけではありません!」

 セレスはパタパタと手を振って訴える。

「発見された鎧蟻の巣は災害級と認定されました」

「・・・ずいぶんと物騒な響きだけど」

「鎧蟻は、巣が発見されればさほど危険ではないんです」

「どういうこと?」

「鎧蟻の真の脅威というのは、人間が知らないところで巣の規模が大きくなり、巣分かれして各地に拡散することです」

 それは俺も予想した。

「だけどいったん発見された鎧蟻の巣は適切な方法で処分できます。そして巣の規模が大きいほど街が賑わうのです」

「・・・ああそうか」

「お分かりになるのですか!?」

「なんとなく。冒険者の懐が暖かくなって街に金を落す。ギルドが素材や霊礫を卸して商人が儲かる。その景気に引き寄せられて近隣からも街に商人が来る。外から来た商人たちも街に金を落す。仕事も増える。金がぐるぐる回って街に活気が出る」

 俺のあやふやな経済知識で漠然とイメージする。

「そんなところか?」

「・・・」

「セレス?」

「・・・わたしの説明することがなくなってしまいました」

「いや、すまない」

 賢しらぶって余計な口を利くのは俺の悪い癖だ。

「冗談ですよ」

 セレスはいたずらっぽく笑った。

「つまり災害級とは大儲けと同義語なんです」

 経済効果というやつか。本当にたくましいと思う。

 命を脅かす危機でさえ豊かさに転化するのだから。

「―――ですよ」

「え?」

「・・・聞いてなかったんですか?」

「いや、すまん。ちょっと考えごとを」

「もうっ!」

「悪い、もう一度、言ってくれるか」

 今度は本当に拗ねたようなので慌ててなだめる。

 横目で睨んでいたセレスはちょいちょいっと指先でサインする。

 俺は黙って耳を差し出した。

「ヨシタツさんは序列入りですよ?」

 そう囁いてからフッと耳に息を吹き込んだ。

「ひぎゃあああああああ!」

「なんですかそれ!!」

「い、いやすまない?」

「女性のイタズラにその絶叫はひどいです!」

 そんなことを言われても。

「それにしても俺が序列入りねえ?」

「・・・二度にわたる大仕事を成し遂げたんです。当然の評価です」

 序列ねえ。

 序列というのが俺にはいまだに良く理解できない。

 やたらと序列にこだわる冒険者に話を聞いたことがある。

 実はそいつもよく分かっていなかった。

 カティアが序列筆頭というのはよく耳にする。

 圧倒的な強さを誇っているのだから当然だ。

 だがそれ以下の序列は新人の俺にはあやふや過ぎて難解だ。

 魔物の討伐件数ばかりではないらしい、というのは知っているが。

「いいんですよそれで」

 首をひねる俺に、セレスが不思議な笑みを浮かべた。

 見守るような、温かい笑みだ。

「ヨシタツさんはただひたむきに生きて下さればいいのです」

「・・・指揮は誰がとるんだ?」

 ちょっと照れた俺は話題をそらす。

「サイラスさんです」

「カティアは出ないのか?」

「まさか!鎧蟻程度であの方を出すわけありません」

 いやさっき災害級とか言ってたじゃないか!?

 あいつは最終兵器かなんかなの!?

「サイラスさんでも十分務まりますよ」

 微妙な違和感を覚えたが、そんなものかと思って頷く。

「あいつも序列持ちだろうから安心か」

「・・・ギルドも連絡役を出しますので大丈夫ですよ」

「連絡役?」

「ほら、あそこに」

 セレスの指差す先に視線を向ける。

「な、なんで!」

 クリサリスが驚きの声をあげる。

「あれは受付の娘ではないですか!」

 ロビーの奥で、サイラスが取り巻きの冒険者達と談笑する姿が見えた。

 その背後に、小柄な女の子が退屈そうに椅子に座っている。

「あんな小さい娘を危険な討伐に同行させるなんてどういうつもりですか!?」

 クリサリスは血相を変えてセレスに詰め寄る。

「まあ落ち着けよ」

「これが落ち着いていられますか!」

 彼女の肩に手を置いてなだめるがおさまらない。

 そう言えばあの娘と一緒にお喋りをしている姿をよく見かける。

 仲がいいのかな?俺は苦手なので近寄らないが。

「彼女なら安全だって。討伐隊が全滅したって彼女だけは生き残るから」

「え?」「え?」

 あ、しまった。

「・・・どういう意味でしょうそれは」

 セレスさんが能面のような顔で訊ねてくる。

 なんかやばいスイッチを押したみたいだ。

「いや、なんかあいつさ、すげーしたたかじゃん?」

「なんですかそれは、あんな純真な娘をつかまえて」

 怒るクリサリス。いや、シルビアさんが言ったんだよ?

「ああ、なるほど。そういう意味ですか」

 セレスの顔に表情が戻り、しみじみと頷く。

 どうやら彼女の評価は両極端に分かれるみたいだ。

 ちなみに俺は、うーむ。無自覚計算機? 高機能天気? 

「それにしても本当によろしかったのですか?」

「なんのこと?」

「いえ、せっかくの大規模討伐で稼ぎ時ですのに」

 ああ、そのこと。

「いいんだ、少なくとも俺は懲りた。二度とあいつらは見たくはないね」

 半分は本音だ。

「それじゃあ俺たちはもう行くよ。森に入るから」

「はい、お気をつけて。鎧蟻の包囲網付近には近寄らないようにしてくださいね」

「言われなくても」

 俺たちはにぎやかなギルドを出て北の門に向かって歩き出した。


「さて」

 背後の二人を振り返る。

「俺たちも稼ごうか」


 森の中を急いで移動する。

 鎧蟻の討伐部隊が出発する前に目的地へと到着したい。

 前回と同じく戦闘を回避して西側区画へと進む。

 いた。前回の中級魔物クラスの反応。

 間違いない。波長はしっかり記憶している。

 数は十匹あまりだ。

「作戦を説明する」

 俺が地面に書き込んだ図を彼女達が見詰める。

 背後に迂回して位置についたら大声をあげる。

 そのまま騒ぎながら前進だ。

 すぐさま行動に移る。

 クリサリスは剣と短刀をガチャガチャ打ち合わせながら。

 フィフィアは棍棒で地面を叩きながら。

 中級魔物の反応は移動する。

 彼女達とは反対方向へ。

 待ち伏せる俺の方向へ。

 俺は木の陰から半身を出した。

 矢を装てんした弩で狙いをつける。

 射撃管制を発動。

 探査と射撃スキルの同時使用だ。

 相手の姿は見えない。

 目視が必要な射撃スキルでは当たらない。

 放った矢が木立の隙間を飛んだ。

 結果を見ることなく弩を置く。

 次に弓を構え、放つ。

 弓を地面にうっちゃり、短矢弓銃を構える。

 合計で三撃。

 その内、命中したのは弩と短矢弓銃の矢だ。

 短矢弓銃の麻痺毒の矢に貫かれた獲物は生きていた。

 看破を発動した。

 

 名称:長耳イタチ

 年齢:八年

 種族スキル:迷彩


 俺の腕ほどの長さの、小型の魔物だった。

 止めをさしてから胸を切開し、霊礫を摘出する。

 それはいつも手にする霊礫の、何倍もの大きさがあった。

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