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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
三十路から始める冒険者
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検証実験その二

 二日目、俺はクリサリスと対峙した。

 彼女は剣を構え、俺は素手だ。

「手加減してね?」

 俺は堂々とのたまう。

「・・それは勿論ですが」

 困惑するクリサリスも可愛い。

 これは模擬試合ではない。実験だから、勝ち負けは関係ない。

 ベラを取り押さえるとき、俺は怪我をした。

 剣を持っていなかったので、スキルの身体補正に頼れなかった。だから当然の結果だと思っていた。

 昨日、スキルの汎用性について考えた。射撃は、射撃に類似する技能全般を補正すると推測できる。

 だから考える、剣を持っていなければ本当に剣術スキルは発動しないのか。

 それではいくらなんでもお役所仕事すぎないだろうか。

「剣術スキルが有効なのは剣だけなのか?」

「そんなことはありません。他の武具でも多少の補正が掛かります」

 補正する身体能力が剣の形状や機能に特化しているのか?

 だけど実際に剣や武器がなくても、剣術スキルが発動してもいいではないか。

 そうすれば身体能力が向上するのに。

「・・我が流派は無剣流」

「はあ?」

「我が剣は剣にあらず・・・剣を帯びることなく・・・この身この手腕にその剣気を宿すことを要諦とする」

 俺の妄言に、クリサリスは困惑を深めつつ剣を上段に構える。

「・・・参る」

 気分は時代小説である。池波ワールドだ。俺は身を低くしてダッシュした。

 伸ばした両手は折り畳んだ鳥の翼のように脇に添え、いつでも抜き放てる二刀流をイメージする。

 おお、疾走するいまの俺はカッコ良くないか!?

 視線はクリサリスの足元に向けたまま接近すると、彼女の足がスッと前に出た。

 首筋がひやりとして脳裏に無音の警鐘が鳴り響く。

 地を蹴り、右に転がる。左肩をかすめ、容赦ない一撃が斜めに振り下ろされた。

 剣先でなぎ払われ、緑の草々が辺りに飛び散る。

「あぶねえええ!」

 俺は立ち上がりながら絶叫した。

「手加減してくれって言っただろう!」

「す、すみません! なんか気持ち悪くてつい!」

「ついじゃねえっ!!」

 しかも気持ち悪いとかで殺されたらたまったもんじゃない。

「で、どんな印象だった」

「どう言いますか・・・・今のは何かのスキルだったんですか?」

「そんな風に思えたか?」

「はあ、身の危険を感じたと言うか、生理的に受け付けないと言うか・・・」

 ひどい言われようである。だが確信は得られた。

 素手でも剣術スキルは発動するのだ。

 だが意識的にというかシステムの裏をかくというか、そういう自己暗示が必要なのか?

 でも気持ち悪いというのはどういう意味だろう?

「今度は素手で身構えてもらえるか?」

 剣を地面に置いたクリサリスは、おずおずと身構える。頼りない格好だ。

 俺は再び、剣を持たないままスキルを発動し、間合いを詰める。

 下から切り上げた手刀を、ぴたりと彼女の喉元にあてる。

「今度はどうだった?気分は悪くないか?」

「・・・気分は悪くないですが」

 ごくりと唾を飲んで彼女は呟いた。

 もう一度、剣を構えてもらい、攻撃を仕掛ける。

 こちらの間合いが届くまえに牽制され、距離を取った。

 やはり気分が悪くなったらしいが、最初ほどではないそうだ。

 推測だが、武器を持たずに接近する同族スキルに、剣術スキルの反射能力か分析機能が不具合を起こしたのではないか?

 剣術スキルなのに剣を持っていない相手の攻撃を予測できないとか?

 ただ嫌悪感が薄らいだ点からスキルには学習機能があるのかも?

 他のスキルの反応を調べたいところだが、該当する適当なスキルがない。

 さすがに無矢弓術とか虚弾射撃とかワケが分からないし。

 ・・・語感がカッコいい気はするが。

 実験の結果、あまり役に立たないスキルの使い方だと判断した。

 身体能力は上がるが、素手では腕を剣で切り飛ばされそうだ。

 喧嘩で多少使えるかなと、そんな程度だ。

 まあ、手数が多いのは悪いことはない。ちょっと研究してみよう。


 その日も狩りをして、街に帰った。

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