表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/163

王都_その10

 暴行を受け、気絶したキール少年を抱え、俺達はアパートへと急いだ。

 隠蔽スキルを掛けてあるが、他人を抱えた状態である。

 十分な効果を発揮しているのか確信が持てず、なるべく人目を避けるようにした。


 アパートに到着すると、出迎えてくれたヘレン達を押しのけて奥へと進んだ。

 キール少年を空きの客室に担ぎ込むと、ベッドに横たえて汚れたマントを脱がす。

 マントの下から、長い黒髪が出てきた。野生の獣のように伸び放題で、腰まで届きそうである。

 身にまとうのはボロボロのシャツに、裾の裂けたズボンだけだ。

 こんな恰好で夜の寒さを(しの)いでいたのかと、胸が痛くなる。

 ふと振り向けば、ヘレン達まで集まってしまっていた。彼女達の前で、スキルは使えない。

「――――クリス、みんな追い出してくれ」

 早く治療を始めたい、その焦りで口調を刺々しくなる。

 ひとしきり押し問答が続いた後、ドアが閉まって静かになった。


 意識のないキール少年の手を取り、治癒術を発動した。

 例によって自分の身体から何かが汲み上げられ、彼の身体に移し替えられる。

 スキルの反動で苦痛を覚えるが、キール少年の傷は塞がり、内出血の跡も薄れた。

 内臓の損傷や骨折がないのを確認してから、治癒術を停止する。

 安堵のため息を漏らし、ようやく緊張を解いた時である。

 キール少年がいつの間にか目覚め、焦点の合わない目でこちらを見ていた。

 意識が朦朧としているのか、ぼんやりとした表情である。

「ここは安全だから、心配しなくてもいいよ」

 なるべく優しく語り掛け、彼の手を軽くポンポンと叩く。

 それで安心してくれたのか、キール少年は目を閉じて寝息を立て始めた。

 毛布を掛けると、足音を忍ばせてベッドから離れる。

 廊下に出たら、ヘレンと顔を突き合わせた。どうやら様子を窺っていたらしい。

「今は眠っているから、目が覚めたら教えてほしい。入浴と着替えの用意を頼めるかな?」

 身体を洗ったのはいつなのか、キール少年からは饐えたような臭いがする。

 衣服も、本人の了承を得てから廃棄した方が良さそうだ。

「レジーナは?」

「お嬢様は居間でお待ちです」


 さて、彼女には頼みごとをしないといけない。

 そのことを考えると、いささか気が重たかった。


      ◆


 居間にはクリスとレジーナが、同じソファーに座って待っていた。

「あの子の具合はどうですか?」

 開口一番、尋ねるクリス。

「ちゃんと治した。今は眠っている」

 簡潔に答えると、クリスは胸を撫で下ろした。

 一人掛けのソファーに腰を下ろしながら、テーブルの菓子皿を確認する。

 もちろん中身は空だ。食べ物に関してクリスに仁義はない。

「あいつら、保安隊の犬ね」

 クリスの口元に付いた食べカスを睨んでいると、レジーナが口を開いた。

 あいつらというのは、キール少年に暴行を加えた連中のことだろう。

「保安隊?」

「内務卿直轄の組織なんだけど、陰湿で陰険な連中ばかりなの」

 あまり良い感情を抱いていないのか、彼女はしかめっ面で吐き捨てる。

「あちこちに鼻を突っ込んで嗅ぎまわっているから、犬って呼ばれているわ」

 ひょっとして秘密警察のようなものだろうか?

「どうしてあの子に、あんな酷いことを?」

 クリスが憤りを込めて尋ねると、レジーナは面目なげに首を振る。

「…………ごめんね、保安隊の詳しい実態は知らないの。無宿人の取り締まりだとは思えないけど」

 俺の脳裏に、とある可能性が思い浮かぶ。

 しばし迷ってから、それを二人に打ち明けることにした。


「あの子は、厄介なスキルを持っている」

 巫蟲【三】

 トルテちゃんに体調不良をもたらした霧状の毒は、彼のスキルに因るものだろう。

 おそらく足元に生えていた植物を材料にして、有害物質を作り出したのだ。

「非常に危険なスキルかもしれない」

 もしも、ただの雑草から大量の毒ガスを発生させられるのだとしたら?

 ――――彼はもはや、死をばら撒く化学兵器のような存在だ。

 国家規模の組織が動き、捕縛しようとしても不思議ではない。

 そんな推測を述べた俺を、クリスが上目遣いで窺う。

「…………あの子をどうするつもりですか?」

「どうするって、何が?」

 彼女の発言の意図をはかりかね、首を傾げる。

「ひょっとして、あの連中に引き渡す気ですか?」

「いや、そんなことはしないよ?」

 厄介払いするつもりなのかと訊かれれば、答えは否である。


 危険なスキルなんて、この異なる世界にはごまんとあるはずだ。

 大きな爆弾を、どこの誰が抱えているのか分からないのが現状なのである。

 それでも社会が維持されているのは、結果として互いのスキルが拮抗し、牽制し合っているからだと思う。

 たとえそれが、薄氷のように危ういバランスだとしても。

 それ以上に、ゾッとする可能性がある。


 世界の知られざる場所で、尋常ではないスキル所持者達が暗躍し、跳梁跋扈しているとしたら?

 誰も気付かぬ間に、世界の均衡(バランス)など、とうに破綻しているのではないか?

 荒唐無稽な妄想だと、一笑に付すことはできない。何故なら、実例となる存在を知っているからだ。

 例えばコザクラや、俺自身のように。


「レジーナ、頼みがある。あの子を、ここに(かくま)ってほしい」

 きっと迷惑を掛けることになる。それを承知しながら、頼み込んだ。

 今は余計な厄介事を抱えている余裕などない、それは彼女だって理解しているはずだ。

 しかしレジーナは、やれやれと肩を竦めて苦笑した。

「保安隊に喧嘩を売った時点で、あの子の保護は決定事項よ? 放り出したところを捕まりでもしたら、こちらの身元がばれるもの。保安隊に目を付けられたら、そっちの方が面倒だわ」

「…………その点については、深く反省しています」

「タツは悪くありません! 悪いのは、あの連中です!」

 クリスは擁護してくれるが、先に手を出したのは俺の方である。

 今から思えば、もっと後腐れのない手段を採るべきだった。

「仮にバレたとしても、スターシフが手出しさせないわ。それに、ちょっとだけ見直したわよ?」

 レジーナが、寛大な眼差しでこちらを見る。

「身を挺して子供をかばうなんて、ヨシタツにも毛先ほどの美点があったのね?」

「もちろん! タツですから!」

 いやクリスさん、たぶんレジーナは褒めていないよ?

 その時、入り口の扉越しに悲鳴が聞こえた。

 慌てて立ち上がった俺は、居間から飛び出す。走った廊下の先にあるのは、キール少年がいる客室だ。

 客室の前にはヘレンとサーシャ、トルテちゃんが立っていた。

 彼女達の顔には一様に、戸惑いの色が浮かんでいる。

「何があったんだ!?」

「例の子が目を覚ました気配がしたので、身だしなみを整えようと部屋に入った途端、悲鳴を…………」

 詰問する俺に、ヘレンが代表して説明した。

 どうして勝手なことをしたと、声を荒げそうになる。

 寸前で思い止まったのは、きちんと事情を説明し、念押ししなかった俺の責任だからだ。

 ヘレン達に廊下で待つように言い残し、一人で部屋に入った。

 窓の扉は閉ざされたままだ。良かった、外に飛び出してはいないようである。

 採光用の窓から射し込む光は乏しく、室内は薄暗い。

「もしもーし?」

 間の抜けた呼び掛けに、応える声はない。

 しかしベッドの向こう側、壁との間にうずくまる毛布の塊が、びくりと震えた。

「怖がることはないよー、出ておいでー」

 猫なで声で呼び掛けてみた。自分でも、ちょっと気持ち悪い。

 もぞもぞと(うごめ)く毛布の隙間から、こちらを窺う目と目が合った。



「…………なんか、妙に懐かれていない?」

 キール少年を促して連れ出すと、廊下にはレジーナ達が待ち構えていた。

 彼女の疑わしげな視線に怯え、キール少年は俺の背後に隠れてしまった。

「ほら、大丈夫だから、ね? レジーナも、そんな怖い目付きで睨むなよ」

 キール少年を(なだ)めつつ、レジーナを(たしな)める。

「誰の目付きが怖いのよ!」

 レジーナが怒鳴ると、キール少年が俺の背中にぐいぐいと頭を押し付けてきた。

 しいっと、唇に指先を押し当てると、彼女はバツが悪そうな顔になる。

 懐かれたというよりは味方、いや、危害を加えない相手と認識されただけのような気がする。

 それでも、日数を掛けて徐々に距離を縮めた甲斐があったというものだ。

「この子を入浴させてやりたいんだけど?」

「全て準備は整っています」

 お伺いを立てると、ヘレンが即答した。やはり彼女は有能だ、仕事が早い。

「ありがとう。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

 キール少年の手を取ると、一緒に浴室へと向かう。

「「待ちなさい!」」

 レジーナとヘレン、二人同時に呼び止められた。

「一緒に入るつもりなの!?」

 詰め寄るレジーナの剣幕に、思わずたじろいでしまう。

「あ、ああ、そうだけど? 身体を洗うのを手伝ってあげようと思って」

 汚れが酷い上に、なにしろ髪の毛が長い。とてもじゃないが、一人では洗いきれないだろう。

「ですが、女の子と一緒に入浴など!」

 怒りをにじませたヘレンの言葉で、ようやく二人が誤解しているのを悟った。

「…………レジーナ、君にはこの子が男子だって、言ったよな?」

「「――――え?」」

 ペルセンティア邸での顛末を報告した時、彼が少年だと話したはずである。

「え? うそ!?  ほんとに?」

 華奢な体格で髪が長く、端正な面立ちだから、勘違いしたのは仕方がないかもしれない。

 しかし、である。

「俺が女の子を風呂場に連れ込むようなデリカシーのない奴だと、そう思ったんだね?」

 嫌味ったらしく尋ねたら、レジーナとヘレンは顔を背けた。


「タツなら気にしないで、やってしまいそうですが……………」

 クリス、それはどういう意味だい?


      ◆


 彼を身ぎれいにするのは、予想以上に苦労した。

 背中と髪を洗ってあげたのだが、垢や埃などが出るわ出るわ。

 なにしろ頭から(すす)いだお湯が、ドロドロとした汚水になるのだ。

 繰り返し桶で湯を汲んで浴びせている内に、しまいには浴槽が空になってしまった。

 しかし、最後には見違えるほどきれいになったので、大満足である。

「男振りが一段とあがったな」

 半分本気でおだてると、キール君がはにかんだ。

 やはり男同士、裸の付き合いをすると親密さが増すのである。

 ――――彼の身体にあちこち見られる古い傷跡には、気付かぬふりをした。


 脱衣所で彼の髪をがしがし拭き終え、用意してあった着替えを手にして――――固まった。



「まあ、見違えたわね!」

 レジーナが感嘆する。居間でキール君の仕上がりを披露したが、女性陣の評価は上々だった。

「ずいぶんと綺麗になりましたね」

 ヘレンを初め、みんながキール君に賞賛を浴びせた。手伝った俺も、鼻高々である。

 まあ、それはいいんだけど。


「なんで女の子用の寝間着なの?」

 脱衣所に用意されていたワンピースの寝間着は、どう見ても女性物なのである。

「申しわけありません。あいにく寸法の合う着替えがなくて」

「…………わたしの」

 ヘレンの説明を、トルテちゃんが言葉足らずに補足する。

「あ、そうなんだ。ありがとうね?」

 トルテちゃんが寝間着を貸してくれたらしい。ゆったりした寝間着なら、サイズ的に問題ない。

 考えてみれば、キール君に合う男物の衣服が、このアパートにあるはずがないのだ。

 まあレジーナのことだから、明日にでもきちんとした服を用意してくれるだろう。

 俺が納得していると、クリスが近寄ってきた。

 彼女は身を屈め、キール君と目線の高さを合わせる。

 クリスもまた、俺と一緒にペルセンティア邸へ日参していた。

 見知った顔のせいか、キール君が怯える様子はない。

「…………タツ! どういうことですか、これは!」

 いきなりクリスに叱られた。

「え、なんのこと?」

「なんのこと、ではありません! 髪がボサボサではないですか!」

「え? いや、なに? ちゃんと拭いたよ?」

 怒られる理由がさっぱりだ。ボサボサって、そりゃ風呂から出たらそうなるよ?

「こちらをどうぞ」

「ありがとう、ヘレンさん」

 差し出された(くし)を受け取ると、クリスは引き寄せた椅子にキール君を座らせた。

 そして丁寧に彼の髪を()き始めたのを見て、つい笑ってしまう。

「なんだよ、大げさだな。そんなのほっといても――――」

 ぎろりと、女性陣に睨まれた。ほとんど殺気すら感じる。

 いや、女性が髪を大事にすることぐらい、俺だって知っている。

 だけど、ちょっと待ってほしい。キール君は男子だよ?

 などと弁明する勇気のない俺は、黙って見守るしかない。

 しばらくすると、クリスが鼻歌を鳴らし始めた。どうやら楽しんでいるらしい。

 最初は緊張気味だったキール君も、次第にリラックスしてきたようだ。

 クリスの鼻歌に合わせ、足をぶらぶらさせている。

 そんな二人を遠巻きにしていたレジーナ、ヘレン、サーシャが、じりじりと接近する。

 まるで獲物に接近する猫のようだ。警戒されないように、摺り足で包囲の輪を狭めていく。

 キール君を構いたくて仕方がないらしい。


 ――――どうやら、上手くいきそうだな。

 安心した俺は、身を屈めてクリスの耳元に囁き掛ける。

「ちょっと出掛けてくるね?」

「はいはい」

 髪を梳くのに夢中なクリスは、うわの空で返事をする。聞いてないな、これは。

 レジーナにも合図を送ったのだが、見向きもされない。

 彼女はクリスの手元を見詰めながら、わきわきと指を蠢かせている。なんか怖い。

 とにかく、ちゃんと報告はしたのだ。後で文句を言われる筋合いはない。

 一抹の疎外感を覚えながら、玄関に向かう。

「…………いってらっしゃい」

 ぽんっと、背中を叩かれた。振り返ると、トルテちゃんがこちらを見上げている。

「…………元気、出せ?」

 励ましてくれているらしい。少女の情けが身に染みた。

「みんなのこと、頼むね?」

「…………任せろ」


 トルテちゃんから頼もしい返事をもらい、俺はアパートを出た。


      ◆


 街中を通って東門から旧市街を出る。目指す先は新市街、賞金稼ぎギルドのある酒場だ。

 日が暮れる前には到着するだろう。酒でも飲みながら、保安隊に関する情報を収集したい。

 キール君が暴行を受けた理由もだが、それ以前に保安隊がどんな組織なのか知りたかった。

 約束の日ではないが、サークが立ち寄るかもしれない。何か進展があればいいのだが。


 《不夜の回廊》に足を踏み入れたが、辺りの雰囲気が妙にざわついていた。

 足早に行き交う人が多く見られ、慌ただしい気配が漂っている。

 不審に思いつつ、賞金稼ぎギルドの拠点である酒場を目指した。


 その時、微風に乗って異臭が漂ってきた。焦げ臭い空気が、鼻を突く。

 進むほどに濃くなる臭いに、言い知れぬ不安を覚える。やがて前方に、群れ集う人々が見えた。

 進路を遮る人垣をかき分けようとするが、思うように進まない

 身を乗り出して人々の頭越しに眺めると、路地の角から薄く煙が漂っていた。

 さらに人混みを押しのけて路地の奥を覗き込めば、焼け落ちた建物の残骸が見えた。

 黒く焦げた外壁が崩れ落ち、炭化した柱はいまだ(くすぶ)っている。


 間違いなくそこは、賞金稼ぎギルドの酒場があった場所だ。

 呆然としたのは、わずかな時間である。

 必死になって群集から抜け出すと、何食わぬ顔を取り繕ってその場から離れる。

 早鐘を打つ鼓動を抑えつつ、フードを目深に下ろして顔を隠した。


 賞金稼ぎギルドが、焼き討ちされた。

 失火ではないと核心に近い直感を抱きつつ、《不夜の回廊》を早足に通り過ぎる。


 ついに来た。言葉にすれば、そんな感慨が湧き上がる。

 動揺はしたが、事態の変化を密かに望んでいたのも事実なのだ。

 遅々として進まぬ霊礫探索の現状を打破する、大きな変化を欲したのである。


 しかし、まさか賞金稼ぎギルドそのものが標的になるとは、想像もしなかった。

 賞金稼ぎギルドは、冒険者ギルドと違って公式な組織ではない。

 口にするのも(はばか)られる、汚れ仕事の元締めなのだ。

 同時に治安維持の一翼を担う組織として、暗黙の(うち)に認知されている。

 辺境都市の治安組織は、賞金稼ぎギルドと連携しなければ、犯罪の取り締まりに支障があるのだ。

 王都での事情に詳しくないが、大きな違いはないはず。

 その賞金稼ぎギルドが焼き討ちされるなど、予想の範疇を越えていた。


 不夜の回廊を抜け出ると、大きな斜面に造られた新市街の下方へと続く階段があった。

 ここまで尾行者の影は感じられなかったが、まだ油断できない。

 どこの誰が賞金稼ぎギルドを焼き討ちにしたのか知らないが、生半可な相手ではないはずだ。

 組織的な犯行であれば、監視の目を焼け跡一帯に放っていてもおかしくない。

 挙動不審な人間を、野次馬の中から見つけるためにだ。

 大きく息を吸い、探査を発動した。

 不可視の波動を解き放ち、周辺地域の状況を探る。

 すぐ近くに、人間の反応はない。直接尾行されている様子はなさそうだ。

 徐々に範囲を広げ、不審な動きをする反応がないか確かめた。

 どうやら取り越し苦労だったらしいと、思わず苦笑する。


 その寸前、脳内に警報が轟いた。

 ガンガンと頭蓋骨を内側から蹴り飛ばすほどの勢いで、緊急事態を知らせる。

 これまでにない探査スキルの反応に驚きながら、その原因を探る。


 脳内地図に、三人の人間が映っていた。

 探査スキルは本来、目標の位置を測るためのスキルだ。

 魔物などの強弱を感じはするが、あくまで感覚的なものに過ぎない。

 その感覚が告げるのだ。三人のうちの一人が、強敵(・・)であると。

 尋常一様ではない存在感に、息が詰まりそうになる。

 すぐさま相手の正体を確認すべく、看破を並列起動しようとした。


 目標を中心として、不可視の波動が爆発的に広がった。


 探査スキル! 正体不明の相手が、俺と同じスキルを発動した!

 すぐに自分の探査スキルを解除。

 隠蔽スキルを身にまとい、脱兎のごとく駆け出した。


 新市街の下方へと続く階段を、一段飛ばしに駆け下りる。

 呼吸が乱れ、心臓が喉元からせり上がりそうな気分だ。

 たぶん俺の存在は感知されたはずだ。一刻も早く、この場から逃れるべきであった。


 ――――とうとう、最も警戒すべき相手に遭遇してしまった。

 敵対する探査スキル所持者の出現を、俺は悪夢のように恐れていた。

 俺が他のスキル所持者よりも優位に立てるとすれば、それは探査と看破、二つのスキルがあるからだ。

 だから、圧倒的な存在感を放つ、探査スキル持ちが出現したら、とりあえず逃げるしかない。


 ――――もしかすると相手は、八高弟以上かもしれない。

 背後から迫る《化け物》の吐息を首筋に感じた気がして、身震いした。



次話予定 『挿話の15_リリの雪辱戦』

リリとベイル、二人の思い出が明らかに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ