王都_その7
「つまり、昔のヨシタツは自堕落な生活を送っていたゴロツキで、世間様に顔向けできない悪事を重ねて来たけど、シルビア姉様やリリに諭されて改心した。その恩義に報いるために、カティア様の頼みを引き受けた、という訳ね?」
「…………はい、その通りでございます、お嬢様」
「いいでしょう。過去がどうであれ、心を入れ替えて真人間になろうとするなら咎めたりしない。その代わり、初心を忘れずにシルビア姉様達のために尽くしなさい!」
寝不足による躁状態なのか、レジーナが芝居掛かったポーズを決める。
「…………はい、粉骨砕身の覚悟で臨みます、お嬢様」
レジーナによる拷、尋問は明け方まで続いた。まあ、それほど酷い目に遭った訳ではない。
襲い掛かる睡魔を、電気ショックで追っ払ってくれただけである。
おかげさまで意識が朦朧として、最後は適当な作り話をでっちあげてしまった。
いささか誤解を植え付けてしまったが、まあ、大筋で合っているので問題ないだろう。
「朝食の時間ですけど…………いったい何事ですか?」
クリスの声が聞こえた。入り口を見れば、部屋を覗き込む彼女の目が丸くなっている。
床に座らされた俺と、腰に拳を当てて胸を張るレジーナ。
傍から見れば、さぞかし珍妙な光景だろう。
「おはよう、クリスちゃん! 今日は一段と可愛いわね!」
それまでの厳めしさが嘘のように、レジーナが晴れやかな笑顔になる。
「はあ、ありがとうございます? どうかしたのですか?」
クリスは腰が引けつつも、どうにか踏み止まる。
「なんでもないのよ? さあ、朝食にしましょうか!」
戸惑うクリスの手を取ると、レジーナはご機嫌で食堂へと向かった。
◆
「レジーナさん、大丈夫でしょうか?」
朝日に照らされた白い街路を歩いていると、隣のクリスが尋ねてきた。
まだ早朝だというのに、辺りを大勢の人々が行き交っている。足早に仕事場へ向かう者、朝食を摂る客達で混み合う屋台やカフェ、荷物を運ぶ大八車など、たいそうな賑わいである
「単なる寝不足だから心配いらないよ」
先ほど、朝食の最中にレジーナが舟をコックリコックリこぎ出したのである。
連日の過労と徹夜の尋問で、とうとう体力の限界に達したようだ。
ちょうど良いので彼女には今日一日、ゆっくり休んでもらうことにした。
最初は抵抗していたレジーナだが、全員の説得と睡魔には勝てなかったようである。
俺は寝室へ引き上げようとする彼女に、ある願いを告げた。
「ペルセンティア家ゆかりの場所を見学したい」
その内容が意外だったのか、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「ほとんど何も残っていないわよ?」
抹消刑となったヴェルフに墓はなく、往時を偲ばせるのは廃虚となった屋敷だけらしい。
「それでいい。お参りして、花を手向けてくる」
レジーナは生あくびを噛み殺しながら、ひらひらと手を振った。
「いいわよ、行ってらっしゃい。ヘレン、誰か付き添って道案内をしてあげて」
こうして俺は、クリスと一緒に旧ペルセンティア邸に赴くことになった。
俺は例の派手な衣装、クリスはお手伝いさん用の白いお仕着せ姿である。当然、彼女は帯剣していない。
「この格好は動きづらくて、馴染めません」
彼女はスカートの裾をたくし上げ、不満そうにぼやく。
「我慢して。とても似合っているから」
それ以上に、上質な布地と高い裁縫技術で仕立てたお仕着せは、仕える家柄の高さを印象付けるはずだ。
隷属の首輪を隠せない彼女を、余計なトラブルから守ってくれるに違いない。
「……いざという時、素手だと頼りない感じです」
彼女は胸元で、両手を握ったり開いたりする。
「一応格闘の技も習っていますが、才能がないと先生に言われたことがあって」
「ラヴィに?」
「いえ、師匠ではなくて…………」
クリスは言い辛そうに、ぽつりと漏らす。
「…………私とフィーは、孤児なのです」
――――たぶん、そうだろうとは思っていた。
両親について語ったことがなく、共通の兄弟姉妹の話題を漏れ聞いたことがある。
だから、血縁関係のない家族と暮らしていたと推測したのだ。
「私やフィーを育ててくれた先生達がいて、剣の扱いや様々な知識などを教わったのです」
そこまで打ち明けると、クリスが申し訳なさそうな顔をする。
「すみません。フィーのいないところで、これ以上は…………」
「いや、いいんだよ」
彼女達が共有する過去なのだ。赤の他人に軽々しく話せることではない。
ほっと安心したような表情をしてから、クリスが遠くを見遣る。
「だから、頑張ります。リリちゃんを、私達と同じ境遇にさせません」
静かな口調の底に感じる、強い意志。彼女の太刀筋と同じで、そこには微塵の迷いもない。
そんな彼女のことが誇らしく、その肩に手を置いてギュッと力を込める。
「ああ。一緒にな、クリス」
「…………タツ」
俺達は立ち止まり、互いに見詰め合って決意を新たにした。
「…………タツ、クリス」
ぼそりと、間近で囁く声がする。視線を転じれば、トルテちゃんがこちらの様子を窺っていた。
そうそう、この最年少のお手伝いさんが道案内をしてくれてたんだっけ。
「…………それが本名?」
いったい彼女は何を言おうとして――――――偽名のこと忘れてた!?
「いや、その、レナだレナ!」
「え、えーと、た、た、タツヨシ!」
「…………アレク、リーナ」
「「それだっ!」」
俺とクリスは同時に叫んだが、すぐに白々しい空気が流れる。
「あー、君のご主人様に迷惑が掛かるかもしれないから、このことは」
「……………分かってる。そこの角、右」
トルテちゃんは進路を指示してから、肩を竦めた。
「お嬢様も、ボロ出しまくり」
「しょうがないな、レジーナは」
「タツが言えた義理ではないような」
「クリスもね。えーと、ところでトルテちゃん? どうして前を歩かないの?」
トルテちゃんは道案内なのに、アパートを出てからずっと後ろからついてくるのだ。
背後から道順を指示して、決して前に出ようとしない。
「見張っているから、ここがいい」
「見張るって、もしかして俺のこと?」
トルテちゃんが、こくんと頷いて肯定する。
どうにも不思議な印象の子だった。不愛想で口数が少なく、どう接していいのか困ってしまう。
それに何かの拍子に振り向くと、ジッとこちらを注視していることがあるのだ。
「どうしてそんなことを」
「…………血の匂いがするから」
鋭利な刃物を押し当てられたように、首筋がヒヤリとした。
反射的に、看破を発動しそうになる。それを抑え、トルテちゃんの瞳を覗き込んだ。
「…………そうか。でも俺は、レジーナの敵ではないよ?」
「わたしが、判断する。もし、お嬢様の災いなら」
彼女はわずかに身を屈め、片手でお仕着せのスカートを掴んだ。
「タツを信じて、トルテちゃん」
クリスが、するりと俺達の間に割り込んだ。
呼吸を読んだ自然な足運びで、完全に虚を突かれた感じである。
彼女は間合いを踏み越え、トルテちゃんの身動きを封じる。
「タツは女性にだけは優しくて、絶対に裏切らない。私が保証する」
「…………」
クリスが穏やかに宥めると、トルテちゃんは身構えを解いた。
どうでもいいけど、やけに変な部分を強調してなかった?
首を傾げる俺を放置して、さっさと歩き出すクリスとトルテちゃん。
「でも、さりげなく口説いたりするから、くれぐれも油断しないでね?」
「分かった、気を付ける」
「相手を選ばず誑かす、女の天敵として有名なの」
「最低な男」
クリスの言葉を全く疑わず、鵜吞みにするトルテちゃん。
ねえ、フォローしてくれるんじゃなかったの? トルテちゃんの評価が急落しているよ?
だけど仲良くお喋りする二人を見て、口を差し挟むのを諦める。
並んで歩く二人の後ろから、俺はトボトボと付き従った。
◆
旧ペルセンティア邸は、まさしく廃墟だった。
土地の限られた王都において、広々とした庭があるのはステータスになるだろう。
しかし家門断絶から十数年。膝よりも高く雑草がはびこり、樹木も伸び放題になっている。
そして荒れ果てた庭の向こう側に、古びた屋敷がひっそりと佇んでいた。
あえて撤去せずに残しているのは、見せしめのつもりに違いない。
屋敷が朽ち果てていく様を衆目に晒すことで、国家反逆の大罪を世間に知らしめているのだ。
門扉は地面に倒れて風雨に打たれ、もはや原形をとどめていない。
剣を抜いて雑草を切り払い、スカート姿のクリス達のために道を拓く。
思いのほか重労働で、玄関にたどり着く頃には汗だくになってしまった。
張り出したひさしを見上げれば、正面部分に削り落とした跡が残っている。
家門を表す紋章でも掲げられていたのか。罪人の痕跡を消し去る、抹消刑とやらの名残だろう。
立て付けの悪い扉を用心しながら押し開くと、蝶番の軋む音が不気味に鳴り響く。
覗き込んだ屋敷内は、想像以上に酷い有り様だった。
かつて客を出迎えた玄関ホールは、調度品の残骸が散乱していた。壁板はあちこち剥がされ、床板がめくられた部分もある。額縁がいくつも床に落ちているが、肖像画の類は見当たらない。
自然に朽ちた状態ではない、これは破壊活動が行われたのだ。
足元に注意しながら屋敷内に立ち入る。床板が軋むものの、踏み抜く心配はなさそうである。
二階へと続く正面階段の下にたどり着くと、振り返ってホールを眺めた
俺達が歩いたせいで舞い上がった埃が、玄関から射し込む光に照らされている。
ここがかつて有力貴族の屋敷だったとは、とても信じられない。
あの玄関から、本当に彼女が入ってきたのだろうか?
夫に抱きかかえられ、妻として初めて屋敷を訪れた少女の姿を想像してみる。
しかし、思い描くその端から、きらきらと光る埃にかき消されてしまうのだ。
「タツ、私とトルテちゃんは、一階を回ってみます」
そう告げると、クリスは途中の花屋で買った花束を手渡してきた。
「足元に気を付けてくださいね」
返事を待たず、クリスはトルテちゃんと一緒に廊下の奥へと去った。
彼女の気遣いをありがたく思いながら、一人で階段を上がる
埃が積もった手摺りに直接触れないように手を添え、注意しながら二階を目指す。
階上に到着した俺は、手前の部屋から順に探索する。どの部屋も、様々な残骸が散乱していた。
そして廊下の中程で、寝室とおぼしき部屋を発見した。
破れた窓からは樹木の梢が差し込み、吹き込んだ雨で床が変色している。
かつては寝台だったものの残骸が、部屋の中央に散らばっていた。
頭の中で破片を組み合わせ、おそらく天蓋付きだったのだろうと推測する。
寝台の残骸の上に、俺は手にした花束を置く。なんとなく、そこが相応しい気がしたのだ。
椅子が一つ、破壊を免れて転がっていた。クッションは剥ぎ取られていたが、どうにか座れそうである。
脚がへし折れないよう、慎重に体重を預けながら背もたれに寄り掛かった。
この屋敷を訪れたのは、考えを整理したかったからだ。
シルビアさんの病気を癒すため、万能の霊薬を探し求める。
それだけだったはずの任務の途中で、想像もしなかった複雑な事情を知ってしまった。
カティアは王都での協力者として、レジーナの代理人と接触しろと命じた。
しかし、まさかレジーナ本人が現れるとは、カティアも予想していなかったに違いない。
ほとんど気にしなくなったが、レジーナは貴族のご令嬢なのだ。
それも遷都以前から続く譜第貴族という、やんごとなきご身分である。
本来ならば、一介の冒険者が接触する機会などあるはずがない。
それがたまたま勘当中で身軽な状況だったから、彼女は自らお出ましになったのである。
というより、彼女の行動力をカティアが見誤っていたと考えるべきだろう。
そしてレジーナと出会わなければ、シルビアさんの過去も知ることはなかった。
つまりこの状況は、カティアの望んだ展開ではないはずである。
――――カティアはまだ、何かを隠している気がする。
そう、シルビアさんの出自に驚きはしたが、あえて言えば過去の出来事にすぎない。
カティアが情報を出し惜しみしていた理由が分からない。
任務に関係のない個人的な事情だから? だけど胸の奥で、どうしても疑念がくすぶってしまう。
ここを訪れれば、その不完全燃焼な疑念を解消するヒントがあるかもしれない、そう考えたのだ。
しかし予想以上の荒廃ぶりで、あてどなく家探ししても成果はなさそうだ。
無駄足になったが、シルビアさんの旦那さんに花を手向けられたので、良しとするか。
ぎしりと、何かが軋む音がした。
探査―並列起動―看破
名称:キール
年齢:一五歳
スキル:巫蟲【三】
寝室の扉の外、廊下の隅で息をひそめ、こちらの様子を窺う監視者がいる。
物音を立てないように、そろそろと腰を上げた。剣の柄に手を掛け、隠蔽を――――
「タツ、どこですか!」
遠くの方から、クリスの叫ぶ声が聞こえた。
同時に、廊下からはバタバタと、監視者が逃げ去る足音が響いた。
舌打ちして椅子を蹴倒し、廊下へと飛び出す。
右手に視線を向ければ、突き当りの階段に灰色の裾が消えるところだった。
「タツ! 気を付けてください!」
反対側の、俺が使った階段からは、クリスが駆け上がってきた。
「ここに何者かが潜んでいます!」
トルテちゃんも一緒だ。二人の無事を確かめてから、監視者が逃げた階段へと走る。
――――失敗した。屋敷の敷地に入る前に、探査を掛けるべきだったのだ。
階段を駆け下りながら反省する。
シルビアさんの婚家のあり様に動揺したというのは、言い訳にすぎない。
この屋敷は、密かに監視されていたのだろうか。
反逆事件など過去の出来事だと考えた、俺の認識が甘すぎたのか。
とにかく相手を捕まえ、背後関係を吐かせなければならない。。
万が一にも、レジーナへの線を相手に手繰られる訳にはいかない。
そのためには――――
一階に降り立つと、監視者が裏口から逃げ出そうとするタイミングだった。
「逃げられないぞ!」
大声で威嚇すると、相手はびくりと身を竦ませ、こちらを振り返った。
ボロのようなマント、伸び放題でもつれた髪、薄汚れて垢じみた顔。
絶望的な恐怖を宿した眼差しの痛ましさに、胸苦しさを覚える。
そこにいたのは、ひたすら怯えるだけの、ごく普通の少年だった。
「――――あ、驚かせてごめん。俺は怪しいものじゃない」
友好的に接触しようと試みた時、俺の脇をトルテちゃんが駆け抜けた。
走りながらスカートの裾を捲りあげ、脚のベルトに差したナイフを引き抜く。
それを目にしたキール少年が、身をひるがえして逃げ出した。
「タツ! 早く追わないと!」
二人の素早さにタイミングを失った俺を、追いついたクリスが怒鳴りつける。
そうだ、トルテちゃんを止めないと。
「厨房の隅に寝床がありました! それと残飯が!」
クリスの報告を聞きながら、裏口から飛び出す。
雑草を掻き分けて走るトルテちゃん、さらにその前方には逃走するキール少年の姿が見える。
走りながら振り返った彼の顔が、恐怖に歪む。追われ、追い詰められた獲物の絶望を感じた。
キール少年が、意味をなさない叫びをあげた瞬間である。
看破が、自動発動した。
そして、彼の足元から立ち昇る、黄色い靄のようなものを捉える。
「トルテ! 止まるんだ!」
しかし彼女は、黄色い靄の中に頭から突っ込み――――転倒した。
「トルテちゃん!」
雑草の中に消えた少女の許に駆け寄ろうとするクリスを、肩で突き飛ばす。
転んだ彼女をそのままに、息を止めて正体不明の靄の中に突入する。
すぐにトルテちゃんは見つかった。腹を抱えてうずくまり、苦し気に嘔吐いている。
その襟首を掴んで抱きかかえると、こちらに走り寄ろうとするクリスの姿が見えた。
「クリス! 来るな! 離れろ!」
俺も靄の中から脱出しようとしたが、いきなり耐えがたい吐き気を催す。
叫んだ時、わずかに空気を吸い込んだらしい。
俺の胸元に何度も嘔吐くトルテちゃんに治癒術を掛けながら、懸命に走る。
なんとか裏口まで戻ると、急いで屋敷内に退避した。
「二人とも大丈夫ですか!?」
「ああ、心配ない。どこかで飲み水を手に入れてくれ」
取り乱すクリスに、財布代わりの袋を投げて頼む。
「この屋敷で探すより、外で買った方が早い」
「分かりました! すぐに戻ります!」
そう叫ぶと、クリスが脱兎のごとく駆け出した。
俺は床に下ろしたトルテちゃんに、さらに治癒術を掛ける。
おそらく、これは中毒症状だ。あの黄色く染まった靄は、空中に拡散した毒物なのだろう。
トルテちゃんの症状が治まってきた。良かった、治癒術が効いている。
「気分はどう?」
「…………つかれた」
ぐったりして青ざめているトルテちゃんだが、呼吸は落ち着いている。
額に手の甲を当てたが熱もない。後遺症の兆候も、治癒術の反応からは感じられない。
俺の体調も自然と回復したし、致命的な毒ではなかったようだ。
「まったく、急に飛び出すから驚いたよ」
安堵した俺は、トルテちゃんを厳しく問い詰める。
「どうして、あんなことをしたの?」
「…………怪しいから、捕まえて手柄に」
彼女の言葉を聞き、パッと閃く。
「レジーナに褒めてもらおうと思った?」
「う…………」
図星だったのか、うっすらと頬に血の気が戻る。恥じ入る様子に、短絡的な行動を叱る気が失せた。
主人に評価してほしいと願う彼女を、微笑ましくさえ思ってしまった。
「お嬢様には内緒にして」
「ダメ。ちゃんと報告して、治療師に診せないと」
治癒術とて万全ではない。シルビアさんの件で、余計にそう感じるようになった。
「…………意地悪」
「意地悪で結構、ばれたら俺がレジーナに怒られる」
というか、監督不行届きで大目玉は確実だ。よそ様の子を危険に晒したのだから、当然である。
「睨んでもダメなものはダメです」
むうっと口を尖らせるトルテちゃんが、ようやく年相応の少女に見えた。
しばらくしてからクリスが、飲料用の水が入った素焼きの壺を買ってきた。
トルテちゃんに口をすすがせ、水分を補給させる。
汚れた上着を脱ぎ、トルテちゃんを背負ったが、とっても嫌がられた。
いいんだ、別に傷付いてなんかいない。
外に出て看破を掛けたが、風に流されたのか黄色い靄は完全に晴れていた。
確認のため、トルテちゃんが倒れた場所に近付く。そこで、ある異常に気付いた。
キール少年が走った後の雑草が萎れ、ぐずぐずに崩れていた。
彼が所持していたスキルは、《巫蟲》とあった。
それは確か、毒や呪いを意味する言葉ではなかったか?




