感謝SS―01 教えて!誰にでもできる異世界料理術
当SSは、本編とはまったく関係ありません。
読み飛ばしてもぜんぜん支障はありません。
本編との食い違いは、どうぞご容赦下さい。
「今日、ヨシタツが新作料理に挑戦すると耳にしたのです!」
宿の玄関に入ってくるなり、おかっぱ頭な少女は偉そうに胸を張った。
「どの程度の腕前か、このあたしが吟味してやるのです!」
襟首を掴み上げると、彼女は両手両足をだらんと垂らして大人しくなった。
ブラブラとぶら下げながら玄関の外に運び、そっと放逐する。
「大自然にお帰り?」
野生に戻ってから、自由に生きてほしいと願う。
扉を閉めた後、立て掛けてあったホウキでつっかえ棒をした。
「ここを開けるのです!」
ガリガリと、扉を引っ掻く音がする。
「あ~け~る~の~です~あ~~ける~の~~でっす」
調子っぱずれなメロディーが、亡者の叫びのように繰り返される。
ツルカメツルカメと唱えながら、俺が奥に戻ろうとした時である。
調理場の方から、リリちゃんが誰かと話している声を耳にした。
「どんな料理か、楽しみなのです!」
「わたしもだよ、コザクラお姉ちゃん!」
追い出したはずの不審者の声が、調理場から聞こえる。
俺がため息をつくと、玄関の騒音がぴたりと止んだ、
◆
「さて本日は、ご家庭でも手軽にできる煮物に挑戦してみましょう」
とぅとるとぅっとうと、と軽快に口ずさみながら材料を用意する。
――「元の曲を知らないのですが、ヨシタツは絶対に音痴なのです」
――「あと、巻き舌が下手っぴなところが、可愛いよね?」
――「リリちゃんの感性は、絶対におかしいのです」
「さて、材料は干しキノコとその戻し汁、お芋三個、擬態線蟲二本、双脚獣のもも肉を一枚、調味料大サジ六、酒大サジ五、鋼顎獣の脂身を少々、ご用意ください」
――「材料の時点で、すでにお手軽というコンセプトを逸脱しているのです」
――「テーマは、おふくろの味だって」
「まずは鍋を火に掛け、熱したところに鋼顎獣の脂身を投入します。鍋に脂が馴染んだら、ひと口大に切った双脚獣のもも肉を炒めます」
――「香ばしい匂いが、逆に恐ろしいのです」
――「あれ? お母さんの試作ステーキで、食べたことあるよね?」
――「タダより恐ろしいものはないのです」
「ここで乱切りにして水にさらした、擬態線蟲を投じましょう」
「木の根っこみたいなのです」
「シャキシャキした歯ごたえが楽しめる食材です。あ、ここで注意があります。二年物の擬態線蟲には毒があるので、使うのは一年物にしましょう」
「どうやって見分けるのですか?」
「いい質問です。外見上は特に差異はありませんが、看破や鑑定などのスキルを使えば、どなたにでも簡単に区別が出来ます」
「使えれば、確かに簡単なのです!」
「さて、炒めて食材の表面に火が通ったら、お芋と干しキノコを入れましょう」
「やっとまともな食材が出てきたのです」
「…………やっと?」
「なんでもないのです! 次はどうするのですか?」
「干しキノコの戻し汁と調味料、酒を加え、落し蓋をしてぐつぐつ煮詰め、こうしてああして出来上がりです!」
「仕上げの説明が雑なのです!」
「ちょっと味見をしてみましょう。うん、具材それぞれから出た旨みが全体に染み渡り、良いお味になっています。今回は最低限の具材ですが、品数を増やせばさらに豊かな味わいになるでしょう」
「最低限のハードルが高すぎるのです!」
「ぜひご家庭でもお試しください」
「無茶言うな、なのです!!」
「ではお皿に盛り付けて――――」
「最後に彩りを添えます!」
リリちゃんの奇襲を受けた。
スライスした白アスパを、盛り付けた料理に散らすという暴挙に出たのだ。
茶色だった料理が、白アスパによって見た目にも鮮やかになる。
「これで栄養も満点だね、タヂカさん!」
「台無しだああ――――!!」
俺ががっくりしている間に、料理は少女二人に食べ尽くされてしまいました。




