step&step
…今回の小説はシリアスを目指して書いてみました。
あるドラマを見たのがきっかけで、このテーマを書いてみたくなったのです。
構想や、文章は数日で考えて執筆していたので、駄文です。
後、ややこしくしすぎたので、意味が分からないかも知れません。この作品の解釈は数種類あるので。
後、最後気持ちが重くなるかもしれません。
それでも良ければ…お進み下さい。
気付いた頃には、真っ白な空間に居た。
ここが何処なのか分からない。
とりあえず動き回ってみるが、何処もかしこも白、白、白。
え、ここも真っ白?
あれ、何処が真っ白?
でも本当に真っ白?
取り乱す私をよそに、“彼”は話し掛けて来た。
「ねぇ、君は何処に行きたいんだい?」
それは突然で、私には難しい問題で…というのも、私に記憶が全くない状況のその質問。
故に私は答える事が出来なかった。
「貴方は、何処に行きたいの?」
逆に質問をしてみる。
「俺、か…俺はね、“上”に行きたいかな。」
「上?」
上に行こうにも周りは全て白で、上に行けるような場所は愚か、何にも無い。
だからこそ、上に行きたいのだろうか?
でも何を使って上へ行く?
「ねぇ、どうやったら“上”へ行ける?私も、行ってみたいな。」
そうすると、“彼”は困ったような顔をして言う。
「君は、行けるけど…俺は行けないよ。」
「何で?」
「…行ってみれば分かる。さぁ、俺の指示通りに動け。」
指示されるままに動く私。
足場を確認すると、階段のようなものが有ることが分かった。
…さっきまで無だった空間に、ポツンと階段が現れたのだ。
「これを、上ればいいの?」
「あぁ、そうだよ。」
私に選択肢はない。
何故なら、“階段”と“彼”しかこの空間に存在しないから。
私が、その空間にずっと居たいと思えば…私は階段を上らなかったかもしれない。
でも、私はここに居たくなかった。
もっと、別の場所へ行きたかった。
だから私は階段を上る。
一つ、また一つ…。
「これで終わり?」
「まだだよ。…でも、そんなにかからないよ。」
“彼”に聞いて帰ってきた答え。
それは階段に“終わり”があるという事に繋がる。
そっか、じゃあこの空間もいつか抜け出せるんだ。いつか。
…それっていつ?
…また一つ。
階段は何処に繋がっているのかな。私が本当は行きたかった場所かな?
あぁ、楽しみだな。
「ねぇ、階段はこれで終わり?まだあるの?」
「まだあるよ。」
…また一つ。
白い空間は依然として変わらない。
存在するのはやはり、“私”と“彼”と“階段”。
全く変わっていない。
変わったとすれば、私の考え方かな?
さっきまで不安だったのに、いつしか安心してる。
“終わり”があるものだと思えば、ちょっと辛い事でも我慢出来るよね。
まぁ…今、辛いっていう感情は無いんだけど。
“終わり”は“始まり”。
だから楽しみなのかな?
やっぱり記憶は戻って来ないけれど、そこまで追い求める気はない。
…もしかして、要らない記憶だったのかな?
「“上”って楽しいの?」
「さぁな、人によって違うから。何とも言えないよ。」
「そっか…。
階段は何段あるの?」
「階段はね…後数える程だよ。」
…この会話で三回目。
私が上っている階段は、一体何段あるのだろう?
上っても上っても、
「まだあるよ」って言われる。
かなりの段数あるのかなぁ?
でも今、数える程しかないって言ってたよね。
なら、後少しかな。
…また一つ。
「…ねぇ、貴方は…私がどんな人か、知ってるの?」
「あぁ、知ってるよ。」
「なら、教えて…!私は一体どんな人?」
「それは…。」
“彼”がまた困った顔をした。…あれ、私の事…知ってるんじゃなかったの?
もしかして…「嘘」…?
「ねぇ、私は…どうしてこんな目になってるの!?」
「君が…その原因を作ったんだよ。俺は君を案内するだけさ。」
「え…。」
記憶の無い私には何の事だか分からない。答えに直接繋がらない回答を聞いても、分かる筈がない。
記憶を思い出せれば別だけど。
……この白い空間に、私が居る理由…
それを、私が作った…?
ますます分からない。
「ねぇ、何でこの空間には階段しかないの?」
「神様がそう作ったからさ。」
神様…。
「君は自分でこの空間に入る理由を作った。…でもこれは運命だったんだ。君はこうなる事を少し前に決められていたんだよ。」
少し前に…神様が…
「君はね、今すぐに上に行かなきゃいけない訳じゃない。でも今…上に行こうとしているのは自分だろう?」
確かに…そう、なんだけど。
何だか腑に落ちない。
自分は何で、上に行こうとしているんだろう。
…それさえも、神様が決めたことなのだろうか?
私が、自分で、決めた訳ではなく。
彼は私が決めた事だと言っているけれど…それは違う。
これは自分で決めたようで決めていない。…誘導されているような感覚。
そう、それが一番近い。
「ねぇ、私が今…いかないって言ったらどうなるの?」
「君は…どちらにせよ、上に行くことになるよ。運命だから。」
…運命…、
「“上”に行ったら幸せになれるかなぁ?」
「さぁ、どうだろうな。さっきも言ったが、上に行って幸せになるかは分からない。…誰にも。」
さっき、私は上へ“行ってみたい”と言っていた。
…けど、それさえも…神様が決めてたことだとしたら。
私はこの階段を上らざるを得ない訳で。
辻褄は合うよね。
…でも、神様って…本当に居るの?
確証は無い。
この白い空間も、神様が作ったと言えば、辻褄が合う…だけど、だとしたらここに私と一緒に居る“彼”は一体何者?
「貴方…誰?」
私がそう聞くと、“彼”は沈黙した。
何も言わずにそのまま立っていた。私を見下ろして。
上に行ける私と、
上に行けない彼。
どうしてその二人がこの空間に居る?
そもそも、何故ここには二人以外に誰も居ないの?
音も、余りしないこの空間は…一体何処に存在しているんだろう?
私達が元々居たこの世界にこんな場所は無かった筈。
「…階段、後少しで終わりそうな気がする。」
「君がそんな事言うとは思わなかった。…後少しでお別れだね。」
“彼”は寂しそうに言ったが、私には全然寂しがっている気がしなかった。
むしろ、お別れするのを喜んでいるような…そんな感じだと思う。そんなわざとらしい声だった。
気を取り直してまた、足場を確認して進む。
白い空間に白い階段とは何とも分かりづらい。
目立たなすぎる。
全く…この階段のせいで何度転びそうになったことか。
頬っぺを膨らませ、精一杯怒ったフリをしたつもりだったが、“彼”は全く気付いていないようだ。
…また一つ。
白い空間に一筋の光が差した。光が反射して眩しい…。思わず私は目を瞑った。
目を瞑って浮かんだのは、ただ…真っ黒い空間。
私に記憶が無いことを悟っていた。
愛しい人、家族の顔も…
私が食べたいものも…
風景もアニメのキャラも俳優も、コマーシャルも、“色”でさえも浮かんで来ない。
…少し寂しい。
記憶が無いことがこんなに辛く感じる時があるなんて、思ってもみなかった。
“彼”はそんな私を見て、どう思っただろう。
可哀想だとか、そういう考えだっとしたら…やめて欲しい。
同情なんて要らない。
同情してもらってもこの状況は変わらないだろうから。
…それより、私の記憶を思い出させるのを手伝って欲しい。
どんな些細な事でもいい。
何か、心の支えになる記憶が欲しい。ただ、それだけが。
そんな事を、見ず知らずの“彼”が分かる筈もなく、希望は絶たれた。
まぁ、分かったら逆に凄いのだけれど。
「君、浮かない顔してるね。…何かあったのかい?相談に乗るよ?」
「別に…何でもないよ?私が…記憶がないのは何故だろうって…ただ、それだけ。悩みとかそういうものじゃないよ。」
「そっか…。君、記憶が無いんだもんね…思い出したくもなるよね。…でも、思い出さない方が、いいかも知れないよ?」
意味深な言葉を返す“彼”。
私はそんな彼の態度に疑問を持った。
白い空間に私と一緒にいる“彼”なら、私の記憶を少しは持っているかも知れない。
だとすれば、私は余りいい記憶を持っていなかった…そういうことになるの?
「記憶を無くした人のパターンとしては、何かのショックで無くすパターンや、トラウマから逃れる為に記憶をわざと無くすパターンもある。君はもしかしたら後者かも知れない。…だとすれば、無闇に記憶を戻そうとするのは間違ってる。」
一理ある。だけど。
私は全ての記憶がない。
もし仮に後者だとすれば、嬉しいことなどは覚えている筈だ。
…私が記憶を無くした理由は、前者だと思う。
…とすれば、ショックがどうやって起きたのか知れば、思い出すかも知れない…!
「…嬉しそう…だね?」
「嬉しいよ!だって記憶が戻るかもしれないもん!」
「…え、どうして急に?」
「私はきっと何らかのショックで記憶をなくしてしまったんだわ。だから…そのショックが何なのかさえ知れれば…!」
「…止めろ!!」
「!!?」
急に彼が怒鳴ったので、私は話を中断した。
何故彼が…怒る必要がある?
「…俺は。」
口調が戻った事に安心してから、彼の話に耳を傾ける。
「俺は…君が記憶を無くした理由を知っている。…だけど、君に言えない。言ったら君は…!」
余りにも真剣そうに言うので、私は何だか申し訳なくなって黙った。
…彼に余計な事を言っちゃったかな…。ちょっと反省。
「これ以上、無理に思いだそうとしないでくれ。傷付くのは君だ。」
「私が…」
………。
私が、傷付く…?
………。
私は一体今まで…この空間に来るまで…何を、していたの…?
普通に、生活してきた訳じゃないの…?
「君は、黙って階段を上ればいいんだよ。他の事は気にせずに。」
「…分かった…そうする。」
………また一つ。
「お疲れ様。階段はこれで終わりだよ。」
唐突に現れた「終わり」。
確かに足場を確認してみると、さっきまであった段差がない。
…終わった。
階段が終わったんだ。
…どうもパッとしないなぁ。
また、只の白い空間に戻っちゃった訳だし。
…ここが“上”なの?
あ、違うか…“彼”は一緒に来れないんだっけ。
「とうとう君とお別れの時だ。」
「…そう、なんだよね。」
「最後に、君の名前を聞いていいかい?」
「そう、だね…まだ…名乗って無かったね…私は…愛朱香………。」
「そう、愛朱香ちゃんっていうんだ。」
あ…れ…?
私…何で名前が…?
何で名前が言えたの…?
「…俺の名前はね、相田 雅紀って言うんだ。やはり…此処まで来ると情が移るよ…。」
聞き覚えがある…この名前…。
何処で…?
あれ、何で震えてるの…?
あぁ、そういう事だったんだ。全部思い出したよ…。
これはもっと早く思い出しておくべきだったんだ…
あれは、あの白い空間は…
あぁ、そういうことだったんだ…“上”はアレで、“彼”はコレで…
だから私は…
“彼”と居ても…逃げ出そうとしなかったんだ。
…私は…この人を知っていたから。
私はこうなる事を知っていたんだ…。
だから私は…。
じゃあ私は…
この後…私は…。
「愛朱香ちゃん…また今度…会えたら会いましょう…“上”で。」
「嫌っ!私は…!」
「さようなら。」
見えたのは只白い空間。そこに彼は“居なかった”…
声だけが聞こえた。
私は…ずっと“真実”が見えていなかったんだー……
彼が「さようなら」と言った瞬間、最後に“私”は「死ニタク無イ」とー…
その一言を言った後はもう、
覚エテ無イー……