夏はやっぱり・・・?
なんだか、最近クオリティが落ちてきた気がしてならない・・・
気のせいだろうか?
「それでは、これで失礼します」
「ああ、またよろしく頼むぜ」
さてさて、俺とフィリアが幻想郷に来てから大体10日ほどが経った。
便利屋の仕事も細々とだがそれなりにうまくやっている。
まあ、ここの人たちが逞しいのか分からないが依頼の量もそれほど多くは無く、かといって生活できないほど収入が無いわけでもない。
俺としては、非常に好ましい環境がおのずと出来上がっていた。
そして、いつものように仕事が終われば何をするにもとりあえず一度家へと帰る。
そんないつもと変わらない風景。
しかしここ最近は、そんな風景にも変化があった。
「ねぇ暁~、アタイお腹空いた~」
背中に張り付いて左肩に顔を乗せているチルノのお腹から、くぅ~と可愛らしい悲鳴が聞こえた。
「あ~、確かにもうお昼時だもんな」
空を見上げれば、お天道様は丁度頭上あたりに居て、燦々と輝いており、人里の飲食店は今からが稼ぎ時のため、客寄せの声にも気合が入っている。まあ、そこらの飲食店よりもフィリアの作った飯の方が断然美味いし安く済むから店に入るなんて事は滅多にないのだが。それになによりも食事を作っている時のフィリアはとても楽しそうな表情をする。その表情が見たいって言うのも理由の一つにあるんだが・・・
「今日はどうすっかな? 二人は何が食べたい?」
フィリアのレパートリーはかなり広い。それこそ、和・洋・中のメジャーなモノはほとんど押さえているから大抵のモノは作れるだろう。
「う~ん、アタイは冷たい物がいい!」
「今日は暑いから、私も冷たい物がいいです」
二人とも冷たい物がいいのか、確かに最近は気温も日に日に高くなっているみたいだし特に今日は今までで一番暑いかもしれない。
「冷たいものか・・・それなら素麺かな、やっぱり」
夏の定番と言っても過言ではない王道中の王道、素麺。
糸のように細い麺は食欲が減退しがちな夏場には、食べやすくまた薬味に紅葉おろしに唐辛子を混ぜたものを使用したりする事で食欲を増やしたりもできる。
個人的には、麺自体を冷凍庫でヒヤヒヤに冷やして食べたときの喉を通る感触が好きだ。
うん、なんだか素麺が食べたくなってきた。
「よし、今日は素麺にするか。 フィリア、帰ったら買い物に行くぞ」
「かしこまりました、ご主人様」
「アタイ(私)も、ついて行く~」
そうして、一向は家路に着くのだった。
「あれ?慧音に妹紅?」
家の前まで行くと、慧音と妹紅が玄関の前に立っていた。
手にはなにやら木製の箱を持っている。
「あぁ暁、丁度よかった。留守だったようだから出直そうとしていたところだったんだがその必要はなかったみたいだな」
はて、何故慧音がここに?
時間的にはお昼前、今はまだ寺子屋で子供達に勉強を教えているはずなのだが・・・
俺の不思議そうな顔を見て、察したのか妹紅が、
「今日は早めに授業が終わったみたいなんだ」
と、説明してくれた。
「なるほどね。 とりま、立ち話もなんだしあがりなよ」
俺の後に続いて、慧音達も中へと入った。
「今日はこれを渡しに来たんだ」
慧音は開口一番にそう言って、持っていた木の箱をこちらに差し出してきた。
中を開けてみると、
「これは・・・・!!?」
中に入っていたモノ、それは・・・
「揖保乃糸じゃん!?」
おっと、思わず叫んでしまった。
俺が急に叫んだ事で、フィリア以外の全員が驚いたようだ。
ちなみにフィリアはお茶を淹れている。
いや、でもまさか幻想郷で揖保乃糸が手に入るなんて思いもしなかったから驚いた。
「急に叫んだりしてどうした?」
「いや、ゴメン。 だけど、これを何処で?」
「それはあきゅ・・・・お前も名前くらいは聞いた事があるだろう? 稗田家の当主にもらったのだ。 だが、私一人では少し多くてな、こうしてお裾分けにきたわけだ」
なるほど、そういうことか。
と、フィリアがお茶を持ってきてくれたのでそれを啜り一息吐く。
俺は、フィリアの目を見ると小さく頷いて台所に戻っていった。
「そか、ありがとう。 丁度今日のお昼は素麺にしようと思っていたから非常にタイミングがいいな」
まったくもってタイミングがいい。
思わぬところから素麺が手に入った、これはもう早速食べるしかない。
とか思っていると、まるで見計らったかのようなタイミングで隣から、
きゅるるるるるるるるる
と、可愛らしい音が聞こえてきた。
続いて、
「あかつきぃ~、お腹空いたぁ~」
チルノが上目遣いで見上げてくる。
クッ、なんて破壊力だ! 顔が整っているだけに余計性質が悪い。
俺は困ったような笑みを浮かべて、チルノの頭に手を置き、
「分かってる、フィリア?」
「準備は出来ていますよ、ご主人様」
そう言って、フィリアに素麺を渡す。
そして、俺も立ち上がる。
「んじゃ、ちょっと待っててくれ。 慧音と妹紅も食べてくよな?」
「いや、私達は・・・」
「食べてくよな?」
拒否権? そんなものさせるわけ無いじゃないか。
「慧音、ここはお言葉に甘えよう。 せっかくなんだし」
「む・・・わかった、じゃあご馳走になるよ」
その言葉に俺は満足そうに頷き、フィリアとともに台所に向かう。
「今日は俺が作る。 サポートは任せたぞ」
「任せてください」
そして、二人で台所に向かった。
その会話を聞いていた慧音と妹紅は、
「あいつ、料理できたのか?」
「さぁ、私は見たことがないな」
「大丈夫なのかね?」
「まぁ、フィリアも居るし大丈夫だろう」
微妙に失礼なことを言っていた。
「さて、舞茸の出汁は?」
「すでにとれています」
鍋を見てみると、薄い茶色っぽい色をした水と舞茸が浮かんでいた。
よし、それじゃあ、
「フィリアは生姜とをきざんで、水に通しておいてくれ。あっ、水気はきちんと抜いておいてな。あと、舞茸と葱もカットしておいてくれ」
俺は舞茸を取り出した出汁に酒、みりん、塩、醤油で味付けをし火に掛ける。
出汁が煮立ったら、きざんだ生姜、カットした舞茸と葱、素麺を半分に折りそれを投入する。
そして、舞茸が煮えたら完成だ。
これぞ、お手軽簡単レシピ。
まぁ、注意する点といえば素麺が伸びない様に手早く調理する事くらいかな?
スープを少し飲んでみる。
「ん、こんなものかな? フィリアはどうだ?」
「美味しいです、流石ご主人様ですね」
出来は上々のようだな。
後は、これを冷ませばいいのだが自然に冷めるのを待てるほどチルノのお腹は待ってくれないだろう。
「さて、最後の仕上げだ。 フィリア、頼んだ」
瞬間、フィリアの腕が美しい宝剣に変化した。
その刃の周りには空気上の水が結晶化して宙に舞っている。
「氷刃【アルマス】」
アルマスとは、神話上に存在する宝剣のことである。
詳しいことは説明がめんどいので割愛するが、詳しく知りたい人は自分で調べてみる事をおすすめするよ。
神話、面白いよね?
で、その剣先を鍋に触れさせると、湯気が収まり常温にまでスープが冷めたではありませんか。
神話上の武器をそんなことに使うな? 知らないな、どんな用途であれ使えない・使わない道具ほど意味の無いものなんて無いからな。
「うん、これで完成だな。 さっ、皆が待っている」
人数分の器に素麺を装って居間に持って行く。
「今日は、簡単にお吸い物に素麺を入れただけのものだけど、口にあうかな?」
「いただきまーす!!」
チルノはさっそく箸を手にとって、ちゅるちゅると素麺を食べ始めた。
「おお、おいしい!!」
「おいしい」
「ん、そうかい」
よほどお腹が空いていたんだろう、二人の美味しそうに食べる姿を見て思わず頬が緩む。
「お前、料理できたんだなぁ」
「私はてっきり、家事はフィリアにまかせているのかと思っていたが・・・」
「お前ら失敬だな、俺だって料理くらい作れるぞ」
主が家事出来ないなんてのは、偏見以外の何物でもないな。
「ご主人様はすごいんですよ? 私に家事を教えてくださったのは、ご主人様なんですから」
そう言うフィリアはどこか誇らしげだ。
そしてその言葉に慧音と妹紅、大ちゃんまでもが驚いた顔をした。
えっ? 何? 俺が家事を教えた事がそんなに意外なのか?
「そんな・・・私よりも料理が上手いフィリアに教えたのが暁だなんて・・・」
おい慧音、それって馬鹿にしてんのか?
「人は見かけによらないって言うけど、ほんとなんだな」
妹紅、お前は完全に馬鹿にしているな? そうなんだな?
「暁さんはすごいんですね!」
大ちゃん、君はなんていい子なんだ。
あとでなでなでしてあげよう。
クイックイッ
ん? 誰かが俺の袖を引っ張っている?
引っ張られた方を見てみると、チルノが満面の笑みを携えて、
「おかわり!!」
と、言ってきた。
器を見れば完全に空となっており、汁が一滴も残っていない。
「もう食べたのか、まぁたくさん作ったからどんどんおかわりしていいからな」
「うん!!」
慧音と妹紅の件はとりあえず保留、今はチルノにおかわりを持って行ってあげますかな。
無理矢理感がパネェ・・・
少し、他の方の小説でも読み漁ってみようかしら?