表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

鳥居を潜ると、そこは・・・

鳥居を潜った先にあったものとは?

鳥居を潜り、数歩進むと周りは霧が掛かったように白一面に染まった。

そんな現象にも表情を変えることなく、彼は歩き続ける。


「これが所謂結界って奴か?」


微かにピリピリとした感覚を、肌で感じ取る事が出来る。

普通は感じ取る事などできる筈が無いのだが、彼の肌は確かにそれを感じていた。

さらに先に進むと周りの霧のようなモノが一斉に晴れ、さっき見たはずの神社ーだが、先ほどとは打って変わってかなり綺麗になったーが佇んでおり、腋の部分が露出した巫女服?を来た少女がこちらを若干驚いた表情で見ていた。

普通ならばその少女に声を掛けるのだろうが、彼はそのまま踵を返して鳥居を潜ろうとしたところで少女に呼び止められた。


「ちょっと待ちなさい!!」


「あん?」


振り返り、少女を見据える。

若干戸惑っている様子ながらも、こちらを睨みつける視線は絶対に逃がさないという雰囲気がありありと見て取れた。


「あんた、何者なの? 見たところ外から来た人っぽいけど」


「何者って言われても、見ての通り?」


というか、ほかに何と答えれば良いのだろう?


「あんた、ここがどこだか知っているの?」


「えーと、確か忘れられたものが集う楽園だったかな?」


そう答えてやると少女は先ほどよりも大きく目を開いた。


「あんた、人間じゃないわね?」


今度はこっちが目を見開く事になった。

この少女は、たったあれだけの会話で自分が人間ではない事を見抜いたのだ。

いや、もしかしたらそこに直結する要素があったのかも知れないけど・・・


「良く分かったね、その通り。 俺は人間じゃないよ、妖怪だ」


そう言うと、少女から殺気と霊力が立ち昇る。

相手は完全にやる気満々だが、自分としてはここでドンパチをやるつもりは無いので慌てて両手を挙げる。


「待って待って、俺は何もする気はないよ!!」


「そんなセリフ、人間に化けている妖怪が言っても説得力無いわよ?」


「それは、今まで外で生活していたから・・・」


「問答無用!!」


言い訳もさせてもらえず、少女はお札を放ってきた。

チッ、あまり手荒な事はしたくないんだけどなぁ・・・

飛んでくるお札が彼に当たる瞬間、彼の姿が消えた。


「ッ!!」


少女は咄嗟に横に跳ぼうとしたが何時の間にか後ろに移動していた彼に腕を取られ、そのまま地に仰向けに倒されてしまった。


「すごいな、今のに反応するなんて。 戦闘センスはピカイチだな」


「くっ、このっ、離しなさい!」


少女は何とか脱出しようと試みるが両手首の部分を彼の手がしっかりと握っており両腕を挙げている状態で全く動かす事が出来ない。

両足は彼の足で押さえつけられており、こちらも全く動かす事が出来ない。

ようするに、ホールドアップした状態で馬乗りされているのだ。


「無理無理、人間が力で妖怪に敵う訳無いだろ?」


彼の言うとおり、妖怪はたとえ少女の姿であっても人間の大人より遥かに力が強い。


「私を・・・どうするつもりよ?」


表情や声音はまだ威勢はいいが、明らかに焦っている。


「いや、攻撃しないでくれるなら離してもいいんだけど・・・」


困ったように笑う彼の目がスゥっと細くなり、


「いきなり攻撃された訳だし、少しお仕置きが必要かな~なんて思ったりしてるんだけど?」


そう言うと、あいている方の手で少女の顎を持ち上げ、徐々に顔を近づける。


「なっ!? ちょっと、止めなさい! 退治するわよ!」


少女は焦ったように、無駄だと分かっていても何とかしようと必死にもがく。


「ついさっき退治しようとしていたんじゃないのか? それに安心しな・・・優しくするからさ」


困ったような笑いから一転して、表情も声音もとても優しげなものに変わった。

身を委ねてしまいたくなるような、すごく安心できるような柔らかい表情と聞いただけで胸がキュッとなる声に少女は正常な思考が出来ず逃げるように瞳を瞑った。


「ていっ!」


「きゃうっ!!」


ピコンッと額に衝撃が走り、混乱している頭で最初に焦点が合ったのは自分の顔を覗き込んでいる彼の姿だった。


「えっ、あ・・・・えっ?」


「ほら、立てる?」


先ほどまで自分を拘束していた彼は何時の間にか立っており、こちらに手を差し伸べてきた。

とりあえずその手を掴み、立ち上がると状況が飲み込めていない少女に彼は言った。


「俺の事は暁って呼んでくれ。君の名前は?」


「えっ? 博麗・・・霊夢よ・・・」


「霊夢・・・ね、覚えたよ」


暁と名乗った少年は、落ちているバッグを拾って霊夢と名乗った少女の頭に手を乗せ、


「それじゃあ、そろそろ行くよ。 綺麗な顔してるんだから、あんな風に殺気なんて飛ばさないで笑った方が可愛いよ?」


そう言って、鳥居を潜り階段を下りていった。








「なんなのよ、あいつ」


境内に一人残された霊夢は、そう呟いた。

考えたって分かるはず無い、あいつとは今日初めて会ったのだから。

それに完璧に人間に化けられる妖怪なんて聞いたことが無い。

彼からは一般的な量の霊力しか感じなかった。


「はぁ、お茶でも飲もうかしら」


考えるだけ時間の無駄だ、それに疲れた。

そう言って神社の中に入っていく。


ー優しくするからー


さっきの妖怪の言葉が頭の中で再生される。


「はっ!何考えているのかしら私///」


先ほどの言葉を打ち消すように霊夢は熱いお茶を啜った。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「ところで、ここどこだ?」


いやはや、あの後神社の階段を下りていったらものの見事に道なんてものは無かった。

獣道すら無いなんてあの神社に信者というものは居ないのかな?

まあ、この森だけでもかなりの妖怪が居るみたいだし普通の人は近寄れないよなぁ

そのせいで、まともな道も出来ないってわけか


「キシャー!」


「おっと、危ない」


神社を出てからというもの、獣のような、でも明らかにそんな生易しいレベルではない何かに襲われている。

はい、妖怪ですね、分かります

見た感じ獣に近いからか、知能があまり高くないようだ。

でも複数で襲いに来てる辺り、リーダー的な奴が居るのだろう。

低級妖怪だから追い払えることは追い払えるが・・・


「うわー、鬱陶しいなっていうかいつの間に増えた!?」


さっきは3、4匹程度だったのに今はざっと8匹に増えている。

これは、まずいな~

こんな土地勘も無い場所でここを住処にしている獣的な何かから逃げ切れるはずも無く、数も増えた為あっという間に囲まれてしまった。


「グルルルルルル」


「待て待て、俺を食べるとお腹が痛い痛い病に感染してしまうぞ?」


そんな冗談めいた忠告も虚しく、じりじりと間合いを詰めてくる獣さん達。

狼に似ているが体は一般的な狼より二倍近くもあり、鋭い歯や爪も比べ物にならないほど大きい。

あんなもので噛み付かれたりしたら風穴が開くね、間違いなく。


「グルアァッ!!」


「うわっと!」


後ろの一匹が襲いかかってきたのを屈んでかわすと、包囲の一箇所に穴が出来た。

その隙間から包囲を抜け出したが、その程度で諦めるはずも無く再び追いかけてくる妖狼達。


「だあぁぁ、もうしつこい!」


悪態を吐いても状況は変わらない。

しかし大分移動したからだろう、森の出口みたいなところが見えた。


「おっ、出口か?」


ここまで走り続けたからだろう、疲労が溜まった足に更に力を入れて鬱蒼と生い茂る木々草花の中を走り抜けた。

森を抜けた先には・・・


「すげぇ・・・」


思わず逃げているのを忘れて立ち止まってしまった。

目の前には黄色の絨毯、そう表現しても足りないくらいにたくさんの向日葵が咲き誇っていた。

燦々と照り続ける太陽の光をこれでもかと浴び、その姿は正に太陽の花と呼ぶに相応しく凛としている。

これだけ多くの花が咲いているにも関わらず、枯れているものや一つだけ元気の無いものなどは無く、かといって皆同じかと言われればそれは否だ。

確かにどれも大きくて、どれもが美しい。

それは共通している点だが、何というか俺には一本一本が違って見えるのだ。

動物にだって個性があるように、この向日葵一本一本に個性があるような気がするのだ。

俺はその光景に釘付けになっていた。


「グルアァッ!!」


「ガッ!!」


突如背中に走る衝撃。

しまった、沢山の向日葵を見ていたせいで逃げているのを忘れていた。

俺はそのまま向日葵畑の前まで吹っ飛ばされて、持っていたバッグはその近くに転がった。

先ほど抜けてきた森の方を見ると、先ほどよりもさらに多くの狼がこちらを睨みつけながらじりじりと迫ってきていた。

いったいどこから湧いてくるのだろうか?

そんなことはどうでもいいが、困ったことになった。

後ろの向日葵畑に入るのはいいが、奴らは嗅覚に優れているから視界が悪くなっても的確にこちらの位置を把握してくる。

しかもこの向日葵達、とても大きい。

大体茎だけで2メートルに届きそうなものまである。

これでは、明らかにこちらの分が悪い。

それに、できるならこの向日葵達を傷つけたくはない。

一度向日葵の方を振り返り、


「こんなに綺麗に咲いているんだ、それにこの場所に流血沙汰は似合わないよな」


困ったような顔で笑う。

彼はゆっくりと立ち上がり、一歩ずつゆっくりと狼達に近づいていく。

不意に上空から声が響いた。


「そこの人間、死にたくなかったら伏せなさい」


俺はその声を聞くと同時に、嫌な感じがしたので瞬時に伏せた。

刹那、光の柱と表現しても良い力の奔流が妖狼達を一匹残らず喰らった。

光が止んだので顔を上げて立ち上がって見ると、さっきまで妖狼達が居た場所が焦土と化していた。

おそらく、生き残ったものは居ないだろう。

そして後ろに誰かが降り立った音がしたので振り返ると、白い日傘を差した女性が優雅に立っていた。

髪はゆるくウェーブがかかった深緑の色をしていた。

白いブラウスと赤いチェック柄の服にスカートを身に付け、女性特有の身体つきが服の上からでも十分分かった。

控えめに見ても美人だ、それもすれ違う十人が十二人振り返るくらいに。


「あら、当たらなかったのね」


「まだ死にたくないからね、君が助けてくれたの?」


女性は答えずに振り返り、向日葵の花びらに優しく触れる。


「この子達に感謝しなさい、この子達が貴方を助けて欲しいって頼んで来たのだから」


「この子達って、向日葵の事?」


愛しそうに花びらに触れる女性は「そうよ」と短く答えた。


「そうなのか。 ありがとう、おかげで助かったよ。 それと、君もありがとう」


丁度自分よりも頭二つ分小さい向日葵に近づき優しく触れる。

そして、その様子を見ていた女性にもお礼を述べた。


「別に気にしちゃ居ないわ。 それよりも貴方、名前は?」


「ん? 俺は~そうだな、暁って呼んでくれ。そういう君の名前は?」


「私は風見(かざみ)幽香(ゆうか)。ここを管理している者よ」


そう言って、お互い自己紹介をする。


「管理ってことは、ここの向日葵は全部幽香が?」


「ええ、そうよ。 どうかしら、私の向日葵は?」


「そうだな、綺麗だよすごく」


「あら、それだけかしら?」


「それで十分だろ、余計な飾りなんかいらない。 ただ一目見れば、それだけでこの向日葵がどんなにすごいかが分かるんだから」


ここの向日葵は言葉で簡単に表現できるほど単純じゃない。

必ずと断言してもいい、どんな人物でもこの光景を見ればその心に大きな感動を覚える事だろう。

それほどまでにここの向日葵には魅力が溢れている。


「ふふっ、ありがとう」


そう言って、幽香は優しげに微笑んだ。

自分の大事なモノが褒められれば誰だって嬉しいものだ。


「なあ、どうやってここの向日葵を管理しているんだ? これだけの規模を手入れするのは大変だろう? というか、並大抵のことじゃないはずだ」


「それは、私が【花を操る程度の能力】を持っているからよ。 それのおかげでこの向日葵達を最高の状態にしているわ。 だからと言って手入れをしていない訳でもないし、この子達と会話が出来るのもこの能力のおかげよ」


はー、その能力のおかげで俺は助けられたのか・・・

生きていればいろんな事があるもんだなぁ・・・

しみじみそんなことを考えていると幽香が口を開いた。


「ところで、貴方は外来人よね?」


外来人という言葉は聞いたこと無いが、おそらくあの結界の外側ーさっきまで俺が居た世界ーのことを指しているのだろう。


「ああ、人が居るところを探していたらいきなり襲われて、幽香に助けられたんだ」


「そう、それならここからあちらの方角に歩いていけば人里があるから急いだ方がいいわよ。 もうすぐ日が暮れるから」


空を見ると、太陽とは反対側の空が薄く暗がりを帯びていた。

あっちの世界で言うと、午後3時くらいだろうか?

日が暮れれば視界はほぼ最悪、そして妖怪達が最も活発に動く時間帯でもある。

そんな中、妖怪に抗う術を持たない人が出歩いていたら、あっという間に食われるだろう。

それは、この世界でなら子供でも知っていることだ。


「本当だ、もうじき日が暮れるな」


落ちていたバッグを拾い、肩に掛ける。


「それじゃあ、助けてくれてありがとな。 また来るよ」


幽香に教えてもらった道を走りながら、振り向いて大きな声で叫ぶ。

幽香はこちらを見ているだけだったが、なんとなくまた来てもいいと言われた気がした。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







あの少年が見えなくなったのを見届けてから、風見幽香は自宅へと帰るために地を蹴った。

見た感じは普通の人間だった。

しかも、服装を見るからには外の人間で間違いないだろう。

向日葵達が騒いでいるから何事かと聞いてみれば、一人の人間が複数の妖獣に襲われているとの事だった。

そんなことここにおいては日常茶飯事だし、対して珍しくも無いから放っておこうと思った。

しかし、向日葵達はその人間を助けて欲しいと言ってきた。

仕方が無しに私はその少年の元へ飛んだ。

低級妖怪が束になったところで私に敵うはずも無く、少し力を込めた攻撃で跡形も無く消滅してしまった。

少年は私が降り立った音に振り返った。

驚いた事にその少年は、あれだけのことがあったにも関わらず恐怖を感じていないどころか私に近づいてきた。

大体の人間は私の力を見て、恐怖し、逃げ出すのがほとんどだ。

人間だけでは無い、同じ妖怪ですら私には近づこうとしない。

私の力が恐ろしいから・・・

しかし、少年・・・暁は楽しそうに話す。

まるで、誰かとの会話が楽しくてしょうがないかのように笑ってしゃべるのだ。

それに釣られたのだろう、何時しか私も笑っていた。

極自然に、意図的に浮かべた笑みではなく心の底から楽しいと感じることで出す事が出来る笑みを、だ。

あの笑みを花達以外に向けるなんて思ってもみなかった。

先ほどのことを考えていると、私の家が見えてきた。

赤い屋根のこちんまりとした洋風の一軒家だ。

ドアノブに手を掛け、ふと人里の方を向く。


「ふふっ、久しぶりに有意義だったわ。 生きていたら、また逢いましょう?」


そう呟いて、幽香は家の中に入っていった。


霊夢さん、幽香さん登場回。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ