地霊殿の主
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
「どうした?そんなに見つめられると照れるんだが///」
ポカンと口を開けたまま、固まりつつも視線だけはこちらを向いている三人に声を掛ける。
が、まだ再起動には至らないらしい。
「いやぁ~たまげた、兄ちゃん相当腕が立つんだな」
固まっている三人をどうにかしようとしていると、店主が話しかけてきた。
先ほどまで曇っていた厳つい面も肩の荷が落ちたように晴れやかになっているあたり、相当ストレスが溜まっていたんだろう。
俺が席に戻る間に、「へっ、ざまあねぇな」と吐き棄てるように呟いていたのを聞き逃さなかった。客に言うような台詞じゃねぇな・・・
「いやいや、大げさだって。あんな碌に鍛えてもいない連中にゃ、負けんよ。うちのフィリアだって同じことできるぞ?」
な?と視線だけで問い掛けて見ると、
「本来ならご主人様が手を下すまでも無く、私が始末していたところだったのですが・・・」
どこか不服そうに頬を膨らませている。
さりげなく同意しているあたり、まぁそういうことである。
「ほぉ~こりゃまたたまげた。ま、なんにせよ喧嘩を止めてくれて助かったぜ」
店主の言葉が終わると同時に左側からにゅっと手が伸びてきて小鉢が置かれた。
手の主は、先ほど喧嘩を止めようとしていた少女で俺の視線に気付くとニコッと笑いかけてきた。
それに適当に応えると、パルスィがようやくフリーズから解けた。
「あんた、何なの?実はすごい妖怪だったりするの?」
確かに、鬼二匹に体術で完勝するなんて普通ではない。
だがしかし、
「いや、そこまですごいってことは無いと思うんだけどなぁ」
いつものように、困ったように笑ってごまかす。
笑ってごまかす、単純だけど結構使えたりするんだよ?
現に、めんどくさがりな俺は重宝しているし。
「たはは、鬼を投げ飛ばすなんて普通はできないよ?」
呆れたように笑うヤマメに俺は肩を竦める。
この話は終わりにしようという意思表示だ。
「さて、そろそろお暇しようかね。もともとあの騒ぎが気になって立ち寄っただけだし」
皆ある程度は食べ終わっているので席を立つ。
「おや、もうお帰りかい?」
「ああ、地霊殿の主に用があるんでね」
すると、店主はどこか苦い顔になって、
「あんた地霊殿の主が誰だか知っているのかい」
「いや、知らん」
「覚だよ。思っていることが全部筒抜けになっちまう。だから、地底の連中は地霊殿に近づこうとは思わない。心が読まれるのが怖いからな」
そういう店主も覚に良い感情を持っていないのだろう。表情を見れば分かる。
ま、確かに普通は考えている事が全部筒抜けになるのは勘弁だわな。常に手の内を見せているようなものだし。でも、
「ふ~ん、でも俺には関係ないな」
そう言って、店を後にした。
パルスィ達とは地霊殿の場所だけ教えてもらって別れた。もともと旧都を案内するという約束で着いてきたわけだし、それに無理強いはできない。少なからず、あの三人も心を読まれることには抵抗があるようだったし。
今度は本格的に飲みに行こうと約束して、そこで分かれた。
華やかだった旧都から遠退くにつれて、歩く道も閑散とした寂しい場所になってくる。
一本道なので迷うことは無いという話だったが、それにしても寂しい場所だ。
草木の一本すら見当たらない完全な荒野、遠くに見える洋風の建築物が件の地霊殿だろう。
無言で歩き続ける為、二人分の足音だけが響く。
しばらくすると、足音のほかになにやら車輪を転がすような音が後方から近づいてくるのが聞こえ、そちらに視線を向けると猫車?のようなものを押しながら近づいてくる人影が見えた。
「ふんふふ~ん♪ おや?珍しいねぇ、こんなところで何をしているのかな、お兄さん達?」
猫車?を押していた人物はこちらに気がつくと人当たりの良い笑顔を浮かべて話しかけてきた。
黒のゴスロリっぽい服に身を包み、赤い髪を二束の三つ編みにしている。頭に猫の耳が付いていることから猫又の類だと思うのだが、何故か人間の耳も顔の横についている為何の妖怪かイマイチ判断がつかない。
押してきた猫車から人の手足が見えることから、おそらくは火車の妖怪だと思うのだがそれはどうでもいいか。猫車?から飛び出している手や足には突っ込まない。突っ込まないったら突っ込まない。
「俺は暁」
「フィリアと申します」
「俺達はつい最近幻想郷に来たばかりでね、ここの主に挨拶でも、と思って来たんだ」
「あたいは火焔猫燐って言うんだ。親しい人はお燐って呼ぶよ。それにしても地上の妖怪とは珍しいね」
少女は目を丸くし、上から下まで舐める様に俺達を見る。最近外から来たというのは確かに珍しいのかも知れないが、地底に住んでいる妖怪を見るに姿形はさほど変わらないと思うんだけどなぁ。
「そっちのお姉さんは妖怪ってのがよく分かるけどお兄さんは一体何の妖怪なんだい?」
「俺?んー・・・・・なんだろうな?」
「ご主人様はご主人様ですよ?」
「だ、そうだ」
「いや、答えになっていないよ」
苦笑しながら俺達のぺースに合わせて猫車?を押すお燐。
「ところで、お兄さん達は地霊殿の主が誰なのか知っているの?」
「あぁ、覚妖怪だろ?」
覚妖怪。
人妖問わず相手の心を読む妖怪。ゆえに妖怪からも嫌われがちな妖怪である。
「その…怖くないの?だって心を読まれるんだよ?普通は嫌うと思うんだけど…」
「んぁ?そんなもん慣れだよ。慣れ」
「私も慣れていますから」
別に覚妖怪に会うのは今回が初めてでもないし。
お燐はポカンと口を開けていた。ふむ、どうしたんだろうか?
「何というか、変わってるねお兄さん達」
「よく言われるよ」
あはは、と笑いながら猫車?を押すお燐は少しだけ速度を上げて、
「それじゃ、あたいが地霊殿を案内するから早く行こう、お兄さん達」
お燐はどこか嬉しそうに走り出し、少し行った先で大手を振っている。
そんなこんなで、急に元気になったお燐の案内で地霊殿へと向かった。
地霊殿に到着した。
都の方は純和だったと言うのに、地霊殿は明らかに洋風。大きな扉を開けて中に入ると、広いエントランスホールに出る。天井にはステンドグラスの天窓、床は赤と黒のタイルがチェック柄のように敷き詰められていた。お燐は俺達をここに待機させてどこかに行ってしまった。
「何故に太陽の無い地底で天窓?」
「様式美というモノでしょうか?」
ステンドグラスの裏側は岩肌しかない。しかし、無駄に凝ったステンドグラスなので少し勿体無いと思う。
「こっちだよ、お兄さん達」
猫車?をどこかに置いてきたのか、戻ってきたお燐は手ぶらだった。
お燐に付いて行くことしばらく、客間だと思われる部屋に通された。家にもあったような広いテーブルとソファ、部屋の中には暖炉なんてものもある。きっと客間兼団欒の場の目的で作られたのだろう。
お燐はさとり様を呼びに行くとかでどこかに行った。適当に寛いで居てとの事だったので手近なソファに腰を下ろし、フィリアはその斜め後ろに控える。
さて、覚妖怪が来るまでどうしていようか?
すると、スッと目の前に湯気が昇る紅茶が差し出された。それを手に取って香りを楽しんでから一口啜る。今日は、ダージリンか。
「美味いな」
「ありがとうございます」
最初の頃に比べると天と地程の差があるだろう。紅茶の淹れ方に関しては結構厳しく採点してはいるが、だんだんと俺が淹れたモノに近づいている。丁度一杯分を飲み終えた頃、廊下からぱたぱたと翔ける音が聞こえ、扉の前でピタリと止まった。茶器を片付けてフィリアは定位置に戻り、俺は佇まいを直した。2,3瞬の間を空けて扉がぎぃ、と音を立てて開いた。
「すみません、お待たせしました」
入ってきたのは少女だった。人間で言うと小学生くらい、背格好は家の妹と同じくらいだと思う。以前俺が出会った覚妖怪はほぼ人間の姿をしていたが、この娘は違った。胸の前に紐かなんかが生えた眼が浮かんでいる。なんぞあれ?とても大人しそうな印象を受ける彼女だが表情はどこと無く翳りがある。
さて、腰を下ろしていたソファから立ち上がり、まずは恭しく礼をする。
「お初にお目に掛かる。私の事は暁とでも呼んでください。後ろに控えているのは、私の侍女でして名をフィリアと申します。私達、つい先日この地に辿り着いた者でして本日は地底を管理されている貴女に挨拶に参った次第であります」
そこまで一息に喋ると先ほどのお燐と同じようにポカンとした表情で固まっている地霊殿の主が居た。あれ?何か間違えたか?
「如何されましたか、地霊殿の主?」
「え?あっ…、どうかそんな畏まらないでください」
「ん?そう?んじゃあ、そうすっか」
急に態度が変わった俺に酷く困惑した表情を見せる覚妖怪。どうも困惑の原因はそれだけでは無い気がするが。
「まぁ、とりあえず座って話をしようじゃない。フィリア、お茶」
「畏まりました」
「え?あの、お茶はこちらでお出ししますので…」
さっきからオロオロと困ったような表情をする。何これ、なんて言うか弄り甲斐がありそうなんだけど。
「気にしなさんな、こっちが急に押し掛けてきたようなもんなんだし」
そう言って、テーブルにはすでに3つのティーカップが置かれている。
「はぁ、あの、ありがとうございます。…おいしいですね」
紅茶に一口飲んだ覚妖怪が感嘆の声を漏らした。
「だろ?それで、貴女の名前を伺ってもよろしいか?」
「古明地さとりと言います。知っていると思いますが覚妖怪です」
「へぇ、名前も覚なんだ」
「はい」
覚妖怪の古明地さとり、ね。そういうこともあるのか。
「で、まずはお近づきのしるしにこれをどうぞ」
そう言って、どこから取り出したのか紙でできた箱をさとりに渡す。中身は茶葉を練りこんだ焼き菓子(俺作)の詰め合わせだ。
「ありがとうございます。えっと、どこから出したのですか?」
「気にすんな」
「え、でも…」
「そこのバスケットから」
指を指す先にはバスケットが置かれている。ちなみにさっきまでは無かった。
「いつの間に・・・」
「まぁ、手品だと思ってくれればいいと思う」
紅茶を一口啜って、喉を潤おす。さっきからさとりの胸の前に浮かんでいる眼がこっちをガン見しているんだがどうにかならないものかね?
「それで、どう?」
「どう、とは?」
「俺の心が読めないんだろ?」
またもや困惑の表情を受かべるさとり。
「・・・・・はい、フィリアさんの心は読めるのですが貴方の心は何故か読めません。こんな事は初めてです」
「具体的には?」
「なんと言えばいいのでしょう?そこにあるはずなのに、無いと言った感じでしょうか?貴方の心が認識できない?」
そこまでさとりが答えてから能力を解除して今度は心の中で問いかける。
もしもし、こんにちは
「え!?はい…こんにちは」
驚いた?
「えぇ、かなり。能力ですか?」
そんなところかな。なかなか便利な能力だから重宝してるよ。
「みたいですね。・・・貴方は心を読まれることが怖くないんですか?」
まぁ、普通の奴だったら怖いんだろうな。でも、俺には能力があったからな。それにたかが心を読むってだけだろ?人心を操るわけでもないし、そこまで気にする事でもない。様はそいつ自身が覚妖怪に対してどう思うかが重要だと思うぞ?
そう心の中で思う。紅茶を一口啜って大して乾いてもいない喉を潤おす。口を開かないで意思疎通ができるというのは便利だ。
「誰もが貴方みたいに考えられるわけでは無いですよ?」
「だったら俺だけでもそう思ってくれる奴が居るって事を覚えておいてくれれば良い。俺の他にも最低二人は同じ考えをする奴を俺は知っている。フィリアも気にしないしな」
軽く目を見開いて、俺の顔をじっと見つめたかと思えばふと微笑んだ。対面してから今まではどこか遠慮しているような表情をしていたが、やはりこの方がいい。
「なんだ、笑えるんだな」
「えっ?」
「さっきから堅い表情を崩そうとしなかったからな。うん、そっちの方が断然魅力的だ」
自分の顔に手を当てて、何かを考えている様子のさとり。するとそこへ、
「さとり様、お茶が入りましたよ~」
扉がぎぃ、と開きお燐がカートを転がしながら入ってきた。
「ってあら?すでに用意していたんですか?」
「あぁ・・・・御免なさい。片付けて置いて頂戴」
分かりました~、と退出するお燐。アイツ何しに来たんだ?・・・茶を入れに来たのか。
するとまた扉が開いた。扉から入ってきたのはさとりと同じように胸の前に目が浮かんでいる少女だった。顔立ちなんかはさとりと似ているし、姉妹なのだろう。さとりはカチューシャをしているのに対し、この少女は帽子を被っている。
どうやらその少女の存在は俺だけ気付いているみたいだ。何より、フィリアが気付かないということは十中八九能力の類だろう。さとりもフィリアもその少女の存在に気付いていない。
その少女はさとりの隣に腰掛けると俺が持ってきた焼き菓子を食べ始めた。そして喉が渇くとさとりのお茶を飲む。ここまで堂々としているのにさとりもフィリアも気付いた様子は見られない。しかし、これは気配を消すなんてもんじゃない。でも覚妖怪にそんな能力があるって話も聞いたことが無いしどういうことだろうか?
しかし、まぁ・・・
「~~♪」
自分が作った物で喜んでもらえるんなら作った甲斐があるというものだ。
右手を伸ばして何かを摘む動作をした後、その右手を真横に薙いだ。すると、
「!!? こいし、いつの間に帰っていたの?」
「ふぇ?お姉ちゃん私のこと見えるの!?」
突然現れた人物に驚いているさとりと別の理由で驚いているこいしと呼ばれた少女。
こうして並んでみるとどこと無く似ている気がしないでもない。
「え?え!?どうして能力が解けたの?」
うろたえるこいしを見て、さとりはこちらを向いた。
「それも貴方の能力ですか?」
「あ~、まぁ能力の一端だな。今回は解いただけだけど使えなくする事だってできるぞ」
別に隠すつもりもないので本当のことを話す。話したからといってさとりならどうこうするつもりもないだろうしな。
「・・・・・凄まじい能力ですね」
「怖くなったか?」
「いえ、ただ驚いただけですよ」
そう言って、微かに微笑む。
それを見て、こいしが目を丸くして驚いた。
「珍しいね、お姉ちゃんが笑うなんて。お兄ちゃん達何者?」
「暁、こっちがフィリア。つい最近幻想郷にやってきた妖怪だよ。今日はここの主に挨拶にきたんだ」
「ふ~ん、覚を気味悪がらないなんてお兄ちゃん達面白いね」
「それで、君の名前を教えてくれるかな?」
「古明地こいしだよ。よろしくね」
こいしは言いながら右手を差し出してきたのでそれに応える。つくづく洋風な家である。
「焼き菓子ばかりじゃ喉が渇くだろ?茶でも飲め」
フィリアがこいしの分のお茶を淹れるとお礼を言って、一口飲んだ。
「それでお兄ちゃんは何の妖怪なの?私はお姉ちゃんと同じ覚だし、フィリアちゃんはなんとなく猫の妖怪って分かるんだけどお兄ちゃんは何の妖怪か全然分かんないんだよね。そういえば、さっき旧都で鬼二人が瞬殺されたって聞いたけど何か知らない?鬼二人を相手にして瞬殺って同じ鬼以外で地底じゃありえないからもしかしてお兄ちゃん達?ってそんな分けないか。もしそうだったら他の鬼が次々に喧嘩売りに来るだろうしそれなら暢気にここでお茶してるわけ無いもんね。お茶といえばこの紅茶すごくおいしいね。このクッキーとの相性も抜群だし、お姉ちゃんでもこのレベルはなかなか作れないからフィリアちゃんが作ったの?それなら今度お姉ちゃんに・・・・・」
次から次へとまるで機関銃のようにこいしの口から言葉がどんどん出てくる。しかも返答を待たずに次々話題を変えるからおそらく、一つ目の返答をしている間に次の話に移っているだろう。
「こいし、少し落ち着きなさい」
「あうっ」
なおも一人で喋り続けるこいしを見かねてさとりが静止をかける。
「一つずつ話なさい。これじゃあ会話にならないわ」
「は~い、じゃあじゃあ私の能力が解けたのはお兄ちゃんの能力なの?」
しぶしぶと言った様子でも素直に姉の言う事を聞くあたりそこまで仲は悪くないんだろうな。
「そうだよ、さっき手を真横に薙いだ時にな」
「なんて能力なの?あ、私の能力は『無意識を操る程度の能力だよ』」
「それは秘密だ」
「え~、私は教えたのに~」
「好奇心は猫を殺す、って昔の人は言っていたぞ」
年齢的に言えば、俺は先輩にあたるが。
と、ここで扉の向こうから物音が聞こえた。具体的に言うと誰かが転んだような音が。
次いで、ドアが開くと額を押さえたお燐が涙目になりながら入ってきた。
「お燐、何しているのよ」
「イタタ、それが何だか悪寒を感じてですね次の瞬間に躓いて額を打っちゃったんですよ」
見ると、確かにお燐の額にはタンコブができている。
もしかして、シュレディンガーの件のせいだろうか?いや無いな、偶然だろう。
まぁ、でもちょっとだけ罪悪感が湧いたからどうにかしてあげよう。
「『彼の者の傷を癒せ』」
そう唱えると指先に小さな光の玉が出現した。淡い緑色をした光の玉は真っ直ぐにお燐の額まで飛んで行き、溶ける様に少しずつ小さくなっていく。光が完全に消えるとお燐のタンコブは跡形も無く消え去っていた。
「おぉ、タンコブが治った!?」
「今のは、魔法ですか?」
「わぁ~、すごいすごい!」
お燐はタンコブが消えた事に、さとりとこいしは俺が魔法を使ったことに驚いているようだ。
「ん、まぁそれなりにね。それで、お燐はどうしたんだ?」
「えっと、…どうかなぁって」
「要するに、主が心配で様子を見に来た、ってことですね?」
「まぁ、お姉さんの言うとおりかな」
取り留めの無い雑談にお燐も加わり、持ってきた焼き菓子がそろそろ無くなりそうになったころ、
ドッゴオオオォォォォン!!!
「ん、なんだ?今の音」
まるで扉をぶち抜いたかのような轟音に首を捻ると次いで誰かの声が聞こえてきた。
「おーい、邪魔するよー」
邪魔すんなら帰れと言いたいところだが、なにやら様子がおかしい、主にこいしの。
なんというか、悪戯がばれた時の子供のような表情をしていた。そして、そんな妹の変化を姉であるさとりが見逃すはずも無く・・・
「こいし、正直に答えなさい。今度は何をやったの?」
「え!?な、なにもやってないよ。ほんとだよ!!」
「ならどうして目を背けるのかしら?」
「ホントだもん!鬼のお酒をどこかに隠したり、隠したお酒をこっそり飲んだりなんてしてないもん・・・・って、あ・・・」
「はぁ、そんなことしていたの・・・」
さとりは大きなため息を吐いて、お燐は苦笑いをしている。どうやらいつもの事のようだ。
「すみません、ちょっと行ってきますね」
そう言って席を立つさとりの後ろを皆でついていく。
「えっと、なにしてるんですか?」
「ん、面白そうだからついていく」
「ご主人様が行くなら私も行きます」
「さとり様が心配で・・・」
「皆が行くなら私も~」
上から俺、フィリア、お燐、こいしだ。
さとりは困った顔をしていたが諦めたのか今度は困ったように笑って部屋を出て行く。そしてそれを俺達がついて行く。
先ほどの声の主はエントランスホールに居た。そして俺の方を見るや、どこかで見たことあるような笑い方でにんまりと笑った。
うわぁ、厄介事の気しかしねぇ・・・