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過去話その2

東☆方☆解☆禁!!

「許婚?」


ある日、話があると言われて親父の書斎に来ていた。


「うむ、この前の会合の時にそのような話が持ちかけられてな、一度顔を合わせてみようという話になったのだ」


「それって所謂お家問題って奴?」


お家問題・・・貴族達が力を付ける為には大きな家系と親戚なり身内になってしまうのが一番手っ取り早い方法って教わった。

しかも家は先祖代々強大な力を保有する吸血鬼の家系ということと格式も伝統もそんじょそこらの貴族達と比べても頭3つほど飛びぬけている家柄だそうで、そういう話は自分が生まれた直後からあったらしい。 そういった輩は確実に家しか見ていないので、母上が平和的実力行使で黙らせたらしいが。

今までそういった話が無かったのは母上のおかげか。


「うむ、まあそんなところだ。 中にはそれなりに身分の高い家もあるのでな、無下に断ることもできんのだ」


親父は頭に手を置いて困ったようにため息を吐いた。

親父はどうも乗り気じゃないようだ。


「それで、どういった事をやるの? 俺必要最低限の礼儀作法しかしらないんだけど?」


「何、唯の食事会のようなものだ。 他にも貴族達が参加するがいつもどおり振舞えばそれでよい。 日時は3日後、場所はいつも会合するところだ。 以上だ、下がってよいぞ」


俺は自分の部屋に戻ると、面倒くさそうにため息を吐く。

面倒だなぁ、まぁ食うだけ食って帰ってくればいいか・・・、言い寄ってくる奴らでまともに食べれないような気もするけどな。

そんなことを考えていると、コンコンとノックされ母上の声が聞こえた。


「・・・、居るかしら?」


扉を開けると、案の定母上が立っていた。 神妙な表情で。


「母上どうしたの?」


「あの人から話は聞いたでしょ? 許婚のことよ。 私は貴方を家の問題に巻き込みたくは無いの。 だから、貴方が嫌なら話は全部断ってもいいからね」


母上の姿は最強と言われる吸血鬼の面影はどこにもなく、子供を心配する母親のそれだ。


「大丈夫だよ! それよりも見てほしい魔術があるんだけど・・・」


「わかったわ、それじゃあ図書館に行きましょ」


今は、新しく覚えた魔術を母上に見てもらうほうが大事だ。






あっという間に3日が過ぎ、今日は許婚とやらと食事会の日だ。

会場にはすでに、大勢の妖怪が集まっていた。

人狼や俺と同じ吸血鬼、他にも大勢の多種多様な妖怪が居た。 男性も女性も・・・


「父上・・・説明不足です」


「うむ、まさかここまで多いとは我も聞いていなかったのでな。 仕方あるまい」


しっかりしてくれよ、親父殿!

この食事会は、多くの貴族を集めてその中で友好な関係を築いて許婚だったり婚約だったりをするきっかけを作るための食事会のようでいきなり許婚を決めるようなことは極稀なことらしい。

ちなみに立食だ。


「それでは父上、私は友人に会ってきますので」


「わかった、くれぐれも気をつけるのだぞ」


父上の元を離れると目的の人物はすぐに見つかった。 あちらもこちらを探していたようだ。


「よう、ひさしぶりだな・・・」


そう言って、手を差し出してくる。


「あぁ、久しぶりグレイ」


その手に応えこちらも差し出して軽く握り合う。

今握手を交わしたのは、俺の数少ない友人のひとり。 名前はグレイ・フォン・ジャヴェロット、こいつも吸血鬼でそれなりに名の知れた貴族だ。

ちなみに年は同じ、さらに親父同士が親友ということもあり必然的に仲良くなった。 顔は中性的ながらも体格はそれなりに鍛えているのか引き締まっている。オールバックにした銀色の髪は、そこそこ視線を集めている。 髪の色で視線を集めているのは俺も同じだが・・・


「お前がここに居るなんて少し意外だな。 てっきり、断っているものだと思ったんだがな」


「しょうがないだろ、父上の面子もある。 それに行かないなら行かないで面倒な事になりそうだし」


主に家に直接押しかけてきそうな問題で・・・


「まぁ、俺も同じ感じなんだけどな。 まぁ、そう言えるのは父上のおかげでもあるんだけど」


「だな・・・、そういえばジャヴェロット卿は?」


「父上はあっちで飲んでいるよ。 なんでも旧友に会ったんだとよ」


俺達がお家問題を煩わしく感じるのは、もともと地位が高い家に生まれたからであって、そうでなければ他の奴らと同じように地位の高い家に取り入ろうとしていたかも知れない。 ・・・・・まぁ、だからといって同情なんてしないけどね。


「そんなこと言ったってどうしようもないだろ? 相変わらずだな、グレイも・・・も」


話しかけてきたのは、がっちりした体格で俺よりも頭ひとつ分背の高い少年。

背中からは蝙蝠のような羽が、頭には枝が刺さっているかのような角が生えている。


「カイルか」


「お前も来てたんだな」


カイルと呼ばれた少年は、ニッと笑って、


「だって食事会だろ? なら行くしかないじゃないか!」


その発言に俺は困ったように笑い、グレイは呆れた様にため息を吐いた。

カイル・イラ・リンドブールがこの少年の名前だ。こいつは吸血鬼ではなく、ドラゴンの血族で名前が確か『リンドブルム』だったかな?その血族だ。

こいつも数少ない友人の一人で、よくつるんでいる。ただ、問題なのがこいつの食事量の多さだ。

普通に10人前を食って腹一分目とか抜かした日には、食道と腸を直接繋げてやろうかと思ったのは懐かしい。

ちなみに、ドラゴンだけあって単純な力ならこの三人の中でもダントツで強い。加えて頑丈だ。


「こんなところで話してないで、飯食いに行こうぜ。 そのために来たんだろ?」


「いや、間違っちゃいない。 間違っちゃいないんだけど・・・」


「お前と同じ目的で来たと思うと、なんか癪だな」


「どうだっていい、そんなこと。 ほら行こうぜ?」


俺達はカイルを先頭に歩き出す。

さっきからこちらをちらちらと伺っているやからが大勢居たが関係ない。 こちらから声をかけるのは、同じ地位かそれ以上の地位を持っている者達だけだ。

まぁ、俺の場合は気まぐれが働くこともあるんだけどね・・・・・・・・









場所はところ変わって、ホール中央。

そこでは多種多様、大量の料理が並べられていた。


「うっひょぉ~、これ全部食っていいのかよ?」


「いや、全部はまずいだろう」


「あっはは、カイルはぶれないね」


カイルはさっそく目の前の料理に手をつけ始めた。


「さて、ああなったカイルは当分止まらないし、危ないから離れているか」


「そうだな、とりあえずこちらを伺っている奴らをある程度突っぱねて置くか。 そういう訳だからまた後でな、グレイ」


「ああ、また後で」


俺がグレイから離れると、数分もしないうちに見覚えの無い連中が近寄ってきた。

なんかいきなり自己紹介とかしてきて、俺のこと褒めるなり親父や母上のことをベタ褒めしてきた。そして、そいつらが離れると今度は別の輩がやってきて同じくだりで話しかけてくる。

まともに話を聞くつもりは無かったがこうも数が多いと疲れる。

そして、何人目かわからない奴の挨拶を聞いていると、


「おやおや、そこに居るのは・・・君じゃないのかな?」


声のした方を見ると、長い金髪を後ろで三編みにした男が立っていた。

俺よりもずっと背が高く、数百歳は年上だろうか?

内包している妖力も周りと比べて頭一つ抜き出ている。

あちらは俺のことを知っているみたいだが、あいにくと俺は見覚えが無かった。


「え~っと、どちらさまで?」


「なっ!」


ん?なんか絶句しているし、周りの妖怪達はなんか青ざめている。さっきまで俺の前に居た奴もすでに居らず、皆遠巻きに俺とあいつを見ていた。


「あいつは、シュヴァイン・デレ・ヴァージュ。 ほら、去年の武闘大会で決勝戦の相手だったろ? それに俺らと地位がかわらない家系だったはずだ」


いつの間にか隣に居た、グレイが説明してくれた。 はて、武闘大会で・・・?


「あぁ~、たしかそんな名前だった気がする。 いやぁ~、必要の無い知識は片っ端から忘れるからね、困った困った」


貴族達の間では、4年に一度暇潰しもかねて武闘大会が開かれるのだ。 当然俺も出場し、そこで俺は初出場にもかかわらず優勝してしまったのだ。


「で、私に何か御用でしょうか?」


「私はあの日、初めて戦いに負けた。 それまで私は負け無しだったのだ。 にもかかわらず100年ちょっとしか生きていない貴様なぞに負けたことがどうしても納得がいかないのだ。 ゆえに、私は貴様に決闘を申し込む!!」


この発言に周りはざわめき出した。 みな一様に戸惑っている。


「いや、やんねぇよ。 めんどくさい」


「ほほぅ、逃げるのか? 私に恐れをなしたか、ならば仕方が無いな」


「安い挑発だな、しかも去年俺に一撃も当てられずに完敗したくせによくそんな口が叩けるよな、敬服するぜ」


その一言が癇に障ったようでいきなり殴りかかってきた。


「俺様を侮辱するな!!」


「侮辱なんかしてねぇよ、本当のことを言ったまでだ」


感情に任せた一撃、愚鈍なまでに真っ直ぐな攻撃なんて風を切る音だけで見切れる。


「お前、邪魔」


大振りの拳を頭を下げることで避け、隙だらけの腹に3発、拳の勢いで吹っ飛ぶ前に足を払って踏ん張れなくする。

するとどうなるだろう?

踏ん張れず、されど殴られた勢いは死んでない。シュヴァインは無様にもごろごろと転がっていき壁に激突したところで停止した。 手加減はしておいたからそのうち起きるだろう。


「相変わらず凄まじい速さだな」


「ん?これくらい普通だろ?」


「いや、俺の全力が大体それくらいなんだが・・・」


まぁ、気にしちゃいけない。 なんてったって俺の両親はともに吸血鬼最強なんだから。


「いやぁ~、見事見事。 流石はあの方のご子息」


拍手をしながら近づいてきたのは、初老の男性。 


「これはヴァージュ卿、見ておられたのですか?」


「うむ、家の息子が迷惑をかけたようで申し訳ない」


そう言って、頭を下げようとするのを手で制する。


「何、唯の子供の喧嘩です。この程度で気に病むこともないですよ」


「むむ、これはお心遣い感謝します。 まだお若いのにしっかりしていらっしゃる。息子にも見習わせたいですな。 それでは、我々はここで失礼します。お父上にもよろしくお伝えください」


そう言って去っていくヴァージュ卿、いまだに目を回しているシュヴァインは従者と思わしき男性によって運ばれていた。


「なんか、興が冷めたな」


「冷めるような興があったのか?」


「・・・・・・最初から無かったな」


どちらにせよ、もう食事会を続けるような雰囲気ではないだろう。

時間的にも頃合いだろうし、このまま解散になりそうだな。


「んじゃ、カイルのところまで行くか」


「そうだな、もうお開きだろうし」


その日の食事会は、何事も無く終わりを告げた。








「・・・・・・・よ」


あの日から数日、またもや親父の書斎に呼び出された。 しかし、前回と違うところがある。

それは、母上もその場に同席していることだった。


「どしたん?そんな思いつめた顔をして」


親父は無言で一枚の紙を渡してきた。

俺は、いつもと違う二人の表情に戸惑いながらもその手紙を読んでみた。


「・・・・・・・・・・なるほどね、アイツも狡いことするね」


手紙に書かれていたのは、俺の永久追放だった。

どうしてそうなったか、説明しよう。

あの食事会の日に叩き伏せたシュヴァインとやらが何かにつけて他の貴族どもを煽り立て、俺に追放を要求してきたのだ。

おそらく、この家を好ましく思っていない連中の集まりだろうがその数が尋常じゃなかった。

戦って勝つ見込みはあるが、こちらも相応の被害が出る。 それほどの数がこの紙に書かれていた。

普通ならばこうはならない。 しかし、場所がまずかった。 会合の場での暴力沙汰など貴族のすることではない。 そう言った理由で俺の追放が決まったようだった。


「わかった、出て行くよ」


俺の言葉に今まで黙っていた母上は、


「あなた、どうにかならないの?」


とても悲痛な表情で親父に話しかける。


「難しいだろうな、これほどの人数を相手に論破できるものだろうか?」


親父は難問を解いているかのような表情で考えを巡らせている。


「こうなったら、私が全員焼き殺してしまえば・・・」


「母上だめだよ、そんなことしちゃ」


物騒なことを言っている母上を宥め、親父に話しかける。


「そんなに心配しなくてもいいよ。 俺はただじゃ転ばないし、起きるときもただじゃ起きないこと、知ってるよね?」


「何をするつもりだ?」


親父の困惑した表情を真正面から受け止め、ニヒルに笑う。


「アイツにも同じ目にあってもらうだけだよ」


後に親父は語った、あのとき初めて息子に恐怖した、と。













「と、まぁこういうわけで俺は長男ながらも世界を旅していた訳だ」


すっかり冷えたお茶を一息に煽り、ちゃぶ台の上に置く。

すかさず、フィリアがお茶を注いでくれる。


「あれ、でも偶に帰ったりしていましたよね? でもさっき永久追放って・・・」


小首を傾げ、猫耳をピクピクと動かして不思議そうな顔をするフィリア。


「あぁ、それは俺やグレイ、カイルが全面抗議した結果だな。不問まではいかなかったけど、俺とシュヴァインが500年放浪の旅に出るってことで落ち着いたんだよ。本来吸血鬼が館から追い出されるってのは死に等しいんだけどな、俺の場合は能力で何とかなったけどアイツがどうなったかね」


まあ、アイツがどうなろうと知ったこっちゃないが。


「ふぇ~、ご主人様は昔から規格外だったんですね~」


フィリアが何故か納得したようにうんうん、と頷く。


「規格外って・・・、まぁそのおかげでこうしてフィリアに会うこともできたんだ。結果オーライじゃないか?」


ぐしぐしとフィリアの頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めて「えへへ」と笑う。

すると、フィリアの耳がぴーんと真っ直ぐに立ち、そのままある方向を向いた。

こうなった時は、大抵有益な情報を拾ったときに現れる。


「どうやら、お客さんのようだな」


「はい、それもかなり急いでいるみたいです」


戸口の方からドンドンと戸を叩く音が聞こえる。


「さて、それじゃあ今日一件目の依頼だ。ぼちぼち頑張るとしますかね」


そう言って、立ち上がる。

過去の事なんて、所詮は終わった事。

今は今できることをやってた方が絶対に有意義だ。

そう思う今日この頃である。


またこして、投稿する事ができた・・・

こんなに嬉しいことは無い

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