一致団結
「エドヴァルドがかわいそうだとは思わないのか? 女から婚約破棄されるなんて、そんな恥をかけさせて!」
「そうだそうだ。せめてエドヴァルドから婚約破棄させろよ!」
「…………ちっさ」
思わず呟いてしまった。
だって情けないじゃないか。
そんな小さなことを気にしていたなんて。
婚約破棄したにしろされたにしろ、お別れしたことには変わりないというのに。
長々しいため息と共に首を振ったキアラのその呟きは、もちろん彼らに届いていたらしい。
まるでりんごのように彼らの顔が赤く染まる。
「お前っ! 犬の分際で生意気だぞ!」
「あんなにエドヴァルドに付き纏って迷惑かけてたのに!」
「迷惑だと思っていたのなら申し訳ございません。なのでぜひその言葉をそのまま、エドヴァルド様にお伝えください」
彼らの言葉はそのまま今のエドヴァルドに返ることになる。
なのでそう伝えれば、男たちの顔がさらに赤く染まった。
「――いい加減にしろっ!」
小柄な男子が、キアラの腕を力強く掴んだ。
あまりの強さに痛みが走り、キアラの顔が歪む。
「このままエドヴァルドのところに連れて行って謝らせてやる!」
「お前から婚約破棄をなかったことにして欲しいと懇願しろ!」
「絶対に嫌です――っ!」
そんなことは絶対に嫌だ。
キアラは引っ張られる体を踏ん張ることでなんとか耐えようとしたが、そこは男女の力の差がある。
痛いくらい腕を引っ張られて、連れて行かれそうになったその時だ。
――バシャッ!
と大きな音と共に、男たちがびしょ濡れになっていた。
「いい加減にしろ」
何事かと横を見れば、教室の入り口にバケツを持ったシノがいた。
彼女はどうやらその中身を男たちにぶちまけたらしい。
明らかに怒っているシノは、そのままキアラを掴む男の腕をはたき落とした。
「お前らこそ恥ずかしくないの? 一人の女の子によってたかってこんなことして……」
シノは男たちに掴まれていたキアラの手を見る。
真っ赤に人の手の形ができているそれを見て、さらに険しい顔をした。
「怪我までさせて。これがエドヴァルドが望んだこと?」
「――お前、なにしたかわかってんのか?」
びしょ濡れになった前髪をかきあげながら、男の一人が一歩前に出た。
明らかに怒りで我を忘れている顔をしている。
これはいろいろまずいのではないか?
そんなキアラの不安は命中し、男が拳を振り上げた。
その瞬間、キアラはシノを、シノはキアラを庇おうと動く。
二人が揃って目を閉じたその時だ。
今度は男の横顔に、サンドイッチが炸裂した。
「――いい加減にしてくださいっ!」
「…………え?」
キアラが驚いてクラスの方を見れば、サンドイッチを投げたであろう女生徒が目に涙を浮かべていた。
「最低すぎます! キアラちゃんになんてひどいことを……! もう帰ってくださいっ!」
「おまえっ! ――ぐぇっ!」
今度は男の横っ腹にリンゴが炸裂した。
「迷惑なのよ! こんなところで騒いで!」
「なんな――ぐっ!?」
男がなにかを言う前に、あちこちからさまざまなものが飛んできた。
どうやらクラスメイトたちがこぞって投げつけているらしい。
「迷惑かけてるのはあんたたちのほうでしょ!」
「そうだそうだ! いい加減にしろ!」
「さっさと帰りなさいよ!」
一体なにが起きているのだろうか?
クラスメイトたちの行動に呆然としていると、そんなキアラの隣でシノがくすりと笑う。
「みんなキアラが好きなんだよ。お弁当の件からだいぶ打ち解けてたしね。……だから助けたいって必死になってんのよ」
「…………みなさん」
まさかこんなことをしてもらえるなんて思わなかった。
なんとも言えない感情が胸に溢れて、キアラはきゅっと唇を噛み締める。
そうでもしないと、なんだか泣いてしまいそうだったのだ。
「――お前ら、いい加減に……!」
しかし男たちも黙ってはいない。
やり返そうとまたしても拳を握り、振り上げかけたその時だ。
男の前に、一人の女生徒が立つ。
「お前……! どうしてここに……」
「…………婚約破棄は恥ずべきことなんですってね?」
「な、なんだよ。それがどうしたって――」
「なら私も婚約破棄します。どうやってあなたに復讐しようかずっと悩んでたんです。まさかこんな簡単なことでよかったなんて」
その場が一瞬で凍りついた。
あれだけ加熱していたクラスメイトたちも、まさかの展開にピタッと黙り込む。
「………………なに、言ったんだ……?」
「婚約者だからって、あなたの所有物じゃないのよ。意思がある。心があるの。……そんなこともわからない人と結婚なんてしたって、毎日泣くだけじゃない」
女生徒は髪をかきあげると、くるりと踵を返した。
「うちから婚約破棄の書面送るから。――絶対受け入れなさいよ」
その一瞬だけ射抜くような視線を向けて、女生徒は颯爽と去っていく。
残ったのはもちろん、エドヴァルドの友人たちのみである。
呆然としている男たち。
しばしの沈黙後、クラスメイトたちがぼそりと呟く。
「だっさ。結局自分も婚約破棄されてるじゃん」
「恥の上塗りじゃん」
その呟きを聞いたクラスメイトたちは、徐々にくすくすと笑い始める。
馬鹿にされたことがわかったのだろう。
エドヴァルドの友人たちは一瞬怒りに顔を歪めた。
「――お前らっ……! 覚えてろよっ!」
なんて捨て台詞を吐いて、男たちは脱兎の如く逃げ出した。
「…………なんだったんです?」
「馬鹿だよねぇ。恥かいてやんの」
楽しげに笑うシノの隣で、キアラが首を傾げていた時だ。
「キアラちゃん! 大丈夫?」
「怪我してるんだよね? 保健室行こう!」
「あいつら本当に最低だな……!」
わらわらとクラスメイトたちが駆けつけてくれる。
彼らに囲まれて、心配の言葉をかけてもらえたことに、キアラはこそばゆい感覚を覚えた。
しかし助けてもらったことは間違いない。
なので恥ずかしがってはいられないと、少しだけ赤い頰のまま微笑んだ。
「みなさん、ありがとうございます……!」




