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【連載版】犬のように従順な私をお望みのようですが、あなたへの愛は終わりました。  作者: あまNatu


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浮気した!してない!

「は? きっっっっっも…………」


「…………はい。まあ、……はい」


 教室へと戻ったキアラが、今朝のことをシノに話した。

 すると彼女の反応は想像していたよりも悲惨なものであった。

 美しい顔をそれはそれは醜く歪めたシノは、鳥肌の立つ二の腕をずっとさすっている。


「あいつ本当にわかってないわね。そこでただの弁当渡すとか……」


 シノは己の机を拳でゴンっと力強く殴りつけた。


「キアラはあいつのために毎朝早く起きて、栄養と考えて作ってたっていうのに……!」


「まあ……それは私が勝手にやっていたことですから」


「恩恵を無言で受け取ってたんだから、あいつにだって責任あるわよ」


 大きめなため息をついて怒りを分散させたらしいシノは、腕を組むとふう、と息を吐いた。


「お兄を学園に召喚しといてよかったわ。まさかそんな場面に出くわすなんて」


「ロキ様にはご迷惑をおかけししてしまって……」


「迷惑なんて思うわけないじゃない。自慢じゃないけど私の兄やれてるような人なのよ? キアラのことなんてむしろ喜んでやるわよ」


 どう反応していいかわからない言葉に、静かに笑顔を浮かべるだけにとどめた。


「まあ、迷惑かけたって思うなら一緒にお昼食べてあげなよ。内心死ぬほど喜んでるはずだから」


「私も嬉しいです。ロキ様、お弁当作ってくださったようで」


「朝早起きして作ってたわよ。……やっぱりキアラのこと大好きなのよね」


 むふふ、と笑うシノに若干顔を赤くしていると、不意に廊下から大声が聞こえてきた。


「おい! エドヴァルドの犬! こっちこい!」


「………………」


 ドン引きした。

 絶句もしたし、死ぬほど冷めた目を向けてしまった。

 一体誰だ、なんて見る必要もない。

 こんなふうに呼んでくる人を、キアラは一グループしか知らなかった。

 どうして今さら……と思いながらも、呼ばれているのでおとなしく向かおうとする。


「キアラ、行かなくていいよ」


「でも……」


「おい! 犬!」


「……クラスの方々に迷惑かかりそうですから」


 これ以上騒がれては、クラスメイトに迷惑がかかってしまう。

 もうすでに眉間に皺を寄せ、廊下の方を見ている人たちばかりなのだ。

 せっかく仲良くなったのに、こんな人たちのせいで楽しい空間を壊されたくはない。

 仕方ないと肩をすくめつつ廊下に向かえば、やはりエドヴァルドの友人集団がいた。

 その中の一人、小柄な男子は腕を組むと、偉そうに顎を上げる。


「お前どういうつもりだ?」


「……急になんですか?」


「生意気なんだよ!」


 肩を軽く押されて、思わずよろけてしまう。

 それに反応したのはクラスの女生徒たちだった。


「ちょっと! 手を挙げるのは違うじゃない!」


「うるさい! 黙ってろ!」


 しかしかなりの勢いで怒鳴られて、女生徒たちが怯えて一歩下がった。

 それにすかさずキアラが口を開く。


「用があるのは私なんですよね? なら他の人に攻撃しないでください」


「攻撃? 生意気だから叱っただけだろ」


「……本当に失礼な方たちですね」


 他人の令嬢を【叱る】だなんて、失礼極まりない。

 もうこれ以上この人たちにあれこれ言ってもイライラするだけなので、キアラは深いため息の後要件を聞いた。


「それで? なんの用ですか?」


「お前、エドヴァルドに対して生意気すぎないか?」


「この間まで必死に縋ってたのに、急に手のひら返すとかどういう神経してんだよ」


 ふむ、とキアラは腕を組んだ。

 まあ彼らの言いたいことはわかる。

 あまりにも急すぎて、エドヴァルドが動転するのもわかる。

 ゆえにあんな変な行動をとっているのだろう。


「しかもこんな急に男できたとか……。お前、元から浮気してたんだろ? だから急にエドヴァルドから離れたんだ」


「最低なのはお前じゃねぇか!」


 やんのやんの言われているが、キアラには少しも響かない。

 なぜならエドヴァルドと婚約中に、ただの一度だって浮気なんてしたことがないからだ。

 眼中にだって入れたことがない。

 キアラには最初から最後までエドヴァルドだけだった。

 なので一ミリも痛くはないが、ムカつかないわけではない。


「誓ってエドヴァルド様と婚約中に、他の異性に目を向けたことはありません。ロキ様はシノのお兄様として、親しくさせていただいているだけです。エドヴァルド様のほうこそ、異性のかたと親しくしていましたが?」


 ロキとはまだなにもない。

 ただ親しくしているだけで、不貞を疑われるようなことはなに一つしていない。

 それにそんなことを言うのなら、エドヴァルドのほうがよほどだと思う。

 キアラという婚約者がいるのに、彼ら友人グループの中にいる女性と親しそうにしていた。

 それはどうなのだと問えば、彼らはむっと眉間に皺を寄せる。


「エドヴァルドはお前と婚約中に他の女に手を出したことなんてない!」


「そうだそうだ! お前と一緒にするな!」


 いや、なら一緒なのだが、とは口にしなかった。

 エドヴァルドはキアラと婚約中に、一度だって浮気をしたことがないようだ。

 ずっと共にいる友人が言うのだから、真実である可能性は高い。

 少し意外だった。

 エドヴァルドはキアラには目も向けなかったため、浮気ぐらいはしているかと思っていたのに。

 少しだけ見直しはした。


「まあ関係ないんですけれど」


 だからと言って、キアラへと態度がなかったことにはならないのだから。

 浮気しないのは大前提、当たり前だ。

 そこからどれだけプラスに動くかだが、残念ながらエドヴァルドはマイナスを極めていた。

 そしてそれは、ここにいる彼らのせいでもある。


(ここで適当に相手しても、どうせまたくるわよね……)


 なら徹底的にやるしかない。

 キアラは覚悟を決めて、改めてエドヴァルドの友人たちと向き合った。

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