表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】犬のように従順な私をお望みのようですが、あなたへの愛は終わりました。  作者: あまNatu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

君のために

「ひとまず授業が始まるギリギリまでここにいようか」


「はい……」


 キアラをあの場から連れ出してくれたロキとともに、裏庭にあるガゼボへとやってきた。

 そこでほっと息をつきつつも、キアラはふと考えた。

 なぜああもエドヴァルドはキアラに構うのだろうか?

 婚約破棄を喜ぶと思っていたのに。

 あのお弁当も謎である。

 彼のやりたいことが全く見えないと、キアラは首を傾げた。


「彼は必死なんだね。キアラを取り戻したくて、あれこれやってるんだよ」


「取り戻したいって……。こうなったのは……」


「うん。彼のせいだね」


 ロキはぐっと両手を上げると、体を伸ばした。

 

「己の行動で君を失ったから、後悔してるんだよ。やり直すことはできないか、必死になってるんだ」


「やり直すって……。私たちもう婚約破棄したんですよ?」


 婚約者でもないのにやり直すもなにもない気がするのだが。

 それなら婚約破棄しなければよかったのに。

 いや、してくれないとキアラが困るので、ありがたくはあるのだが。

 なんだか難しいなと額を押さえると、そんなキアラに向かってロキは困ったように笑う。


「キアラからしてみればただただ迷惑だよね」


「はいとても」


 間髪入れずに答えてしまった。

 慌てて口元を押さえつつも、ロキに冷たい女だと思われなかったかと心配してしまう。

 しかし彼は気にした様子もなく、むしろ深々と頷いた。


「だよね。だからキアラは間違ってないと思うよ。迷惑なら迷惑ってはっきり伝えたほうがいい」


「……伝えてると思うんですが…………」


 割とはっきりお断りをしていると思うのだが、どうなのだろうか?

 先ほどのキアラの対応を思い出したのだろう。

 ロキが顎に手を当てた。


「…………彼、めげないんだね」


「めげないん……ですね」


「それだけキアラが大切だったなら、なんで最初から優しくしないかねぇ」


 心底不思議そうにするロキの隣で、キアラはエドヴァルドのことを考える。

 たぶんだけれど、エドヴァルドは別にキアラを好きとか嫌いとか、そういうのではないと思う。

 ただ嫌だったのだ。

 自分のものだと思っていたものがなくなるのが。

 彼の今の感情は、それこそ忠犬だと思っていた飼い犬が家から脱走してしまった子どもと似ているはずだ。

 逃げ出すはずがない、自分はいい飼い主だった。

 犬も自分を好いていたはずだと、必死に好物の骨を振り回しておびき寄せようとしているだけ。

 彼の元に帰ったらきっと、以前とまた同じことを繰り返すだろう。

 それがわからぬキアラではない。


「意地になってるだけだと思います」


「それは俺も感じてた」


 キアラの考えをロキは肯定した。


「キアラのためじゃない。自分のために必死なんだよ。そんなやつのためにキアラが難しく考える必要はないよ」


 ロキはそういうと、懐から小さな小瓶に入ったキャンディを取り出した。

 薄い青色のキャンディは、太陽の光に照らされキラキラと輝いている。


「勉強するときに甘いものをよくとるんだ。気分がよくなるから、もしよければ」


「ありがとうございます」


 差し出されたキャンディを口に含めば、その甘さに心が落ち着く気がした。

 ふう、と息をついたキアラもまた、手を上げて背中を伸ばす。


「なんだか気分がよくなってきた気がします!」


「よかった」


 これならクラスに戻っても心穏やかに過ごせるだろう。

 よし、とキアラが両手に力を込めた時、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。


「あ、もう戻らないと」


「はい。先ほどは本当にありがとうございました」


 ロキに頭を下げれば、彼は軽く首を振った。


「いえいえ。――あ、そういえば今日のお昼、一緒にって話をシノから聞いた?」


「いえ。シノとはまだ会っていないので」


「そっか。……一緒にいいかな?」


「もちろんです!」


 お弁当はたくさんの人と食べるのが楽しいのだ。

 今日のおかずは力作揃いなので、ロキにも喜んでもらえたら嬉しい。

 そんなことを思いながら教室に向かっていると、なにやらロキが言いづらそうに口を開いた。


「実はお弁当を作ってはきたんだけど……。料理自体ほとんどやったことがなくてね。……美味しいか保証はないんだ……ごめんね」


「――え」


 キアラはぴたりと足を止めた。

 今、ロキはお弁当を作ってきたと言ったのか?

 そして味に自信がないと。

 それはつまり、彼の手作りといことか?


「……ロキ様が作ったんですか?」


 そう聞くと、ロキは心底不思議そうな顔をする。


「え? うん。俺が誘ったんだし。でもさすがに初めてだから上手くできなくて、予防線を張っておこうかと思ったんだけど……」


 と、そこまで話してロキはかあっと顔を赤らめた。


「あ、そうか。キアラだってお弁当持ってきてるよね。それなのに俺、食べてもらえると思って…………。キアラのほうが料理上手なんだから、あんなお弁当食べようなんて思わ――」


「食べたいです!」


 ロキがキアラのために作ってくれたお弁当。

 そんな素敵なもの、食べたい決まっている。

 美味しいとか美味しくないとかそういうのは二の次だ。

 その気持ちが、本当に嬉しかった。


「楽しみです! ありがとうございます!」


 今からお昼が楽しみすぎる。

 るんるんと浮き足立つキアラの隣で、ロキは一人静かに微笑む。


「美味しくなくても許してね」


「絶対美味しいです! 大丈夫です!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ