君に似合う男に
放課後。
シノの家へと向かったキアラは、すぐにロキの私室へと案内された。
部屋に勝手に向かっていいのだろうかと不安を感じていたが、シノは慣れた様子で扉をノックしすぐに開けた。
「お兄、いる?」
「――いるよ。……シノ。なんのためのノックだい?」
「いつものことじゃん」
「いつものことだからって……」
キアラはシノに続いて部屋に入る。
なにやら揉めているのだろうかと視線をやれば、そこにロキはいた。
シノそっくりの銀色の長い髪を無造作に一括りにし、赤い瞳をメガネの奥に隠した男性。
彼はシノに苦言を呈しつつ、彼女の後ろにいるキアラに気付き動きを止めた。
「――………………キアラ?」
「お、お久しぶりです」
慌てて頭を下げれば、そんなキアラの肩をシノが掴む。
「連れてきてあげたの。優しい妹に感謝してちょうだい」
「――先に言ってくれ!」
ロキは慌てて髪を整えたり着崩したシャツを戻したりしている。
それにシノはくすくすと笑う。
「ほらね? キアラのことが好きだからあんなに必死になってるよの」
「え?」
「シノっ!」
ロキは髪や衣服を正したあと、キアラに耳打ちをするシノに対して眉間に皺を寄せた。
「だって真実じゃない。あ、お兄。キアラ婚約破棄したのよ。よかったわね?」
「――…………婚約破棄?」
あれだけ学園で話題になっていたのに、どうやら知らなかったようだ。
本当に学園に来ていないのだなと驚いていると、ロキは慌ててキアラの前にやってくる。
「キアラ、大丈夫か?」
「キアラから婚約破棄したのよ。あの馬鹿男をフってやったの」
だからキアラが傷ついているわけじゃないとのシノの言葉に、ロキはさらに険しい顔をした。
「キアラが婚約破棄するなんて、余程のことがあったんだろう? あの男になにかされたのか? 傷ついてはいないか?」
「えっと……むしろなにもしてくれなかったと言いますか……」
まさか婚約破棄を申し出たキアラの方を、心配してくれるとは思わなかった。
驚きつつも答えたキアラに、ロキはきょとんとする。
「なにもしなかった?」
「あのねお兄。実は……」
そしてシノはキアラとエドヴァルドの間になにがあったのかを事細かに説明した。
キアラがエドヴァルドに尽くして、周りから犬と呼ばれていたこと。
それを否定することもなく無視したこと。
尽くすことを当たり前と、受け取るだけ受け取って礼の一つも言わなかったこと。
婚約記念日にキアラではなく友人をとったこと。
そしてキアラがエドヴァルドに愛想をつかしたこと。
シノの感情が混じった熱弁を聞いたロキは、不意に動くと壁際にある本棚から一冊の本を手にした。
「完全犯罪は存在すると思うんだ」
「兄が犯罪者になるのは嫌だなぁ……」
「完全犯罪なら犯罪だと誰にもわからないだろう?」
「落ち着け、馬鹿兄貴」
ロキから本を奪うと、シノはキアラとともに本をパラ読みする。
どうやら内容は推理小説らしく、本を閉じたシノはそれをポイっと捨てた。
「あのね。今からキアラにお兄を紹介しようと思ってるんだから、犯罪者になろうとしないでよ」
「………………紹介?」
幼少期から知っているため、不思議に思ったのだろう。
小首を傾げたロキに、シノはキアラを指差す。
「新しい恋をしたいんだって。だからお兄を紹介しようかなって。いい妹でしょう?」
シノはキアラの肩を掴むとロキの前に立たせる。
ロキと目が合うと、彼はピシリと固まった。
「キアラにずーっと片想いしてたんだもの。婚約者がいなくなった今、絶好の機会でしょ?」
「………………本当に?」
「あ、はい……えっと…………。ロキ様さえよろしければ、ですが……」
本当はただ会いに来ただけなのだが、なんだかそういう展開になってしまった。
もちろんキアラとしてもそういう目的で来ているのだから、間違いではないのだが。
なんだか恥ずかしいなとちらりちらりとロキの顔を見れば、彼は徐々に顔を赤くしていく。
「も、もちろん。……まず初めは、俺を知ってもらえたらと思う……けど……。うん」
ロキは顔を赤くしつつも、目尻を下げて優しく微笑む。
少しだけ震える手でキアラの手を掴むと、深く頭を下げた。
「よろしくお願いします。……大切にするので、俺のことを見極めてください。キアラにふさわしい男かどうかを」
「み、見極めるだなんてそんな……」
見極めんだなんてそんなことはできない。
ふりふりと首を振るキアラに、ロキはほんの少しだけ手に力を込める。
「いいんだ。俺がキアラをしあわせにできるか、君が見定めて欲しい」
「もちろん私も見極めるからね?」
「……シノの目は厳しそうだな。まあ、望むところだけど」
キアラの隣に立ったシノは、改めてとキアラを見る。
「どう? ひとまずお試しってことで」
「い、いいんでしょうか……?」
そんなふんわりとした感じでいいのだろうか?
まだ少し不安そうなキアラに、ロキは優しく頷いた。
「もちろん。……俺にチャンスをくれてありがとう。全力でキアラをしあわせにするので……よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
そう言って二人で頭を下げて、同時に上げた。
揃った動きがおかしくて思わず笑ってしまえば、ロキもまた笑う。
そんな二人を見ていたシノが、クスっと鼻を鳴らした。
「なんだ。もうお似合いじゃない」




