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【連載版】犬のように従順な私をお望みのようですが、あなたへの愛は終わりました。  作者: あまNatu


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後悔しても遅い

「シノ、ご飯食べましょう」


「もちろん」


 エドヴァルドのためではないお弁当を作ったのは初めてだ。

 シノと自分のためにと作ってきたお弁当箱の中には、分厚いお肉と野菜を挟んだサンドイッチや、ジャムを塗ったサンドイッチ。

 ピクルスやフルーツなど、シノと自分の好物をこれでもかと詰めてきた。

 エドヴァルドはジャムが嫌いでピクルスも好まなかったため使ったことがなかったが、これからは積極的に待ってくることにする。


「はーぁ。本当にあの男を捨てたのね。お弁当の中身ではっきりわかったわ」


「捨てたって……。双方合意のもとなんだからどちらかが捨てたとかじゃないと思いますが……」


 キアラからの申し出たとは言え、エドヴァルドも望んでいたことのはずだ。

 なのでどちらが捨てたとか、そんな話ではない。

 キアラが作ったサンドイッチを美味しそうに食べながら、シノはにししっと笑った。


「いやいや。私見てたけど、あいつ相当堪えてたと思うわよ? だってしばらく立ちすくんでたもの」


「エドヴァルド様が? ……驚かれたのでしょうか?」


 まあそうかと納得した。

 あのキアラが突然婚約破棄なんて言ったら、驚かれてもおかしくはない。

 だから動けなかったんだろうと思ったが、シノの考えは違うようだ。


「いーや。絶対それだけじゃないよ」


 大好きなピクルスをお菓子のように食べるシノは、にやける顔を隠すことができないようだ。


「失って気づく大切さ、ってやつ? まあこれかの展開をお楽しみにってやつね」


「……本当に楽しそうですね?」


「もっちろん! あースッキリ。キアラのことバカにして、ずーっと腹立ってたんだもの!」


 なんだかよくわからないけれど、シノが心配してくれていたことだけはわかっている。

 なのでこうして彼女の好きなものいっぱいのお弁当を作ってきたのだ。

 ほんの少しの恩返しを込めて。

 そんなわけでもっと食べてもらおうと、新たなお弁当箱を開けようとした時だ。

 クラスの女生徒がおずおずと声をかけてきた。


「あの……。実はずっとメルデールさんが作るお弁当美味しそうだなって思ってて……。でも今まではなんというか……近寄りがたくて……」


 まあそうだろうと、キアラは客観的に己の行動を思い出す。

 エドヴァルドに執着しているキアラは、知らない人からしてみれば近寄りたくないのもわかる。


「でも今朝の聞いて……。お話もしてみたいなと思って。あの、もしよろしければ……お弁当の中身交換しません?」


「え? ええ、もちろん……」


 全然構わないとお弁当箱を差し出せば、なぜか周りの生徒たちもこぞってやってくる。


「あの! 私も……よろしいですか? ぜひ一度食べてみたかったんです!」


「お、俺も! ずっとうまそうだなって……!」


「こちらと交換してください!」


 すごい人だかりができてしまった。

 そしてあっという間にキアラが作ったお弁当は消え、代わりに机山盛りの交換品が目の前に置かれていく。

 お弁当のおかずから、飲み物。

 さらには購買で買えるようなパンやお菓子。

 どれもこれも体型が崩れるからと口にしたことのないものばかりで、キアラはよろこびに微笑んだ。


「ありがとうございます! とってもうれしいです」


「――こ、こちらこそ……」


 最後にパンを置いてくれた男子生徒に笑顔でお礼を言えば、彼はなぜか頰を赤らめた。


「なんか……思ったよりかわいかったな?」


「うん。もっと怖い人かと思ってた。……かわいい」


 いそいそともらったお菓子を頬張るキアラに、シノは笑う。


「ほんっと、よかったねぇ?」


「とっても美味しいです! ぜひシノも食べてください!」


「はいはい、ありがとう」


 なんて楽しくお菓子を食べていた時だ。


「――キアラはいるか?」


「…………エドヴァルド様」


 エドヴァルドがなにやら真っ赤な薔薇で作られた大きな花束を持ってきた。

 薔薇と同じくらい赤い顔をしたエドヴァルドの元に向かう。


「どうなさったのですか? それは……?」


「――昨日のことは謝る。いや、今までのことも。君からの愛情が……恥ずかしくて……素直になれなかったんだ。申し訳ないことをした!」


「…………」


 今、エドヴァルドは謝ったのか?

 このキアラに?

 犬のようだと周りにバカにされても、無視をしていた己の婚約者に?

 驚くキアラの胸元に、彼はその薔薇の花束を押し付ける。


「今日、改めて劇を見に行こう。食事も。……これからは、君を一番大切にすると誓う! だから! ――これからも私の婚約者でいてくれ!」


 彼の叫びにも近い言葉とともに、薔薇の花びらが数枚舞う。

 突然のことに驚いつつも、キアラは黙ってエドヴァルドを見つめる。

 まさかそんなことを言われるなんて思わなかった。

 あのエドヴァルドがこんなことをするなんて。

 驚きのあまり固まってしまっていたが、周りの人たちが期待の眼差しでこちらを見ている。

 早く答えなくてはと、キアラは薔薇の花束を受けとった。


「キアラ――」


「お断りします。もう遅いので」


 薔薇の花束を受けとったことを、了承と勘違いしたのだろう。

 エドヴァルドが期待に満ちた顔を向けてきたので、キアラは真顔できっぱりと断った。


「…………え?」


「お花に罪はないので受けとっておきますね? ありがとうございます。それでは、さようなら」


「――まっ! 待ってくれキアラ!」


 呼び止められたら振り返るしかない。

 そんなキアラに、エドヴァルドは絶望の表情のまま言葉をかける。


「……本当に終わりなのか? 俺たちは……」


「はい。そうです」


 ズバッと言われたエドヴァルドは絶望したかのように、その場に崩れ落ちた。

 そんな彼に追い打ちをかけるかのように、キアラは告げる。


「私の愛はもう終わったのです。愛って与えて与えられて、成り立っていくものなのですね」


 そっと胸に手を置いたキアラは、エドヴァルドに優しく微笑みかける。


「どうぞエドヴァルドを愛し、エドヴァルド様も愛せる人を見つけてください」


「――私は君を愛している」


「え? もう遅いです」


 無理無理と首を振ったキアラは、今度こそ踵を返す。


「さあ! 次こそ素敵な人を見つけてみせます!」


 そう声高らかに宣言したキアラに、周りの生徒はなぜか拍手を送ってくる。

  そんな人たちの間をペコペコと頭を下げながら去っていったキアラは知らない。

 このあとキアラを諦めきれなかったエドヴァルドが、過去のキアラと全く同じことをしだすということを。

 そして彼のついたあだ名が【キアラの犬】になることを――。

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