自滅を望みし者
「と、まあそんなわけで、話し合いは一応できた……? と、思う」
「まあいいんじゃない? 婚約の話をしたんだったら、あとはもうあいつも諦めるしかないわよ」
教室でお昼ご飯を食べていたキアラたちは、必然的に昨日の話になった。
ロキがエドヴァルドと話をした件だ。
彼から聞かされたのは大まかな内容で、エドヴァルドも懲りただろうとのことだった。
だからあとはもう、関わり合わない。
キアラは前に進むと決めたのだから。
「それでそれで!? キアラのご両親はなんて?」
「あ……。とても、驚いていました。……ですが、嬉しそうでした」
ロキとのことを両親に話した。
婚約したい人がいるのだと。
それが幼き日に会っていた、ロキであると。
両親はひどく驚いた様子だったし、焦らなくてもいいのだと言ってくれた。
エドヴァルドとのことにキアラが傷ついていることを知っていたからだ。
しかしキアラは首を振った。
自分が望んで婚約をしたいのだ。
だから大丈夫だと伝えれば、両親は納得してくれた。
「その……ロキ様のほうは……」
「俺の方はもう大喜びだよ。キアラなら大丈夫だって、シノと一緒に騒いでたよ」
「あったりまえじゃない! この私の親友なんだから!」
どうやら両家とも問題はないらしい。
ならきちんとした書状を持って、キアラとロキは婚約者となるわけだ。
そう思うとなんだか恥ずかしいなと、顔を赤らめた。
「それでは……えっと、その……よろしくお願いします」
「……うん。こちらこそ、よろしくお願いします」
こんな教室のど真ん中で言うことではないかもしれないが、思わず口から出てしまったのだ。
でもこれで、ちゃんとロキと婚約できる。
その喜びに口角を上げていると、クラスメイトたちが一斉に拍手をしだした。
「おめでとう! キアラちゃんよかったね!」
「ロキ様なら安心だ! またキアラちゃんが愛に暴走することもないだろうし!」
クラスメイトからの愛あるからかいの言葉に、シノが人差し指を軽く振った。
「待て待て。ここは逆にお兄の愛が暴走するかもしれないわよ。なんてったって十年越しの片想いが実ったんだから!」
シノの言葉にクラスメイトたちがおおー!
と声を上げた。
拍手が強くなった気がする。
「暴走なんてしませんて。大切にしますよ」
「大切にしすぎるんじゃないの?」
「それはもちろん。そこの自信はあるよ」
拍手に黄色い悲鳴まで上がる。
なんだかもう恥ずかしすぎると顔を伏せそうになるが、それより早くロキが思い出したように懐から一枚の手紙を取り出した。
「そうだ、キアラ。キアラに招待状を預かってたんだ」
「招待状?」
ロキの家に招待してくれるのだろうか?
それならきちんとした服装をしていかないと。
一瞬で頭の中でドレスや靴、アクセサリーはどれにしようかと考えつつ、手を伸ばす。
そのまま手紙を受け取ろうとしたその時だ。
「エドヴァルドの犬いる? さっさと呼んでよ」
予期せぬ声が耳に届いた。
入口の方を見れば、そこにはエドヴァルドの友人たちがいた。
ブラッド以外の人たちは揃っているようで、特に前に出てキアラを呼んでいるのは、エドヴァルドにベッタリだった女生徒だ。
彼女は教室の中にキアラを見つけると、整った眉を歪めながらこちらへとやってきた。
「ちょっと! エドヴァルドになに言ったわけ!?」
「――急になんですか?」
「質問してるのはこっちなんだから答えなさいよ!」
周りの迷惑を顧みることなく、大声を上げる女生徒。
流石のキアラも眉間を寄せる。
「少し静かにしていただけませんか? 他の方がいるんです」
「――は? 偉そうになに言ってんの? 今まで散々馬鹿にされてもなにも言い返してこないビビリが、その男捕まえたら強気ってわけ? ……恥ずかしくないの?」
どうしてこうも突っかかってくるのだろうか?
なんだかもう頭が痛いなと額を押さえつつも、キアラはゆっくりと立ち上がった。
「恥ずかしいのはあなたたちです。……どうして私に構うんですか? 嫌いなら無視すればいいのに」
「エドヴァルドが落ち込んでた。あんたのせいでしょ!?」
ビシッと指をさされて、キアラは困惑してしまう。
多分だけれどエドヴァルドが落ち込んでいる理由は、ロキとの会話のせいだ。
なので元を辿ればキアラのせいにはなるのだが、とはいえこれを説明したところで、この人たちが納得するとは思えない。
どうやって退室願おうか考えあぐねていると、その話を黙って聞いていたロキが女生徒に声をかけた。
「ねえ、君たちエドヴァルド君とは話をしたんだよね?」
「――なによ。当たり前でしょう?」
「なら彼からなにか言われなかった? もうキアラに関わるな、とか」
ロキの言葉に思い当たる節があったのか、女生徒の顔が歪む。
「……だったらなに? だから傷ついてるエドヴァルドを放置しておけって? そんなのかわいそうじゃない!」
キッパリと言い切った女生徒。
どうやらロキの言うとおり、エドヴァルドは彼女たちを止めていたようだ。
まさかあのエドヴァルドがそんなことを言うなんて。
驚くキアラの耳に、さらに驚きの言葉が届けられた。
「ふーん。……じゃあ君たち、覚悟を持ってきたってことだよね? なら……いいよね。俺はちゃんと、忠告したよ? それなのに君たち自身が望んで自滅しにきたんだから」
そう言って笑うロキの手には、キアラに渡すはずの手紙が握られていた――。




