話し合いの場を
「…………え、なにそれ。怖い話?」
「……ええ。とっても怖かったんです」
まさかこんなことになるなんて。
翌日、放課後にシノと部活動に勤しむ生徒たちを眺めながら、エドヴァルドとの間にあったことを話していた。
彼女の反応はキアラとほぼ同じで、思わず頷いてしまう。
どうしたらエドヴァルドは納得してくれるのだろうか?
もはや答えなんて出ない可能性が高い。
「もう関わるのやめたら? ……たぶん向こうが飽きるまで無理だと思うわよ」
「…………そうですね」
頭が痛い。
これではキアラも前に進むことができないではないか。
ため息をつきそうになった時、部活動の生徒たちからどよめきが聞こえてくる。
何事かと顔を上げれば、部活の手伝いということで白馬に乗ったロキが現れたところだった。
「げぇ。……お兄なにやってんの」
「部活動の練習では?」
「そうだけど。……なんで白馬?」
嫌そうなシノには悪いが、キアラとしてみればロキが白馬に跨っている姿はとても似合っていた。
周りの女生徒たちの反応的にも、彼と白馬の組み合わせは大変良いことがわかる。
馬を巧みに操り、あっという間に障害物を突破していく姿に、キアラは思わず拍手を送った。
「ロキ様は馬術も得意なのですね!」
「なんでもそつなくこなす以下略」
めんどくさそうに言うシノにキアラは笑いつつも、その瞳はロキから離せないでいた。
だって本当にかっこいいのだ。
あれではロキを好きになる人がいてもおかしくはない。
実際ここにいる女生徒の多くは、ロキ目当てなのだろう。
みな頰を赤らめて見つめている。
それに便乗する形ではないが、キアラも同じようにロキを見つめてしまう。
「……かっこいいです。とても」
「…………あのクソ野郎のことだけど、キアラはやるべきことはやったと思うわよ。……だからさ、前に進んでもいいんじゃない?」
シノへと向き直れば、彼女はにっこりと笑う。
「お兄と婚約しちゃいなよ」
「…………ですが」
「ここで下手に迷うほうが、あのクソ野郎の思う壺だよ。さっさと次を見つけたって示せば、諦めるんじゃない? ……わかんないけど」
最後はぼそりと呟いていたが、シノの言葉には確かに考えさせられるものがある。
エドヴァルドを待っていては、話が進まないかもしれない。
元婚約者としてできることはした。
あとはエドヴァルド自身が納得して諦めるより他にはない。
なら彼が諦めやすいように行動するのも一つの手だろう。
「――そうですね! ここはきっちりしっかり、前に進んでいるところをエドヴァルド様に見せつけないと!」
「お! いいね、その意気よ!」
そうと決まればこの後にでも、ロキに話してみてもいいのかもしれない。
正式に婚約者となりたいと。
そうと決まればさっそくロキに伝えよう。
やることは多いのだから。
そんな決意を決めたキアラの耳に、またしても黄色い歓声が届く。
見ればロキの乗った馬が障害物を超え、ゴールについていた。
それに女生徒たちが拍手喝采を送っている。
そんな女生徒たちに軽く手を振ったロキが、馬を生徒に預けキアラたちの元へとやってきた。
「なんの話?」
「よかったね、お兄」
「…………本当になんの話?」
きょとんとするロキの背中を、シノが何度も叩く。
「そこはほら、キアラからちゃんと聞かないと」
さあ、とシノがロキから少しだけ離れる。
見つめ合う二人。
「あの、ロキ様……」
「え? はい。どうかしたの?」
キアラはもう、ロキに恋をしている。
優しく見つめてくれる瞳も、穏やかな声も。
大好きだと思える。
なら覚悟を決めなくては。
「私、ロキ様が好きです」
「――」
ロキは大きく目を見開き、シノは大きくガッツポーズをとる。
「もしお許しいただけるのなら、ロキ様の婚約者になりたいです」
「許すもなにも……。俺はずっとキアラのことを好きだよ。だからキアラが俺でいいと言ってくれるのなら、俺はただ……はい。よろしくお願いします。って言うだけだよ」
甘酸っぱい胸の高鳴りを感じながらも、キアラは深々と頭を下げる。
もちろん結婚は家同士のものなので、あれこれやらねばならぬことは多い。
しかし当人同士が納得しているのなら、話はとんとん拍子に進むだろう。
なぜならキアラには、心強い味方がいるのだから。
「おっしゃ! 私にとって最高の展開! んじゃこのままさくっと、邪魔者を排除しましょ!」
とても嬉しそうなシノのガッツポーズを見つつ、キアラは確かにと頷く。
なに一つ未練なく、ロキと結ばれたい。
そのためにもエドヴァルドとのことをなんとかしなくては。
やはりもう一度話をしようかと考えていると、ロキが手を上げた。
「その件だけど、俺が彼と話をつけるよ」
その提案に驚いたのはキアラとシノだ。
二人とも大きく見開いた瞳で、ロキを見つめる。
「どうしてそうなった……!?」
「だって彼、キアラの話全く聞かないじゃないか。ならそろそろ俺が出てくほうがいいかなって」
「それはそう」
シノは深く頷いた。
「話を聞く限り、あいつキアラを愛する自分に酔ってるのよ。だから目を覚まさせないと、永遠にあのままな気がする」
「だろう? だから俺が行くつもりだったんだけど……どうかな?」
キアラはふむと顎に手を当て考える。
エドヴァルドをロキに任せるのはとても心苦しいが、実際もうキアラにはお手上げ状態だった。
彼がキアラの話を聞いてくれる保証はない。
ならやはり、ここはお願いするより他にないかもしれない。
しかし……とキアラはロキを見る。
「よろしいのでしょうか……? ロキ様の負担になりませんか?」
「まさか。むしろ好都合だよ。いい加減……ムカついてたし」
そう言って明るく笑うロキを見つつ、シノがそっと耳打ちしてくる。
「あれ本気で怒ってるよ。ここはもう任せた方がいい」
「そ、そうでしょうか……?」
まあ本人がいいというのならいいかと、キアラはロキに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「喜んで。未来の花嫁様のためだもの。――がんばるよ」




