美味しいケーキ!
ジェラートを食べ終え美術館に戻った三人は、教師に課題を提出した。
その際に軽くできを見た教師に褒められたので、ロキの記憶能力は大変素晴らしいようだ。
課題の評価はよさそうだったので、シノと共にロキを拝みつつ、三人で約束のスウィーティーへと向かう。
そこはキアラにとって、まさに夢のような空間であった。
「なんって……素敵な場所なのかしら……!」
店の中はとにかく女の子の好きであふれていた。
真っ白なレースのカーテンに、花の刺繍が施されたテーブルクロス。
ティーカップ一つとっても可愛らしく、なによりケーキがとても可愛らしい。
熊の形を模した砂糖菓子の飾りが大変気に入り、キアラはなかなかケーキを食べられないでいた。
「キアラちゃんこういうの好きそう」
「とっても好きです!」
「じゃあ俺のもあげる。はい」
そう言ってロキがウサギの飾りをキアラのケーキに置いてくれた。
熊とウサギが仲良さげに隣同士で置かれている様子は大変可愛らしく、なおさらキアラはケーキに口をつけることができないでいる。
「可愛らしいです! これじゃあ食べられないです……!」
「食べなきゃもったいないぞー」
そう言うシノは、猫の砂糖菓子をガリガリと食べていた。
「それにしても……ロキ様すごいですね」
「え? 俺?」
ちらり、と女生徒が周りへと視線を向ける。
さすがは人気のカフェだ。
室内はたくさんの客で賑わっている。
その多くが年頃の女性なのだが、だからこそなのか。
女子同士の客だけではない。
明らかにカップルであるはずの女性客すら、恋人を放ってロキを熱い目で見つめているのだ。
それに鼻高々になるのはなぜかシノだった。
「そりゃあ、顔だけはいいもん。私に似て」
「もう突っ込まないからな」
呆れたような顔をしたロキは、若干居心地が悪そうだ。
それが気になったキアラは、ロキに声をかけた。
「ロキ様、大丈夫ですか?」
「え? ああ、大丈夫。こんなに見られることなかったからちょっとね」
「前髪で隠してたものね」
「俺はシノと違って繊細だからなぁ」
椅子の下でガタッ! と大きな音が鳴る。
どうやらシノがロキの椅子を蹴り飛ばしたようだ。
そんな微笑ましい兄妹のやりとりに笑う女生徒たちの隣で、キアラは紅茶のカップをテーブルに置いた。
「…………」
キアラの中でロキは特別な存在になりつつある。
これはきっと恋心なのだろう。
彼が素敵な人なのはよくわかる。
きっとこのままいけば、キアラは彼を好きになるはず。
「…………でも」
ぼそり、と小さく口の中でつぶやいた。
ざわめきにかき消されるほど小さなその声は、当人のキアラにすら聞こえないほどのものだ。
それほど小さな声でもつぶやいたのは、どうしても覚悟を決めたかったからである。
――ロキを好きになるなら、キアラもちゃんとしなくては。
エドヴァルドと話をする。
彼はこの婚約破棄に納得いっていないのだろう。
だからあれこれやっているのだ。
キアラも突然婚約破棄宣言するなど、彼の気持ちを無視していたところはある。
だからちゃんと話をしよう。
キアラの気持ちを伝えて、彼の気持ちを聞く。
納得するための時間が必要なのだ。
そうと決まれば明日にでもエドヴァルドと話をしよう。
一人うんうんと頷くキアラだったが、ちらりと視界の端に映った姿に思わず固まってしまった。
そしてそのタイミングで、向こうもこちらを見たせいで目が合う。
双方見つめあったまま固まることで、両陣営もまたその存在に気付いた。
「――え、どうして……ここに……?」
「お前らこそ…………」
それはキアラが今の今、頭の中で考えていた存在。
エドヴァルドとその友人たちだ。
彼らはキアラたちに気付き、またしても三者三様の反応を見せた。
「もしかしてまたストーカーしてるのー?」
「ウケる。エドヴァルドも大変じゃーん!」
そう言うのはエドヴァルドの【女性】の友人だ。
どうやらここにくることを決めたのは彼女たちのようで、キアラは少しだけ瞼が下がった。
キアラがきたいとお願いした時は来てくれなかったのに、友人のお願いならこういったところにもくるのだなと、エドヴァルドを冷めた目で見る。
「はあ!? 私たちのほうが先にきてたんですけど!?」
「怖い怖ーい! 先回りされてるー! エドヴァルドかわいそう。こんな怖い女に付き纏われているなんて」
そう言ってエドヴァルドの腕に、これみよがしに抱きつく女性。
エドヴァルドと婚約中もああやって、キアラを挑発するようなことをしてきていた。
昔は苛立ちもしたが、今はどうとも思わない。
とはいえあまりいい気分はしないので、それをシノが代弁してくれる。
「あのさ、もうめんどくさいから私たちに構ってないでさっさと座ったら? あ、なるべく遠くでお願いね」
「……うざっ。もう行きましょう!」
立ち止まるエドヴァルドを引っ張って、女性主導で店の奥へと向かう。
その間エドヴァルドとブラッドは、意味ありげな視線をこちらに向けてくる。
キアラもシノも、一瞬で視線を逸らした。
「……あの、ごめんなさい。嫌な思いをさせてしまって……」
「キアラちゃんのせいじゃないよ!」
「そうそう! なんというか……運が悪かったとしか」
「…………なんであんなに自滅ばかりするのかな?」
ロキの言葉に、キアラは何も返すことができなかった。
せっかくエドヴァルドと話そうと覚悟を決めたのに、なんだか揺らいでしまいそうだったのだ。
「…………はぁ」
大きめなため息をついたキアラは、美味しいチョコレートケーキを食べてなんとか心の安寧をはかった。




