ジェラート
「さて。じゃあ……見に行こうか?」
「あ、はい!」
ロキの言葉に頷く。
とにかく今は課外学習をこなさなくては。
キアラたちは女生徒たちと別れ、三人で美術館に入る。
「…………キアラは美術館好きなの?」
「――いえ。実はあまり興味がないんです」
だというのに美術館に二人を付き合わせてしまった。
そのことに罪悪感を抱いていると、シノが絵画を見ながらうーんと首を傾げる。
「私もさっぱりだわ。繊細な考えはわからない」
「俺もあまり興味はないから……。なら、サボろうか」
「え、ですがそれでは課題が……」
なにか一つの美術品を選んで、その作品の歴史や感想、そして簡単な絵を描くこと。
それを提出しなければならないのだ。
ロキは適当な絵画を一つ指差すと、簡単に説明し始めた。
「じゃあキアラはこれ。千四百年ごろ、画家のオーガスト・ミッチェルが描いたもの。自身の妻が洗濯をしている何気ない風景を描いたくらい、オーガストは妻を愛していた。そしてこの絵画は彼の代表作となった」
「…………詳しいんですね」
「俺も、そういうのは一度見たら忘れないんだ」
なるほどこれなれ確かにさっさと終わらせることができそうだ。
キアラはロキから教わったことを簡単にまとめ、絵も簡略化させて描いていく。
同じようにシノも終わらせると、一時間ほどで全ての課題が終わってしまった。
「時間までまだあるし、外で暇つぶししようか。課題早く渡してもう一つ、なんて嫌だし」
「お兄は?」
「俺ももう終わらせたよ」
どうやらキアラたちが一生懸命絵を描いている間に、終わらせていたらしい。
あっという間に描いたにしては絵が上手すぎて、それを見たシノがけっ、と唇を尖らせる。
「つまんないの! 本当になんでもできちゃうんだから」
「おかげであっという間に終われただろ? 美術館のすぐ隣にジェラートのお店があるんだ。……行かないのか?」
「…………行くわよ! ほら、キアラ。行きましょう」
「ええ」
ロキのおかげであっという間に終わった課題を持って、三人はこっそりと美術館を後にする。
隣にあるというジェラート屋さんに来たシノとキアラは、そのラインナップに目を煌めかせた。
「美味しそうー! どれにしようかなー?」
「いちご……。チョコレートも……。あ、でもこのあとチョコケーキを食べるんでした」
ならやはりいちごにしようかなと悩んでいると、そんなキアラの隣にロキがやってくる。
「キアラは決まった?」
「あ、はい。いちごを」
「じゃあいちごを一つ。シノは?」
「ピスタチオ!」
「それもください」
どうやらまとめて頼んでくれるようだ。
お金を支払おうとするが、そんなキアラの肩をシノが掴む。
「お兄に少しは頼ってもいいんじゃない?」
「え? ですか……」
課題でも助けてもらったのだ。
むしろキアラが奢るべきだろう。
しかしロキは店員から受け取ったジェラートを、なんてことなさげにキアラに手渡した。
「はい。きっとキアラのことだからお金気にしてるでしょ? 明日のお弁当に、またあの鶏肉揚げたやつ入れてくれるとうれしいな」
「…………はい。たっくさん入れます!」
どうしてロキは、こんなにもキアラのことを理解してくれるのだろうか?
そんな提案、ただキアラが嬉しいだけだ。
自分が作ったものを気に入って、また食べたいと言ってくれること。
それだけでも飛び跳ねるほど嬉しいことなのに、それを条件にしてくるなんて。
キアラは受け取ったいちごのジェラートを、ぱくりと口に含んだ。
「――美味しいです!」
「お兄よくこんなお店知ってたね? 引きこもりなのに」
「引きこもりじゃないって……。一応それなりに交流はしてるほうだったよ」
ロキの言葉に、シノはピスタチオのジェラートを食べながらああ、と頷いた。
「誰? 女?」
「まあ……そうだけど……。家庭教師をしている生徒がこういうの好きなんだ。それで一緒にきたことがあったんだよ」
「ああ、そういえばやってたわね。家庭教師」
キアラは思わず固まってしまった。
もちろん、ロキにだって交流はあって当たり前だ。
しかしまさか異性とこんなところにくるとは、正直思っていなかったのだ。
別になにも気にすることはないのに。
なんだかいちごの味が薄くなった気がするなと、じっとジェラートを見つめる。
するとそんなキアラに気づいたのか、シノがこっそりと耳打ちしてきた。
「大丈夫よ。家庭教師してるってくらいなら、年下だろうし。お兄はキアラ一筋よ」
「え!? あ、はい……はい…………」
どう返事をしたらいいかわからなくて、なんとも微妙な反応をしてしまった。
年頃の女性に男性の家庭教師をつけるということは、相性を見ている可能性も高い。
とはいえもちろん、それが目的ではない可能性もある。
ロキは優秀だ。
その頭脳をもって、子どもを教育して欲しいと思う親もいるだろう。
そうだ、そのはずだ。
だから別にそこをどうこういうつもりはない。
ない……が。
「………………もしや嫉妬してる?」
「………………おかしい、でしょうか?」
シノからの問いに、キアラは目元を隠した。
胸がひたすらにモヤモヤするのだ。
普通だって、当たり前だってわかっているのに。
キアラとロキはまだなんの関係でもないというのに。
見知らぬ女性に、嫉妬心が止まらない。
ムッと眉間に皺を寄せるキアラに、シノはニヤリと笑う。
「いい傾向じゃない。それにほら、当人嬉しそうだし」
「え――?」
シノに言われ前を見れば、顔を真っ赤にしたロキと目があった。




