自爆し続ける
「なんか課外学習の前から疲れたわ……」
「そうですね……」
シノもキアラもぐったりしてしまった。
なんだかすごいことが目の前でいろいろ起こった気がするが、今はあまり考えたくはない。
大きめなため息をついたキアラの隣で、ロキは腕を組んだ。
「ひとまず危機は去った……かな? そろそろ集合時間だから一旦行くけど、すぐに戻ってくるから」
「ありがとうございます」
「シノ。気をつけるんだよ」
「どう気をつけろって言うのよ……」
疲弊しているシノと共にロキを見送り、二人も集合場所へと向かう。
もちろんエドヴァルドやブラッドと会うことになるだろうと思うと、さすがに足が重くなる。
それはシノもなのだろう。
二人してとぼとぼと歩く。
「なんでこんなことに……」
「……シノ? あの、ありがとうございます」
お互い疲れてはいるものの、これだけは伝えておかなくてはならないだろう。
キアラは素直に胸の内を話す。
「私、犬って呼ばれて傷ついていました。でもそれでも、エドヴァルド様のためになるならって我慢してて……」
「…………知ってる」
「でもよくなかったんですね」
シノを傷つけたこともそうだけれど、もっとたくさんダメだったところがある。
「私、自分の気持ちをちゃんと口にしていなかったです」
はじめて自分の気持ちを口にしたのがあの婚約破棄である。
エドヴァルドへの愛が冷め、やっと口にすることのできた想い。
けれどあれではダメだったのだ。
「私エドヴァルド様と改めて話してみます。……お互い、ちゃんと心の内を話さないと」
エドヴァルドがキアラに執着しているのも、納得できていないからだろう。
ならば徹底的に話し合わなくては。
そう覚悟を決めたキアラに、シノは首を傾げた。
「え? 別にいらなくない? 婚約破棄に至った原因はあいつなわけだし、わざわざキアラが時間割かなくても……」
「で、ですがエドヴァルド様は裏では私を助けようと……」
「表でやれやって思うわよね! そうすればこんな厄介なことにならなかったのに!」
「そ、それはそうなんですが……」
とにかく、キアラにも責任はある。
エドヴァルドを諦めさせるためにも、話し合いは必要だろう。
納得していないらしいシノをなんとか連れて、教師の元へと向かった。
そこにはもちろんエドヴァルドとその友人たちがおり、キアラたちを見ると三者三様の反応をする。
エドヴァルドはなにやらキアラに訴えかけるような目をし、ブラッドはチラチラとシノを見た。
他のエドヴァルドの友人たちはひそひそと話しながら、もキアラを責めるような視線を送ってくる。
まだまだ彼らとの和解は難しそうだ。
まあ仕方ないかとため息をつきつつも、キアラは教師の話に集中することにした。
あっという間に話が終わり、美術館を回る時間になる。
キアラたちはその場でロキの訪れを待つ。
するとクラスメイトの女子が近づいてきた。
「おはよー! 今日終わったらどこ行く?」
「おはよ。スウィーティーはどう? って話してたのよね」
「いいね! じゃあまたあとでスウィーティーに……」
なんて話していた時だ。
キアラたちの元にエドヴァルドがやってきた。
取り巻きは連れておらず、彼一人だ。
「キアラ……少しだけいいか?」
「……エドヴァルド様」
「待った。……いいわけないでしょう? あんた自分がなにしたかわかってるの?」
キアラを庇うようにシノが前に立つ。
すると女子生徒たちも同じように立ってくれて、キアラは彼女たちの背後に隠れてしまった。
「さっきの騒ぎも見てました。……今はまだ早いと思います」
「あれだけのことをしてすぐにって……」
「………………」
黙り込むエドヴァルド。
これはどうするべきか。
確かにエドヴァルドと話はしたい。
しかしそれが今かと言われると、少し時間が欲しい気はする。
さすがに先ほどのやりとりで疲弊しているため、また後日にしようと口を開きかけた時。
キアラの隣にロキがやってきた。
「君が焦る気持ちもわかるけどね。時間は必要じゃないかな?」
「……焦らせてる原因が言うか?」
「自業自得じゃない?」
なにやら一触即発な雰囲気なのは気のせいだろうか?
エドヴァルドとロキの間に火花が散った気がする。
しかしどちらが優位かはわかりやすく、ロキは優雅に微笑みを返す。
「どうしたってキアラが決めることだ。なら大人しくしていたほうがいいんじゃないかな?」
「…………余裕だな。自信たっぷりか?」
「君がそうやって自爆し続けてくれてるからね」
「――っ!」
エドヴァルドは小さく下唇を噛むと、グッと押し黙る。
一度二度と深呼吸をして、くるりと踵を返した。
その背中に、キアラは慌てて声をかける。
「エドヴァルド様! ……その…………後日お話をさせてください」
「…………わかった」
ほんの少しだけ嬉しそうな顔をしたエドヴァルドは、そのままロキを睨みつけると去っていく。
その後ろ姿を見届けたシノが、キアラの後ろで女生徒と話していた。
「あれ、絶対復縁の話だと思ったわよ?」
「ロキ様に意味ありげな視線向けてたものね。……なんだか本当にかわいそうになってきた」
「改めてお別れの話されるなんて、つゆとも思ってないんでしょうね……。だから【キアラの犬】なんて影で呼ばれてるのよ……」




