予想外の恋模様
「ちょ……ちょっと…………お待ちください……」
己の考えが外れていて欲しいと切に願う。
神様に今この場でお祈りを捧げてもいい。
それくらい、頼むから違ってくれとキアラは心の中で願った。
「……キアラ? どうしたの?」
明らかに動転しているキアラを心配したシノが駆けつけてくれるが、小柄な男子はそんなシノをチラチラと見つめている。
それを見た瞬間、キアラはシノを背に庇った。
「…………キアラ?」
「………………あの、一つお聞きしたいことがあります」
間違いであってくれ。
いつものように何をバカなことを言うんだと、大声で怒鳴ってくれていい。
だからどうか否定してくれと、願いながらもキアラは問うた。
「…………まさか、あの…………。あなた……シノのこと……」
小柄な男子はシノからキアラへと視線を向ける。
目が合うことに若干の気まずさを感じつつも、これを聞かないわけにはいかないと、なんとか口を動かした。
「………………………………好き、なんですか?」
キアラがその言葉を口にした瞬間の、その場の空気が凄まじかった。
ロキやエドヴァルド、当人であるシノですら大きく目を見開いて固まる。
まるで時が止まったかのようだった。
そんなとんでもなく冷め切った空気の中、一番最初に動いたのは小柄な男子だ。
彼は顔を真っ赤にすると、慌てて顔を手で隠した。
「――っ、な、なんで……っ!?」
「いえ……。チラチラとシノを見ていたので…………」
え、本当に?
とキアラは否定しない小柄な男子を見つめてしまう。
勘違いであって欲しかったのに、どうやらそうではないらしい。
「だって……。友だちのためにあんなに怒ってる姿が……かっこいいなって思って…………っ」
顔が真っ赤な小柄な男子は、ぼそぼそとそんなことをつぶやいた。
それを聞いたキアラは己の勘のよさを憂いた。
どうしてこんなことだけ察しがいいのだろうか?
もっと他に使えるところがあっただろうに。
「………………え? 私?」
シノの方は全く気づいていなかったようだ。
己を指差して呆然としている。
そんなシノに、小柄な男子は向き直った。
「…………ブラッド・キングリーだ。まずは友だちとして……仲良くしてくれないか?」
顔を真っ赤にしながらもシノにそう告げた小柄な男子改め、ブラッド。
差し出した手は、握手を求めてのものなのだろうか?
とにかく自分に向けられた手と、ブラッドを交互に見たシノはやっと理解したのか口を開く。
「しない。するわけないでしょ。私あんたに殴られそうになったのよ? だいたいあんたこの前、婚約破棄されたばっかりじゃない」
シノはハッキリと、ものすごく嫌そうな顔で否定した。
そうだ。
ブラッドはキアラに文句を言いに教室にきた際、婚約者から婚約破棄を言い渡されていた。
なので彼が婚約破棄をしてからまだ、一週間程度しか経っていないということだ。
否定されたこと、さらには婚約破棄の件も言われ若干ブラッドの顔色が悪くなる。
「――そ、それはそいつらにも言えるだろう!? ……ちゃんと婚約破棄を受け入れた。だから俺が誰を好きになったっていいはずだ」
「…………っ、それは、そうね」
ごもっともすぎてシノはそれ以上なにか言うことはできなかった。
そのことに若干申し訳なさを感じていると、好機と思ったのかブラッドが攻める。
「あんたの言いたいことはわかる。俺の悪いところは全部なおすし、誠心誠意謝り続ける。だからチャンスをくれないか……?」
「はあ!? 無理無理無理! 絶対ない! ありえない!」
「今はそれでいい。そうなって当たり前だと思っているから。だから……」
シノが否定しようともめげる気はないようだ。
ガンガン行くブラッドにシノがドン引きしているが、あまり気にしてはいないらしい。
これは大変いただけないと、キアラは静かにシノの前に立つ。
「――私、まだあなたのこと許していないので。シノとあなたがお付き合いとか、絶対認めないので」
真顔できっぱり、しっかりと伝えてやった。
するとさすがに少しだけ堪えたのか、ブラッドがたじろぐ。
「そ、それはもちろん。ちゃんとあんたに誠心誠意謝って、許してもら――」
「キアラ、大丈夫だよ。――俺も絶対交際なんて許さないから」
そう言うのは今まで黙っていたロキだった。
彼はブラッドの前までやってくると、シノに似た顔でにっこりと微笑む。
「シノに近づきたかったら、まずは俺とキアラに許しを得てからにしてね」
「……………………」
本当はあの謝罪を受け入れようと思っていた。
素直に謝ってくれたのなら、それに応えるべきだろうと思っていたからだ。
しかしシノとの交際がかかっているのなら話は別である。
大切な友人にブラッドは相応しくない。
いくら変わると豪語しても、それが真実かなんてわからないのだから。
なのでキアラはキッパリとブラッドに告げた。
「ごめんなさい。私、あなたを絶対に許しません」
にっこりと微笑みながらそう伝えれば、ブラッドは大きくショックを受けたようだった。
ふらりとふらついたブラッドは、それからなにも言うことなくおずおずとその場を去っていく。
「お、おい……」
エドヴァルドが声をかけるが聞こえていないようだ。
そんなブラッドの肩を掴みながらも、エドヴァルドはちらりとこちらを見てくる。
しかしキアラになにかを言うのは、さすがにこの雰囲気では憚られたようだ。
黙って去っていく彼らを見つめる。
「……………………え、なんだったの?」
「シノ。私は絶対に許しませんからね?」
「俺も」
「私だって絶対にないわよ!」




