巡り合う運命なのだろうか?
そして課外学習の日になった。
キアラとシノは少しだけ早く美術館に着いたため、他の生徒および教師を待っていた。
「終わったらスウィーティーに行かない? あそこのケーキ美味しいのよね」
「行ってみたかったところです!」
スウィーティーとは街で人気のカフェのことだ。
愛しい人、可愛い人を意味するその名前のとおり、恋人と行くことがある意味ステータスとなっているカフェ。
もちろん女同士で行ってもおかしくはないが、年頃の女性たちは皆、恋人との甘いひと時をそこで過ごしたいと思うのだ。
それはもちろん過去のキアラも。
エドヴァルドに共に行きたいと願ったこともあるが、残念ながら一度も行けたことがない。
なのでキアラにとってははじめての、流行りのカフェだ。
「とっても楽しみです……!」
「あそこはチョコケーキがオススメだから食べてみて。――あ、でもニキビできちゃうかもね?」
にやりとシノが揶揄うように笑う。
昔のキアラなら食べなかっただろうチョコケーキ。
しかし今はもちろん違う。
「…………ロキ様はニキビがあっても許してくださると思います」
キアラがむっつりと唇を尖らせつつ言えば、シノのニヤニヤはさらに強まる。
「んっふふー! まあ、うちのお兄なら気にしないと思うけど……。なるほどなるほど。気にするのはお兄なのね?」
「――! シノ!」
かあっと顔を赤くしたキアラに、シノは頷きながら肩を組んでくる。
「いいじゃない。キアラがお兄を気に入ってくれて嬉しいわ。だってもしお兄とキアラが結婚したら、私たち家族になるのよ? それって最高じゃない?」
「…………なったら……いいけれど……」
そうなってくれたらキアラとしても嬉しい。
けれどこればかりはどうなるかわからないので、あまり期待はしないでほしいと思う。
しかしシノはまるで決定事項のように、両手の指を組んで妄想を走らせた。
「私、キアラとお兄の子どもなら本当に可愛がれる自信あるわ」
「――こっ!?」
子どもなんてまだ早い。
だってまだ婚約すらしていないのだ。
顔を真っ赤にしたキアラを前に、シノは止まることはなかった。
「キアラは女の子男の子どっちがいいの? 私としては女の子だと嬉しいなぁ。可愛い洋服着せてあげたいのよね」
「な、なんの話をして――!?」
大暴走中のシノを止めようと、キアラがあたふたしたその時だ。
できれば聞きたくはない声が耳に届いた。
「おい、エドヴァルド! お前の犬がいるぞ。――ストーカーでもされたんじゃないのか?」
「…………」
ふわふわした気分は一瞬で落ちた。
キアラもシノも真顔になると、ゆっくりと声のした方を見る。
そこには例に漏れず、エドヴァルドとその友人がいた。
彼らもまたキアラを見つけ、指差してくる。
「本当だ! いっつもエドヴァルドの行く先にいるよな」
「気持ち悪ーい」
くすくすと蔑む笑い声が響く。
どうしていつもこうなるのだろうかと、キアラはため息をこぼす。
ここにエドヴァルドたちがくるのはわかっていた。
けれどあの事件があったから、キアラに近づいてこないかと思ったのに。
またひどい言葉を使われるかと、キアラはシノを背に庇う。
すると今度はシノがキアラを背に庇った。
「しつっこいわね。同じ場所なのは仕方ないとして、お互い関わらなければいいんじゃないの? なに、そういうことすら考えつかないわけ?」
「お前たちが俺らの行くところにいるんだろ!?」
エドヴァルドの友人の一人が噛み付いてくる。
この間キアラの腕を強く掴んだ人だ。
小柄で見た目も女の子のように可愛いが、生意気なのが顔に出ている。
まるで小型犬のようにキャンキャン言う男は、眉を吊り上げながらシノの前に立つ。
「結局まだエドヴァルドのこと好きなんだろ? なら今から土下座しろよ。土下座。そうしたらエドヴァルドも考えてやってもいいってさ。なあ?」
小柄な男子がエドヴァルドに同意を求めた。
しかしエドヴァルドは黙ってキアラを見つめるだけで、うんともすんとも言わない。
それがシノの逆鱗に触れたようだ。
彼女は力一杯一歩踏み込むと、小柄な男子と真正面から睨み合う。
「キアラがあいつのこと好きなんてありえないわ! 今はうちのお兄といい感じなんだから! 邪魔しないでよね」
「は! ほらやっぱり。エドヴァルド、この犬浮気してたんだぜ。そうじゃなきゃ、こんなに早く他の相手なんてできるわけない!」
小柄な男子の言葉に、シノが大声を出す。
「ふざっけんな! キアラはちゃんとそいつを愛してたわよ! 一途なキアラの気持ちにあぐらかいてたのはそっちでしょう!?」
負けじと小柄な男子も声を荒げる。
「犬は犬らしくご主人様の言うこと聞いてればいいんだよ! それを生意気に反抗なんてしやがって!」
さすがに周りの目がある。
ヒートアップしすぎている気がして、キアラが止めようと一歩前に出た時だ。
シノが噛み締めていた唇を離し、小柄な男子に言い放った。
「犬犬って……っ! あんたたちの方がエドヴァルドの犬じゃない! キャンキャン吠えて……! いいえ、犬に失礼だわ。あんたたちなんて、金魚のフンよ! このクソ野郎!」




