お弁当交換
「まさかそんなことになっていたなんて……。ごめん、助けられなかった」
「そんな! ロキ様のせいではないので……!」
昼食の時間となり、約束どおりロキがキアラたちの教室へとやってきた。
その手にはお弁当箱を持って。
そしてどうやらあの騒ぎを聞いていたらしく、お弁当を開く前にその話をしていた。
「みなさんのおかげで、無事だったので大丈夫です!」
「キアラちゃんの怪我も大したことなくてよかったね」
「本当に」
ちなみにキアラのお弁当箱一つ目は、今クラスメイドたちの手に渡っている最中である。
好みのおかずを持っていき、代わりのおかずやお菓子などが詰められて戻ってくるのだ。
そんなやりとりをしている間に、クラスメイトの女子が話しかけてきた。
「それにしてもこうして見ると、ロキ様本当にシノちゃんにそっくり」
「はじめて見た時どうして気がつかなかったのかしら?」
「私に似てイケメンでしょ?」
「それを言うならシノが俺に似てるんだよ」
ふふんっと鼻を高々にするシノに、ロキが突っ込んだ。
本当に二人は似ているため、大変目の保養になるとキアラはニコニコしている。
「一年先輩なんですよね? 今まで学園でお見かけしていなかったと思いますが……」
「特待生でね。授業が免除されているんだ。だからだいたい家で勉強してたんだけど……」
ロキの赤い瞳がキアラへと向けられる。
「キアラに会うために学園にきてるんだ」
優しく微笑むロキに、女生徒たちの黄色い歓声が上がる。
羨ましいとか素敵とか、いろいろ聞こえるけれどなんだか恥ずかしくて、キアラは少しだけ視線を下げてしまう。
「――あ、誓ってあの男と婚約中に会わせたことはないわよ。キアラがあれだけのことがあったのに、恋愛に前向きだったから、引きこもりのお兄を紹介したのよ」
「引きこもってはないよ。……ちゃんと外出てたし」
ロキの言葉なんて聞こえていないかのように、シノは話を続ける。
「あの馬鹿たちが言ってたみたいなことはないわ」
「あ、うん。そこは信じてる」
「エドヴァルド様の婚約者だったころのキアラちゃんを知ってれば、浮気したなんて普通思えないよ」
真顔で言われた言葉に、キアラは少しだけ気まずそうにした。
まああれだけ毎日エドヴァルド様エドヴァルド様言っているキアラを見ていれば、浮気していたなんて思えないはずだ。
そういった意味でも、やはり彼らはキアラのことを見てくれてはいなかった。
「あの人たちもう絡んでこないといいね?」
「ねぇ。でも……しつこそう」
「………………うん」
青ざめた女生徒たち。
彼女たちはご飯にすると言って、自分たちの机へと帰っていった。
それを見送った後、すぐにキアラの交換用のお弁当が戻ってくる。
それを受け取ったのはシノだった。
「全く、感謝してよねお兄。それ本当は私のお弁当だったんだから」
「感謝してるよ。キアラのお弁当をくれてありがとう」
キアラとロキはお互いのお弁当を交換することになった。
しかしキアラのお弁当の一つは交換用のため、シノに作った分をロキに渡すことになったのだ。
なので交換用のお弁当をシノが食べてくれることになった。
「まあ、いろんなもの食べれて楽しいけどね。あ、ピクルスだけは私が全部食べるから」
「一口くらいくれても……」
「ダメ!」
残念、と肩を落としたロキだったが、キアラのお弁当を開けると途端に瞳を煌めかせた。
「――すごい。綺麗だ……。とっても美味しそう」
「そ、そうでしょうか?」
「うん。本当にすごいよ。…………ごめん。こんなに綺麗なお弁当と交換なのに……そんなので……」
ロキはよほどお弁当の出来に自信がないらしい。
若干顔を青ざめさせたロキに、キアラは何度も首を振る。
どんなお弁当であろうとも食べられる自信があった。
だって嬉しいのだ。
ロキがキアラのために作ってくれたということが。
なので喜んで蓋を開けて中を見て、キアラは目をぱちくりと瞬かせた。
「……ロキ様。はじめて作られたんですよね?」
「うん。……ごめん。焦げちゃったりしてさ……一応綺麗なところだけ入れたんだけど……」
お弁当を覗き込んだシノが、けっ、と嫌そうな顔をする。
「忘れてたわ。お兄は割となんでもそつなくこなすってこと。はーつまんない! もっと焦げ焦げのボロボロが入ってると思ってたのに!」
「いや、でもキアラのと比べると……」
「私は慣れていますので。はじめてでこれは大変お上手です。自信を持っていいレベルです!」
「そ、そうかな……?」
ロキの雰囲気から、彼は謙遜とかで言っているわけではないのだろう。
本当に不安だったに違いない。
しかしシノの言うとおり、お弁当の中身はとても綺麗で十分すぎるほどだった。
卵を焼いたものであろう、少しだけ焦げているおかずを口に入れる。
「――美味しい! とっても美味しいです!」
「……そう? よかった。……美味しいって言ってもらえるの嬉しいね」
ほっと安堵したように息をついて笑うロキに、キアラも深く頷いた。
誰かのために作った料理を、美味しいと言ってもらえること。
それが嬉しくて、キアラもお弁当作りを始めたのだ。
「……美味しい。キアラ、これとっても美味しいよ!」
だから本当に美味しそうに食べてくれるロキに、キアラの心臓は小さくときめいた。




