第43話 ドアマット幼女と父の罪
《新連載のお知らせ》
人外主人公の転生ファンタジーです。興味のある方は、
↓こちらをコピペするか、作者の名前→活動報告のリンクから!
https://ncode.syosetu.com/n4423ls/
約、半年ぶりの王都です。
お久しぶりの方たちにお会いする興奮が、ようやく落ち着いてきた頃、ダグラスさんとエバンスさんに、詰所の会議室へと呼ばれました。
大切なお話なのだろうと、少し緊張してドアを開けると、二人はわたしよりも、もっと緊張した顔をしていました。
わたしが入室すると、二人がガタンと椅子を鳴らして、立ち上がったほどです。
しばらくして、ダグラスさんが口を開きました。
「辺境で、俺と約束したことを覚えているか?」
やはり……父のことです。わたしは捜査の状況を、知らされていませんでした。
「はい。知るべき時が来たら、全て説明すると」
辺境でダグラスさんは、そう約束して、王都へ帰って行きました。“知るべき時”が、来たんですね。
「準備は出来ている。エルシャは、何が知りたい?」
何もかも……です。ですが、まずは……。
「はい。では、父への容疑を教えて下さい」
ダグラスさんとエバンスさんが、驚いた顔をしています。違うことを聞かれると思っていたんでしょうか。
「それは……」
「エバンス、教えてやれ」
「ダグラス、しかし……!」
「おおよその見当はついています。母と祖父母の死への関与、わたしの保護責任の遺棄。祖父母への説明責任の遺棄。……あっていますか?」
「あっ、ああ……、はい……全て“容疑”ですが、あっています」
「エルシャ……」
わたしには、時間がありました。詰所にいる時は図書館に通っていましたし、牧場の家では、おじい様の書斎に推理小説がたくさんありました。事件や犯罪のことを、辞書を片手に勉強しました。
「父は、母と祖父母の死に、どのくらい関わっているんですか?」
「……祖父殿は不幸な事故だ。祖母殿はご病気だった。エドワード氏は関与していないよ」
「ダグラス!」
それは……。母様の死には関与していたってことですよね……。
「エバンスさん、大丈夫です。わたしは父のことで、もう傷ついたりしません。心配してくれてありがとうございます」
笑って言ったら、エバンスさんが泣きそうな顔をしました。ふふ、冷酷取り調べ官の仮面が外れちゃってますよ。
「母は……、毒を飲まされたんですか?」
「……いえ、アリッサさんが亡くなったのも、ご病気です。ただし、担当した医師は治療をしているふりをしていました。本当はろくに薬も使っていなかったんです」
「えっ、治療していなかったんですか? 母様が苦しんでいても? お医者様なのに?」
「はい……。そして、もう彼は医師ではありません。医師免許を剥奪されました」
母様の主治医には何度も会ったことがあります。グリーンウッド家の専属医でもあった人です。
今考えれば確かに、診察時間は毎回短かかった。ハドソン先生は、わたしに色々な質問をしたりするのに、それもなかった……!
「父の……父の指示だったんですか……?」
「エドワード氏は……関与を否定しています」
かんよを、ひてい……。言葉の意味がなかなか呑み込めません。自分は関係ない、そう言う意味です。知っています。
知っているはずの、言葉です。
わたしは……もう、父のことで傷つきたくない。
でもあの男は、毒を飲ませて母様を楽にしてやることさえしなかった。その方がはるかに罪が重くなるから。
母様は苦しんで、苦しんで、最後は弱って死んでいった……!
そんなことができるなんて……。そんなことをする人間が、わたしの父親だなんて……!
「エルシャくん……」
泣かないなんて無理だった……。息を止めても、数を数えても、太ももをつねっても、涙が、後から後から溢れてしまいます。
「こ、これは、父のことで泣いてるんじゃありません。母様が……治療をしてもらえなかった、母様のために泣いているんです!」
しばらく会議室は、わたしのしゃくり上げる声だけが聞こえていました。ダグラスさんが、何も言わずに、背中をさすってくれました。
「……母の死を、祖父母に隠したのはなぜですか……?」
「前伯爵には、まだ爵位の継承に関する発言権があったんだ。おそらく、二人が亡くなるのを待つつもりだったんだろう」
「そんな、そんな下らないことで、祖父母と母は会えずに……! あの人は、わたしのことも……死ぬのを待っていたんですね?」
ガタンと椅子から立ち上がってしまいました。もう、涙も出ません。
「じっ……地獄に堕ちろ! くそジジイ!」
ダグラスさんとエバンスさんが、目を丸くしています。もう、中指を立ててやりたいです!
「いいぞ、エルシャ……。その意気だ!」
「そうです! 君は怒っていい!」
呆れられるかと思ったら、褒められました。それでも、怒りがおさまりません。
「許さない! 絶対に! 法律が裁かないなら、わたしが、母様の仇を……! わたしがあの男を――」
「エルシャ」
ダグラスさんが、わたしの言葉を遮りました。
「それは裁きじゃない」
「でも……!」
「あんな男のために、エルシャが手を汚す必要はない。怒っていい。泣いてもいい。だが、自分を貶めるな」
「……そうです」
エバンスさん……エバンスさんが、泣いています。
「君はあの男のためにこれ以上、心をすり減らす必要はありません。君は……君は、幸せになればいいんです」
「わたしが幸せになったって、あの人は反省なんかしない!」
「そうかも知れん。だからこそ、そんな人間には関わらずに、エルシャは幸せになるんだ」
「じゃあ、母様は? 母様は、なぜ幸せになれなかったの? わたしはあの頃、何をして……。わたしは、どうして何も出来なかったの!」
「エルシャ……」
「いまさら、薬草の勉強なんかして馬鹿みたい! もう遅いじゃない! 母様は戻って来ないのに!」
泣き叫んで地団駄を踏むわたしを、ダグラスさんがギュッと、強く……強く抱きしめました。
「あの男が卑怯な場所にいるからこそ、エルシャは正しい場所に立て」
こんなに……、こんなに優しい人たちもいるのに、まともな大人だってたくさんいるのに……どうしてわたしの父親はあの人なんだろう。
あの人の血を引くわたしも、いつかあの人みたいな大人になるんだろうか。
虐待を受けて育った子供は、自分の子供を虐待する親になる確率が高いという説があります。一度目の走馬灯の女性の知識です。それを見た時、わたしは『そんな馬鹿な』と思いました。
“世代間連鎖”というらしいです。
虐待を『これが普通だ』と刷り込まれて育った子供は『健全な人間関係の作り方』を覚えることなく大人になる。そして自分の知っている『親』になる。
そんなことがあるのでしょうか。あるとしたら、それは悪夢そのものです。
あの人みたいになるくらいなら、大人になんてなりたくない。
嫌だ……絶対に嫌だ!
仄暗い感情に引き摺られるように、目の前が暗くなっていきます。
そして、三度目の走馬灯が、明かりを灯して回りはじめました。
読んで頂きありがとうございます。
キツイ場面です。場違いになってしまいますが、お知らせをさせて下さい(本当に、余韻とかぶった斬ってすみません)
本作の電子書籍『屋根裏のエルシャ第3巻』の先行予約がはじまりました。完結巻です。ダグラスさんの過去に関係している事件の解明に、エルシャとヘンリーが奔走します。
興味のある方は、作者の名前→活動報告へと進んで下さい。詳しいあらすじなどをお知らせしています。
エルシャの正念場まであと少し。どうか皆さま、最後までエルシャを見守ってやって下さい。よろしくお願いします。




