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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第40話 ドアマット幼女と救助犬ヘンリー

誤字報告、ありがとうございます!

 皆さま、こんにちは。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 本日は晴天なり。早春の旅路は爽やかに順調で、乗り合い馬車は軽快に山道を進んでいます。


 ピートくんは、隣で居眠りです。時々、頭がカックンとなったり、足がビクッと動いたりして面白いです。どんな夢を見ているのでしょうね。


 ヘンリーはわたしの足元に寝そべっています。いい機会なので、ヘンリーの新装備について説明しますね!


 まずは『救助犬ハーネス』です。


 これはトーマスおじ様が作ってくれました。ピカピカの革製で背中と前足に固定してあります。背中にリードを取り付ける金具付きで、今はリードを付けています。


 馬車に乗り込んだ時はびっくりしている乗客もいましたが、荷物置き場に紛れ込んでいたヘビを退治して、盛大な拍手を頂きました。


 続いて『救助犬バッグ』。


 これはソフィアさんが作ってくれました。ハーネスの胸当て部分に取り付けるバッグです。わたしの肩掛けカバンと同じデザインです。お揃いです!


 中身は、トーマスおじ様とベックさんが用意してくれました。


「これは気付け用のお酒。救助の対象が子供だった場合は、唇を湿らせる程度ですよ」


「わふっ!」


「これは湿布と傷薬、それとわたしの作ったニンジン飴」


「わふっ!」


「これは緊急時に、場所を知らせる花火とマッチです。赤い煙が出るから、昼でも使えるんですよ」


「わふっ!」


 あなたは……。返事がとても良いですね。良すぎて、かえって心配になります……。


 それでも、ヘンリーのキリリとしたお顔に、ハーネスがとても似合っています。


 ピートくんも、『格好いいなぁ! 警ら隊に正式入隊して欲しいよ』と言っていました。そうでしょう、そうでしょう! えっへんです!


 さて、ヘンリーの装備の説明も終わったので、わたしは作業に入ります。


 何の作業かというと、王都の皆さんへのプレゼントを作るのです。材料は、うちの羊さんたちの羊毛フェルト。これで綿入れのマスコットを作ります。


 警ら隊の皆さんには、星のマークの入った長帽子を。ハドソン先生には診察カバン、エバンスさんにはいつも被っている、シルクハットが良いですかね?


 おばあ様に簡単なステッチを教えてもらったので、少しの刺繍も入れましょうかね! 先は長いので、のんびり作ります。


 作業に集中していると、ヘンリーが首を伸ばして空気の臭いを嗅いでいます。


「どうしました? ヘンリー」


『グルルル』と小さく唸り声を上げました。


 えっ、熊さんですか? 親子連れ? どうしましょう!


「わうっ!」


 追い払う? わかりました。無理せず、安全第一ですよ!


「御者さん、ヘンリーが唸っているので、この先に危険な動物がいるかも知れません。一旦止まってもらっていいですか?」


「えっ、冬眠明けの熊でもいるのか?」


 御者さんが馬車を停止させます。


 リードを外すと、ヘンリーはすぐに馬車から飛び出して行きました。


「えっ、熊? エルシャ、僕の後ろに隠れて!」


 ピートくんが飛び起きて言いました。ちょっとまだ寝ぼけているみたいです。


 しばらくすると、山道を横切るように親子連れの熊が現れました。乗客の皆さんが小さく悲鳴を上げます。


 ピートくんが、人差し指を唇に当てて静かにと指示を出しています。叫び声は熊を興奮させてしまうこともあるのです。


「大丈夫です。ヘンリーはとても強いです。いざとなったら僕も戦います」


 ピートくんが荷物から警棒を取り出して、緊張した顔で御者席へと移りました。入れ替わりで御者さんが馬車の中へと避難します。


 ヘンリーは熊と一定の距離を取って、頭を低くして唸りながら威嚇しています。


“こっちへ来るな! 大人しく立ち去れ!”と言っています。


「わうっ! わうっ!」


 ヘンリーが二回大きく吠えると、親熊は子熊を促すような仕草を見せてから、茂みを下って行きました。


 馬車の中のあちこちから、大きなため息が聞こえました。


「た、助かった……」

「母ちゃん、こわかったよぉー」


 ヘンリーは威嚇の姿勢のまま、しばらく唸り声を上げていましたが、やがて尻尾をピンと立てて馬車に乗り込んで来ました。


「す、すげぇ、ヘンリー……本当に追い払った……」


 ピートくんが、ヘンリーを尊敬の目で見ています。


「ピートくんも、頼れる警ら隊員でしたよ。二人とも格好良かったです!」


「熊ってあんなに大きいんだな。向かって来なくて良かったよ……」


 ようやく安心したらしく、ピートくんにも乗客の皆さんにも、笑顔が戻って来ました。


「さすが救助犬だな!」

「お利口なのね!」

「ありがとう、ヘンリー!」


 口々に声をかけてくれます。ヘンリーはピシッとお座りして、尻尾をブンブン振っています。皆さんに褒められて嬉しそう。


「ふふ、頑張りましたね。立派でしたよ!」




 そこからの道行きは、平和そのものでした。


 辺境に向かった時は秋色に色づいていた山々が、今は透き通るような淡い緑色です。木漏れ日がピートくんの寝顔に、優しい影を落としています。


 わたしも刺繍針を置いて、ほんの少し居眠りをすることにしました。


 以前この山道で見たのは、胸が締め付けられるほどの悪夢でした。けれど、きっと、大丈夫。わたしは立ち向かうための準備は終えているのです。


 目を閉じると、空と地面が溶けるように続く草原が見えました。隣にはヘンリーがいて、「わうっ!」と元気に吠えました。“エルシャちゃん、行こう!”と言っています。


 わたしは「わう!」と答えて、走り出しました。揺れる草むらから、金色の光が漏れています。光はやがて集まって、まっすぐに伸びる一本の道になりました。


 道は空へと続いています。


 暖かい風が、髪を揺らし頬を撫でて通り過ぎてゆきます。わたしとヘンリーは、金色の道を、風を追いかけてどこまでも走りました。


 いつか、空も飛べる……。そんな気がする夢でした。




読んで頂きありがとうございます。


皆さん、大事件です! コミックシーモアさんで、2/26に『屋根裏のエルシャ』がラノベの日間ランキング10位を頂きました! 応援してくれた皆さんのおかげです。本当にありがたいです!

ついこの間まで、なろうの底辺作者だったのに、ほんと信じられないですよ。これからも頑張りますので、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ヘンリーがかっこいいです! 道中が目に浮かぶ素敵な節でした。熊の親子も何事もなく通り過ぎてほっとしました。 最後の夢の表現もとても良かったです。
18~19世紀頃の乗り合い馬車は、屋根にも客を乗せられる造りの物が多かったので、大きなヘンリーには客室より、屋根の上で見張りをして貰う方が良いかも知れませんね。
 ヘビに対処したり、ピートくんと共に熊から皆を守ろうとしたりと、ヘンリー(犬)大活躍ですね。  エルシャちゃんも救助用の道具の使い方について、事前に勉強していて凄いです。
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