第39話 ドアマット幼女と旅立ちの季節
みんな大好きピートくんの登場ですよ! 作者も大好きです。彼を書いていると、気がつくと口元が緩んでいます。主人公にはなれない……そこがまたいいんですよねぇ。
ggt様より、素敵なレビューを頂きました。めっちゃ嬉しいです! ありがとうございます!
皆さま、こんにちは。
エルシャ・グリーンウッド六歳です。
辺境の地に春が来ました。ついこの間まで白一色だった景色は、淡い色彩に溢れています。
芽吹いたばかりの柔らかい若葉、小さなツボミを付けた薄ピンクや黄色の野の花々、空はミルクをこぼした水色の色紙のようです。
そんな柔らかい景色の中を、威勢の良い馬の蹄の音が響きました。村からの小道を、大きく手を振りながら駆けて来ます。
今年初めて吹く、南風を背負ってその人はやって来ました。
「ピートくん!」
「エルシャ!」
「あはは! 元気だな! ほっぺもピカピカだし、背も伸びたんじゃないか?」
「はい! 元気です! ピートくんも、背が伸びましたね!」
「へへっ! 僕も成長期だからね。もりもり食って、ガンガン鍛えてる!」
ピートくんは、ヒラリと馬から飛び降りました。強い風で癖っ毛が跳ねています。
「こんなに遠くまで来てくれて、ありがとうございます。詰所の皆さんは元気ですか?」
「みんなエルシャに会いたがってる。僕が辺境まで来る争奪戦を勝ち上がるのに、どれだけ苦労したと思う?」
腕に力コブを作って自慢げに言います。腕も少し逞しくなったみたい。
「ふふ。あとでゆっくり聞かせて下さいね」
ピートくんが馬を引きながら、詰所の様子を早口で話してくれます。お互いに手紙には書き切れなかったことが、たくさんあるのです。
「ああ、これがヘンリーだね? うわー、大きいなぁ!」
「ヘンリー、ピートくんですよ」
「わふっ!」
ヘンリーはお利口に返事をしましたが、ピートくんの周りをぐるぐると回り、クンクンとニオイを嗅いでいます。
「わふん」
“まだ子供だね、ぼくの方が強い”ですって! ピートくんが聞いたら怒りますよ!
家の中まで案内して、ソフィアさんが淹れてくれたお茶を一緒に飲みます。お茶請けは、うちの牛さんのお乳で作った自慢のミルクプディングです。
「何これ……すげぇ美味い。甘さ控えめなのに濃厚……! こんなの初めて食った……!」
ふふ。ピートくん、食レポの人みたいです。『食レポ』というのは、食べながら解説してくれる人のことです。
「あとで、搾りたてのお乳も飲ませてあげます。卵も産みたてほやほやですよ!」
えへんと胸を張って言ったら『エルシャが産んだみたいだな!』と笑われてしまいました。
ひと息つくと、ピートくんが大きなカバンをガサゴソしはじめました。詰所の皆さんからの手紙やお土産が、テーブルの上に並んでいきます。
「これが副長のジョンソンさんから、こっちが事務のカールさん、これが……えっと、ハドソン先生で……」
懐かしい名前をたくさん聞いて、胸が暖かくなります。皆さんと過ごしたのは、ほんの短い期間だったのに。
「皆さん、わたしのことを、忘れないでいてくれてるんですね……」
「当たり前だよ! エルシャからの手紙、みんなすげぇ楽しみにしてたんだぞ!」
「えへへ、嬉しい! わたしも、皆さんからの手紙、心待ちにしていました」
「手紙にも書いたけど、僕はエルシャを迎えに来たんだ。グリーンウッド伯爵家関係の捜査がほぼ終わった。あとはエルシャの意思確認が必要なんだ。僕と一緒に、王都へ帰ろう!」
ピートくんがひと息で言いました。あわてん坊なのは、相変わらずみたいです。
「はい!」
大きな声で応えました。わたしに迷いはありません。おばあ様と話した晩に、覚悟は決まっています。
「いいの? エルシャ、牧場での生活が楽しそうだったから……」
「大切なことですから。それに皆さんに会いたくて、もう我慢できないくらいです!」
「良かったぁー! 実はもう、詰所の中庭にヘンリーの犬小屋を作っちゃったんだ。みんな気が早いからさ!」
ヘンリーが、自分の名前が聞こえて耳をそば立てています。
「わう、わう」
犬語で“一緒に行く?”と聞くと、起き上がって「わうっ!」と吠えました。“もちろん一緒に行くよ!”と言っています。
「へぇー、本当に喋ってるみたいだな!」
ピートくんが感心したように言いました。
わたしが人前でヘンリーと犬語で話しても、誰も不審には思わないのです。幼女と犬の、微笑ましいやり取りに見えるのでしょうね。
「ヘンリーは、船や汽車に乗れるんですか?」
「うん、来る前に確認して来た。事前に申請すれば大丈夫だって。船も汽車も、個室を予約してある」
「ええっ? そんなの経費じゃ足りないでしょう?」
「あはは、エルシャったら、そんなのわかるようになったんだ!」
「わたしだって成長期ですから!」
「大丈夫。エルシャを迎えに来たかったお金持ちが、こぞって出してくれたんだ。隊長とか、ハドソン先生とか、エバンスさんとか!」
嬉しいけれど、いいんでしょうか?
「遠慮しない方がみんな喜ぶよ。会った時にお礼をすればいいんじゃない? それで、いつ出られる? 一応、1週間後に船の予約を入れてあるんだ」
「大丈夫です。三日あれば準備できます。ピートくんは、のんびりしていて下さいね」
実は旅の準備は、少しずつ整えていたのです。でも、ソフィアさんとベックさんが用意してくれた荷物が多過ぎるのです。
トーマスおじ様にも、薬草の種や素材の瓶詰めをたくさん渡されました。
わたしは来た時と同じに、肩掛けカバンひとつで充分なんですけどね!
* * *
三日後――
予定通りに牧場を出発します。ヘンリーと一緒に、仔馬のリリーやヒヨコたちに挨拶をしました。ソフィアさんとベックさんとも、しばらくのお別れです。
「エルシャお嬢様。この牧場の跡取りはあなたです。いつでも好きな時に、帰って来ていいんです。それだけは忘れないで下さいまし」
「はい。ここがわたしの故郷です。でも、わたし、欲張りみたいです。警ら隊の皆さんとの縁も大切にしたいの」
「わかりました。どうか、お気をつけて。ピートさん、お嬢様をよろしくお願いしますね」
「はい! お任せ下さい!」
ピートくんがピッと敬礼で答えました。ヘンリーが「わふっ!」と吠えました。“ぼくもいるよ!”と言っています。
少し伸びたわたしの髪を、強い春風が巻き上げます。ソフィアさんが縫ってくれた若草色のワンピースの裾もフワリと持ち上がりました。
「行きましょう。ピートくん、ヘンリー!」
さあ、王都目指して出発ですよ!
読んで頂きありがとうございます。
ここからはどんどん物語が動いていきます。どうか、最後まで見守って下さいね。
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