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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第38話 雪解けと共に

 年明けから、何度も雪が降りました。


 ヘンリーは救助犬の修行を終えて牧場へ帰って来ましたが、わたしはトーマスおじ様の家へ通い続けています。


 わたしの指先は、ますます薬草臭くなり、ヘンリーは少し引き締まった顔でお山を眺めるようになりました。


 そして今日――。


 おばあ様が亡くなりました。


 ソフィアさんが朝食を持って部屋を訪れた時、声をかけても目を覚まさなかったそうです。


 眠りながら、苦しむことなく、静かに逝ったのだと、お医者さまが言っていました。


 昨夜は寝る前に、久しぶりにたくさんお話しました。


    * * *


「ほら、エルシャ。聞こえるかしら。あれは雪解けの音なのよ」


「川の……流れる音が、いつもより激しい……ですか?」


「そう。雪解けの水が川に流れ込んでいるの。ふふ。昼間も何か聞こえたんじゃない?」


「はい! ポタポタと屋根の雪から雫が落ちる音が聞こえました。もうすぐ、春なんですね」


「春になったら……。あなたも旅立ちなさい。自分がどうしたいか、答えを出して。エルシャが自由になるために。そのために、王都に戻るの」


 ――エルシャなら、できるわ。あなたは強くて、かしこいもの。私の、自慢の孫娘だもの。



 おばあ様は、“あなた《《も》》旅立ちなさい”と……言いました。まるで、自分が旅立つことを知っていたみたいに。


「エルシャは……私の前でも、まだ遠慮しているわね。良い子でいないとって」


「あの……、ごめんなさい……」


 わたしが謝ると、おばあ様は泣きそうな顔をしました。わたしは、また間違ってしまったのでしょうか。


「それは……エドワードとキャサリンのせいね……。まだ“自分が悪かった”と思っているの?」


「そうじゃないです。でも……もっと上手くやれたら、違ったのかなって……思います」


「ねぇ、エルシャ……。エルシャは、ヘンリーが『良い子』だから好きなの?」


「違い……ます。ヘンリーはイタズラもするし、言うこと聞かない時もあるけど……それでも大好きです」


「そう。それが普通なの。あの二人にとってエルシャは『都合の悪い子』だったの」


「都合……?」


「おいで、エルシャ」


 ベッドの脇に膝をつくと、そっとわたしの背中を撫でてくれます。


 少し戸惑いました。おばあ様はずっと、グリーンウッド邸の話をすることを避けていましたから。わたしも同じです。嫌なことを思い出さずに、楽しく暮らしたかった。


「エドワードは、正統な後継者であるあなたが邪魔だった。キャサリンは……アリッサにそっくりなあなたが、嫌だった……」


「そんなの……」


 わたしのせいじゃない。


「そう。エルシャは何も悪くない。悪かったのは、私たち大人よ。弱くて……愚かで……あなたとアリッサに背負わせてしまった」


「おばあ様……」


「償いきれない罪を抱えた私だけど……あなたと過ごせて幸せだったわ。こんなに幸せだと、ヘンリーとアリッサに文句を言われちゃうわね」


「わたし……生まれて来て、良かったんですか?」


「もちろんよ。あなたは私への最高の贈り物だわ。生まれて来てくれて、ありがとう、エルシャ」


 わたしの背中を撫でる、おばあ様の手は震えていました。後悔と、それでも逃げまいとする覚悟の震えでした。


「良い子じゃなくて……いいの?」


「そのままの、エルシャを愛しているわ。ソフィアも、ベックも、トーマスも……もちろん犬のヘンリーも。みんなエルシャが大好きよ。他にもいるでしょう?」


「はい……。王都で出会った人たちも、とてもよくしてくれました」


「だからね、エルシャ……。心のままに生きてゆきなさい。あなたなら、どこへでも行けるわ」


 おばあ様の言葉は、三つ目の走馬灯のようでした。暖かく灯って、わたしの心の一番奥で凍り付いていた根雪を、溶かしてくれたのです。



   * * *



 教会の鐘が鳴ります。


 お葬式は誰もが泣いていましたが、どこか明るい雰囲気がありました。それがとても、おばあ様らしいと思いました。


 おばあ様は、おじい様の隣のお墓で眠りにつきました。




読んで頂きありがとうございます。


エルシャが飛び立つ準備が整いましたね。そして電子書籍の2巻発売準備も整いました(`_´)ゞ

なろうの連載も電子書籍も、両方応援して下さると、作者のエンジンがフル稼働します・:*+.\(( °ω° ))/.:+


『屋根裏のエルシャ第2巻 ドアマット幼女は虐待から抜け出して、新しい物語をはじめる』はコミックシーモア様より2/25先行配信開始です!


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― 新着の感想 ―
『お葬式は誰もが泣いていましたが、どこか明るい雰囲気がありました。それがとても、おばあ様らしいと思いました。』 こういうお葬式が愛おしいです。 とても素敵な節でした。切ないですけどね。
 ローザさんの素敵さと自他との向き合いぶりに、感想書ききる前に目から雪解け水が溢れ出そうになりますね……。
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