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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第37話ドアマット幼女と氷のランタン

 皆さま、お寒うございます。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 わたしが牧場で過ごすようになって、早いもので二ヶ月近くが過ぎました。今日は一年の最後の日(ニューイヤーイブ)です。


 この国の年越しは、ホームパーティなどをして過ごすことが多いです。王都では川沿いで花火が上がったりします。


 辺境には年明けに独特の習慣があり、とても面白いです。年男と呼ばれる男性が、各家庭を訪問するのですが『髪の色が暗く、背が高くて色の黒い男性』が縁起が良いとされています。


 年男は『石炭、石、パン、塩』などを手土産に訪れてくれるそうです。


「年男さん……お土産のチョイスが微妙ですね」


「ふふ、古くからの習慣なのよ。年男を迎える家は、氷のランタンを作って飾るの」


「氷のランタン?」


「バケツやコップで作った氷のランタンを道沿いや玄関に飾って、それを目印に年男がやって来るのよ」


 おばあ様が教えてくれました。


「今年はエルシャが作ってね。ソフィア、材料は大丈夫?」


「もちろんです、奥様。エルシャお嬢様、夕方仕込んでしまいましょうね」


 氷でランタンを作る……。とても楽しそうです!



   * * *



 ランタン作りは、色水を作るところからはじまりました。バケツやコップに赤や黄色、緑の色水を入れて、外に出して置きます。


 下準備はこれだけ?


 ニューイヤーイブのディナーを済ませて、もこもこに厚着して外に出ました。よく晴れた星の綺麗な夜です。


「バケツのお水は……凍っていますね。あっ、でも外側だけです。中はお水のまま……」


「エルシャ、それをひっくり返すのよ。そおっとね」


 おばあ様が、窓を開けて教えてくれました。寒いのに、見ていてくれて嬉しいです。


 バケツをそっと持ち上げて、ひっくり返します。カポンと音がして氷が外れました。大きなプディングみたいです。


 あっ、わかりました。これで穴を開けてお水を出せば……! 中が空洞の、氷のランタンの出来上がりです!


 遠くで雪を掘っていたヘンリーがやって来ました。


「わふん?」


 何しているの? と言っています。


「氷のランタンですよ。たくさん飾りましょうね」


 道沿いに並べてある、バケツや桶をひっくり返します。中のお水を出して、ロウソクを灯します。


 わたしはマッチを擦れるのですよ! グリーンウッド邸では朝の火入れは、わたしの仕事でしたからね。


「わあー、きれいです!」


 薄く緑に色づいた氷の中で、ロウソクの炎がユラユラと揺れています。


 見惚れていたら後ろからガリガリと音がしました。


 ヘンリーです……! ヘンリーが氷をガリガリと食べています。


「ヘンリーったら、もう! 食べちゃダメです!」


「わふ、わふっ?」


 美味しくないでしょう? と犬語で聞いたら『なんか面白い!』だそうです。


「絵の具は身体に悪いのもあるんですよ。それに……。ほら、食べるより、見ている方が楽しいでしょう?」


 赤い色のランタンに火を入れて見せると、ヘンリーは「わふっ!」と言って、ランタンの周りをぐるぐる回りました。


 その後も火を入れると、そのランタンの回りをぐるぐる回ります。わたしがロウソクを立ててマッチを擦る間は、お利口に座って待っています。


 何だか変な儀式みたいですが、だんだん楽しくなって来ました。


「はい、どーぞ!」


「わふっ!」


 ぐるぐる回っているヘンリーも楽しそうです。


 コップに作った氷は、窓枠に並べて飾ります。ヘンリーは尻尾をブンブン振りながら、その場で回っていました。


“仕方ないヘンリーですね”と言いながら、そこがたまらなく可愛い。


 わんぱくな弟がいたら、こんな感じなのでしょうかね。


 年男さんをお迎えする準備が出来たので、お風呂に入って年越しを待ちます。今日はたくさんお昼寝をしたので、頑張って起きているつもりです。


 王都のダグラスさんや、“ダイハチ”の皆さんに手紙を書いているうちに、少しうつらうつらしてしまいました。


「お嬢様、そろそろ時間ですよ」


 ソフィアさんに声をかけられて目を擦っていると、村の教会の鐘の音が聞こえて来ました。


 窓の外には、赤や黄色、緑にオレンジ、青や紫。さまざまな色のランタンの明かりが揺れています。


「静かな、良い年越しですね」

「はい……」


 ソフィアさんが胸に手を当てて言いました。わたしも、胸に手を当てて応えました。


 今年一年の色々な出来事を思い返します。新しい年の、その先のことに想いを馳せます。


 時間は止まることなく進んでゆきます。季節は、留まることなく流れてゆきます。


 穏やかで平和な辺境の地で、優しい大人たちに守られて、わたしは幸せに過ごしました。まるで普通の六歳の子供のように。


 もうじき、この生活は終わります。それは王都からの知らせからはじまります。ソフィアさんも、わたしも、知っているのです。


 けれど二人とも、それを口にすることはありませんでした。黙って鐘の音に耳を傾けます。


 それが相応しい、静かな夜が更けてゆきました。




読んで頂きありがとうございます。辺境での年越しの日のお話です。年男というのは、イギリスの古い習慣らしいです。石炭持ってきてくれるのとか、色が黒くて背の高い男性とか、黒サンタと被りますよね。調べていてとても面白かったです。


スローライフも悪くないぜって人は、☆での評価をぜひ!


えー、早くストーリー進めてよ!って方は、次話をお待ち下さいね!



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― 新着の感想 ―
 年男の来訪や氷ランタンつくり、興味深いですね。初雪草の捜索の時は頼もしさが目立ってたヘンリー(犬)が、今回は無邪気さなどが表に出てて微笑ましかったです。  お世話になったダグラスさん達に手紙かこうと…
クリスティの短編で、大みそかにやってきた男性が色が黒いから縁起がいいっていうのを読んで知りました。 エルシャの世界がイギリスをほうふつさせていてとても素敵です。 一つずついろんなことを経験して知ってい…
もともとのイルミネーションって、こんな素朴な感じだったのかなぁ。見てみたい、素敵。 現代では、こちらのほうが贅沢に思えますね。 地域的にも難しいけど、実際作ろうとしたら、寒さに負けて、部屋へ逃げ帰る…
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