第37話ドアマット幼女と氷のランタン
皆さま、お寒うございます。
エルシャ・グリーンウッド六歳です。
わたしが牧場で過ごすようになって、早いもので二ヶ月近くが過ぎました。今日は一年の最後の日です。
この国の年越しは、ホームパーティなどをして過ごすことが多いです。王都では川沿いで花火が上がったりします。
辺境には年明けに独特の習慣があり、とても面白いです。年男と呼ばれる男性が、各家庭を訪問するのですが『髪の色が暗く、背が高くて色の黒い男性』が縁起が良いとされています。
年男は『石炭、石、パン、塩』などを手土産に訪れてくれるそうです。
「年男さん……お土産のチョイスが微妙ですね」
「ふふ、古くからの習慣なのよ。年男を迎える家は、氷のランタンを作って飾るの」
「氷のランタン?」
「バケツやコップで作った氷のランタンを道沿いや玄関に飾って、それを目印に年男がやって来るのよ」
おばあ様が教えてくれました。
「今年はエルシャが作ってね。ソフィア、材料は大丈夫?」
「もちろんです、奥様。エルシャお嬢様、夕方仕込んでしまいましょうね」
氷でランタンを作る……。とても楽しそうです!
* * *
ランタン作りは、色水を作るところからはじまりました。バケツやコップに赤や黄色、緑の色水を入れて、外に出して置きます。
下準備はこれだけ?
ニューイヤーイブのディナーを済ませて、もこもこに厚着して外に出ました。よく晴れた星の綺麗な夜です。
「バケツのお水は……凍っていますね。あっ、でも外側だけです。中はお水のまま……」
「エルシャ、それをひっくり返すのよ。そおっとね」
おばあ様が、窓を開けて教えてくれました。寒いのに、見ていてくれて嬉しいです。
バケツをそっと持ち上げて、ひっくり返します。カポンと音がして氷が外れました。大きなプディングみたいです。
あっ、わかりました。これで穴を開けてお水を出せば……! 中が空洞の、氷のランタンの出来上がりです!
遠くで雪を掘っていたヘンリーがやって来ました。
「わふん?」
何しているの? と言っています。
「氷のランタンですよ。たくさん飾りましょうね」
道沿いに並べてある、バケツや桶をひっくり返します。中のお水を出して、ロウソクを灯します。
わたしはマッチを擦れるのですよ! グリーンウッド邸では朝の火入れは、わたしの仕事でしたからね。
「わあー、きれいです!」
薄く緑に色づいた氷の中で、ロウソクの炎がユラユラと揺れています。
見惚れていたら後ろからガリガリと音がしました。
ヘンリーです……! ヘンリーが氷をガリガリと食べています。
「ヘンリーったら、もう! 食べちゃダメです!」
「わふ、わふっ?」
美味しくないでしょう? と犬語で聞いたら『なんか面白い!』だそうです。
「絵の具は身体に悪いのもあるんですよ。それに……。ほら、食べるより、見ている方が楽しいでしょう?」
赤い色のランタンに火を入れて見せると、ヘンリーは「わふっ!」と言って、ランタンの周りをぐるぐる回りました。
その後も火を入れると、そのランタンの回りをぐるぐる回ります。わたしがロウソクを立ててマッチを擦る間は、お利口に座って待っています。
何だか変な儀式みたいですが、だんだん楽しくなって来ました。
「はい、どーぞ!」
「わふっ!」
ぐるぐる回っているヘンリーも楽しそうです。
コップに作った氷は、窓枠に並べて飾ります。ヘンリーは尻尾をブンブン振りながら、その場で回っていました。
“仕方ないヘンリーですね”と言いながら、そこがたまらなく可愛い。
わんぱくな弟がいたら、こんな感じなのでしょうかね。
年男さんをお迎えする準備が出来たので、お風呂に入って年越しを待ちます。今日はたくさんお昼寝をしたので、頑張って起きているつもりです。
王都のダグラスさんや、“ダイハチ”の皆さんに手紙を書いているうちに、少しうつらうつらしてしまいました。
「お嬢様、そろそろ時間ですよ」
ソフィアさんに声をかけられて目を擦っていると、村の教会の鐘の音が聞こえて来ました。
窓の外には、赤や黄色、緑にオレンジ、青や紫。さまざまな色のランタンの明かりが揺れています。
「静かな、良い年越しですね」
「はい……」
ソフィアさんが胸に手を当てて言いました。わたしも、胸に手を当てて応えました。
今年一年の色々な出来事を思い返します。新しい年の、その先のことに想いを馳せます。
時間は止まることなく進んでゆきます。季節は、留まることなく流れてゆきます。
穏やかで平和な辺境の地で、優しい大人たちに守られて、わたしは幸せに過ごしました。まるで普通の六歳の子供のように。
もうじき、この生活は終わります。それは王都からの知らせからはじまります。ソフィアさんも、わたしも、知っているのです。
けれど二人とも、それを口にすることはありませんでした。黙って鐘の音に耳を傾けます。
それが相応しい、静かな夜が更けてゆきました。
読んで頂きありがとうございます。辺境での年越しの日のお話です。年男というのは、イギリスの古い習慣らしいです。石炭持ってきてくれるのとか、色が黒くて背の高い男性とか、黒サンタと被りますよね。調べていてとても面白かったです。
スローライフも悪くないぜって人は、☆での評価をぜひ!
えー、早くストーリー進めてよ!って方は、次話をお待ち下さいね!




