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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第26話 ドアマット幼女、新しい物語をはじめる

誤字報告、ありがとうございます。大変助かっております!




 皆さまこんにちは。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 おばあ様とお話ししたお陰で、心が落ち着きました。モヤモヤしていた頭の中もスッキリです。


『陽だまりのエルシャ』は小説なので、登場人物は作者ひとりの選択で進んでいきます。原作を知っているのは、走馬灯を見たわたしだけですから、原作と違う選択をできるのはわたしだけだと思っていました。


 でも、違いました。この世界(・・・・)の人たちは、それぞれの選択をする。その選択は時に原作とは違うもので……。


 それぞれの人が、それぞれの選択をしたことで、世界が進んでゆくのです。


 わたしが本来の物語より早く、グリーンウッド邸を出てしまったことで、物語は大きく変わりました。


 けれど、おじい様が亡くなった時点で、わたしが十五歳になっても、お二人が迎えに来てくれる未来はなかったのです。

 だからこそ、あの夜、走馬灯が回ったのかも知れません。わたしが生き延びる可能性を見つけるために。


 誰もが『もし、あの時違う選択をしていたら……』と考えることがあると思います。

 走馬灯の知識では、そういうのを“パラレルワールド”とか“平行世界”と言うらしいです。人々の選択や偶然の出来事が重なって、無数の世界が進んでゆく。


 この世界は、原作とは違う選択をした人々が作っている世界なのかも知れませんね。


 おじい様の場合で言うと、子犬を助けるために自分の命を賭けるかどうかです。


 とても重く、難しいです。おじい様は、おばあ様曰く“優しく、弱い人”だった。目の前で氷に飲み込まれる子犬よりも、自分の命を優先させることが出来なかった。


 おじい様は、『ヘマをしたなぁ。だが子犬は助かったなら半分は成功だろう?』と笑って亡くなったそうです。

 それが、おじい様にとっての物語であり、人生なのではないでしょうか。


 きっともう、わたしたちは『登場人物』じゃないんです。わたしも主人公じゃない。


 でも、全ての人は、自分の人生の主人公として生きている。そんな当たり前の世界なのです。


 その答えに行き着いた時、世界がキラキラと輝いて見えました。ゾクゾクと鳥肌が立ちました。


「あなたは誇りを持って『陽だまり』のエルシャとは、別の物語を紡いでゆきなさい」


 耳に残る、おばあ様の言葉です。心臓がドクンと大きくひとつ跳ねました。手に、汗がじわりとにじんできます。


 シナリオのない世界を、使命も運命もない世界を、わたしたちは自分の選択で生きていくのです。

 それは、とても怖くて……でも、とても素敵なことだと思いました。


 わたしはようやく、『陽だまりのエルシャ』の主人公を脱ぎ捨てて、『エルシャ・グリーンウッド』として、この世界に立ったのです。



   * * *


 

 翌日、ダグラスさんが王都へ帰ることになりました。

 辺境での捜査があらかた済んだようです。わたしにはまだ教えてくれませんが、『わたしが知るべき時がきたら、全てを教える』と約束してくれました。


 たくさん考えましたが、わたしは残ることにしました。おばあ様との最後の時間を、大切に過ごそうと思います。


 ダグラスさんも賛成してくれて、『気が済んだら手紙をくれれば迎えに来る』と言ってくれました。何もなくても、手紙を書きます。


 この辺りは王都と違って、冬にはたくさん雪が降るそうです。きっと時間はたっぷりあるはずですから。


 旅立ちの朝は早起きしてソフィアさんと一緒に、ダグラスさんに渡すランチボックスを作りました。好物の玉子とチキンのバゲットサンドです。わたしはゆで卵の殻を剥く係です。バゲットに芥子バターも塗りました。


 卵は牧場産です。黄身がトロリと濃厚で、とても美味しいんですよ。チキンは……ええと、チキンも牧場産です。はい……新鮮です。ちょっとショックでした。


 そして、いよいよ、お別れの時です。


「エルシャ」


 ダグラスさんに呼ばれましたが、顔を上げられません。うまく笑えないからです。

 そもそも、わたしが残ると言った時に、ちょっとくらい、引き止めてくれても良いと思うのです。


『そうか』……ですよ。確かに好きなんですけどね、ダグラスさんの『そうか』。


 でも良いんです。きっとまた会えるから。


 だってわたし、離れるつもり、さらさらないんですもの。


「エルシャ」


 もう一度呼ばれました。


「はい」


 ダグラスさんが片膝をつき、両手を広げてくれました。


 初めて会った屋根裏では、わたしはこの手に怯えてしまった。条件反射でしたが、大きなこの手が怖かったのも本当です。


 でも今はこの手が、あたたかいのを知っている。


 決して振り上げるための手ではなく、優しく包んでくれることを、知っています。


 みんなが見ていてちょっと恥ずかしいので、楚々として歩いて向かいました。でも途中で我慢出来なくなって、二歩分をぴょんとジャンプして飛び込みました。


 もちろんダグラスさんは、危なげなく受け止めてくれましたとも! そして、そっと抱きしめてくれました。


「必ず帰って来い。ここもエルシャの家だが、詰所もエルシャの居場所だ」


「はいっ!」


 元気に返事をしました。泣かずにお別れ出来ました。


 だってまた、必ず会えるもの。



 ダグラスさんは、荷馬車の後ろに乗って行ってしまいました。もう振り返らないと思います。


 だから、もう泣いても良いですよね?


「お嬢様、ご立派でしたよ」



 わたしは涙が止まるまで、荷馬車のわだちと、もう見えなくなったその先を見つめていました。


読んで頂きありがとうございます。

連載再開六日目。辛抱強く待っていて下さった方、改めてありがとうございます。皆さんのおかげで無謀な加筆作業へ挑むことができました。

また、ご新規の方、本作を見つけて下さり、興味を持って頂けて嬉しいです。本作は元々、5000文字の短編でしたが、電子書籍化コミカライズ化にともない大幅加筆でお届けしています。

物語はまだまだ半ば。良かったら続けて読んで下さいね。


皆さんの応援が作者の燃料です。どーぞ、電子書籍化をポチッとしたり、☆で評価、よろしくお願いします!

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